『半袖』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
君はいつも半袖を着ていた
訳を訊いた、分からなかったから
曰く、そこはかとなく、この世に透けられる気がしたからだと
自分を見失うようで、怖くはないかと、訊いた
君は答えた
逆だよ。自分なんて不確実なもの、信じるのが恐ろしいんだよ
そうしてすっと、弾けて消えた
うん、結局理解出来なかったや。
やはり僕ら二律背反だね
けれども君も、僕を解れやしないだろうから、
お相子ってことで異論は無いね?
君の墓場にそう告げ置いて、右手の甲を袖で隠した
笑いながら道を駆けていく子供たちを横目に、伯父の家を目指す。
今年もまた、夏が来た。じっとりと張り付くような熱気に、立ち止まり汗を拭いながら空を睨む。
強い陽の煌めきに目を細める。どこまでも広がる空の青と白が、周囲に響く蝉時雨と混じり合って、暑さをより一層際立たせていた。
課題があると誤魔化して先延ばしにしていたが、結局今年も来てしまった。伯父たちや、先に待っているだろう弟を思うと気が重い。
幼い頃から夏の間過ごしてきたこの町を、どうしても好きにはなれなかった。だというのに、毎年必ず訪れるのは何故なのだろう。
何度も考え、答えの出ないそれに溜息を吐く。視線を下ろし、何気なく道路脇の小川に視線を向けた。
「――え?」
小さな人影を認めて、目を瞬く。
白の半袖と紺の短パン。
まだ幼い少年が、一人川辺で遊んでいた。
辺りを見渡しても、少年の他には誰もいない。いくら小さく浅い川だとはいっても、子供が一人で川遊びをするのは危険すぎる。
止めるべきだろうか。そう思い足を向けるが、不意に顔を上げた少年と目が合い足が止まった。
視線を逸らせない。目を瞬いて、そして破顔する少年に、何故か胸が苦しくなった。
離れたこの場所からでもはっきりと分かる。あどけない顔。白くほっそりとした手足。川の中にいるのに濡れている様子はない。
――気づいたことに、気づかれてはいけない。目を合わせてはいけない。
ふと、昔聞いた怪談話を思い出した。
この町には、気づいてはいけない誰かがいるらしい。夏の間だけ現れる、その誰か。目を合わせ、言葉を交わし、そして触れてしまえばその誰かと入れ替わってしまうという。
よくある子供だましの怪談だと思った。聞いた時には気にも留めなかった話が、少年と目を合わせたことで思い起こされる。
ゆっくりと目を瞬いた。知らず溜まっていた涙が目を閉じたことで零れ落ち、頬に跡を残していく。
瞬く度に少年の姿が揺らぐ。三度瞬いた後、その姿は霞のように消えてしまった。
詰めていた息を吐き出す。緩く頭を振って残っていた涙を拭い、もう一度だけ小川に視線を向ける。
「――お姉ちゃん」
か細い声が聞こえた。思わず振り返ろうとして、止める。
――目を合わせてはいけない。
今更なことを思いながら、振り返らずに歩き出す。
懐かしいなどと、そんな感情はきっと気のせいだろう。
「姉ちゃん。遅かったな」
こちらに歩み寄る彼に、曖昧に笑みを浮かべて誤魔化しながら玄関を抜けた。
「連絡くれれば、駅まで迎えに行ったのに」
さりげなく荷物を持つ彼に礼を言いながら、さりげなく視線を逸らす。
無邪気に好意を向けてくるこの弟のことを、いつからか苦手に思っていた。
苦手、というよりも違和感に近いその思い。込み上げる溜息を呑み込みながら、先を行くその背を、数歩遅れて追いかける。
「先に挨拶に行っちゃえよ。その間に荷物運んどくから」
「分かった。ありがとう」
彼と別れ、居間に足を向ける。
密かに溜息を吐く。これから一週間、伯父の家で伯父たちと彼と過ごすことを思うと、足が重くなる。
良くできた弟だとは思う。姉である自分に懐き、何かと助けてくれる。
自慢の弟。けれどそう思う度に、心のどこかで違うのだと否定する自分がいた。
いつからなのかは覚えてはいない。幼い頃は違ったようにも思うが、それがいつだったのか。何一つ思い出せるものはなかった。
――お姉ちゃん。
不意に、先ほど見た少年を思い出す。
あの子が弟であったならば。あり得ないもしもを想像して、自嘲した。
蝉時雨を聞きながら、弟と二人川で水遊びをしていた。
きゃあ、と笑いながら水飛沫を上げる。浸る水の冷たさは、火照った肌を冷やしてとても心地が良かった。
弟に水をかけ遊びながら、自分の中の冷静な部分がこれは夢だと告げている。改めて辺りを見渡し、そして弟を見て確かにと納得した。
隣ではしゃぐ弟は、違和感しかない彼ではなかった。昼間ここで見た少年。違和感などは感じず、少年こそが弟なのだと嬉しくなった。
ふと、弟の動きが止まった。河原の先を見つめて、首を傾げながら指を差す。
「お姉ちゃん、あそこに誰かがいるよ」
視線を向ける。だがそこには誰の姿もない。
