もんぷ

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2/22/2026, 1:45:32 PM

太陽のような

 彼は、まさに太陽のような人。明るくて、居心地が良くて、そこにいるだけで周りの人はみんな暖かくて幸せになってしまう。そんな彼はみんなを惹きつけて輪の中心で綺麗に微笑む。私はそんな彼を遠くから見つめているだけで良い。宇宙に漂う名もない惑星となって、下手に近づかず、彼の光をこっそりと盗み見ているだけで幸せなのだ。


 あの子は、まさに月のような人。穏やかで、優しくて、毎日姿を変えているように見えながらもそこに確かに在る。光を浴びると、とても綺麗で。つい絡みに行ってしまうけど、なぜか怯えられていてすぐに引っ込んでしまう。嫌われてはないはずなんだけど。あぁ、俺はそんなあの子をずっと側に置いてその綺麗さを照らしていたい。自分がよく褒められるその光を、あの子だけに浴びせ続けて輝いているのを一番近くで見ていたい。それが一番の幸せなのだ。

2/21/2026, 11:35:34 AM

0からの

「や、久しぶり……はは、なんか変な感じ。」
何やねん、それ。あの頃と変わらないその少し厚めの唇は気まずそうに言葉を紡いだ。ムッとした感情を全面に顔に出すと彼は困ったように眉をハの字にして笑った。そう、この笑顔が好きやったなぁと思った。自分の我儘に付き合ってくれる優しい笑顔。いや、別にこっちは今も好きなんやけど。だからこそ、他人行儀というか何とも気まずい空気に腹を立てているのを分かってほしいのだ。まるであの頃の関係値が無かったかのように、0に戻ってしまったかのように振る舞われたらそりゃ腹も立つだろう。

 年月としてはおおよそ二年にも満たないぐらいの日数で、人が大きく変化するにしてはまだ足りないぐらいの短い時間。それでも会えない時間を嘆いてしまうぐらいに自分にとっては長い期間。憂さ晴らしに始めたジム通いで手に入れた過去最低体重も、わざわざレッスンにまで行って変えたメイクもやっと見せてあげることができた。少し歳は重ねたけど、あの時の自分よりもだいぶ見かけは良くなったやろう。ほら、早く褒めてぇや。

「会うとは思わなかったなぁ。」
何やねん、そっちは会いたくなかったん?
「何年振りだっけ、えーと三年とか?」
二年や、覚えとけ。そんな興味無いんか。
「あれから元気だった?」
おかげさまでしばらく体調崩したわ。そっちはだいぶ健康そうやなあ?

「へへ、良かった。その癖変わってなくて。」
はぁ?
「なんか文句あると眉間に皺寄せてこっち睨んでくる癖。」
そんなんしてへんし。
「ま、無意識なのかもしれないけど。最初は怖くてさ。近づけねーなんて思っててさ。」
何でそんなん言われなあかんのん?

「でも、付き合ってから…いや、それよりも前か。その癖もかわいくみえちゃってさ。好きだったんだよね。」
…ふーん。
「変わってたら寂しいなって、勝手に思っちゃった。」
別にええけど。
「だって、前も綺麗だったけどさ、もっと綺麗になってさ。」
おう、よう分かっとるやん。


「もう俺のことなんか覚えてないと思ってた。」
何を言うとるん?


 こいつはそういうやつだった。超がつくほどの自己肯定感の低さと、不器用さ。あんなにも好きだと、こちらが好きなお前を否定するなと伝え続けてきたのに。少しずつ自信を持たせていたあの期間と少しだけ伸びたように思えていた自尊心はどこへいった。それすらも0に戻ってんのか。

「ありがとうね。覚えててくれて。」
だから、そんなんは当たり前やろ。
「嬉しかったなあ。久々に会えて。」
なぁ、何なん。何、また、離れようとしてんの?
「じゃあ、元気でね…「なあ!!!!!!」

 思いの外自分の声が大きく響いて驚いた。でも、この機を逃してしまってはこちらも生きていけないのだ。必死にだってならせてくれ。0からでいい。あの頃のことを忘れていたっていい。もう一度、伝えさせて欲しい。私がいつだって、今だって大好きな、目の前の不器用な人のことを。優しい人のことを。かっこいい人のことを。忘れさせてくれない人のことを。何よりも愛おしい人を。きっと、適当に入ったコーヒーショップでは語り足りんから、まだ時間作ってもらうからな。これから自分の一生をかけて、伝えさせて欲しい。これを最後の我儘にするから、いつもみたいに困った笑顔で頷いてくれへん?そしたら、また0からよろしく。

2/14/2026, 9:59:35 AM

待ってて

 なぁ。そっちが「待っててほしい」言うからこうやってお利口にして待ってんねんで?なぁ。これ、いつまでなん?ため息と共に吐いた煙は空気を苦く変えて消える。癖になってやめられなくなった煙草も電子に変わるぐらい年月が経った。きっと目には見えないけど肺も色が変わってるやろう。十年。いや、十…何年やろ。数えるのもめんどくさくなるぐらいには変わってんねん。なぁ。年号だって変わったわ。こんな滅多にないことでさえ起こるぐらいには時間経ってんねん。なぁ。携帯だって何回変わってん?こちとら全然更新されへんトーク画面引き継ぐために色々頑張ってんねんで?

