勿忘草(わすれなぐさ)』の作文集

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勿忘草(わすれなぐさ)』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど

2/3/2023, 9:46:26 AM

「え」
 「え?」

 近くのお花屋さんで買ったきれいなお花を渡したら、きみはきょとんとしてから慌ててぼくを見てきたの。すっごく顔色を変えて。
 くしゃっ、と包んでもらったラッピングが音を立てて歪んでいった。

 一歩だけぼくに近づいて。
 すでにシャワーをしたのか、ふわりと清潔なにおいがする。

 「びょ、病気ですか……?」
 「え」
 「そ、それとも、べっ、別居ですか…⁉」
 「えっ、なに? どうしたの」

 思わず後退るくらい怖いお顔だったの。真に迫る、って書いて迫真。
 でも訳が分からないの。何でそんな、冬が溶けたせいで薄氷の上に立たなくちゃいけなくなったようなお顔をしてるのか。さっぱり分からない。
 だって、だってきみにそんなお顔をしてほしかったわけじゃない。
 ただちょっとだけ、びっくりさせちゃおうって、驚いて喜んでほしくて。なのにどうしてそんな、ラグナロクを見たみたいなお顔なの。

 きみは狼狽、ぼくは困惑。

 硬直硬直、ずっとそんな時間が進んだの。ぼくが鞄を置いただけで、上着を脱いだだけで、きみってば肩を跳ねさせて。
 ほんともう、ぼくには何も分からないから、つられて泣きそうになってくる。

 落ち着かせようと思って近寄っても後退ってカバディ。ルールも勝ち負けもよく分かんないから延々と試合できちゃう。

 埒明かないから変な距離感で弁明。

 「あっ、あのね、そのお花、きれいだったから。きみ、お花好きだし、えと……あわよくば喜んでくれるかな……って」
 「え」
 「そのお花、す、好きくなかった……?」
 「え、あ、……その、は、花言葉は……」
 「花言葉? ぼく、そのお花がなんてお名前なのか分かんないから……わ、分かんない」

 だんだんぼくの顔からも血の気が引いてくのが分かる。どんなににぶちんでも、ここまで来れば。
 きれいって思ってぼくがきみに渡したお花、きみにとってあんまりよくない花言葉だった。それを贈られたから、あんなに。
 この五放射の青色にどんな意味があるの……。
 ちゃんとお花屋さんに聞いておくべきだった。

 気まずい。
 とっても。
 きみもぼくも黙りこくっちゃって。なんだか息をするのさえ憚れるような沈黙が続くの。空気が重い。

 何か言わないと、って口を開いたら、

 「あ、あの」
 「あ、あのね」

 被っちゃう。いま、ほんと、そういうのいらないのに。ぼくたちが息ぴったりなばかりに。
 また気まずくて口が閉じちゃう。
 それって、すごくループ。

 「あのねっ、ごめんね、ぼく、お花に明るくないから、ぜんぜん知らなくて。店員さんに教えてもらうべきだった」
 「い、いえ、わたくしも早とちりを……」
 「んーん、ぼくのせい。ごめんね。ぼくとっても健康。家賃だってきみと折半してたい。ほんと、そんなつもり、ないの」
 「よ、よかった……」

 ようやく行き違いもなくなって、ダイニングテーブルで腰を落ち着けた。
 なんだかとっても疲れた……。
 向かい合ってぼくたち、ぐったり。

 その日はぎこちないまま、夜を迎えて朝陽を待った。ちょっといろいろ、お互いに感情も表情もお花の処遇も整理が必要。
 きみにお花のお名前だけ訊いて。
 ぼく、危うく溺れて呪文かけるところだったみたい。きみの反応も頷ける。

 そのお花はきれいだし、きみも嫌いじゃなかったみたいだけれど、間柄も場面も知識もよくなかった。結局、話し合ってハーブティーに。
 お互いに身体に取り込んじゃえって。
 調べてみたら、なんだか身体に良さそう。
 花びらを摘んで乾燥させて、お湯でおいしく。花びらの色だ出て、薄く青みがかったとってもきれいな花茶。

 「ん、おいしい」
 「本当。……喉に良いみたいですね、内臓にも」
 「ごめんね。ほんと、今度から気をつける」
 「健康にも。……ふふ、お花ありがとうございます。また贈ってください」
 「うん。今度、お花の本、どれがいいか教えてほしい」

