『君の奏でる音楽』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
君のこえは、とても美しかったです。
君は、すごいひとでした。
わたしは、君を尊敬してます。
君の歌ううたは、とても素晴らしかったです。
君のすべては、音楽でした。
君の奏でる音楽は、わたしのすべてになりました。
君の奏でる音楽は、君のすべては、君は、
わたしが愛したひとでした。
「最後に、君にだけ聴いて欲しくて。」
そういったある人は楽譜を持って寂しげに立っていた。
あ、そうか、そうだ。
「そうだった、君、転校するんだって、ね。」
クラスによく響いてた君の笑い声がこれから聞けないのは嬉しいようで、懐かしい物となるかもしれない。
いつも本を読むと邪魔をしてくる君が居なくなる清々しさと、そのうち止められない現実に物足りなさを感じるようになる僕が容易に想像できた。
「私、いつも君が本読むの邪魔したよね。」
やっぱりタイミングを見計らってやって来てたんだな。
「あぁ、分かってるよ。」僕への嫌がらせだろう。
彼女の顔がみるみる赤くなっていった。
「な、え、!!!!なんで!?!? 誰にも言うなってあれほど!?!?」
「なんで顔が赤くなるんだよ。 赤くしたいのはこっちだ。」 わざわざ嫌われてる人に悪口を言われに来てやってんだ。それくらい欲を言っても構わないだろ。
「あそっか、恥ずかしいよね、私!!!! ぇっ、と、」
少しずつ腹が立ってきた
「あぁもう!!!! 嫌いなら早く嫌いって言ってくれないかな!? わざわざ悪口言われに来てやってるこっちの気持ちにもなれよ!!!!」 君とのゆったりした時間は、個人的に、悪くないと思っていたのに。
「えいやまって私嫌ってないよ。私嫌ってないよ!?!もはやその逆だし!?」
逆、、逆、、?
「逆って。 どういう、、、」
バチンっ僕の両頬が大きな音とともにはたかれた。いや、挟まれたの方がいいのだろうか。
「私、、、、君の事が好きなんだけど。」
その言葉だけが、熱くなる頬と共に体をじんわりと蝕んでいった。
「、、、、は?」
君の奏でる音楽は、いつだって僕の世界を覆してしまう。 それが例え、頬を叩く音だったとしても。
『君の奏でる音楽』2023.08.12
ひとは誰だって意外な特技を持ち合わせているものである。
いや、意外ではないか。我が親愛なる義妹はミュージカル俳優だ。
この曲はなんといったか。確か、ラプソディーインブルーだったと思う。
義妹はそれに合わせて、ダンスを踊っている。
トップの彼女の隣で、その子に負けないぐらいの妖しい色気をだして、足を伸ばし腰を回し手を、伸ばす。
男役の群舞はいつ見ても美しい。これで全員女性なのだから恐ろしいことだ。
自分の隣では親友が感心したように顎を摩っている。
今回は割りと近めの席なので、滴る汗の音すら聞こえてきそうだ。
シュッ、パサッ。体を動かすたびに、そんな音が聞こえる。
乱れることなく、衣擦れの音が揃う。
身内の贔屓目もあるのかもしれない。義妹の体からは音楽が聴こえる。
音ハメなのだが、その伸びやかな表現力とピクリとも微笑まない表情筋。それでも、バチンとウインク。
ティンパニ、シンバルの音でビシッと決め、ウインクをしてペロッと舌舐めずりをする。
ヒュー、と親友が小さく声を出し、周辺の女性客が息を呑む。
なるほど。
これが、君が奏でる音楽か。
君の奏でる音楽は
誰よりも私を理解して
どんな言葉より正直
何も知らない風を君は装うけれど
君が聞かせる曲はいつでも
私のためにあるように思えてならない
その日その日の私の心の有り様に応じて
一番自然に聞き入れられる曲を選ぶんだから
【君の奏でる音楽】
ユウキはヘッドホンに両手を当てたまま、少し眉をひそめた。
最近一緒に楽曲制作をしているREONAから送られてきたギターの音源を聞いたところだ。ユウキはキーボード担当で、これに合う音を当てていく役目。
正直、REONAから送られてくるギターの旋律は毎度 攻撃的過ぎて、最初に聞くときは少し抵抗を感じる。反抗心や絶望感ばかりが伝わってきて悲しい気持ちにすらなる。それでもREONAとの楽曲制作に付き合っているのには理由があった。
