もんぷ

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1/4/2026, 10:58:08 AM

日の出

「日の出がみたいから車出して♡」
目の前のブルーライトに眠さが勝ってきた深夜2時。年越し特有の外の喧騒も幾分マシになってきたその時間帯に届いた1通のLINEに目を奪われる。
 なに、いまから?なんて聞かなくても今からなんだろう。取ってつけたような♡だけでは庇いきれない酷い内容。人をなんだと思っているんだ。しかし、彼女の声で再生されると不思議とかわいらしいおねだりのように聞こえて困る。都合良く使われていることなんてわかっている。一昔前の言葉で言えば、自分はアッシーやらなんやらに分類されるんだろう。そんなに広い車でもないし、運転技術に自信があるわけでもないし勝手に運転手にされては困ってしまう。そもそも専用の運転手だとしても、こんな時間にLINE一つで来いって…しかも日の出ってことは結構朝方までじゃん…とかぶつぶつ言いつつも一番暖かいダウンジャケットを着ている自分に最早笑えてくる。

「今日は仕方ないから行ってあげるけどいつも行ってあげるとは限らないからね」と釘を刺しつつ、「30分後ぐらいにそっち着く」と伝えるとすぐに既読がついてOKというかわいらしいキャラのスタンプが送られてきた。洗っておいた彼女専用の暖かいブランケットを棚から出して、靴を履いて外に出た。思っていたよりも冷たい空気が顔中に付き纏う。身震いしながら車に入ってエンジンをつけ、暖房が効き出すのを待たずに発進する。本当なら今頃布団の中なんだけどな。あぁ、もう。本当にわがままだなぁ。そう思いつつも、小悪魔な彼女が、絶対に自分の好意を受け取らない彼女が、誰かのもとに行ってしまわないように今日も迎えに行く。アッシーでもメッシーでもなんとでも言えばいい。今日の日の出を彼女と見れるならそれだけでも幸せだから。彼女が好きなあのバンドの曲をかけた車は、そろそろ眠りにつき始める夜の町を安全運転で走る。