 この騒動はちょっと、忘れられないかも。




#勿忘草(わすれなぐさ)

2/3/2023, 9:38:38 AM

テーマ“勿忘草(わすれなぐさ)”

勿忘草の花言葉は
「私を忘れないで」と言うらしい。
由来は、何やかんやあって、まあ、そうなったらしいけれど(雑)
随分、重いなと思ってしまうのです。
人の思いは、とても重い。

むしろ私は、忘れて欲しい…
私という存在を。

2/3/2023, 9:34:44 AM

「私を忘れないでなんて、自分勝手で未練がましいことは言いません」
彼女はそういって僕に青く小さな花を握らせた。
「ただ、私はあなたを心からお慕いしていたということは、知っていてください」
僕が何というべきか言葉に詰まっていると、彼女はふっと笑みを漏らした。なんだか泣く寸前のような今にも崩れそうな笑みだった。
「…とかなんとか言って、馬鹿みたいですね。「真実の愛」なんて花言葉の花は他にもあるのに。…わざわざ勿忘草なんて選んで、本当に…」
彼女はぐっと唇を噛んで俯いた。しかしすぐにぱっと顔を上げて微笑んだ。
「…今までありがとうございました」
そう言うと彼女は踵を返して足早に歩いて行った。
情けないことで、僕がどうすることも出来ず、ただ立ち尽くしていると、こちらに背を向けたまま彼女は少し震えた声で言った。
「そんな花渡しておいてなんですけど、…どうか全部忘れてください!私の事なんかこの先思いださないでください!」


忘れようとしたって、忘れることなんて絶対に出来ない。僕が身勝手に傷つけた君の事は、この先きっと忘れることなんて出来ないだろう。いや、忘れてはいけない。

だけど、君はどうか僕の事を忘れて欲しい。
こんな最低な奴なんか、忘れて幸せになってください。
…最後まで身勝手でごめんね。

2/3/2023, 9:21:01 AM

勿忘草


以前にも書いたことがあるが、私は認知症外来で看護師として仕事をしている。
毎日の暮らしでいろんなことが少しづつできなくなっていく患者さんと家族をサポート出来ればと日々思っている。

今回はある家族の話。
患者様であるお母様と娘さんが予約の日でした。
先生の診察前に症状を本人や家族に聞き取りをしていた時のこと。お正月後の診察だったので、「お正月の思い出は何かありますか?」と問いかけた。
すると患者様は「毎年餅つきをします。まあ杵と臼ではなくて器械ですけどね。」と教えてくれた。
たくさんのもち米を蒸して、鏡餅とのし餅を沢山作って配るらしい。大変だと言いながらとても嬉しそうに話していた。
すると娘さんが「うちの娘がね、ばあちゃんの餅は本当に美味しかったんだって気がついたって言ってたよ」と話し始めた。
遠方で暮らすお孫さんが、小さい頃から手作りのもちを食べていてその味が普通だと思っていたが、初めて市販のもちを購入して食べたら味の違いに驚いたそうな。
その話を聞いた患者様の本当に嬉しそうな顔。そうかい、そうかいと何度も頷き嬉しそうだった。
その後、娘さんと2人で話をする時間になると、こう切り出された。「母はもう餅を1人では作れません。もう何年も。ほとんど私がしたんです。でもね、ちょっぴりでしたけど作ったんですよ、一緒に。」と。少し寂しそうだった。
認知症では過去の記憶を今の記憶のように話すことがある。今回もそうだったのだろう。でもきっと患者様にとって、娘さんにとって餅つきは大事なエピソードなのだ。
お孫さんにとって美味しいもちはきっとおばあちゃんの手作りの餅。その時の餅つきの風景も。

忘れないでほしい、忘れたくない記憶。できなくなっていく日々。できないことも忘れてしまう。
その分娘さんがお孫さんがおばあちゃんの餅つきのことを語っていくのだろう。

2/3/2023, 9:12:52 AM

勿忘草(わすれなぐさ)