ユウキはGANと書かれたアカウントを開き、REONAに返事を書いた。今はREONAとはこの名前でやりとりしていて、自分は引きこもりだと話している。REONAの方はGANの事をネット上の知り合いとしか認識していないが、実際は違った。
ユウキとREONA、もといレオナは幼馴染だ。小さい頃から家が近所で、よく一緒に遊んでいた。同じ小学校、中学校に通っているが、最近レオナは引きこもるようになって、学校にも出てこない。ユウキは何度も部屋の前まで行って話しかけたり、DMを送ってみたりしたが、全部無視されてしまった。
そんな時に、SNSでREONAというアカウントを見つけた。同級生の文句や親の愚痴などを呟いていたので、なんとなくレオナ本人だと見当がついた。それで、騙すようで心は痛んだものの、同じく引きこもりの中学生、GANとして話しかけ、仲良くなった。次第に、共通の趣味である音楽で話が盛り上がるようになり、一緒に楽曲を作るようになった。他にも、SNSで知り合った同じような年齢、境遇の仲間ができ、すでに何曲か作ってはSNSで公開している。少数ではあるが、コアなファンもいる。ついこの間には、「絶対課金したいので配信アプリに出す時はお声がけください!」なんてDMまで届いたようだ。ユウキとしては人気になることよりも、いつかまた、部屋の外に出てきてほしい、そんな想いでずっと楽曲制作に付き合っている。
小さい頃からレオナはよくギターを弾いてくれた。憧れのギタリストの話もたくさんしてくれた。でもあの頃はレオナの奏でる音楽はこんなに攻撃的ではなかった。レオナはどちらかと言うと女王様タイプの気質で、気の弱いユウキはほとんど子分のような扱いを受けていたが、彼女が根は真面目で、面倒見がいいことを、ユウキはよく知っていた。何よりも、彼女の指先がつまはじくメロディは優しく、自信に満ち溢れていて、心地よかった。
何が彼女をここまで駆り立てるんだろう。思考を巡らしながら、ユウキはもう一度REONAのギターを流し始めた。
曲の途中、聞き覚えのあるメロディが耳をかすめる。どこで聞いたんだろう。確か………。
ユウキはハッと我に返った。そうだ、これは小さい頃、二人で作ったメロディだ。懐かしい気持ちも手伝って、切ないメロディがさり気なく組み込まれた小節に一気に豊かな香りが立ち上った。そうか、これは、ただの攻撃ではない。葛藤だ。挫折、迷い、葛藤…。それでもまだ諦めていない、芯の強さ。
(やっぱり、君の奏でる音楽は、いいね)
ユウキはひとり微笑みを浮かべながら、キーボードで音を探し始めた。
君と話す時、私は音楽に包まれている気分になる。
君の声はいつも違う色
君の声はいつも違う音
灰色の私の世界を明るくしてくれた。
君の奏でる音楽はいつか誰かを救うでしょう。
私を救ってくれたように。
君の奏でる音楽がどんなに綺麗で、誰もがスタンディングオベーションするほど素晴らしいものであっても
残念ながら、私に響くことは一生無いだろう
受信の壊れた聴覚では、それは音楽ですらならない、ただのガラクタな代物に変えられてしまう
けれど、それほど落胆はしていない
また来世で会うことが叶うなら
私が聴こえる人であるなら
君と私がどのような関係でも構わない
魂がその事に未練が残ってるならば
きっと君の奏でる音楽に、心震わせるだろう
これは来世への課題に残しておくから。
柔らかさがあって
優しい風が吹くようで
野原に小さな花が
咲くようで
みんながつい
聴きに来るようで
心地よくて
まるで
君の存在そのものみたいな
そんな音楽。
–君の奏でる音楽–
そろそろかな。
午後5時。街が夕日に包まれる頃、あの音は響く。
ポロン……ポロン……ポロン……ポロン……
ド…ド…ソ…ソ……。今日はきらきら星かな。
向かいのアパート。そこには小さい女の子がいる。
まだピアノを始めたばっかりらしく、
弾くペースはゆっくり、一音一音ずつだ。
けど………。
毎日少しずつメロディっぽくなってきている音に
私は魅了されている。
一生懸命弾いているんだろうな
誰の為に弾いているんだろう
隣に誰かいるのかな
なんて、想像をする。
どんな子かわからないけど
きっとピアノが好きな子なんだろうな。