途端に背筋を駆け上がる嫌な予感に、思わず弟へと手を伸ばした。
「だめ。誰もいないから」
けれどその手をすり抜けて、弟は河原へと歩み寄り。
「どうしたの?迷子になったの?」
そう言って、何もない場所に手を伸ばした。
「だめっ!」
止める間もなく、弟の姿が掻き消える。
その代わりと言わんばかりに現れたのは、見知らぬ子供。
長袖と長ズボンを履いた、弟とは似ても似つかない彼。
「おねえちゃん」
笑いながら、伸ばしたままだった手を繋がれる。
軽く揺すって、呆然とする自分に囁いた。
「お家に帰ろう?」
手を引かれ、川から出る。
入れ替わった彼の仄暗い笑みを見ながら、消えた弟を思い一筋涙が零れ落ちた。
「――っ!」
悲しみと苦しさに飛び起きた。
乱れた呼吸を整えながら、辺りを見渡す。
暗い部屋。少し遅れて、伯父の家に泊まりに来ていたことを思い出した。
深く息を吐く。怖い夢を見ていた。
――目を合わせ、言葉を交わし、そして触れてしまえば。
気づいてはいけない誰かの怪談が脳裏を過る。
今見ていた夢。弟が入れ替わる悪夢。
もしもそれが、本当に入れ替わりだったとしたら。
あの夢の中で、弟は誰かを見ていた。心配そうに声をかけて、手を伸ばして何かに触れようとしていた。
自分には見えない誰かと入れ替わった。ならば、今も弟はあの川にいるのだろうか。
あり得ないと否定しながらも、体は布団から出ていた。窓を開けて、身を乗り出す。
ただの夢。あるいは入れ替わりたいあの少年が、弟だと思い込ませているだけなのかもしれない。少年が弟だと思うのは、夢とこの衝動にも似た思いだけだ。
窓枠に手をかけながら、一度だけ考える。けれどすぐに意味がないと自嘲して、外へと飛び出した。
このまま違和感しかない彼と、気づかない両親と暮らしていくのは耐えられない。
おそらくすべてに気づいていながら、見て見ぬ振りを続ける伯父たちの側にはいられない。
自分を偽ってこれからも過ごすよりは、いっそ終わってしまった方が楽だった。
暗い河原に座って空を見上げる少年に、震える足に力を入れて駆け寄った。
「お姉ちゃん」
きょとりと目を瞬かせて、少年は笑う。しかしその笑みが悲しそうに見えて、苦しくなった。
荒い息を吐きながら、少年を見据える。
「ずっと、ここで遊んでたの?」
少年は何も答えない。言葉を交わすことを嫌がるように、背を向けて去って行こうとする。
咄嗟にその手を掴んで、引き寄せた。
「もう、一緒に遊んではくれないの?」
「――お姉ちゃん」
少年に姉と呼ばれるのに、泣きたい気持ちで目を閉じる。
離れたくない。置いていきたくない。一人は嫌だ。
込み上げる思いは、もう止まらない。
どうか、と祈る気持ちで呟いた。
「変わりたい。嘘ばかりの世界に、これ以上いたくない」
あ、と小さく声がした。
そっと小さな手が背に回る。背を撫でる手の温かさに、耐えきれず涙が零れ落ちた。
「お姉ちゃん」
弟が呼ぶ。返事の代わりに繋いだままの手をぎゅっと握る。
「一緒にいる?二人だけになっちゃうけど、それでもいいの?」
静かな声に、必死に頷いた。
「二人だけでいい。嘘ばかりの他は、いらないの」
泣きながら答えれば、繋いだ手に何かが巻き付く感触がした。
視線を向ければ、繋いだ手に幾重にも絡む赤い糸。離れないように、解けないように複雑にがんじがらめに繋がれる。
その自分の手が次第に小さくなっていく。
手だけではない。まるで時計の針を戻して行くかのように、あの日の姿に戻っていく。
「あの日の、続きをしよう。離れていた分、たくさん遊ぼう」
「うん。ずっと一緒に遊ぼうね、お姉ちゃん」
見下ろしていたはずの弟が近くなって、互いに泣きながら笑った。
その小さな田舎町では、夏になると子供の幽霊が出るらしい。
白の半袖と紺の短パン姿の少年。
白の袖のないワンピースを着た少女。
少年の右手と少女の左手は肘の辺りまで赤い紐で括られ、離れないように繋がれているという。
川や森、学校や神社の裏手など。不意に楽しそうな笑い声がすると、二人仲良く遊ぶ姿を見たと町の者は皆噂をしていた。
二人の姿を見たとしても、とくに害はない。
ただ、見ていることに気づいた二人が、笑顔で手を振ると。
手を振られた町の者は、後悔と罪の意識に泣き崩れてしまうらしい。
何を後悔しているのか。罪とは何なのか。
詳しくを皆語らない。
それでも慟哭しながらも手を伸ばし、姉を呼び続けたある青年は。
入れ替わりの後悔を綴った手紙を残し、姿を消してしまったといわれている。
20250725 『半袖』
入ってくる外気が暑い。
んーと今日の気温は
そうだ、30度はもちろん超えるんだったな
出る私の半袖が冷たい。
『半袖』
「書く習慣っていうアプリやってる人おいで!!!!」
というオプチャの管理人です!
