かたいなか

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真面目な先輩が、突然私用で長期の有給をとった。
私、永遠の後輩こと高葉井は、藤森先輩とずっと8年くらい、一緒に仕事してきたけど、
この先輩が突然私用の休みをとる時っていうのは、だいたい先輩自身に酷い悩み事があって、その悩み事に先輩自身が1人で立ち向かって、
それで、妙な解決策が、見つかったときだ。

先輩は真面目で、人に頼るのが苦手で、
仕事の問題はすぐ他の人と情報を共有するくせに、
自分の問題になると、1人で抱え込んで、1人で解決策を探して、全部ぜんぶ、内側に隠して、
それで、先輩としての解決策が見つかってから、
やっと、「いつもと違う行動」や「先輩らしくない行動」でもって、一気に答え合わせをしてくる。

それこそ有給を突然とるような。

一昨年も、先輩は突然私用で長期の有給をとった。
一昨年の10月、夏の残暑が微妙に残ってるんだか、そろそろ秋に向かうんだか分からない頃、
半袖と長袖の狭間のような時期に、
先輩は、1人で自分の問題に向き合って、1人で答えを出して、1人で全部解決しようとした。

当時の先輩は、所有欲が超強火で、超粘着質な、理想押し付け厨の元恋人に追われてた。
その元恋人がドチャクソに粘着しまくって、私達の職場にまで押し掛けてきたから、
先輩はこれ以上、元恋人が自分の職場に、友人に、多分私にも迷惑がかからないように、
とった有給の間に、元恋人を連れて、遠い遠い故郷に戻ろうとした。

一昨年の先輩の有給は、半袖長袖の狭間の10月。
今年の先輩の有給は、半袖真っ只中の7月。
なんとなく、先輩と半袖の時期の相性は悪い。
先輩は雪国出身だから、暑い日は思考が悪い方向に落ちやすいのかもしれない。

いつもと違う行動、先輩らしくない行動。
真面目な先輩が、突然私用で長期の有給をとった。
先輩がまた1人で何か勝手に悩んでるらしい。

先輩にメッセ飛ばしてカフェに呼び出して
それで先輩を問い詰めたけど、
先輩は「お前に迷惑はかからない」「安心しろ」の一点張りで、でも確実に何か決心決意してて、
それで、「またな」、って。「ちょっと行ってくる」って。そう言って先輩は私から離れてった。

雪国出身の先輩は、その日もリネンで薄手の半袖サマーコートを羽織ってた――…

…――「……っていうことが、あったんです」
「うん。非常に、ウチの部長によく似てますね」

先輩と別れて十数分、私は先輩を呼びつけたカフェのテーブルから離れられなくて、
それで漠然と、先輩が歩いてった道を見てたら、
パッ と目の前に、私の推しが現れた。
「ツバメ」っていうビジネスネームで活動してる、某管理局の局員さんだ。
ツー様と呼んでるけど本人には頑張って「ツバメさん」と言いたい(多分難しい)

ツー様は、先輩が何に対して悩んでて、何を理由に有給をとったか、分かってるようだった。
ところでツー様今日も美しいですね(合掌)

ツー様は、先輩が見つけてしまった自分だけの解決策を、知っているようだった。
あのねツー様今日に限って半袖なんですね(尊い)

うん(課金)
ところでツー様、ツー様の上司の部長様、
今、どこにいらっしゃるんですか(好き)

「部長なら、ワケあって、今は私と別行動中です」
「別行動中」
「ちょっと、色々あってね。これから忙しくなりそうだから、ちょっと警戒と監視を」
「何の監視ですか」

「黙秘です」
「私に、 先輩に、関係あることですか」
「それも黙秘だ」
「ツーさま」
「ただ、いつか、あなたも『この事件』に巻き込まれる可能性がある。そのときは……」

そのときは。ツー様がその先を言おうとした直後に、ツー様の個人端末がマナーバイブで鳴った。
「……まぁ、うん。そうなるだろうと思った」
ツー様が言った。
「高葉井さん。あなたも一枚、絡んでみるか?」

7/26/2025, 9:53:08 AM