 なぁ、と声をかける前に今日も金色のアルコールを流し込む。催促したらまた困らせんのかな思て余裕ぶってニコニコしてるのあと何年続けたらいい?あんまり嬉しくない笑い皺も刻まれるぐらいには俺も老いてきたで?なぁ。俺が犬ならどうしててん?十何年なんて、犬にとっては時間軸が違うねんで?「待て」されすぎてだんだん弱ってくの放っとかれへんやろ?なぁ、じゃあ、なんでこんなに待たされてんの?犬には程遠いでかい人間やから?人間だってこんな待たされたら、さすがにくたびれるて。一度堰を切ってしまえば止まらない想いを、何年切らんように頑張ってると思う?

 待っててなんて無責任やんな。あ、せめて番号札でも出してくれん?いや、こんなに待たされて一番ちゃうかったらさすがにへこむけど。何番目でもいいから、最後は自分のとこに来たらいい、なんてそんな謙虚な考えはできひんねん。ごめんな。好きやねんもん。絶対一番が良い。それか、あれか。最近はアプリとかサイトであなたは何番目で何分ほどお待ちくださいって出るよな。ほら、病院とかでも何番前にはもう着いといてくださいね〜言うやつ。いや、別に他のとこに行きたいわけちゃうで。あと何年って分かったら、それまで生きようって思えるやん?いや、こんなんであと五十年とか言われたらどうしよ。そんなに待たせて、どんな準備してくれてんのやろう。ハードル上がってんで?ほら、今ならまだ大丈夫やから。なぁ。ICOCA押し当ててちゃんと音鳴るか確認する前に出ようとして引っ掛かるぐらい、何回押したって変わらんって分かってるけど早なる気がして横断歩道のボタンを連打するぐらい、せっかちな自分がこんなに待ってるんやから。いい加減この関係変えさせてくれへん?

2/10/2026, 2:23:53 PM

誰もがみんな+花束

 誰もがみんな、幸せだとは限らない。そう痛感したのは大学生になって叔父が経営する花屋でバイトし始めてからのこと。「花屋に寄る」って行為は、どっちかと言うと多くのお客さんにとっては非日常的な出来事で、記念日やら卒業やら誕生日やら「おめでとう」と言われるイベントと結びついていることが多い。だから楽しそうに笑顔でお花を選びにくる方は多いし、そんな晴々とした顔を見て幸せな気持ちをお裾分けしてもらうことも少なくはない。花は日々を彩り、大切な日には寄り添ってくれる。ただ、そんなに良いものばかりという訳ではない。

 FAXで送られてきた注文書の指示通りに白の花を選び取り、あまり華美にならないようにそっと包む。うん、自分にしては上出来。ただ、この慎ましくも綺麗な花束を贈られた本人は見ることができないと思うと胸が痛む。どうか、安らかにと願いつつ、完成させたことを叔父に伝えて作業場を整えて売り場に戻る。
「いらっしゃいませ。」
5限終わりだろうか、パソコンが入っていそうなずっしりとしたリュックを背負った常連の川崎さんがやってきた。おそらく同い年で、自分と服の趣味が似ている、仲良くなりたい人。そりゃお給料を貰っているから仕事として接客はするが、プライベートでも仲良くなりたいとなればそれは話が別だろう。だから攻め方が分からない。相手は人見知りらしく、あまり踏み込めないような空気はある。ただ穴が空いてしまうと感じるほどに視線は感じるし、嫌われてるわけではないと信じたいのだが。
「今日は、えっと、花束を作ってほしくて…予算はこのくらいで…色も形もおまかせでお願いできますか。」
拙くても一生懸命に話をしようとしてくれる姿勢にほっとしながら相槌を打つ。いつ渡すかなど希望を聞いてから、この花はいかがでしょうか、こういう風にしても綺麗ですよと説明をする。大まかな方向性を決め終えて花束作成に移る。花束を作る時は大抵作り終える時間を伝えてまたその時間に来てもらうという方式をとることが多いが、今日は川崎さん以外にお客さんもいないし、何より川崎さんはいつも他の花を見たりして時間を潰していることが多い。まぁ、一応聞くけど。
「今日もいつも通りここで待たれますか?」
「はい。あの、今日は作るところ見ててもいいですか?」
「…もちろん、いいですけど。」