ぜひおいでください!!
出来立てのおにぎりっておいしいよね
暑いといって捲った袖、
思わずじっと見てしまったのは君には内緒。
【半袖】
今年暑すぎ!半袖着てても暑いし日焼けするしもう嫌!
半袖
「なぁ、今日から半袖なん?」
「うん!今日暑いし……え、なに?」
通学路の途中のいつもの自販機前で待っていた彼は、まじまじと自分の姿を見てどこか不満げな顔をしていた。
「露出多いやん。腕見えてるー。いやや。」
決して細くはない自分の二の腕をむにむにと触りながら、ため息を漏らす彼の言い分はめちゃくちゃだ。ああ、いつものだる絡みかと理解して、腕を触る彼氏をそのままに歩みを進める。
「いや、露出って…これ学校指定だし。てかどうせもうすぐ夏服の移行期間でしょ。」
自分の至極真っ当な意見を聞いても、このわがままな彼氏様は眉を顰めている。納得がいかないという感情が見え見えだ。それにしても学校が近づいてきて同じ制服を着た人が増えてきたのだからいい加減腕を揉むのをやめてくれないだろうか。
「そういう問題ちゃうねん。こんなさー、綺麗な腕出してたら狙われんで?悪い男寄ってくるで?」
「いやどこが?言いたかないけどそっちの方が白いし細いでしょ。こんな太くて黒い腕見たって誰も何も思わないから!」
綺麗という言葉に照れたわけではないがなんか恥ずかしくなって手を振り払う。こっちが本気で振り払えばすぐに離れてしまった。運動部で週6はグラウンドで焼かれている自分の腕よりも彼の腕は白くて細いから。そのことを自分自身気にしていないわけは無いのに「綺麗」なんて見え透いた嘘をつかないでほしい。
「いーや思う!実際に俺は思ってるもん!」
何を思っているのか聞こうとして、馬鹿らしくなってやめた。本当にこの男は物好きにもほどがある。もっとかわいくて、素直で、性格の良い、腕も白くて細い人なんてたくさんいるのになぜ自分を選ぶのか。当たり前のようにかわいいだとか好きだとか甘い言葉を投げかけて、自分を彼女と呼ばれるポジションに置くのか分からない。自分が彼なら自分を選ばない。だって、彼は自分と違ってモテるのだ。それはもう羨ましいくらいに。顔も良いし、清潔感もあって、性格も明るくて、こんなにも付き合う人に一途で、そりゃあモテるわって感じなんだけど。だとしたら尚更なんで自分と付き合ってんの?
