「最後に、君にだけ聴いて欲しくて。」
そういったある人は楽譜を持って寂しげに立っていた。
あ、そうか、そうだ。
「そうだった、君、転校するんだって、ね。」
クラスによく響いてた君の笑い声がこれから聞けないのは嬉しいようで、懐かしい物となるかもしれない。
いつも本を読むと邪魔をしてくる君が居なくなる清々しさと、そのうち止められない現実に物足りなさを感じるようになる僕が容易に想像できた。
「私、いつも君が本読むの邪魔したよね。」
やっぱりタイミングを見計らってやって来てたんだな。
「あぁ、分かってるよ。」僕への嫌がらせだろう。
彼女の顔がみるみる赤くなっていった。
「な、え、!!!!なんで!?!? 誰にも言うなってあれほど!?!?」
「なんで顔が赤くなるんだよ。 赤くしたいのはこっちだ。」 わざわざ嫌われてる人に悪口を言われに来てやってんだ。それくらい欲を言っても構わないだろ。
「あそっか、恥ずかしいよね、私!!!! ぇっ、と、」
少しずつ腹が立ってきた
「あぁもう!!!! 嫌いなら早く嫌いって言ってくれないかな!? わざわざ悪口言われに来てやってるこっちの気持ちにもなれよ!!!!」 君とのゆったりした時間は、個人的に、悪くないと思っていたのに。
「えいやまって私嫌ってないよ。私嫌ってないよ!?!もはやその逆だし!?」
逆、、逆、、?
「逆って。 どういう、、、」
バチンっ僕の両頬が大きな音とともにはたかれた。いや、挟まれたの方がいいのだろうか。
「私、、、、君の事が好きなんだけど。」
その言葉だけが、熱くなる頬と共に体をじんわりと蝕んでいった。
「、、、、は?」
君の奏でる音楽は、いつだって僕の世界を覆してしまう。 それが例え、頬を叩く音だったとしても。
8/12/2023, 1:24:30 PM