『伝えたい』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
君が俺に見せてくれた、世界の広さを。
君の声を聴いて、俺は人間になった。
そして、感情を知った。
君の孤独に触れたとき
どうしようもなく辛くて
でも、それと同時に救われたんだ。
「ズボンのチャック開いてるよ」って伝えたい。
平日昼間、春の公園はのどかであたたかく、ブランコでは幼児がキャッキャして遊んでいる。
だからこそ彼に伝えたい。でも。
彼はまっすぐ私の目を見てこう言った。
「やっぱり俺たち、別れた方が良いと思う」
こんな別れ話の最中に言うのもなあ。
でも早く言わないと、恥ずかしい思いをするのは彼なんだし。こういう時は多少空気を読まない方が良いかもしれない。
「あの」
「分かってる。俺だって辛い。でもこれ以上好きになったら、どうしていいか分からなくて」
「あの、チャック」
「もう一度友達に戻らないか。それくらいの関係の方が、きっとうまくいく」
「チャック〜」
さりげないチャックをあげる動作をしてみるも、彼は話に夢中で気づかない。
今日は水玉柄だなあ。
まあ別れ話だからな。でも1ヶ月前もこんな話をして結局こうしてよりが戻ったんだから、たぶん大丈夫。
どこかでウグイスが楽しげに鳴いている。
【お題:伝えたい】
よくがんばったね
たぶん世界でいちばん
今日きみがえらかった
できたことも
できなかったことも
全部ひっくるめて
よくがんばったね
できたことも
できなかったことも
全部ひっくるめて
世界でいちばん素敵なきみへ
「伝えたい」
【伝えたい】
こいつはオレを『性的』に見ている。
なんて
そいつはそんな目をしていた。
男だらけの社会で
ただ仕事をしているだけなのに…
「愛斗さん!」
「はい」
ただ従っていただけなのに
それはそれは 汚らわしくて…
「愛斗くん…君、エロすぎだよ 誘ってるの?
今度いつ会える?君にまた会いたい
思いっきりデートしようよ
大丈夫 任せてよ
この関係は誰にもバレないから」
…どうしてなんですか?
毎回、どうでもいい奴に抱かれる度に
あの8歳の頃の悪夢を思い出す。
あの時、
オレは恐怖から目を背け
ただ『人形』のようになっていた。
聞こえる荒々しい吐息と
汚らわしい愛液と
鋭い痛みの感触
時を経て大人になり
せっかくまともに働くつもりだったのに…
ああ…所詮は『人間』でした。
欲望には逆らえない汚らしい人間…
やはりあなたも同じでしたか。
伝えたい
違う、そんなんじゃない。
口から出る言葉は、本心から逸れていて、
伝えたい言葉が置き去りになる。
大事なことのはずなのに。
あなたにこそ伝えなくちゃいけないのに。
#171
「きょ、今日の…ロクは…」
肩で息をしながら、絶え絶えに吐き出した。
三段飛ばしで駆け上がってきた、震える膝を押さえながら呼吸を整える。
連続不審水死事件。その調査としてあてがわれた鑑識官の守山の元に届いた“新たな水死体”の速報。
休みであったが、逸る気持ちを抑えられずに職場に飛んで来たのだ。
「今日揚がったのは男。年齢は…10代後半から20代前半ってとこだな」
「揚がって間もないんですか?」
「ええ、検視に回ってるとこだ。じきにうちにもサンプルが回ってくる」
鑑識課長はふっくらとした腹をたわませて椅子にどかりと腰かける。
どれだけの量のサンプルが届こうとも、物ともしない課長がこれだけ疲労を見せるのは珍しい。
「課長…今回の遺体、何かあったんですか?」
聞きたいが聞きたくない。聞きたくないが聞かなければならない。
つい先ほどまで“海神様のお社”にいたのだ。現実と非現実が混ざり合う感覚に眩暈がしそうだった。
「お前には伝えんとならんな。今回は、事件性がありそうでな…」
頬から吐くように、短い呼気をプゥと吐いた口元がどこか遠い景色のようだ。
「首には絞められた痕。ポケットにはノートが詰め込まれてな…」
そっと差し出された写真には、引き揚げられてすぐの写真とみられる、濡れたノートが写っていた。
くしゃくしゃに水で固められた、かろうじてノートであったと分かる紙の塊。
そこには、赤黒い文字がびっしりと書き込まれていた。
何で何で何で何でわかってくれないの!ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ
ツタエタイのに
どうして
ドウシテ
アイシテル
「残念ですが貴方は死にました」