「私を忘れないで」なんて身勝手が過ぎるのではないか。
消えたのはあなたの都合だろうに。忘れてほしくないのなら、せめて「決してあなたを忘れない」とあなたが宣言すべきではなかったのか。
あなたと入れ違いにベランダの一隅を占有し始めた青い花はなんだか地味で、しかし灰色のベランダには無視できない彩りで、厚かましさはあなたのようだ。
名前も知らずにベランダに放置していたが、あなたがいなくなって少し後に家に呼んだ友人が名前を教えてくれた。あやうくスベったまま枯れていくところだった。
訊いてもいないのにその友人は、丁寧に由来まで教えてくれた。恋人のために花を摘もうとして水没した騎士の伝説を聞いた。なんて不器用な花言葉なんだろう。
あなたに似ている。そういう意味では、あなたの花選びのセンスは最悪だ。
きっと見るたびに思い出すから、私はあなたを忘れない。

2023/02/03

2/3/2023, 9:01:22 AM

『勿忘草』

この空の下

どこかで働いている

人を思う

どうかあの人に

幸あれ

勿忘草揺れて

忘れないでいるから

2/3/2023, 8:15:44 AM

「私を忘れないで」

 小さく青いその花を見て彼女がそう言ったのは一体いつの事だっただろう。花の事なんて全くわからない俺は、それがその花の花言葉だなんて思いもしなかった。
 戸惑う俺に彼女はただ微笑んで、何でもないと笑ってみせた。その時の彼女の寂しそうな笑顔を、俺はきっといつまでたっても忘れることができないと思う。


「きみを失ってから、もう季節が一回りしたよ」

 ――返事はない。
 沈黙を貫く形だけの墓標に、小さな青い花の束を供える。

 愛の言葉と共に。


【勿忘草】きみのことを忘れないよ

2/3/2023, 8:04:03 AM

勿忘草


「お好きなんですか? 勿忘草」

そう聞いたわたしの問いに、彼はふっと笑みを浮かべながら答えた。

「どうだろうね」

2/3/2023, 7:46:20 AM

【テーマ】勿忘草(わすれなぐさ)
制作者:いと。 2.3 2023 16:46
「ねぇ、私の事わすれないでね。」
そんなこと言ったら君は、
どんな顔をするだろう。
重いって言われるかな、
それとも...振られちゃうかな。
でもいいよ。振られたって。
遊びで付き合ったんでしょ?
君にとって私はだだの玩具(オモチャ)。
性欲を満たすため好き勝手して、
ストレスが溜まったからって容赦もなく殴る。
きっとすぐ忘れられちゃうんだろうね。
こんな都合のいい玩具。
でも...まだ心のどこかで君が好きだって思ってる。
君にやられたのにね、


―――首と胸にあるこのキズ。


[速報]
〇〇県××市、行方不明だった17歳の少女が
一人の成人男性の家で発見されました。


(無事発見保護されました→生きたまま見つかった
発見されました→×体で見つかった。
または生死不問。)

2/3/2023, 7:24:17 AM

あなたは

勿忘草を知っていた

一瞬見せた

私の知らない

あなたの横顔



#勿忘草

2/3/2023, 7:09:00 AM

最後の時間

「これで、良かったのかな」
「───うん」
「門を出て、記憶が消えても?」
「───うん」
そう返した彼の後ろ姿は、とても頼りなく見えた。
「────仕方ない、僕らはここで1度死ぬ運命なんだ」
私の座っている足元の木陰が揺れる。
「死ぬなんて大袈裟な。私たちは生きてるんだよ、みんなの分まで……残酷かもしれないけれど…でも、私も、あなたとここまで過ごせて、良かったと思う」
門を出たら記憶は消える。私たちは"用済み"だから。そしてそれぞれ別の地域に送られ、何事も無かったように生活するのだろう。
彼はゆっくりと歩み寄り、私の隣に座った。髪に落ちた木漏れ日がゆらゆらと輝いている。
「門を出る前に、こんなこと言うのは変かもしれないけど」
彼がこちらを向く。
「でも、僕が生きていくなかで、本当に好きになるのは、今もこれからも、君だけだと思う」
「…そっか」
私は足元の勿忘草を折って、彼に渡す。予想外の行動だったのだろうか、彼はきょとんとしていた。
「勿忘草。皮肉だよ」
私が微笑むと、彼ははっとして、そして静かに笑った。酷く悲しそうな笑みだ。今、私もこんな顔をしているのだろう。
私の手に彼の手が触れる。私はゆっくり目を瞑る。
彼の暖かな香りが鼻をかすめた。