1/2/2026, 9:42:53 AM

新年

 食べ切った蕎麦のどんぶりを洗う彼の平たい背中を見ながら、ザルの水気を拭き取る。普段は自炊を全くしないと笑う彼に、栄養はとりなよと他人行儀なアドバイスをする。SNSに疎いくせに山盛りのラーメンの投稿だけは頻繁にあげているの彼のストーリー見ていたからこその発言なんだけど、そこまでチェックしていないと思われてる彼にはあまり響かないだろう。2人してリビングに戻り、湯船にお湯が溜まるのを待つ。そろそろ歌番組が始まるとテレビのチャンネルを変え出した姿を端に捉えながら年の瀬に盛り上がるタイムラインを巡回する。また、今年もいつもと変わらない年越しを迎える。
 こんな時にしか使わないからといれた貰い物の入浴剤も彼にとってはいつもの年越しのいつものお風呂。湯船に浸かりながらこの一年をぼんやりと思い返してみるけど、リビングから聞こえてくる彼の歌声に邪魔されて思考が働かない。高音が出づらいその掠れた声に口角があがった自分の姿がお風呂の鏡にうつっているのに気づいて、見られるはずがないのに慌てて顔を戻した。今年もそんなふうに終えていく。着々と進む時計を見ながらお風呂を上がり、彼に次どうぞと声をかける。2人ともドライヤーを終えてリビングに揃う頃には年越しまであと2時間を切っていた。
 自分はすぐに眠くなるから1缶だけにして、彼がお気に入りのお揃いの銘柄のビールで乾杯して年越しまでちびちびと飲み進める。自分の缶が軽くなる頃には彼は何本目か分からないプルタブを引いていた。よく同じものを飲んでいて飽きないなと思う。番組が一段落してCMが挟まる間に冷蔵庫からアイスの大福を取り出してきた。寒いけどコタツに入って食べる分には問題ない。いそいそと部屋に戻れば、真横に座っていた彼がわざと体を広げて自分の陣地を小さくしていた。ソファの柔らかい面を背もたれにしてコタツにくるまり体を脱力させながらテレビを見ることができる自分の冬の定位置。そのスポットを善意で半分貸してあげていたのに、図々しくもその8割ほどを独占する彼を少し睨みつけた。きっとふざけて自分の反応を楽しんでいるだけだから、こちらも遠慮なくぐいぐいと体を押して隙間に入り込むと彼は声を上げて笑っていた。いつものくだり、いつもの狭さで夜は進む。さっきのおふざけのせいで近くなった距離の、むやみに動かしづらい左肘を気にしているのもいつものこと。そう言い訳して二つしかないアイスの一つをもちゃもちゃと食べ進める。
「なぁ、それ一つちょうだい。」
いつも寒いのにとアイスを食べる自分を笑っている彼が?甘いものにそこまで興味のない彼が?からかっているだけだと即座に判断して「いやだ」と切り捨てる。なのに、やけにお願いと食い下がってくる。その熱量に負けて仕方なく残りの一つを渡した。嬉しそうにその一つを食べる彼の姿を見て首を傾げつつも、残りが少なくなってきた缶の残量をまた一口分減らした。
 年越しまであと何分というカウントダウンが画面の隅に現れて、あぁ今年ももう終わりかとぼんやりと思っていると横にいる彼が口を開いた。
「もう一年終わるなー。」
酔いが回っていてほとんど眠くなってきたから、うんとかそうだねとか適当な相槌をうってあくびをした自分を気にせずに彼はテレビを観ながら続けた。
「いつまで許される?」
脈略のないその発言を理解しきれず、ゆっくりと彼の方を見ると自然と目が合った。
「いつまで、俺はここで年越していいん?」
その一言を聞いた途端、ぐっと胸が痛んだ。酔いが一気に抜けるように、先程食べたアイスが今更主張してくるように体が段々と冷える感覚があった。いつものふざけた雰囲気はどこへやら、どこか重苦しい雰囲気がのしかかる。
 人を家に入れるのに抵抗のある自分にとっても、彼の来訪は毎年待ち侘びていたものだった。学生時代ほど頻繁に顔を合わせることがなくなっても、段々と回数が減り年末の一回だけになっても、ここで一緒に年を越して他愛もない会話を続けるだらだらとした時間を続けるだけで満たされていた。不意に押し寄せてくる諸々の不安に気を病みそうな時も、年の瀬の忙しい時に時間もお金もかけてわざわざ自分に会いにきてくれる彼のことを思うとゆったりと息をつけた。何年も前から、友達のカテゴリーに収納するにしては少々大きくなりすぎた彼の存在を見て見ぬふりしていた。年を越すたびにまた溢れた引き出しを無理やり閉めて、彼への自分の感情に合う名前を探すのを諦めていた。何よりも傷つくのが、失うことが怖かった。だから、彼の来訪に鬱陶しそうにドアを開ける素振りを見せていたのも、素っ気ない対応をしていたのも、憎まれ口ばかり叩いていたのも、いつまで続くのか不明な学生時代の口約束の終わりが来た時に、なんでもなく振る舞うための予防線…だったはず。何よりもその終わりに怯えていたのは自分の方で、いつまでこれが許されるかなんて、聞いたら終わる気がして口を噤んでいたのも自分の方だったのに、なぜ?彼の目は綺麗だなとか、久々にこんなにしっかりと顔を合わせたなとか、そういう手前のことには思考を働かせられるのに、肝心の返答までには至らない。えっと、という意味もない3文字を繰り返す自分に、彼は優しく、重く、口を開く。
「終わりにしてもいい?」
こう言われた時に、すっと「そりゃ、元々そっちが言い出したんだから勝手にしていいよ」なんて言うために張ってきた予防線だったはずなのに。実際は涙がじわりと滲む顔を俯いて「うん」と弱々しくも強がる2文字しか発せなかった。いやだ、なんで、おねがい、まだ…湧き上がる言葉はひとつも言葉にできずに、古くなったコタツ布団の端が少しほつれているのをぼうっと見つめていると急にテレビの音量が上がった。ハッピーニューイヤーと口を揃えて芸能人が笑っている。最悪の年越しを迎えた。
「あ、明けたんか。」
じゃあ、と言うように缶を持ち上げて自分の方へ差し出す。いつもの新年の乾杯だ。しかし、これが最後の乾杯だと考えてしまうと震える手が缶を持つのを拒否しようとしていた。いつまでも缶を持とうとしない自分を見て、彼も持ち上げていた缶を置いた。
「じゃあ、いい?」
またその彼が発した言葉の意味を汲み取れず、続く言葉を待つ。さっきみたいに真剣な表情をして少し息を吸ってから言葉を紡いだ。
「好きです。付き合ってください。」