「なぁー、カーディガン貸すから着てー。」
「嫌だわ。こんなあっついのに。」
なんて、本人には聞けないけど。もしそれを聞いて確かになんで?って思って別れるなんて言われたら笑えない。そもそも、なんで自分が良いのかなんて聞くなんて自意識過剰すぎないか?めんどくさいと思われたくない。だから、自分が傷つかないように、今日もそっけない対応をとる。この時間が続きますように、と誰よりも願いながら。
《半袖》
※昨日の続き! ちょっと重い(暗い)かも
「あっ思い出した! 《半袖》だ!!」
蒼戒と作文の話をしてから少し経って、夕飯を食べている時。俺(齋藤春輝)は作文のお題を思い出して大声を出す。
「……は?」
「いや、は? じゃなくて! 作文のお題! 俺《半袖》だったの!!」
「ああ、あれか……。選考基準は一体どうなっているんだ……」
「本当それなー。そーいや半袖と言えばさぁ……」
俺はふと蒼戒の着ている長袖を見て言う。
「お前まだ半袖着ねーの?」
「? 着ないが?」
蒼戒は当然だとでも言いたげな顔で小首をかしげる。
「いやそんな顔で言われてもさ。つかそれ暑くねーの?」
「別に。もう慣れた」
蒼戒はそう言って冷ややかに味噌汁をすする。
「慣れたってお前な……。そのうち熱中症で倒れるぞ?」
「そこはうまいことやってるから大丈夫だ。多分」
「多分じゃ困るって。半袖楽だし涼しいしいいぞー?」
「そう言われても……。今更、着ようとは思わないからな」
「そっか……。でももう、いーんじゃねーの? 半袖着ても」
蒼戒が半袖を着ているところなんてもうずっと見ていない。腕が見えそうな服を着ているところも。クラT(クラスTシャツ。クラスお揃いで作るTシャツのこと)とか浴衣の時とかでも中に薄手の長袖のインナーを着ている徹底っぷりだ。
「お前……、俺がどうして半袖しか着ないのか知ってるだろう」
「そうだけど……」
蒼戒がどうして頑なに長袖しか着ないのか。それは蒼戒の、俺たちの、過去に原因がある。
俺たちが小学校に上がる前の冬、姉さんが亡くなった。警察いわく完全な事故で溺死だったわけだが、姉さんがいないなら自分も死ぬと、蒼戒はそう言って何度も何度も、自殺しかけた。俺がその度にそれを止めたから今こいつは生きてるわけだけど、その時の名残で自傷癖が残った。左手で、右腕を引っ掻いてしまう癖。
要するに、蒼戒が長袖しか着ないのは、いざって時に自分を傷つけないため、傷跡を他人に見せないためだ。長袖なら、引っ掻きにくいから。相手に肌を見せないで済むから。
それは当然俺もよく知っているし、なんならいろんな局面でフォローを入れたりもしてきたけど。
「だけどそろそろ、いいんじゃないのかなって。あれからもう10年以上経つだろ?」
「そうだが……」
蒼戒はそう呟いて困り顔でご飯をパクリ。俺はそれを見ながら味噌汁をすすって言う。
「別に無理にとは言わないけど、そろそろいいんじゃないのって、そう言う話。ごめん、余計なこと言ったな」
「別に……。悪いのはいまだに過去を引きずってる俺だから」
「………………」
「それに、この腕じゃ余計な誤解を招くからな」
俺がかける言葉を見つけられずにいると、蒼戒はそう言って腕まくりをして見せる。
そこには大小たくさんの傷があって、俺は思わず目を逸らす。
「……痛い?」
「いや、とっくに痛覚は麻痺してるしどれももう古い傷だからな」
「そっか……。いざとなったらいつでも言えよ。包帯くらいなら巻いてあげるから」
昔からずっと手当は俺の役目だった。最初はめちゃくちゃ下手だったけど、不本意なことに結構上手くなった。だから包帯くらいなら、綺麗に巻いてやれる。
「ああ、ありがとう」
「いーってことよ。さ、この話はもう終わりにしよ! お前明日の予定は?」
俺はそう言って明るく話題を変える。
「明日? 明日は確か午前中に生徒会の仕事があって、午後は部活だったはず……」
「まーた生徒会? 忙しいねぇ、男副」
「体験入学が近いからな。あと選挙」
「やー、大変だなー。お前マジで倒れるなよ?」
「望んで倒れる奴がどこにいる」
「いやいないけども」
というわけで夕飯を食べながら明日は保冷剤でも持たせるかな、と思う俺であった。
(おわり)
2025.7.25《半袖》
半袖からはみ出た毛を指摘しようか迷っている。
でも女子だからなぁ〜。
真面目な先輩が、突然私用で長期の有給をとった。