『勿忘草』

2/3/2023, 6:54:40 AM

勿忘草。いったい何だろう。
何にも調べずに私はどんなものかを空想で考えてみる。
きっと『わすれなぐさ』ってわけだし記憶を定着させる素晴らしい薬草なんだろう。
いや、もしかしたら『忘れ(て)+慰(める)』と呼ぶかもしれない。
なら何か忘れ物をした人にその草を口に詰め込んで「こんな日もあるさ」と慰めるんだろうな。
う~ん……。口に詰め込むなら美味しいのだろう。
ならば味はどうなるのだろう?
それに、草だし副作用がありそうな気配がする。
よし、次は味と副作用を決めようじゃないか。
勿忘草って言われるぐらいだし、なんか爽やかなハーブ(合法)の味だと考えられる。
副作用はきっと、5億分の1の確立で記憶喪失もしくは、ふわふわ成分注入。
きっとそうだ。
あ、ああ!
花言葉忘れてた!
まて、忘れてたから口に勿忘草詰め込まないと!
それは置いといて、花言葉ならなんとなく「お前は許さない」感じする。
ま、適当にそんな感じかな。
これを書いたあとに本当のを見るのが楽しみになってくる。その興奮を抑えながらここを閉じよう。

2/3/2023, 6:24:11 AM

私は君との思い出だけを
心の奥に青く咲かせる
ただひとりの友との花を
枯れないように大切に

リセットボタンの蓋を開けて
押したくなるほど歪んだ時は
心の開かずの間をこじ開けて
その青さだけを眺めにいくよ
忘れたくない人がいること
忘れないようにこれからも

「勿忘草(わすれなぐさ)」

2/3/2023, 6:23:14 AM

お題「勿忘草」


小学生の頃、不思議なことがあったのを覚えている。

当時仲の良かったホナミちゃんという女の子がいた。
ホナミちゃんはあまり裕福な家庭ではなさそうで、服も文房具も古いものが多い。
体もあまり強くないらしく、昼休みもみんなと外で遊ばずに教室か図書室にこもっていた。

わたしも運動が好きではなかったので、よくホナミちゃんと一緒に教室でおしゃべりしたり、本を読んだりしていた。だから仲良くなったんだと思う。

ホナミちゃんはいつも同じ本を見ていた。
植物図鑑だ。いろんな草花の写真を見ては、「これかわいいよね」とか「こんな花あるんだ……」とか楽しそうだった。わたしも一緒になって見て、一緒に笑っていた。

そんなホナミちゃんは、決まって水曜日は8時まで家に帰れなかった。
理由は「おかあさんが家で仕事するから」だった。
その日は家の鍵も持たせてもらえず、学校にいても先生たちに追い出されてしまうので困っていた。
だから毎週水曜日は、わたしの家で遊んで、夕ご飯を食べて、お母さんと一緒にホナミちゃんをおうちに送って行った。


お母さんは、ホナミちゃんのお母さんに何回も話した。

家から追い出すなんて可哀想。
家で仕事だとしても、ホナミちゃんなら別の部屋で静かにしてることだってできる子でしょ。

お母さんが何度言っても、雑な相槌しか返ってこなかったので、お母さんも諦めて、ホナミちゃんに「二つ目のおうちだと思って、いつでもうちに帰っておいで」なんて言っていた。

わたしとしては、ホナミちゃんとたくさん遊べるし、なんならホナミちゃんもうちに住んでくれればいいのにと思っていたので、ホナミちゃんのお母さんがどうであろうと気にしていなかった。


そんなある日のこと。
水曜日なのに、ホナミちゃんと遊ぶことができなかった。
それは、ホナミちゃんのお母さんが、ホナミちゃんの持ってる家の鍵を取り上げなかったからだ。

「今日は帰っていい日なのかもしれないから、ちょっと帰ってみるね」

ホナミちゃんは少し申し訳なさそうに、でも嬉しそうに笑って帰っていった。
水曜日なのに一人で家に帰るのは、少し寂しかったのを覚えている。


その次の日のことだ。
ホナミちゃんは浮かない顔をしていた。どうしたのか聞くと、傷ついたように顔をしかめた。そして、鞄をあさって、私に何か差し出した。

小さな白い花のシール。

「これ、あげる」
「かわいい! これ、何の花?」
「勿忘草っていうの」
「ワスレナグサ……」
「会えなくなっても、ずっと、友達だよ」
「会えなくなっても? ……ホナミちゃん引っ越すの……?」