「へっ」
いきなり真っ白な世界が広がったかと思うと、目の前に小さな女の子が現れて僕に淡々と言った。
「死因は失血死。信号無視をしたダンプカーにはねられて即死でした」
「え、な、何を」
「よって、これから冥界へ向かう手続きに入ります。まず、お名前と誕生日と血液型を」
「待ってくれよ。死んだってなんだよ。ちっとも意味わかんないよ」
少女は僕を見て顔を曇らせながら溜息を吐いた。そんな憐れんだ目で僕を見ないでくれよ。いきなり死んだとか言われて、こっちはそれどころじゃないんだよ。ちゃんと分かるように説明してくれ。
「ていうか、ここ何処なんだよ」
「三途の川を渡りきったところです」
「まだそんなこと、言って……」
「無理もありません。貴方は自分が車に轢かれたことを自覚する前に息絶えたんですから」
「だから!なんだよそれ!僕は死んでなんかいない!来週には結婚式が控えているんだ!死んでなんかいられないんだよ!」
自分よりふた周り近く離れてそうな子に向かって怒鳴りつける。本当ならこんなことしない。けどこれは夢なんだ。たちの悪すぎる悪夢なんだ。だったらいくらでも喚いて早く目を覚ますべきだ。
「嘘なんだろう?早く覚めてくれよ。帰らなきゃ、彼女が僕を待ってるんだよ」
「じゃあ、見てみますか?」
少女が手を掲げると、真っ白な空間の中にスクリーンのようなものが現れた。そこに見えるのは紛れもなく僕の彼女だった。黒い服を着て、何かにしがみついて泣いている。それも尋常じゃない泣き方だった。
「あの中に貴方が入っています」
彼女がしがみついているのは棺桶だった。目を疑う他なかった。そんな、まさか。本当に僕は死んだのか。ならば、今見せられているこれは僕の葬式だというのか。
「うそだ」
「残念ですが」
淡々とした少女の言葉が響き渡る。僕は死んだ。それが真実だと、認めざるをえない声音だった。
「貴方はあまりにも不慮の事故で可哀想な最期をとげたので、1つだけ願いを叶えることができます」
「……死んだんだから、叶えたいことなんて何も無いよ。生き返らせてくれなんて、無理だろ?」
「そうですね。事実は変えられません」
「じゃあ何も要らない」
がっくりと項垂れて、僕はその場に倒れ込んだ。もう、どうだっていいや。どうにでもなってしまえ。何もかも信じられない。もう何も見たくないし聞きたくない。どうせその内できなくなる。
「良いんですか?例えば、あの女性」
「だって、どうすることもできないじゃないか」
「貴方も可哀想ですが、残された彼女も凄く辛い気持ちだと思います」
「そりゃそうだよ。僕ら、本当は一緒に暮らすはずだったんだから」
彼女はいつまでも泣き続けている。酷い嗚咽で、こんなに取り乱した様子を初めて見た。寂しがり屋で優しい僕の愛する人が、僕の棺桶を抱き締めて泣き叫んでいる。
「……ごめんな」
僕は悪くないのに謝らずにはいられなかった。僕のせいで、彼女はこれからひとりぼっちになる。孤独にさせてしまう事実に、何の言葉も浮かばなかった。でも伝えたいことは山ほどある。感謝とか懺悔とか願望とか好きの気持ちとか、こんなにも伝えたいことが沢山あるのに、どれ1つ上手く言葉に表せられなくて、辛くて悔しくて、泣いた。
「その総てを伝えましょう」
少女はぽつりとそう言って、スクリーンの中の僕の彼女に向かって手のひらを向けた。まばゆい光の線が彼女のほうへ伸びてゆく。すると絶えず泣いていた彼女が不意に顔をあげ僕のほうを見た。スクリーン越しに彼女と目が合った。真っ赤に泣き腫らした彼女の瞳が僕をじっと見つめている。
「あぁ――」
最期の最期まで、うまく言葉がでない。ごめんとかありがとうとかさようならとか愛してるとか。伝えたいことは沢山あるのに声にならない。でも少女が届けてくれたようだから、無事に数え切れない僕の思い総てが伝わってくれてればいいな。今はそれしか考えられない。
願わくば、もっと一緒にいたかった――
それを思った瞬間に僕は光に包まれた。お迎えか。
少女が差し伸べてきたその小さな手を取り、光の中へと歩きだした。
きっとあなたは知らないのでしょう。
本当は私がとても小心者だということを。
人の目に映ることが怖くて、
真っ直ぐに誰かを見据えることが苦手だった。
私の言葉が誰かを傷つけないか、
言葉を選び過ぎてやがては声を失ってしまった。
些細な人の声に恐怖を覚えて、
いつしか無意識に両の耳を塞いでしまった。
私の存在は必要ですか…?