私、永遠の後輩こと高葉井は、藤森先輩とずっと8年くらい、一緒に仕事してきたけど、
この先輩が突然私用の休みをとる時っていうのは、だいたい先輩自身に酷い悩み事があって、その悩み事に先輩自身が1人で立ち向かって、
それで、妙な解決策が、見つかったときだ。
先輩は真面目で、人に頼るのが苦手で、
仕事の問題はすぐ他の人と情報を共有するくせに、
自分の問題になると、1人で抱え込んで、1人で解決策を探して、全部ぜんぶ、内側に隠して、
それで、先輩としての解決策が見つかってから、
やっと、「いつもと違う行動」や「先輩らしくない行動」でもって、一気に答え合わせをしてくる。
それこそ有給を突然とるような。
一昨年も、先輩は突然私用で長期の有給をとった。
一昨年の10月、夏の残暑が微妙に残ってるんだか、そろそろ秋に向かうんだか分からない頃、
半袖と長袖の狭間のような時期に、
先輩は、1人で自分の問題に向き合って、1人で答えを出して、1人で全部解決しようとした。
当時の先輩は、所有欲が超強火で、超粘着質な、理想押し付け厨の元恋人に追われてた。
その元恋人がドチャクソに粘着しまくって、私達の職場にまで押し掛けてきたから、
先輩はこれ以上、元恋人が自分の職場に、友人に、多分私にも迷惑がかからないように、
とった有給の間に、元恋人を連れて、遠い遠い故郷に戻ろうとした。
一昨年の先輩の有給は、半袖長袖の狭間の10月。
今年の先輩の有給は、半袖真っ只中の7月。
なんとなく、先輩と半袖の時期の相性は悪い。
先輩は雪国出身だから、暑い日は思考が悪い方向に落ちやすいのかもしれない。
いつもと違う行動、先輩らしくない行動。
真面目な先輩が、突然私用で長期の有給をとった。
先輩がまた1人で何か勝手に悩んでるらしい。
先輩にメッセ飛ばしてカフェに呼び出して
それで先輩を問い詰めたけど、
先輩は「お前に迷惑はかからない」「安心しろ」の一点張りで、でも確実に何か決心決意してて、
それで、「またな」、って。「ちょっと行ってくる」って。そう言って先輩は私から離れてった。
雪国出身の先輩は、その日もリネンで薄手の半袖サマーコートを羽織ってた――…
…――「……っていうことが、あったんです」
「うん。非常に、ウチの部長によく似てますね」
先輩と別れて十数分、私は先輩を呼びつけたカフェのテーブルから離れられなくて、
それで漠然と、先輩が歩いてった道を見てたら、
パッ と目の前に、私の推しが現れた。
「ツバメ」っていうビジネスネームで活動してる、某管理局の局員さんだ。
ツー様と呼んでるけど本人には頑張って「ツバメさん」と言いたい(多分難しい)
ツー様は、先輩が何に対して悩んでて、何を理由に有給をとったか、分かってるようだった。
ところでツー様今日も美しいですね(合掌)
ツー様は、先輩が見つけてしまった自分だけの解決策を、知っているようだった。
あのねツー様今日に限って半袖なんですね(尊い)
うん(課金)
ところでツー様、ツー様の上司の部長様、
今、どこにいらっしゃるんですか(好き)
「部長なら、ワケあって、今は私と別行動中です」
「別行動中」
「ちょっと、色々あってね。これから忙しくなりそうだから、ちょっと警戒と監視を」
「何の監視ですか」
「黙秘です」
「私に、 先輩に、関係あることですか」
「それも黙秘だ」
「ツーさま」
「ただ、いつか、あなたも『この事件』に巻き込まれる可能性がある。そのときは……」
そのときは。ツー様がその先を言おうとした直後に、ツー様の個人端末がマナーバイブで鳴った。
「……まぁ、うん。そうなるだろうと思った」
ツー様が言った。
「高葉井さん。あなたも一枚、絡んでみるか?」
「勇。勇!お前さぁ、なんで半袖にしないの」
8月半ばの昼すがら、自転車を漕ぎながら大声で僕は尋ねた。
前を走っていた勇が、急になんだよ、と振り返りもせずに尋ね返してくる。
「今、気になったの!暑いじゃん、今日。つうか5月くらいからずっと暑いじゃん。なのにお前長袖しか着ないから。本当に死んじゃうぞ。熱中症で」
あいつは全然振り向かないので、仕方なく僕はさっきより声を張り上げた。これじゃ殆ど叫び声だ。
実際、大声を上げるのも億劫な程に今日は暑かった。項をじっくり焼いていく太陽が憎い。
なのに、こいつは一向に半袖を着ようとしない。なんで?