わたしの問いかけに、ホナミちゃんは俯いた。
わたしたちはそれ以上、何も話さなかった。



わたしの引っ越しが決まったのは、その次の日だった。
お母さんとお父さんがリコンすることになったのだ。

わたしがお母さんに連れられて家を出ることはすんなり決まったらしい。
なんでリコンするのか聞いてみたけど、「方向性の違い」とつまらなそうにお母さんは答えていた。

色々必要な手続きをして、わたしとお母さんはその町を後にした。




あれからもう10年以上経った今、わたしはカフェでぼんやりと大学の課題をやっている。
今まで、引っ越す前のことなんて思い出すこともしなかったのに。
わたしは昨日の掃除で発掘されたシールを眺めた。
見つかった後に課題のノートに貼り付けたのだ。

小さくて、白い、かわいい花。
ホナミちゃんに似合う花。
頭の中にホナミちゃんの笑顔が浮かぶ。そういえば、このシールをもらったあと、何も話さずに引っ越してしまった。

エスパーだったんだろうか。未来視とか……?

馬鹿げたことを考えて、自嘲した。すぐに課題の参考資料に目を向ける。

「あの……みっちゃんだよね?」

か細い声が聞こえて顔を上げる。
懐かしい呼び方だった。小学生のとき以来そんな呼び方はされていない。

目の前にいたのは、小柄で、肌が白くて、優しい笑顔をした女の子。わたしと同い年くらいの。
記憶の中の子より断然大人びて綺麗になっているが、ほんのりと面影があった。

「えっ、あ、え? もしかしてホナミちゃん?」
「そうだよ、覚えててくれたんだね」

ホナミちゃんは嬉しそうに笑う。わたしも嬉しくなって、見て見て、とノートの表紙を見せる。

「昨日掃除してたら出てきたから貼っちゃった。覚えてる?」
「うん、引っ越す前にみっちゃんにあげた勿忘草」
「そうそう! そっか、勿忘草って言うんだっけね」

シールを優しく撫でるホナミちゃん。ほんの少し、悲しそうな顔をした。

「あのときは……気持ち悪いこと言ってごめんね」
「気持ち悪いこと?」

「会えなくなっても……とか」
「ああ……もしかしてホナミちゃんも引っ越したのかなとか、実はエスパーだったのかなとか色々考えてたよ、分からなかったけど」

わたしは笑う。今はそう言えるが、当時は気味が悪くてホナミちゃんと話せなくなってしまった。
わたしの言葉に、ホナミちゃんは小さく笑う。

「エスパーじゃないけどね、私、みっちゃんがお母さんと引っ越すの知ってたの」
「え……?」
「あの日……私が家の鍵取り上げられなかった日、覚えてる?」

わたしは頷く。
ほんの少し嬉しそうに帰っていったホナミちゃんに、複雑な気持ちを抱えていたのだから。
いまだにそれを覚えているのも、考えものだとは思うが。
ホナミちゃんは目を細めた。悲しんでいるように見えた。

「あれ、おかあさんが取り上げるの忘れてただけだったの。帰ったら……おかあさんと……みっちゃんのお父さんが話してたの」
「え、お父さん?」
「そのとき、聞こえたの。『離婚するから、おまえと一緒になれる日も近い』って。みっちゃんはどうするのかってお母さんが聞いたら、あっちが引き取るから気にしなくていいって……。私、バレないように部屋に逃げたの。あの人は……8時回る前に帰ってった」

8時まで帰ってきてはいけない。そう言われていたのは、不倫をごまかすためだったのか。
お母さんは、その人たちに学童保育として使われていたのか。

何も言えないわたしに、ホナミちゃんは自嘲気味に言う。

「私の今のお父さんは、みっちゃんの前のお父さんなの」

気持ち悪いと思った。
堂々と不倫してたお父さんも、いいようにお母さんを利用したホナミちゃんのお母さんも。

「……なんで、ずっと友達なんて言ったの?」

口から出せた言葉は、ホナミちゃんを悲しませただろう。だが、制御はできなかった。

「ホナミちゃんのおかあさんと不倫してたなら、お父さんをホナミちゃんに取られたって、わたしが思ってもおかしくないよね? それでも友達でいられると思ったの?」

別にお父さんを取られたから嫌だとは思ってはいなかった。当時すでにお父さんは家に帰るのが遅かったし、お母さんと静かに言い争ってるのは知っていたから。
方向性の違いなんて、バンドの解散みたいなことをお母さんは言ってたけど、不倫してたこともきっと知っていたんだろう。