 ただのバイトだし、知識もそこまでないから花を扱うのを見られるとなると多少は緊張する。いつもより丁寧に、でも迅速に。あぁ、でもこの時間も悪くはないな。川崎さんの大きな目がぱちぱちと瞬きをしながら綺麗な花々を捉える。そういえば、この人は何のためにこの花屋に来ているのだろうか。花がもともと好きだったという訳ではないみたいだし、日常的に植物を育てているような人でもこんなに高頻度では訪れてこない。冷やかしというわけでも、雑談をしたいわけでもないらしい。でも、別になんでもいい。この人がここを訪れて、生きていて、会えて、自分が勝手に元気を貰えるなら、なんでも。しゅるりとリボンを結び最後に全体を少し整える。
「いかがでしょうか。」
「…すごい。ありがとうございます。とても綺麗です。」
花が綻んだように川崎さんの綺麗な顔に笑みが表れて安堵する。少しの沈黙の後、川崎さんはぽつりぽつりと言葉を選びながら話し出した。

「あ、あの…今日実は、自分の誕生日で。えっと、せっかくなら自分も綺麗な花束手元にあったらなって思って…すみません、気持ち悪いですよね…」
そういえば、誰に渡すかと用途を聞けば自分と同姓の同い年に渡すとぼかしていたのを思い出した。自分の花束を綺麗と褒めてくれたのを見て素直に嬉しいなと思う。
「いえ、そんなことないですよ。自分の花束で喜んでくれるのはすごく嬉しいです。川崎さん、いつもありがとうございます。」
良くも悪くもいつもの格好で、誕生日当日でも関係なく通学して、少しの疲労を見せながらもこの店に来てくれて。目を見ておめでとうございますと言って、ありがとうございますと言われて、喜んでくれて。これ以上の幸せは無いだろう。誰もがみんな、何かを抱えて人生を全うしている中で、花があることで少しだけでも心穏やかになれたら。美しいものを見て美しいと感じられることに幸せを見出せたらいいな。そして。
「お代はいいので。これを、自分から贈らせてくれませんか。お誕生日おめでとうございます。」
目の前の人が生まれてきてくれたことに感謝して、誰かを愛するという先祖代々から続く人々の営みに気づくことができたなら、自分はとても幸せかもしれない。この幸せを忘れないうちに、あなたが綺麗と言ってくれたこの花束を同じように愛でたいのです、と伝えよう。

2/2/2026, 10:52:56 AM

勿忘草(わすれなぐさ)

 私を忘れないでなんて言う言葉は、何気なくなんて使わない。それは、ちょっとでも忘れてたらやだなぁなんていう俗っぽい束縛なんかじゃない。自分を忘れてしまうかもしれないぐらいの長いお別れにおいて、少しでもこの存在を心に留めておいてほしいというそのささやかなお願いはどんなものよりも愛おしい。

 すんと何気なく鼻を鳴らすと奥の方でじんわり涙の味がした。涙脆いのは自分の元からの性格で、だからといっていつも泣いているわけではないんだけど。あぁ、今日はなんかダメな日だな、と思う。冷たい布団と部屋の空気は体温を奪い、まだ明るくならない時間に眠気をどこかへ蹴り飛ばす。携帯を見るのさえ億劫で、早く夢の世界に入りたいのに、どうしても頭が働いてしまうのはあの日をぞんざいに扱ってしまった分のツケが回ってきているのだろう。

「忘れるわけない」なんて当たり前の返答をしたら、あの人はどんなふうに笑ったっけ。その存在のどんな小さなことでもいいから覚えておきたくて、眠る前には決まってあの日を反芻しているくせに、日々淘汰されていく記憶は確実に自分から遠ざかる。何か嫌になってしまう夜も、声が聴きたいとぼんやり思う朝も、何度も乗り越えてきている中で、ふと、涙と共に溢れ出てくるどこにもぶつけられない感情は、愛情は、何になるのだろうか。せめて、嘘でもまた会えるなんて言ってくれたらその希望を胸に馬鹿みたいに幸せに暮らせただろうか。いや、あの人はそんな不確実な約束はしないだろうな。そもそもずっと一緒だと信じていたのが悪かったのだろうか。あまりにもその存在の居心地が良かったから、いなくなるなんていう悪い妄想は無意識のうちに拒否していたんだろう。心構えぐらいしておけばいい、と今なら思える。人はいつしか皆いなくなる…なんて想像を広げても、それならまだいるはずのあの人と会いたいと思ってしまうから逆効果だ。すっかり覚めてしまった目にじんわりと水分が溜まった。

 忘れないでなんて、どんな思いで言ったんだろう。忘れてほしくないなら、忘れないようにずっといてくれればいいじゃないか。なぜ、だめなのか。それを聞く前にその温もりを離してしまった自分は本当にダメだ。深くついたため息は思いの外掠れていた。忘れてなんて言ってくれたほうが気が楽なのは分かる。いや、忘れられるわけはないんだけど。

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