……純粋な心配と、それからちょっとした興味心。それらに駆り立てられて、ぼくは勇に尋ねたのだ。
「お前、意外に優しいのな。……ほら、そこのコンビニ寄るぞ!」
コンビニ寄るぞ、の寄るぞの部分で勇は初めて振り返った。
顔が真っ赤で、汗で前髪が張り付いている。よく見たら、紺色のシャツももうすっかり黒色に染まりきっていた。いくらなんでも我慢しすぎだ、ばか。
「待てよ!おれ、お金もってないぞ!100円しか!」
「俺のおごり!いや嘘、割り勘で!」
コンビニを後にして、ぼく達は近くの公園のベンチに座っていた。
冷房がガンガンに効いたコンビニ──ぼくが思うに、天国とはきっとあんなところなのだろう──にずっと居たかったのは山々だが、いくらなんでもコンビニ前でたむろするのは迷惑だろう。
幸いすぐ近くにコンビニがあったので、ここまで自転車を漕いで来たという訳だ。
隣の勇を見る。相変わらず赤い顔をしているが、さっきよりはいくらかマシになってきている。
屋根付きのベンチで助かった。
そう思いながら、ぼくは液体になってきているパピコをじゅっと吸い上げた。ほろ苦い。これがぼくの全財産の味か。
なんだかやけに静かだ。まあ、2人ともアイスを食べている途中だから仕方ないのだけど。
でもちょっと気まずかったので、とりあえず気になっていた事を聞いてみることにした。
「そういえばさ。お前、その痣どったの」
「え、痣?どれ」
「目の下の。ちょっと青くなってる」
「ああ、これ。参ったな。……ぶつけた。この前チャリでコケたんだよ」
へえ、と頷く。聞いたあと、どう話を展開するかは特に考えていなかったし、考えなくていいと思っていた。だから、やっぱりしばらく沈黙が続くことになる。
「長袖の理由な」
「ん?なにさ、急に」
「さっきの話の続き。長袖の理由はさ、その、えっと」
唐突に言い出した割には中々煮えきらない。もどかしかったので、ずばり?と尋ねると、勇はしばらく目を泳がせて言った。
「……その、かっこいいから?」
「なんで疑問形」
「かっこいいから!」
誤魔化すように声を張り上げて、パピコの残りを一気に吸い上げる勇。
……なんというか、その。
「お前がここまで嘘下手とは、思わなかったな」
というか、かなり苦しいと思う。その言い訳。
「言うな!」
あ、自覚はしているらしい。
わざわざ家までの短い距離も漕いでいくのも疲れるので、自転車を押して歩くことにした。2列横並びは迷惑なので、縦にずらっと並んだ形で。ぼくが前で、勇が後ろ。
「あのさあ」
後ろから声をかけられる。振り向くのも億劫なので、とりあえずああとかんんとか言って返事をした。イサミの表情は分からない。
「さっきの、公園の話なんだけど」
「ああ、あれ。いいよ、言わなくて」
ハンドルを押す腕に力が入らない。いくらなんでもはしゃぎすぎただろうか。……返事は返って来ない。黙られてしまっては仕方ないので、こっちが一方的に喋りかける形になる。
「おれ頭良くないけどさ、流石にそこまでにぶくないよ。お前が自分から言いたがってはいないって、それくらいくらいわかるさ。
……言いたくないんなら、無理に言わなくてもいいから。
お前が胸を張って言えるようになった時に言ってよ。その時はおれも全力で聞いてやるから」
それだけ言って、疲れた体に鞭打って歩くスピードを上げた。
沈黙が続く。
沈黙が続く。
沈黙が続く。
そろそろ気まずくなってきた。不味いことを言っただろうか。どうしよう、と思ったとたんに、後ろから声が投げかけられた。
「ばっか。お前、かっこつけすぎ」
「……は」
疑問符が頭に浮かんだあと、一気に顔が熱くなる。今の自分の顔は、きっとさっきのこいつの顔より赤くなっているはずだ。急に恥ずかしくなってきて、思わず俯く。赤に染ったコンクリートが目に入った。
……なんだよ、それ。そりゃ、自分でもちょっとそう思ったけど。
「でも」
シャーッと、音が後ろから近づいてくる。自転車のチェーンが、タイヤを回転させる音。顔の横に風を感じて、なんだよと思って顔を上げる。
いつの間にか、勇に追い抜かされていた。それどころか、どんどん先に勇は進んでいく。それで、ついに顔すら見えないくらいに遠のいた後。
「ありがとな」
あいつが振り向いて、思いっきり手を振って叫ぶのが聞こえた。
半袖
一年中半袖を着なかった理由を教えてください。
なんど質問しても「寒いだけ」というあなた。
本当は違うんでしょう?
だって夏には汗をかいていたもの。
本当はなにかを隠してるんでしょう?
なぜ教えてくれずに卒業しちゃうの?