疑り深く疑って、疑心暗鬼に包まれる。
本当はあなたに伝えたい。
どんなに明るく振る舞ってはいても、
心の中では怖いくらいにあなたに怯えていると。
あなたから貰う愛さえも疑って、
いつかは路傍に捨てられるのではないかと。
あなたはきっとその話を笑って聞くのでしょうけど、
その笑顔ですら、私にはただ恐れの対象でしかない。
だけど、そんな私に触れてくれるあなただからこそ、
私はあなたのこの腕を離すことができないのです。
【伝えたい】
唐突に来る寂しさ、悲しさ、虚しさをどうやってのりきるの?
雲ひとつない空に、雲を想ってもわたしのわがままひとつでは何も動かせないし、変わらない。だけどソレを求めてしまう。
夜になれば、明日になればきっと、雲だって顔を出すのに。そこに太陽と月、無数の星が出ているのに、雲だけがいない。流れる風を、水を堰き止めようとしても、願いは叶わない。落ちるりんごを必ず手にできるとは限らない、えぃっと唱えたら信号が青に変わる、あの角を曲がればあなたがいる、そんな不確定な可能性を追いかけてしまう。
伝えようのない
伝わりようのない
【伝えたい】想い。
叫べ吠えろ
それくらいしなきゃ
伝わらないから
どうしてくれようか
この真っ赤な身の内
〈伝えたい〉
伝えたい事には
勇気が要る
その意味には
君が必要
伝えたい。
お腹空いた!!
伝えたい。
抱っこ!!
伝えたい。
大丈夫だよ。
伝えたい。
泣かないで。
たくさんいっぱい
伝えたい。
声を出して伝えたい。
でも伝わらない。
悲しいな。
悲しいな。
でもね、悲しくないよ。
だって君は、必ず僕にこう言うの。
大好きだよって。
ずっと一緒に居てねって。
嬉しいなぁ。
嬉しいなあ。
これだけは、
僕も君に伝えられる。
大きくしっぽをふって。
大きな声で。
君むかって。
僕もだよって。
大好きだよって。
ずっと一緒に居ようねって。
僕は、この気持ちを
君に伝えるために。
分かってもらえるために。
こう言うの。
【⠀ワン!!⠀】ってね。
それは愛では無いと思うのです
貴女は幸せになるべきだと思うのです
言葉にしようと思うことはある。日に一度。いや、もっとかもしれない。けれど、お前の背中を見ていると……言葉にして伝えてしまうと、お前が居なくなってしまうような気がするんだ。
だから、俺は、今日も噤んでしまう。
「今日はいい天気だな」
そんな言葉しか伝えられない。
2024/02/13_伝えたい
あなたに伝えたかった。
大好きだって。
貴方に伝えたかったんだ。
大っ嫌いだって。
でも、伝えられないんだ。
あなたは、私の嫌いなあいつが好きだったから。
貴方は、私の大好きな彼が好きだったんだから。
両思いなら、仕方ない。
けど、許せない。
みんな、許せない。
私を残した彼も。
私を惨めにしたあんたも。
そして、本当の気持ちを伝えられない私も。
みんなみんな、大っ嫌いだ。
でも、2人には伝えたいんだ。
せめてもの報い。
『ふたりとも、お幸せに』って。
「伝えたい」
僕は相手が何を伝えたいのかよくわかない
空気が読めないってよく言われる。
何かをずっと聞いていると泣き始める女子は大嫌いだ。相手にきずいてもらおうっていうのが違うんだ。
自分ですべて伝えればいいのに。
何で気づいてくれないの?
こんなにアピールしてるのに、
告白の前のアピールでしょ!
