もんぷ

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7/16/2025, 10:31:42 AM



 夏。君と会ったのも、付き合ったのも、別れたのも、また会ったのも、夏。だから結婚するのも夏にしようなんて言って笑ってたのも、いつかの夏。

7/14/2025, 9:59:44 AM

隠された真実

 全て子供騙し。夜に口笛を吹いても蛇は来ないし、食べてすぐ寝ても牛にならないし、雷が鳴ってもおへそを隠さなくても良い。しかし不思議だ。あれは嘘だったと真実に気づく頃には、我が子に同じ言葉をかけていたのだから。

7/10/2025, 9:36:11 AM

届いて.....

 密かにしたためた文が、ついに文庫本一冊ぐらいの厚さになったから、思い切って出してみようなんていう頭の悪い発想が浮かんだ。字が特別上手ではないし、綺麗な言い回しや言葉は使えていないかもしれない。だけど、ちゃんと全部自分の言葉で、見てて恥ずかしいぐらいに真っ直ぐに、伝えたい思いを余すことなく伝えている。だけど、もはやこの量なら狂気さえ感じる。ただ純粋にあなたへの感情を綴っただけなのに、受け取る方は勇気がいるかもしれない。だから、もう全てを捨てて単純に伝えることにした。
「好きです。」
「えっ、私も好き。」
なんだ。たったの4文字で、たった1秒で、伝わった。呆気ないからか、やっぱり嬉しいからか、なんとも言えない笑みを浮かべた自分に彼女は微笑んだ。

7/9/2025, 8:10:29 AM

あの日の景色

 頭が痛くなるほど考え込んでもあまり思い出せないあの日の景色。始まるまではあんなに長かったのに、君が出てきたと思ったら時間は一瞬で、気づいたらもう最後の一曲。涙は止まらないのにMCの時間では何も考えられず笑っていて、ああこの空間が大好きだと叫びたくなった。目の前で起こる怒涛のパフォーマンス、止まらない歌。あの日だけ夢だと言われても信じてしまうぐらい、でも信じたくないほど、あの情熱は現実のもので、息をするのが辛いぐらいの熱気が心地よくて幸せだった。何度も思い出したい、思い出せない、あの日の景色。

7/8/2025, 10:21:27 AM

願い事

 ハロウィンやクリスマスは好まない割に、正月、節分、雛祭りだとかカタカナが使われない季節の行事は基本的に執り行われる我が家。つい最近水無月を食したと思ったら、七夕も祝うのは毎度のこと。どこで保管しているのか分からないサイズの笹を出してきては、ここ最近自分のせいで緑が増えた庭に飾って願い事を吊るす。薄黄色の細長い和紙に筆ペンで書く言葉は毎年変わらず"世界平和"。家内安全と無病息災は母が祈ってくれているから、特に大きな願いも欲も思いつかない自分は毎年これを書く。というか何か書きたいほどの思いがあったとしても、家族に見られるから個人的な願いはどうしても書くのが恥ずかしくなってしまう。短冊を書き終えてから、自室に戻ってベッドに潜り込む。ふと、短冊に書きたくなってしまったあの人のことを思い浮かべては、赤くなった顔を隠すように布団を被り直す。そんなことをして母や姉に見つかっては質問攻めにあうのが目に見えている。短冊に書かなくても見つけて叶えてほしいなんてわがままだろうか。やっぱり書かなくちゃ意味ないのかな。不意に、携帯の画面が光って一つの通知音が鳴る。まだ眠れないし、と気の抜けた顔でロックを解いたら、さっきまで頭を占拠していたあの人のトーク画面が開かれた。驚いて、かすかに残っていた眠気もゼロになったところで文面を読み直す。
「七夕は何か願いましたか」
端的な文字列も、敬語の丁寧な文脈も、どこかあの人らしくて心が高鳴る。まさかメッセージが来るなんて、ああ七夕万歳なんて思いながら世界平和の文字を打ち込む。書き終えたところで、ふと気づいて送ろうとした手を止める。母も、姉も、見ていない。織姫と彦星だって短冊は気づいてもメッセージアプリの言葉なんて見ていないだろう。それでも確実に、あの人には届く。あの人に届いてほしくて、でも、まだ届いてほしくなくて、それでも叶えたいこと。あなたと会いたいと伝えたら、叶えてくれるだろうか。仲良くなりたいと言ったら、気持ちを知りたいと言ったら、どんな反応をするだろうか。短い時間で頭をフル回転させても、そのもしもを実現するような勇気は無くて、最初に打ち込んだ文字を送ることしかできない。ああ、自分のこの性格が嫌になる。結局何もできない。いつもこうだ。はぁ、と大きいため息をつきながら携帯を眺める。すぐについた既読に、新たに送られてくる言葉。「川崎さんらしくて素敵です」、続いて「叶うと良いですね」の文字。こんな嬉しい言葉をかけてくれるんだったら、大嫌いな自分の性格も悪くないかも、なんて思いながら言葉を返す。
「ありがとうございます。あづまさんは何か願ったんですか」
あの花屋のロゴが入ったひらがなの名札しか知らないから、トークアプリに登録されている下の名前には気づかないふりをしてそう問いかける。既読がついてからほどなくして返信が来る。
「何も願ってないので、川崎さんの願いが叶うように願っておきますね」
その文字に静かに崩れ落ちる二十三時。彼が叶うように願ってくれた自分の願いは、文字のまま綺麗なものではないから恥ずかしい。彼のように綺麗な心で誠実な行動ができるように自分も精進しようと思った。

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