私はその理由を知りたかったです。
「半袖」
日差しが強くなる前に、犬と朝の散歩に出る。
犬は短い足で先を歩き、時々こちらを振り返る。
その姿を眺めていると、去年の夏の散歩を思い出す。同じ道を、犬と歩いたあの日も半袖。
あのときと同じように、すれ違う人が「暑いですね」と笑った。
今年も半袖で犬とゆっくり歩く。
犬の背中を見ながら、今年の夏も素敵な思い出になる予感がした。
ちらりと覗く白い腕が
夏の到来を知らせる
日焼け止めを塗った腕が
反射する光は
太陽のまぶしさを
そのまま表したみたいだ
/7/26『半袖』
星を追いかけて またいつか True Love もしも過去へと行けるなら 半袖 です。
読み返しはしていないので、変な文章になっていたらすみません。
星を追いかけて
「…やっぱり、ムリなのかな」
自分のやりたいこと。あこがれの職業。その夢に向かって夢中で追いかけているけど、遠ざかる気しかしないし、手が届かない。
「…諦めが肝心…か」
はぁ。とため息を吐いたとき
「あれ?久しぶりじゃん」
後ろから肩を叩かれる。
「え?…久しぶりだね」
振り向いた僕の目に映ったのは、仲良くしていた同級生で。
「で、何かあったのか?」
彼は、会うのが久しぶりにもかかわらず、あの頃のように話しかけてくる。
「…どうして?」
落ち込んでいることを悟られ、ドキッとしながらも落ち着いて返事を返すと
「どうして。って、俯いて、とぼとぼ歩いてただろ」
苦笑いされる。
「そう、だったんだ。気づかなかったな」
ハハッと笑ってみせるけど、気を抜くとため息が出てしまう。
「で?」
「ああ、うん。…今でも夢を追いかけてるんだけど、上手く、いかなくて…」
情けなさに、込み上げてきそうな涙を、唇を噛んで耐えると
「そっかあ。けど、諦めずに追いかけるなんて、お前、やっぱすげえわ」
ニッと笑いながら、彼は、僕の肩をバシバシ叩く。
「ちょっ、痛いって」
「お前の夢はさ、年齢関係なく掴める夢じゃん。だから、焦らず追いかけろよ。んで、勝利という名の星を掴むために、どこまでも、星を追いかけて行け」
彼に励まされ
「…ありがとう。元気、出たわ」
また頑張ろうと思えた。
「そっかそっか。なら、久しぶりだし、どっかで話でもすっか」
「いいね。そうしよ」
あの頃と同じように、僕たちは肩を並べて歩くのだった。
またいつか
「またいつか」
「ああ、またな」
お互いに片手を挙げ、別々の道を歩く。
数年前に出向で、今は出張で来ている場所。
「たまに見かけるが、あんた、この辺の人か?」
出向に来たとき、週一で通っていたバー。そこで彼に話しかけられた。
「ここには出向で来てる。あと少しでその期間も終わるがな」
「そうか。あんたが1人なら、隣いいかい?俺は1人だから話し相手がほしくてね」
「ああ、かまわないよ」
それから、ここが地元だということ以外、何も知らない彼と一緒に飲むようになった。けれど、時間を合わせてここに来る約束をするわけでもなく、偶然会えたら飲むか。くらいな関係。けれどそれが、気付けば楽しい時間になっていた。
「今日で出張は終わりなんだ。会えて良かったよ」
「そうか。また来たときは、一緒に飲もうな」
「ああ。約束だ」
乗り気ではなかった、出向で来た場所。それも、彼のおかげで、憂鬱な気持ちはなくなり、むしろ楽しみになった。お互いに詳しいことは知らない間柄だけれど、こんな付き合いも悪くない。と思うのだった。
True Love
「…別れようか」
ため息を漏らしつつ、彼女に告げると
「え、何で?イヤだよ」
と、縋りつかれる。
「そうだよね。俺と別れたら、金づるがいなくなるもんね」
ギロリと彼女を睨みつければ
「え…」
彼女は顔を青くする。
「俺の金があれば、人生はイージーモードなんだろ?そんな奴を逃がしたら、散財できなくなるもんな」
ハッと乾いた笑いを浮かべれば、彼女は何も言えなくなって俯く。
「わかったら、さっさと出て行ってくれ」
俺の冷たい声が恐かったのか、彼女は抵抗することなく出て行った。
「はぁ。恋愛って難しいな」
1人になった部屋で、ソファに座り、俺は天井を見上げる。
「両親たちみたいなTrue Loveは、俺には探せないのかね」
仲睦まじい両親。2人の間には、愛以外の想いは見当たらない。
「俺もいつか探せるといいな。真実の愛を」
思ったよりすんなり別れられて良かった。と安堵しながら目を閉じたのだった。
もしも過去へと行けるなら
もしも過去へと行けるなら、やり直したい場面はいくつかある。
あのときああしてれば、しなければ。ってことが。
でも、それがあったからこその今日だから、後悔はあったとしても、良かったんだと思う。
後悔のない人生を送ることは難しいけれど、それがあったからこその今を大切にしたいと思う。
半袖
「ねえ、これどうかな?」
キミと一緒に来た買い物。本格的に暑くなる前に、夏物を買いに来た。