想像し、期待している。
将来、その子が弾く様を。
ー君の奏でる音楽ー
今宵も、貴女様は琴を奏でる。
夜の春風に乗って届く、
愛おしく温かいが、凛とした音色。
結ばれぬのは承知の上。
琴の音が届くまいとされる日まで、
明日も冷たい朝日を浴び続けよう。
【君の奏でる音楽】#14
君の奏でる音楽は、とても暖かく優しい音
時折、旦那さんと君が笑い合うような
幸せな音が聞こえる
君の奏でる音楽は、愛しいと輝くような音
お腹に赤ちゃんがいると聞いた
幸せそうな笑い声は絶えない
君の奏でる音楽は、酷く暗く、悲しげな音
ふと耳を澄ますと啜り泣くような声が聞こえる
死産だったと聞いた
深い絶望の混じる追悼の音が響いている
君の奏でる音楽は、絶望に小さく光を灯すような音
それは蝋燭の火のような小さな小さな希望
あの子が夢に出てきたんだと話していた
またきっとお母さんのもとに産まれてくると笑ったと
もう泣き声は聞こえない
君の奏でる音楽は、優しい喜びを包み込むような音
無事に赤ちゃんが産まれたんだと
犬の鳴く声と君たち家族の笑い声が聞こえる
今度は絶えないで欲しいな
ずっと聞いていたい、この笑い声を
お題
『 君の奏でる音楽 』
風が吹く
音楽室から校庭に響くその音色は全ての人を救う
♪♪〜〜
私はピアノが弾ける
これは私のルーティンなの
ホームルームが終わったら少し友達と話して
教室を出る
2階から4つの階段を登って
4階へ
1番奥の教室へ
鍵を開けて入ったら全ての窓を開けて
風が入るのを確認したら
グランドピアノを開け
椅子に座る
ガタッ
今日も息を吸って
♪♪〜〜
君の奏でる音楽
海と接した崖際
君はギターを弾きながら歌う
くだらない愛を囁くように歌う
届かない想いを嘆くように歌う
君の想いがどうか届きますように
そう願わざる負えなかった
私の想いの上に座りながら
物心がついた時には僕は「天才」と呼ばれていた。
「若き天才ピアニスト」、それが僕の通り名だった。
その界隈では誰もが知っている小さなピアニスト、僕は同じ年代では金賞を譲らない無敵のピアニストだった。
僕はクラシックを愛していた。
四六時中クラシックを弾かされていた僕はそれが世界の全てだと思っていた。
ある年の夏だ。
僕が音楽に特化してる私立へ受験する年、小学生最後の夏のある日。
もうすぐ夏休みのあの日、僕は焦っていた。
ただでさえ委員会で放課後が遅くなっていたにも関わらず、クラスメイトの嫌な奴にノートを隠されて探すのに時間がかかっていた。
(……あぁ、どうしよう。母さんに怒られる……)
そう思いながら、教室中を探していた。
掃除ロッカーを動かした瞬間に、探していたノートが見つかる。
安堵してランドセルを背負おうとした瞬間、僕は立ち止まった。
──初めて聴く綺麗なピアノのメロディ。
弾けるような、そして柔らかな旋律。
僕は聴いた瞬間、胸を打たれた。
目を見開き、気づけば廊下を走っていた。
速く、もっと速く、あの音の近くへ。
僕は鼓動が高鳴った。
それは走っているからなのか、あのメロディへの胸のときめきなのか、分からなくなりながら。
あの音は音楽室から響いていた。
気づけば女の子が歌う声も混ざっていた。
練習していない歌声だが、美しい。
もっと磨けば誰にも負けない最強の美声になるだろう、子供ながらそう思った。
音楽室に入ると、女の子はピアノを弾きながら歌っていた。
楽しそうに、そして堂々としながら歌っていた。
時折揺れながら、彼女はピアノを弾き続ける。
僕は声をかけようとしたが、そのメロディが消えてしまうことが嫌だったので、その声を抑えた。
彼女が歌い終え、ピアノの演奏も終えると、僕は思わず拍手をした。
その瞬間、彼女はびくりとして僕の方を振り向いた。
「すごい……すごい!」
僕は思わずそう言って彼女に近づく。
「何なの、この曲!?誰の曲なの!?」
僕はグイグイとそう言うと、女の子は困ったような表情を浮かべる。
「……Tell Your World」
「え?てーるゆあ?」
「Tell Your World。初音ミクの曲」
「てーるゆあわーるど……はつねみく。はつねみくってすごい人なんだね!」
「人じゃないよ!機械だよ!」
彼女はそう言って微笑む。
機械?