理由なんてどうでも良かった。
でも、わたしだけが知らなかったのは、悔しかった。

「思わなかったよ」

ホナミちゃんはつぶやいた。

「だから、せめてこれを、渡したかったの」

ホナミちゃんはまたシールを撫でた。

「当時の私のいちばんのお気に入り。好きな人に送りたいって、ずっと思ってたシール。好きな人ができるまえに、みっちゃんにあげちゃったけど」

ホナミちゃんは恥ずかしそうに笑った。
わたしは何も言わなかった。言えなかった。

お気に入りだなんて、好きな人にあげたいって思ってたなんて、今まで知らなかった。
なんでそんなものをわたしに。

ホナミちゃんは私のノートとシャーペンをとった。
端っこになにか書いている。

『勿忘草』

「漢字だとこう書くんだよ。忘れることなかれ。忘れるなって意味。花言葉も、『私を忘れないで』なの」
「私を……忘れないで……」
「私はみっちゃんに忘れないでほしかった。友達でいられなくても、お父さんを盗った泥棒として見られても、それでも私は、みっちゃんと遊んだ日々が、大好きだったから。恨まれてでも覚えててほしかった」

不倫のこと黙ってたのも恨まれポイントだったかな。
なんて、苦笑しながら付け加える。

だいぶ愛されてたんだな、わたし。

話を聞いても、わたしだけ知らなかった苛立ちと一部の人への嫌悪しか浮かんでいない。
ホナミちゃんのことを恨む気持ちなど浮かんではこない。
わたしはため息をついた。

「さっきまでは綺麗な思い出だったのに、一気にけがされたよ、まったく」
「ごめんね」
「あの町ってだいぶ遠いけど、今は何してんの?」
「……友達のお父さんがいる家なんて居心地悪すぎるからここら辺で一人暮らししてるよ。同じ大学。何回か見かけてるよ」

ついでに私、ここでバイトしてるの。
ホナミちゃんは悪戯っぽく笑う。
そりゃ声かけられるわけだ。わたしは降参したように両手をあげてひらひらさせた。

「結構通ってたのに気づかなかったなぁ……」
「みっちゃんいる時は裏での作業にしてもらってたから。これからはもう隠れないつもり。店長、それでお願いします」

ホナミちゃんはカウンターにいた店員さんを見る。
店員さんはニコニコしながら、指でオッケーサインをだしていた。
あの人、店長なのか……知らなかった……。
ひっそりと驚いていると、ホナミちゃんは安心したように息をつく。

「お母さん、元気?」
「元気も元気だよ。再婚とかはするつもりないみたい。あ、今から時間あるなら家来ない? お母さん休みだし」
「いや……会っていいのそれ……」
「引っ越すときに『ホナミちゃんは連れていけないかしら……』って言ってたくらいだし大丈夫だよ」
「みっちゃんのお母さん、懐広すぎない……?」

わたしはノートたちをカバンに入れた。
立ち上がって、ホナミちゃんに笑いかける。

「今日は水曜日だから、一緒に帰れるね」

ホナミちゃんも嬉しそうに頷いてくれた。
全然違う町なのに、小学生のときの懐かしさが蘇る。
家ではお母さんがホナミちゃんとわたしのためにお菓子をつくり、3人でゲームをして遊び、夕飯をわいわい食べ。

「今日の夕飯なんだろうねー」
「私、久々にコロッケ食べたいなぁ」
「グリンピース抜き?」
「もう食べられるようになったよ! 子供じゃないんだから!」

そんなことを言いながら、わたしたちは家に帰っていった。



おわり。

2/3/2023, 5:37:22 AM

庭の隅に咲いている小さな青い花

春の暖かな風に揺られ、とっても気持ち良さそうに揺れている

僕は彼らに気づかれないように、そっと見つめていたんだ

小さな笑い声が聞こえてきそうなほどに楽しそうに揺れる彼らを
そっと縁側から眺めてた

一瞬、風が止んだ時、彼らの笑い声も止んだように感じた

僕の視線に気づいてしまったかな

庭の隅に咲いている小さな勿忘草
優しい小さな青い花

2/3/2023, 5:14:55 AM

勿忘草(わすれなぐさ)(投稿3回目で、長めの小説です)


