「こっちに恋」「愛にきて」
「こっちに恋」
深夜二時の彼からのLINE。いつもはかっこつけてるくせに、あり得ない誤字に思わずふっと息が漏れる。この時間に連絡にしてくるってことは大方酔っ払ってベロベロで間違えたんだろうけど、思わず間違えてしまうほど検索履歴の上位に恋なんていうかわいらしい言葉が残っていたと思えると笑いが止まらない。仕方がないから迎えに行ってやろうとは思うけど文面があんまりかわいくないのはいただけない。いや、十分かわいいんだけど、元の文を考えると若干偉そうなのが気に食わない。もっとかわいくお願いしてくれたらいいよと返す。既読から数分経ってから送られてきた彼からのメッセージを見て満足したので車のキーを取り出した。
どこへ行こう
どこへ行こうかなんて決めていなくても歩いていればどこかには着く…なんて思ってたけどやっぱ着かなかったわ。暇を持て余しすぎて、家にいてもゲームで目が痛くなるばかりだからと定期券の範囲内の駅で降りてみた。普段乗り換えにさえ使用しない駅だから全く道を知らない。こういうあまり知らない町の個人経営の定食屋さんとか異常においしいところがありそうと思って空腹の中数十分歩いてきたけど開いてそうなお店どころかコンビニさえない。思ってたよりも田舎だったな、しくったな、あー普通にどっか栄えてるところでごはん食べれば良かった…なんてぼんやりと考えながらやっと見つけたのは赤と黄色のMが目印のファストフード。吸い込まれるように店内に入ってカウンターの席を取り、モバイルオーダーで食べ慣れたバーガーを頼んですぐにかぶりつく。ああ、何してんだろと虚無感に陥りながら食べ進める。それでもこの日のバーガーが今まで食べたどのバーガーより美味かった。
big love!
大切な人が好きなものを好きなだけ好きでいれて好きなことを好きなだけして健康で幸せでいられたらそれだけで良いなんて思っています。あなたはすごく素敵な人だから、これからの選択も未来も心配なんてしてないけど進む未来にもっと素敵なことがたくさんありますように。たくさんの好きなものをくれて好きな思い出を作ってくれてありがとう。
人生で初めて書くファンレター。文面自体を何度も考え直して推敲して書き直して、いざ清書しても字が汚いと何度も書き直してできたそれに、最後の一文を付け足す。ずっとこれを書きたくなくて、本心ではない言葉は書けないと迷っていた「卒業おめでとう」の文。別に彼はどこかの学校に通っていたのを卒業する訳じゃない。ずっといたグループを離れることを決意して、新しい場所に行くことを決めた。これからもこのままでいてほしいし、おめでとうなんて言えない。それでも書かないことには悔いが残ると、いざ書いてみたら少し気持ちは晴れやかになった。あなたが好きですなんて直接的な表現で書くのはちょっと恥ずかしい。だから最後のおめでとうにこの気持ちを込めた。大好きだよ。ありがとう。
ささやき
小さくささやいたその二文字を聞こえないふりして、なんて?と聞き返してたあの頃が一番楽しかった。
星明かり
星明かりだって綺麗に見えない月曜日。毎日しんどいけどなんだかんだ楽しいし、とくに憂鬱という事柄もないけれどため息が口をついて出た。同じような日々の繰り返しで私は何のために生きてるのか、なんて柄にもなく哲学的なことを考えてしまう。SNSをただの義務のようにぼんやりと眺めておすすめの欄にもふわふわした頭で目を通す。一瞬のことだった。忙しなく動かす手を止め、ふいにその人物に釘付けになる。コメントを見たり、その人のプロフィール欄に飛んでみたり、よくわからないから検索してみたり。その日からその人中心の生活が始まった。まだ好きとかではないと変に強がってみても頭の中はその人のことでいっぱいだ。そう。推しとは暗闇の中にふと気づいた、月にも見紛う煌々とした星明かりなのである。