「機械は歌わないよ?」
「機械というか……音声の入力?みたいな?」
「……わかんない」
「私もよくわかんない。でも、すごく綺麗な声なんだよ!」
僕はますます分からなくなった。そのためか、ずっと首を傾げた。
「……まぁいいや!それより、この楽譜、どこで買えるの?」
「楽譜……はわかんない。自分で勝手に弾いてるから」
「自分で、勝手に!?」
僕は驚きを隠せなかった。
「どうやって!?」
「何度も聴いた曲なら、なんでも弾けるよ!例えば……」
彼女はそう言って再びピアノを弾き始める。
今度はゆったりとした旋律が流れる。
「ゆうや〜けこやけぇの〜あかと〜ん〜ぼ〜♪」
彼女はそう言って歌い始めた。
「おわれ〜てみたのぉはぁいつのぉひぃか〜♪」
そして声と共にピアノも弾き終える。
「それは知っている!『赤とんぼ』だね」
「そうだよ!」
「すごいね!ピアノ習ってるの?」
「ううん。ここでずっと弾いてた」
「習ってないの!?」
「うん、うちはあんまりお金ないし!」
僕はますます彼女に興味が湧いた。
「僕もね、ピアノ弾けるんだ!だからね、友達になろ!」
「うん!いいよ!!」
彼女はとびきりの笑顔で返事をする。
僕は嬉しくて彼女と握手を交わす。
その日の夜は両親にこっぴどく怒られたことは言うまでもない。
あれから10年が経った。
僕は明日行われるコンサート会場の支度に追われていた。
そのステージに立っている。
「緊張しているのかい?若き天才ピアニスト君」
ふと振り返ると、女性が1人ニヤニヤしながら立っていた。
「そんなこと言うなよ、ボカロP」
「んな!?裏の顔を言うなよ!」
彼女はそう言って頬を膨らます。僕は微笑む。
「君がピアニストになっていればなぁ」
「しょうがないよ。うちにはお金がなかったし!まぁそもそも楽譜読めないしね!」
「でもボカロ曲ではバズったじゃないか」
「まぁねー!やっぱりミクちゃんの歌声はいいね〜!」
そう言いながら彼女は腕を伸ばす。
「……明日、楽しみだね。初めての単独コンサート」
「ありがとう。君にそう言ってもらえると嬉しいよ」
僕は彼女に近づく。
「……本当は君と演奏したかった」
「え〜本当?……じゃあ、もし私が自分で作った曲を自分の歌声で歌って売れたら、一緒にやろうか!」
「そうだね!そうしよう!」
「わお!随分やる気だね!」
「そりゃあそうだよ。だって、君の奏でる音楽とコラボできるなんて、これほど光栄なものはないよ」
僕がそう言うと、彼女は少し頬を赤らめる。
「て、天才ピアニスト君に言われるとなんか照れるねぇ。お世辞でも嬉しいよ」
「お世辞じゃない、事実だよ」
「ますます照れるねぇ。売れるかも分からないのに」
「売れるよ。だって、君の音楽は最強だから」
僕はそう言うと、彼女は笑う。
「君に言われるとやる気が出てくるわ!私、頑張ってみるね!」
彼女はそう言ってガッツポーズをした。
僕は笑いながら、彼女を見つめた。
──もっと君との世界を知れますように。
■テーマ:君の奏でる音楽
"君の奏でる音楽"
「〜♪」
昼下がりの聖都大附属病院の中庭、フルートを奏でていた。情報交換がてらメンテナンスをして、人がいない中庭に出て──普段ならこんな場所でやりたくは無いが、今日は中庭に出ている人がいないのを見てここで奏でたくなって──音の確認をしている。奏でていると言っても、ただ1音ずつ出してみて音のズレが無いかの確認だけ。
「〜♪……よし。」
音の確認が終わり、ベンチに置いていたケースの蓋を開けようと手をかけると
「演奏しないのか?」
「っ…!?」
不意に声をかけられ、驚いて微かに肩を震わせて声の方へ振り向くと、不思議そうな顔を浮かべている飛彩が立っていた。ここの患者とかじゃなくて良かった、と安堵して緊張で上がっていた肩の力を抜く。
「んだよ、驚かせんなよ…。」
「驚かせて済まない。」
謝罪しながら歩み寄ってきた。俺の傍まで来たところで足を止めると、改めて聞いてきた。
「それより、改めて聞く。何か演奏してくれないのか?」
「…は?」