私には、小さい頃から仲が良かった男の子がいた。
幼稚園で出会い、毎日楽しく遊んでいた。
だけど、幼稚園の卒園式の時に、お引越しすることになり、仲が良かった男の子に、別れの挨拶をしたが、私は悲しく、涙がポロポロ出てきた。
それを見た男の子が、私の涙を拭ってくれて、「なかないで、ぼくもかなしいけど、いつかあえるから」と言ってくれて、嬉しい気持ちになった。


それから、何通もお手紙のやり取りをしたり、電話で話したりもした。
そうしていくうちに、私は段々、彼のことが気になるようになっていった。


そして、何年も過ぎていき、私は行きたかった大学に合格した。
その大学には、自宅から通うのが難しい人の為に、寮がある。
私は、自宅から通うことはできないので、寮に入ることになった。


そして、大学の入学式。
私は、大学へ向かう。
その時に、「ねぇ、君。もしかして幼稚園で一緒だった人かな?」と、私に声をかけられた。
聞き覚えのある声、電話で何度も聞いた声。
私は、聞こえてきた声の人の顔を見ると、私が気になっている彼だった。
彼は、かなり身長が高くなっていて、凄くカッコよくなっていた。
私は、「えっと、はい。幼稚園の時に、毎日遊びました」と言うと、彼は、「はは。敬語じゃなくて良いのに。でも、久しぶりだね、元気だった?」と聞かれ、私は、「はい」と答えた。
久しぶりなのか、タメ口が出てこない。
何だか緊張してくる。
彼の顔を見るのが恥ずかしくて、見れない。
もしかして、私は彼のことが…好き、なのかな?
すると、彼は、「あ。そろそろ大学の入学式が始まる。ちょっと待ってね」と言い、鞄からメモ帳とボールペンを取り出し、書き始める。
そして、書き終わったメモ1枚を私に渡し、「これ連絡先、何かあったらメールして。じゃ、僕行くね」と言い、彼は大学へ向かって行った。
私は、貰ったメモを、ポケットに入れて、自分が通う大学へ向かった。


入学式が終わった日の夜に、私は彼に週末の日曜日に会いたいと、メールで聞いた。
彼からは、「大丈夫だよ」と返事がきて、週末に会う場所と時間を決めていった。

次の日
大学へ行こうとしていると、彼がいて、声をかけようとしたら、可愛い女性がいた。

え…もしかして、彼女…さん?

彼は、可愛い女性に頭を撫でたり、手を繋いでいた。

この時、私の恋は終わってしまった。

そして、会う前日に、私は花を一つ買いに行くことにした。
その花の名前は、勿忘草。
彼女さんがいる彼に渡すのは迷惑かもしれない。
でも、渡したいから。

その後、勿忘草を一輪買い、寮へ戻った。
そして、週末。

私は、彼と待ち合わせした場所へ向かう。
すると、彼は先に来ていた。

彼に会い、お互い挨拶をする。
それで私は、「あの、彼女さんいるんだね。この前見かけたよ」と言うと、彼は驚き、「え!見てたの?」と言うと、頭を下げて、「ごめん!」と謝った。

いきなりことで分からず、どうして謝るのかを聞いた。
すると、彼はこの前一緒にいた可愛い女性について説明した。

まず、彼には彼女さんはいなくて、一緒にいた可愛い女性は、大学の入学式で出会った人で、週末の土曜日まで、昨日まで恋人でいて欲しいと言ってきたらしい。
彼は、最初断ったが、急に女性は泣き出してしまい、週末の土曜日まで恋人にいることを承諾した。と言うことらしく、期間限定の恋人は土曜日に無事終わったそうだ。


それを聞いた私は、涙が溢れ、ポロポロ流れてきた。
彼は驚き、「え?どうしたの?」と心配そうに私に近づき、私はゆっくり話した。

「私。昔、お手紙のやり取りと、電話で沢山話したでしょう?そうしていくうちに、あなたのことばかり考えるようになって。それで、大学の入学式に再会した時、嬉しかった。あの時私の言葉が敬語だったのは、緊張していたからなんだ。あと、背も凄く高くなってて、カッコよくなって、驚いた。その、再会して気づいたよ。私、あなたが好きだということを。それで週末に、告白しようかと思っていたんだけど、あなたが可愛い女性と一緒にいて、頭撫でたり、手を繋いでいるところを見て、私の恋は終わったって。だから、花を買いに行ったの?」と言うと、彼は、「花?」と聞かれ、「うん。勿忘草。渡そうと思っていたんだけど、あなたの話を聞いて、その、私の恋は終わっていなかったから、どうしようかなって」と言うと、彼は、「あの…さ。さっき僕のことが好きと言ってたよね?僕も君のことが好きだよ。お付き合いしない?」、と言われ、「本当?嬉しい。これからもよろしくね。大好き」、と言うと、彼は、「あと、勿忘草は受け取るね、沢山思い出作ろう」と言い、勿忘草を受け取り、「うん!」、と言った。

