もんぷ

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半袖

「なぁ、今日から半袖なん?」
「うん!今日暑いし……え、なに?」
通学路の途中のいつもの自販機前で待っていた彼は、まじまじと自分の姿を見てどこか不満げな顔をしていた。
「露出多いやん。腕見えてるー。いやや。」
決して細くはない自分の二の腕をむにむにと触りながら、ため息を漏らす彼の言い分はめちゃくちゃだ。ああ、いつものだる絡みかと理解して、腕を触る彼氏をそのままに歩みを進める。
「いや、露出って…これ学校指定だし。てかどうせもうすぐ夏服の移行期間でしょ。」
自分の至極真っ当な意見を聞いても、このわがままな彼氏様は眉を顰めている。納得がいかないという感情が見え見えだ。それにしても学校が近づいてきて同じ制服を着た人が増えてきたのだからいい加減腕を揉むのをやめてくれないだろうか。
「そういう問題ちゃうねん。こんなさー、綺麗な腕出してたら狙われんで?悪い男寄ってくるで?」
「いやどこが?言いたかないけどそっちの方が白いし細いでしょ。こんな太くて黒い腕見たって誰も何も思わないから!」
綺麗という言葉に照れたわけではないがなんか恥ずかしくなって手を振り払う。こっちが本気で振り払えばすぐに離れてしまった。運動部で週6はグラウンドで焼かれている自分の腕よりも彼の腕は白くて細いから。そのことを自分自身気にしていないわけは無いのに「綺麗」なんて見え透いた嘘をつかないでほしい。
「いーや思う!実際に俺は思ってるもん!」
何を思っているのか聞こうとして、馬鹿らしくなってやめた。本当にこの男は物好きにもほどがある。もっとかわいくて、素直で、性格の良い、腕も白くて細い人なんてたくさんいるのになぜ自分を選ぶのか。当たり前のようにかわいいだとか好きだとか甘い言葉を投げかけて、自分を彼女と呼ばれるポジションに置くのか分からない。自分が彼なら自分を選ばない。だって、彼は自分と違ってモテるのだ。それはもう羨ましいくらいに。顔も良いし、清潔感もあって、性格も明るくて、こんなにも付き合う人に一途で、そりゃあモテるわって感じなんだけど。だとしたら尚更なんで自分と付き合ってんの?
「なぁー、カーディガン貸すから着てー。」
「嫌だわ。こんなあっついのに。」
なんて、本人には聞けないけど。もしそれを聞いて確かになんで?って思って別れるなんて言われたら笑えない。そもそも、なんで自分が良いのかなんて聞くなんて自意識過剰すぎないか?めんどくさいと思われたくない。だから、自分が傷つかないように、今日もそっけない対応をとる。この時間が続きますように、と誰よりも願いながら。

7/26/2025, 11:01:19 AM