意外な相手からのリクエストに、少し混乱して思わず変な声を上げ思考が一瞬フリーズするが、すぐにフリーズを解いて返答する。
「あぁ、まぁ…。人いねぇし、1曲だけならいいけど…。」
何かやって欲しい曲あんのか?と聞くと
「いや…、ただ貴方の奏でる音楽を聴きたくて…、済まない。」
「はっ…?」
驚いてまた変な声が出た。誰かにこうやって言われた事なんて無かったから、内心嬉しい。それと言われた相手が飛彩だから、というのもあるから余計に…。黙っていると
「どうした?」
「…あ、あぁ。悪ぃ、何でもねぇよ。」
と、何とか言葉を返した。「そうか」と短く言うと
「そうだ。曲だけどよ、何でもいいのか?。」
気を取り直して、改めてリクエストについて聞く。あの言葉の感じだと、特に演奏して欲しい曲は無いみたいだが。
「あぁ、何でも良い。貴方の好きな曲を奏でて欲しい。」
「そ、…そうか、よ。」
難儀なリクエストだな…。とは思ったが、実は1曲だけ、こいつを思い浮かべながらアレンジした曲がある。それは"Last Surprise"とほぼ同時進行でアレンジしていた曲で、アレンジの為に"Last Surprise"を聴こうと動画を漁っていたらたまたま見つけて、聴いてみたらとても綺麗な曲で…、歌詞を調べたら歌詞も素敵で、この曲もアレンジして演奏してみたいと思い、初めてのアレンジなのに2つを同時進行で大変だったし"Last Surprise"よりも時間がかかりこの間やっと出来たところだったので自信など毛頭もないが、この曲は1番に飛彩に聴かせたいと思っていたので迷わず
「…分かった。やるから、ここ座れ。」
と、ケースを端に退かして座るスペースを作り、座るよう手で促す。飛彩が「分かった」と返事をし、ベンチに座ったのを確認すると、ベンチから2〜3メートル離れて飛彩に向き、フルートに唇を当てて構える。数秒静寂が降りて、木の葉の擦れる音のみが空気を揺らす。息を大きく吸い込んで、演奏を始める。曲は"Brand New Days"。
明るめの曲調なのに歌詞は少し悲しめで、聴いている時なんでこいつが浮かんだのか分からなかったし今も分からない。けど、何となくでも俺はこの曲が好き。そう思いながらイントロを奏でる。1番のAメロに入り、"Last Surprise"を演奏した時と同じ様に体が自然に動き、続くBメロも体が勝手に動く。
曲全体で見ると、AメロBメロの歌詞はほとんど悲しめの歌詞が続く。歌詞だけ見れば辛いが、明るい曲調がそれを感じさせない。そしてこの曲は、難所と呼べる難所がほぼ無い。アップダウンが緩やかなので、実はメンテ後に演奏するのには持ってこいの曲かもしれない。
そしてサビへ。サビはこれまで以上の明るさを音に乗せて奏でる。サビの部分の曲調が大好きだからか、先程まで以上に体が揺れ動いてしまう。
そうして間奏へ。こんな俺を飛彩はどんな顔をして見ているかなんて、想像出来ない。つか恥ずかしくて想像したくねぇ…。聴くのに集中する為に目ェ閉じててくれ、頼む…。
そして2番へと入る。2番でも1番同様、体が勝手に動く。そして実は2番の歌詞の方が好き、だから1番以上に伸びやかで高らかに、歌う様に奏でていく。
誰もいないのをいい事に、その音はサビでも高らかに、俺達以外に誰もいないこの場所に、木の葉の、サワサワ…、と擦れる音と共に響かせる。とても心地良いアンサンブルを奏でながら、間奏に入る。
先程の間奏よりも長い。最初はちょっぴり悲しい感じだが、少しずつ明るくなっていく。この間奏も奏でていて楽しい。
そして3番へと。3番では何故か先程までとは違い、自然と語りかける様な音を奏でて、Bメロのラストでは優しい音色になる。何でかは自分でも分からない。誰かに向けて演奏するって事は、こういう影響を受けながら演奏する事なのかもしれない。
3番のサビでは、1番と2番のサビの歌詞が繋がって奏でられる。だから、今まで以上の明るさを纏った音で高らかに奏であげる。
そしてアウトロへ、アウトロはしっとりとしている。そして俺が1番好きな歌詞で曲が終わる。しっとりと、優しく柔らかく、語りかける様に音を繋いで締める。