「いいんじゃないかな。キミに良く似合うよ」
「ホント。じゃあ、これにする」
キミはうれしそうに笑い、手にした半袖のシャツを胸に抱きしめている。
「………」
けど僕は少し不安だった。その服を着たキミは、さらにかわいくなるのは目に見えている。
「次はあっち見ようよ」
キミに手を引かれ、別の場面に移動しながら、早く気持ちを伝えなきゃ。と焦る僕だった。
あっつい…
まるで呪の言葉のように
帰り道はその言葉しか出てこない
クラスメイトがだんだんと半袖に切り替わっていく中
わたしはその波に乗れずにいた
うーん、めっちゃ暑いんだけど
なかなか、変えられないなぁ
来週から…、来週から…、
そう言って先延ばしにしている気がする
あ、そうそう
好きな人がさ、半袖に変えた時ってすごくトキメクの
いつもよりも何倍にも増して
キラキラとかっこよく見えるの
半袖
日焼けなんてどうでもいい
毛穴なんでどうでもいい
男の子が隣に来て
急に腕を隠す
あぁ、やっぱりあの子も女の子なんだ。
好きなんだろうな。
急に前髪まで整えちゃって。
あぁ。かわいい。
半袖を着ると涼しい
でも日焼けをする
日焼け止めを塗って半袖で涼しむ。
お前は、いつも半袖しか着ないよな。「うん。だって長袖でだと絶対暑いじゃん」あいつが答える。
あいつは、幼い頃から少し珍しい病気にかかっていた。ある時、あいつは交通事故にあい後遺症が残ってしまったとあいつの親から聞かされた。
俺は真っ先に車の運転手の家に行き、警察のように事情聴取みたいなのを始めた。
それだけ当時は悔しかったのだろう。あいつの後遺症はめったに治らないと言われていた。
なぜその当時から長袖を着るようになったんだろう。前は、今と真逆ですごく暑がりがったのに....俺はインターネットであいつの特徴をもとにしてたくさん調べた。
小学校で習ったばっかりの、ローマ字を使って無我夢中で調べた。しかし答えはいつも同じ「検索結果は見つかりませんでした。ワードなどを変えてお調べください」
壊れてるのか?考えたが、父さんのパソコンはウイルスが入ってこないようにバリアはいつもガッチガチだった。そんなわけないと思いながら調べたが全く分からなかった。
後遺症は名前はわからなかったが、どんな後遺症化は教えてくれた。
「おしゃべりが、いつもよりゆっくりになってるよ。もしかしたらもう一つ増えちゃって二人の思い出がなくなちゃうかもしれないのよ。」嘘だ.....俺は母さんの話を聞きながら自分に言い聞かせた。
あんたが悲しむと思って言わなかったのよ。ごめんね..,あとちょっとであんたもお兄ちゃんだからね..あっ」また母さんが口を滑らして、妊娠していることをバラしてしまったのだ。
父さんと計画していた俺にとってのサプライズが、母さんの口滑りで考えていたことが全部、水の泡になった......
その時はみんなが大爆笑した。
久しぶりにみんなで沢山笑った気がする。思い出すと、とても懐かしい気持ちになった。
三ヶ月後....
あいつの状態が悪化し、緊急手術となったあいつの手を握りながら言った。「また、二人で楽しい所たくさん行っておとなになるまで一緒にいような」あいつはゆっくりと頷いて強く俺の手を握りしめた。
それが最後の約束..いや最後の会話だった。あいつはそのまま帰らぬ人となった..葬式でお花をいれるとき花と二枚の布切れを入れた一枚は、クラスのみんなの一言だ。
俺がみんなにお願いしたんだよ。感謝しろよな。もう一枚は、俺からの一言だ。書いた内容は読んだ人たちにおまかせする。
久しぶりに、あいつと最後に行ったデパートに来た。もちろんあいつの家族や俺の家族も一緒にな。 半袖の服を見てみんなが立ち止まったあいつが最後着ていた半袖だった。
俺は、母さんに頼みあの半袖を買ってもらった。家について長袖を着て思った。
あいつが近くにいて笑っている顔が見えた気がした「着てくれてありがとう。覚えててくれていたんだね。」
忘れるわけ無いだろ.....ばかが 俺は人生ですごく泣いた出来事だった
何年か前までは、半袖姿でずっといることはなかった。Tシャツを着ても、何かしら羽織るものを着て、日除けや冷房の寒さ対策をしていた。
でもこのところの暑さは、すごい。
日傘をさしても、下からもジリジリと熱が押し寄せる。二枚服を重ねるなんて耐え難く、とうとうTシャツ一枚で出掛けることが多くなった。
先日、お店でふと手に取った、半袖のシャツ。
サラサラッとした生地が気持ちよさそうで買ってみた。それが、すごく良かった。
少し大きめなのもよくて、風が吹くと、脇や裾の隙間からサーっと風がとおる。
おー! 涼しい。
半袖シャツの良さに改めて気づいた。
すっかり気に入って、最近こればかり着ている。
「半袖」
袖から覗く君の肌がどこか扇状的で、雪のようだった。
2025/07/26 #半袖