 エイプリルフールは3ヶ月後だとか、新年早々初嘘は縁起が悪いとか、その言葉を言葉の通り受け入れる段階の前に後ろ向きな自分が顔を出す。だって、そんなはずないじゃないか。自分たちはずっと友達でやってきて、今だって友達で。それ以上の感情を持っていたのは自分だけのはずではないか。ぐるぐると疑問が頭を駆け巡る。まだ半信半疑だけど、とりあえず頷いた。自分もと言葉を付け加えると、彼は嬉しそうに手を広げて自分を迎え入れる。
「ほんまに?」
彼の嬉しさが滲む声と背中に回された腕の優しさに脱力して、それと同時に本当だったのかと気づいて顔が赤くなる。そういえばこんなふうに触れ合ったことだって無かった。肘を合わせるだけで満足していた数分前のことを思うと、やっぱり今の状況は信じられない。どういうことかもあまり理解できていない。
「年越し…これから、どうすんの?」
終わりにするとついさっきまで言っていたのは何だったのか。
「ずっと、この関係じゃないと一緒にいられへんと思ってたから。もし俺が欲出したら終わっちゃうんかなって。」
あぁ、なんだ。同じ悩みを抱えていただけだったと気づくと、無意識に張り詰めていた意識が緩み、どこかのネジがばかになって涙が溢れた。彼はそんな自分の涙を拭いながら、控えめに笑う、
「これからもずっと、一緒に年越ししていい?」
今度こそ本音で、うんと伝える。すると、今度は彼が安心したように涙を流して二人で大泣きした。涙が枯れ、赤くなった目元を笑いあいながら、ほとんど空になった缶で今度こそ乾杯をした。一生続くと錯覚してしまいたくなる幸せな年が始まった。

12/31/2025, 10:59:18 AM

星に包まれて

 まばゆい光、まるで星に包まれているような、そんな錯覚。朝が来たことを嫌でも感じさせる日の光。温度を上げてくれるはずの光だけど、朝の冷たい空気が布団から飛び出た首と顔の温度を奪うから、ギリギリ寒さが勝っている。布団に潜り込んで温かさを充電しつつ、朝の光でだんだん覚醒してきた目は自分以外のもう一人分空いた広い布団を映し出す。少し寂しくなってまた布団から顔を出す。窓から入ってくる冷気に、嫌いなあの苦いにおいが混ざっているのに気づいてベランダの方を見やると、Tシャツにカーディガンだけの軽装で煙を吐く綺麗な後ろ姿が見えた。ソファに乱雑に置いてあるクリーム色の分厚いブランケットを羽織り、少しだけ開いていたその戸を大きく開く。音に気づいて振り返ったその人は、悪戯がバレたようなあどけない子どものように笑った。
「許してや。」
隠れてタバコを吸っているのを咎めるために起きてきたんじゃない。そのことを伝えるためにサンダルを片方だけこちらに渡すように言って、左足でジャンプしながらその細い背中の横まで辿り着く。おかしな動きにまた笑っている人の肩にブランケットをかけて温かさをお裾分け。まだ開き切らない目を鳴らすように日の光を浴び、星に包まれるような優しさを感じてまた目を閉じた。

12/29/2025, 10:02:42 AM

心の旅路

「今年こそ雪降らないかな」
そう子どもじみたことを言えば、目の前にいる背の高い彼は苦い顔をした。何でそんな話の流れになったんだっけ。あ、そうだそうだ。居酒屋の小さなテレビに年末恒例のお笑いの賞レースが映ってて、音は聞こえないから雰囲気だけでなんとなく楽しんでたら、もう年の瀬だねという会話の流れになったんだっけ。
「雪で苦労してないからそうやって言えるんだよ。」
彼は生まれ育った北の地を思い出しているのか、遠い目をしてジョッキを口に運ぶ。陸路だけでは帰ることができない距離のせいで、あまり帰れていないと溢していたっけ。
「そもそもなんでこっちに来たの?」
都会と呼ばれるこの地の隅の方で育った自分には、他の県出身の人から見た魅力がよく分からない。交通の便は良いが、人で溢れかえっているし、治安が良いかと聞かれれば首を傾げるくらいには場所によって差が激しいし。それに、自分はそれが標準だったからあまりわからないけど、他の県から来た人がよく言う「良い意味でも悪い意味でも冷たい」っていうマイナスイメージだってあるのに。
「地元も大好きなんだけどね。ずっと憧れだったから。」
「ふーん…」
憧れ…憧れか。自分にしてみれば雪が降る方が嬉しいし、スキーだってしたいし、おいしい海鮮食べたいし。あー、旅行行きたい。

