かのこ

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『君の奏でる音楽』2023.08.12


 ひとは誰だって意外な特技を持ち合わせているものである。
 いや、意外ではないか。我が親愛なる義妹はミュージカル俳優だ。
 この曲はなんといったか。確か、ラプソディーインブルーだったと思う。
 義妹はそれに合わせて、ダンスを踊っている。
 トップの彼女の隣で、その子に負けないぐらいの妖しい色気をだして、足を伸ばし腰を回し手を、伸ばす。
 男役の群舞はいつ見ても美しい。これで全員女性なのだから恐ろしいことだ。
 自分の隣では親友が感心したように顎を摩っている。
 今回は割りと近めの席なので、滴る汗の音すら聞こえてきそうだ。
 シュッ、パサッ。体を動かすたびに、そんな音が聞こえる。
 乱れることなく、衣擦れの音が揃う。
 身内の贔屓目もあるのかもしれない。義妹の体からは音楽が聴こえる。
 音ハメなのだが、その伸びやかな表現力とピクリとも微笑まない表情筋。それでも、バチンとウインク。
 ティンパニ、シンバルの音でビシッと決め、ウインクをしてペロッと舌舐めずりをする。
 ヒュー、と親友が小さく声を出し、周辺の女性客が息を呑む。
 なるほど。
 これが、君が奏でる音楽か。

8/12/2023, 1:18:18 PM