(忘れられない、いつまでも)(二次創作)
今まで数多の牧場主がこの土地に来て、様々な人生を送り消えていったのを、女神はずっと見ていた。ミネラルタウンは彼女の箱庭であり、愛すべき小さな世界である。女神の姿を見、その声を耳にできる人間は牧場主を除き皆無だが、女神の愛は牧場主含め街の人間すべてに惜しみなく注がれていた。
それは、昨日まで降り続いた雨がやみ、まだ雲の残る空に綺麗な虹の掛かった春の終わりのことだった。女神はその日、マザーズ・ヒル中腹の湖の中にいた。
「こんな日は、どうしても思い出しちゃうわねえ」
「…………」
相対するはかっぱ、もう一人のこの地の神である。但し、女神と異なり、人間をはじめとした他者に一切の興味を抱かない存在でもあった。
「ねえ覚えてる?あなたと絶対結婚するんだって息巻いてた子がいたじゃない」
かっぱはふい、とそっぽを向くと、泉の底の方に泳いでいった。つまんないの、と呟く女神の目は笑っている。そう、その牧場主は、今まで出会った牧場主の中で一番奇抜な人間だった。
牧場に来た初日にかっぱを釣り上げ、かっぱに一目惚れをしたらしい彼は、毎日湖に通いながらもかっぱに認められるべく奔走していた。出荷できるものは全て出荷し、全種類の坂を釣り上げ、かっぱの秘宝だって手に入れた彼を、かっぱは全く気にしないままに年数が過ぎていく。そうして6年目になり、かっぱへの結婚が教会で許された日、その牧場主は、街の娘と結婚した。
妥協なのかもしれない。娘の一途な想いに負けたのかもしれない。とにかく、その日から彼は、二度と湖の前に現れることはなかった。それどころか、泉にすら足を運ばない。別に、女神は彼の決断を非難するつもりはなかったのに。
(家畜を極めた牧場主、大農場を作り上げた牧場主、まったく何もせずに寝てばかり過ごしていた牧場主、街の若者全員と恋人になった牧場主、いろんな牧場主がいたけれど)
女神は思い出して笑う。
(虹を見上げたまま寿命を終えたあなたが、一番面白かったわ。かっぱちゃんを振り回したあなたが、ね)
5/13/2024, 5:44:22 AM