萌葱

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「私を忘れないでなんて、自分勝手で未練がましいことは言いません」
彼女はそういって僕に青く小さな花を握らせた。
「ただ、私はあなたを心からお慕いしていたということは、知っていてください」
僕が何というべきか言葉に詰まっていると、彼女はふっと笑みを漏らした。なんだか泣く寸前のような今にも崩れそうな笑みだった。
「…とかなんとか言って、馬鹿みたいですね。「真実の愛」なんて花言葉の花は他にもあるのに。…わざわざ勿忘草なんて選んで、本当に…」
彼女はぐっと唇を噛んで俯いた。しかしすぐにぱっと顔を上げて微笑んだ。
「…今までありがとうございました」
そう言うと彼女は踵を返して足早に歩いて行った。
情けないことで、僕がどうすることも出来ず、ただ立ち尽くしていると、こちらに背を向けたまま彼女は少し震えた声で言った。
「そんな花渡しておいてなんですけど、…どうか全部忘れてください!私の事なんかこの先思いださないでください!」


忘れようとしたって、忘れることなんて絶対に出来ない。僕が身勝手に傷つけた君の事は、この先きっと忘れることなんて出来ないだろう。いや、忘れてはいけない。

だけど、君はどうか僕の事を忘れて欲しい。
こんな最低な奴なんか、忘れて幸せになってください。
…最後まで身勝手でごめんね。

2/3/2023, 9:34:44 AM