「なんの話してるん?」
トイレで離脱していた自分の横の席の奴が帰ってきた。どこにいたってこっちの標準語がうつることなく、地元の方言が強い彼は、北生まれの彼と同じお酒を注文した。
「なんで地元じゃなくてこっちに来たのかって話。」
あぁ、と納得したような声をあげて、残りが少なくなっていたジョッキを飲み干して彼は話し出す。
「確かに、なんも無いとわざわざ地元出ようってならへんよな。」
ここの人って冷たいやん?となぜか自分を見ながら言う。そんなに冷たくしている覚えは無いのだけれど。
「こっちはさ、なんも無くてもしょうもないLINE送りたいタイプやねん。最初の方は返してくれたけど、最近は素っ気ない返事ばっかりやしさ。せっかくの仕事終わりで家行きたい言うても8割はゆっくりしたいから言うて断るやん?ほんま寂しいわ。」
ここにはいない人のことを言うかのようにつらつらと愚痴をこぼし、枝豆を頬張っている彼の目には自分がうつっていないのだろうか。
「LINEは別にちゃんと見てるからいいじゃん。家は…そりゃごめんだけど。」
二人ともお互いのことを見ずに北の出身の彼のことを見ながら喋るから「おれを挟んで痴話喧嘩しないでよ!」なんて困ったように笑う。決して痴話でも喧嘩でもないのだけれど。言いたいことだけ言い合う自分たちを見兼ねて、仲裁役により話が逸らされた。
「というか、話戻すけど。そっちはなんでこっちに来たの?」
「俺?そりゃ仕事もあるけど、まぁ一番はこいつがおるからやな。」
何を馬鹿げたことを言っているのだと横を見ると、なぜか楽しそうに笑っていた。あぁ、絶対酔って調子の良いこと言ってるだけだ。彼からのしょうもないLINEの中に入っている耳触りと目触りだけ良い言葉。最初はそりゃ嬉しかったから返していたけど、あまりにも言われていたらその価値だって薄くなってしまう。それをこちらのせいにしないでほしい。
「何それ、惚気?やめてよー。恥ずかしい。」
わいわいと盛り上がる二人を差し置いてサラダを口に詰め込む。LINEなら良い。既読の文字には自分の顔がうつらないから。どんな顔をして彼の言葉を受け止めて良いのか分からない。歯痒い時間だけが過ぎ去り、割と早い時間にお開きとなったその会を終えて、地下鉄に走る彼を見送った。
「なぁ、今日うち行っていい?あの賞レース見よや」
うちというのは彼の家ではなく自分の家のこと。他人の家を「そっちの」とかいう枕詞なく「うち」とだけ表現することに付き合いたてはその意味がわからず困惑したこともあったな。
「自分のうちで見ればいいじゃん?てかこっち録画してないし」
「そっちので録画しといたで。やから見よ。」
そう飄々と言ってのけたから、そこまでして自分の家に来たいのかと思うとなんかもう笑っちゃって来訪を許可した。この流れで仕事を納めた後もなんだかんだこっちのうちに居着いてだらだらと年越しをするんだろうな。雪も降らない都心の冬は風が冷たいだけだ。それならば、いっそ。
「ねぇ、年始はさ、そっちの実家行こ。」
都心も、西の方にある彼の実家も、雪が降らないし、気候もそこまで変わらないなんて知っている。それでもなんとなく、忙しない毎日で忘れがちだった彼の故郷を知り、うざったらしくも愛おしいその存在をありがたがってやろうではないかと思ったのだ。いや、ただおいしいもの食べて旅行したい気分なだけなんだけど。だからさ、それ以上の他意は無いし、式の日取りとか早まらないでいいからね?

12/21/2025, 4:12:58 AM

どこへ行こう

 せっかくの休みだし、買い物でも行こう。去年は何を考えてこの服を着ていたのかと問いたくなるほどのセンスの無いワードローブに文句を言いながら出かける準備をする。おしゃれな服屋に行くなら、それ相応の格好してないと、話しかけられた時になんか気まずいし。どこへ行こう…そんなことを考えながら歯を磨いていた時、ふとLINEが鳴った。

「いまなにしてる?」
変換も惜しいほどの彼のせっかちさと、独特のイントネーションでその文字列を話す彼の姿を想像しては少し口元が緩む。
「服買いに行こうとしてた」
自分で打った文字を読み返して送信ボタンを押す…前に全て消した。全く違う文を打って、返信を待つ彼のイライラを抑えるために今度は早く送る。
「何もしてない」
嘘ではない。服を買いに行こうとしてただけで、今は何もしてない。緩みそうになる口元を抑えながら歯磨きも終えたのだから、今は本当に何もしてない。
「うちきて」
間髪入れずに送られてくる彼のメッセージは自分の暇を見越してのこと。そんなにいつもいつも暇じゃねぇよと思いつつ、彼のためになら暇になってなれてしまうのだから説得力が無いなと感じた。さっきまで着ていたよそ行きの服を脱ぎ捨てて彼のパーカーを羽織る。あーあ、本当にめんどくさい。だけど、どこへ行こうか考える手間が減ったと思えば良いのかもしれない。

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