勿忘草(わすれなぐさ)
「私を忘れないで」なんて身勝手が過ぎるのではないか。
消えたのはあなたの都合だろうに。忘れてほしくないのなら、せめて「決してあなたを忘れない」とあなたが宣言すべきではなかったのか。
あなたと入れ違いにベランダの一隅を占有し始めた青い花はなんだか地味で、しかし灰色のベランダには無視できない彩りで、厚かましさはあなたのようだ。
名前も知らずにベランダに放置していたが、あなたがいなくなって少し後に家に呼んだ友人が名前を教えてくれた。あやうくスベったまま枯れていくところだった。
訊いてもいないのにその友人は、丁寧に由来まで教えてくれた。恋人のために花を摘もうとして水没した騎士の伝説を聞いた。なんて不器用な花言葉なんだろう。
あなたに似ている。そういう意味では、あなたの花選びのセンスは最悪だ。
きっと見るたびに思い出すから、私はあなたを忘れない。
2023/02/03
2/3/2023, 9:12:52 AM