ゆっくりとフルートから口を離し顔を上げると、飛彩が、パチパチ…、と拍手をした。
「あ、ありがと…。」
恥ずかしがりながら礼を言うと、ケースとは反対側の端に寄って空いたスペースに優しく、ポンポンと叩き座るよう促された。恥ずかしがりながらも飛彩の隣へ座り、フルートをケースに仕舞う。
「音が綺麗なのに弾んでいて、とても楽しそうな音だった。」
ピクッ、と体を震わせる。そういえばこいつ、見てねぇよな…?けれど、見ていたとしても俺は目を瞑って下を向いて演奏していたので、見られてたなんて気にする必要なんか無いし、そんな事知る必要なんてない。うん。
「そうか…。」
「あぁ。この曲が好きなのが音だけで存分に伝わってきた。」
この言葉を正直に受け取ると、演奏する俺の姿を見ていなかったらしい。良かった…。
「また、この曲をやってくれ。」
「お、おぉ、分かった…。…そうだ、元の曲聴くか?今動画出すからちょっと待て。」
そう言ってポケットからスマホを取り出し、動画アプリを開く。再生履歴を表示させて、該当の動画のサムネイルを「ほれ」と見せる。飛彩が俺のスマホに覗き込んできて、動画のサムネイルをタップして再生させる。
昼下がりの病院の中庭、誰もいない俺達だけのこの空間で、1つの動画を1つのスマホで一緒に見た。
音楽室からいつも聞こえる音色が僕は好きだった
卒業したらこの音色が聞けないと思もうと少し悲しい
僕は君が奏でる音色が大好きだ
君の奏でる音楽は、僕の知ってる君と違って、静謐で気高かく品があった。公園に行くと、人気のないときを狙ってすべり台を滑りにかけていく君となんだか重なり合わなくて、うろたえるように何度もペットボトルを口元に運んだ。昨日、何も言えない僕に、君が正論を投げてきたときの言葉づかい、抑揚、身振り、顔つき、視線。その全てが君の音楽そのものだった。君は君だった。僕は何も知らないまま口の中に飲み込めない唾が溜まっていく。
君の奏でる音楽が一定の間隔をあけて鳴る。落ち着く優しい音。
君の奏でる音楽が止まる、どれだけ胸に耳を当てても聴こえない。
私の奏でる音楽が荒れる、どんどん乱れ大きくなる、汚い音。
君の奏でる音楽はもうどこにも無い
キミから放たれた言の葉
いつも優しい音がしてる
心がふんわりするような
温かく包みこむような音
ボクは静かに目を閉じて
キミの広い心に抱かれる
強さも弱さも人の痛みも
全部知ってるんだろうな
ルララ宇宙の風のなかに
ボクも一緒に乗りたいな
『君の奏でる音楽』
君の奏でる音楽は、
いつも柔らかくて、優しくて、悲しい。
<君の奏でる音楽 >
本人は全然そんなつもりなさそうだったけど。
君はいつも、何かを抱えていた。ずっと悩んでいた。
中学校の時。
なんでみんなみたいに上達しないのかって。
本当にコンクールに出るのかって。
みんなと一緒に出ていいのかって。
だから支部大会で、
金賞を取れた時は泣いていたよね。
「自分も出てよかったんだ。
ちゃんと上手くなってたんだ。
みんなの足を引っ張って無かったんだ。」
って。
高校生の時。
吹奏楽部に入ってよかったのかなって。
本当に私が最初のソロを吹いていいのかって。
こんな気持ちで出ていいのかなって。
だから県大会で、
銀賞を取った時は嬉しくも、もやもやしていたよね。
「自分のソロの批評を沢山して貰えた機会だった。
もっと頑張れたはずだった。
本当に吹奏楽部に入るべきだったのか。」
って。
結局君は部活を辞めたけど。
別にそれは悪いことだったとは思わないよ。
むしろ凄くいい決断だったんじゃないかな、なんて。
君はそれに後悔していないし、むしろ満足している
だろうし、ね。
君は今でもたまに、楽器を吹くけれど。
君はその度に楽しそうで、嬉しそうで、
悲しそうだけど。
君は今でも、何かを抱えているし、悩んでいるけど。
ひとつの決断をして、ひとつの大きな経験を経て、
君はつよくなっているから。
君の奏でる音楽は、
柔らかくて、優しくて、ほんのちょっぴり、悲しい。