こうして、私に恋人ができた。
彼と、沢山の思い出が作れますように。

2/3/2023, 4:45:07 AM

「勿忘草」

ずっといるよ
ずっとずっといるよ
忘れないで

私はそう言いながら
空を漂い
みんなをみてる

感謝も煩悩も
そのままで
私はみんなを愛する存在になる

ずっとずっとわたしはいるょ

2/3/2023, 4:18:16 AM

お題:勿忘草(わすれなぐさ)

学食で食べ終わった食器を戻し、振り返ると雄二が本を読んでいるのが見えた。
いつもは友人と一緒に昼をとってる姿をよく見るのでかなり珍しい。

「何読んでるの?」

声をかけると、本から目を離さずに

「ブレイブストーリー」

と答えた。
当然普段本を読まない僕は聞いたことのないタイトルだ。
ふーん、と上の空で返事をすると

「映画化もしたし、よかったら見てみろよ。」

と顔を上げた。
読書の邪魔をしたというのにその顔はにこやかだ。

ただ、正直見たことない作品を手に取るのは敷居が高い。
適当に話題を逸らそうと手元を見てみると、テーブルに置いてある栞が気になった。

「この栞、おしゃれだね。」

青っぽい小さな花がきれいにラミネートされている、薄いピンクのしおりだった。
いかにも手作り感のあるそのしおりについて、雄二は事も無げに

「元カノにもらった。」

と言う。

ついでのように
別れる時だったかな。
とも付け足した。

元カノにもらった栞か。
正直あまり女性経験のない僕はそれが普通かわからない。
けれど、僕が同じ立場だったら……きっと使わないな。

「こういうちゃんとした栞持ってなくて重宝してんだ。」
「そういうもんなのか……。」

しおりについている小さな花を見つめる。
これを送った人は雄二のことを思って花を摘み、ラミネートしたのだろう。

そう思っているとあることを思い出した。
少しにやけ気味に僕は口を開く。

「そういえば別れる男に花の名前を……みたいな話あったよね。」
「花は毎年咲きますってやつ?でもこの花、俺知らねぇもん。」

知らない花渡しても仕方ないか。
なんかその子も報われないな。

名前も顔も知らぬ女の子に少し同情する。
しかし雄二ほどのコミュ力を持ってる奴がどうして別れるんだろう。

「そういえば、その子とはなんで別れたの?」

その言葉を聞いた途端、雄二は苦虫を噛み潰したような顔になった。

少しの沈黙。

なんだか居た堪れなくなって質問を撤回しようとした時、雄二が口を開いた。

「あー、なんでだっけ?忘れた。」

表情は変わらなかった。

2/3/2023, 4:17:35 AM

勿忘草。
昔の歌謡曲にそんな曲があった気がする。
子供の頃は大人達が聴く歌謡曲ってどこかいいの?っ思っていたけれど、いま耳にするとメロディーが頭に残っていて不思議と懐かしい。
きっとわたしが20代~30代に聴いていた曲を子供として聴いていた子達も同じように感じるんだろうな。
それが繰り返し、繰り返し続いていくんだろう。

2/3/2023, 4:16:18 AM

勿忘草。
私を忘れないで、そんな花言葉には由来となった話がある。

 愛する二人が川のほとりで咲く小さな美しい花を見つけ、そして彼は愛する人の為に摘もうとする。
しかし彼は足を滑らして川の急流へと落ち、最後の力を振り絞り、掴んだその花を岸辺に投げ、
「私を忘れないで」
という言葉を残して亡くなってしまうのだ。

でもきっと彼女はそんなものがなくたって、忘れなかった筈だ。
その手を自分に伸ばしてくれたらたと、そう思ったに違いない。
最後の力は誰かに助けを求める為に使ったってよかったんじゃないだろうか。

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