なぁーんて伝えたいことを伝えられない
曇りのくもくんとお日様の日光ちゃんが
バカバカしいことを思ってる。
貴方も誰かに伝えられないことがあるなら
伝えといた方がいいかもね
くもくんと日光ちゃんみたいにならないように
伝えたい
あの時出会ったあなたにいつか大好きとありがとうを伝えたい
明日私の息子はこの家を出て行く。
自分のやりたいことをやり続けるために、もっと高いレベルでやるために、遠い異国の地へ旅立つのだ。
息子には小さい頃から伝えたいことがたくさんあった。
それは洋服の着方だったり、お箸の使い方であったり、あいさつの仕方だったり。
はたまた、気分が落ち込んだ時の乗り越え方だったり、思考が堂々巡りをしている時の視野の広げ方だったり。
それから、掛け算の仕方やどうして大政奉還が行われたのかだったりもした。
そしてそれ以上に、私がどれだけあなたを愛しているのかをたくさんたくさん伝えてきたつもりだ。
でも、私たち家族に悲しい出来事が起こって、私はあなたに何かを伝える力が薄れてしまった。
それどころかあなたを傷つける言葉を伝えてしまった。
そこから今まで積み上げてきたものが、愛情だったり、生き抜く知恵だったり、が根底から壊れてしまって私の言葉はあなたに伝わらなくなってしまった。
悲しく、もどかしい日々が続く中でいつのまにかあなたは、自分の力で立ち直って生き抜く力を手に入れていた。
子どもは親の想像を超える、とは昔から言われていることだけれど、実際自分の身に起こると本当に奇跡の様だと思う。
そんなあなたを誇りに思う。
そんな息子が今日旅立つ。
あんなに小さかったあなたは、自分の力で世界の様々なことを習得していた。
私があなたに伝えられることはもう何もないのだろうか。
「お母さん、あなたがいつもおかえりといってらっしゃいを言ってくれるから俺は安心してどこにでも行けるんだよ」
そうか。
私が息子に伝えられることはまだあった。
いってらっしゃいとおかえりを伝え続けるよ。
あなたがこの世界を軽やかに過ごせるよう祈りを込めて。
私に至ってはとにもかくにも思ったことを次から次へその通りに口に出す性分でして、ホントは何重にも紙を巻いて話すことを覚えねばとあたふたするわけだけれどもね。
ほらそーこーしてるうちに、またそげなことを性懲りも無く言ってもーたワケだわよ。ほんと何度嘆いたこったろうね。
彼は、静かに、ゆっくりと、語る。
あまりにゆっくりなので聞き取れず、何遍も同じところを聞き返す。
あ、の、ね。
私にとっては多弁な奴こそが正義で、言葉を持たない奴というのは心を持たないのと同義であった。
あ、の、ね。
彼は、静かに、ゆっくりと、語る。
あまりにゆっくりなので癪に触って、彼の言葉を私の強い言葉たちで遮る。
口下手な奴というのは、よからぬことを考えていると、自己弁護の言葉を繰り出そうと焦っていると、私は解釈する。
あ、の、ね。
私のための言葉でなければ、彼の言葉は意味を持たない。同じ国の言語を共にしているはずなのに、どうしてこうも埒が開かないのだろう。苛々を通り越してついに落胆する。
あ、の、ね。
それでもなお、
彼は、静かに、ゆっくりと、語る。
背丈に合わない言葉を手繰る私を諭すように。
あなたがかつて教えてくれたのだよ、と口の端を結んだまま持ち上げて。
伝えるということは、聴くことなのだと。
受け取ったよ、と返すことなのだと。
彼は、静かに、ゆっくりと、語る。
お題:伝えたい
地下の奥深くから(テーマ:伝えたい)
地下の奥深く。
危険な危険な毒が埋まっている。
この毒は、消えるのに最低10万年必要だ。
毒の名は放射性廃棄物という。
10万年後。
果たして人類はまだ生きているだろうか。
10万年前は、ちょうど、現代人であるホモ・サピエンスがアフリカを出て世界各地に広がったとされる時期だ。
当然、文明というべきものが積み上がる前の時代だ。
10万年かけて人類は増えて増えて、戦って戦って、科学を発展させて、今の時代まで来た。
しかし、この時代に作った毒の処理は、今まで人類が猿から今日までかかったのと同じくらいの時間がかかるのだ。
人類は、これを地面に埋めようとしているが、10万年という時間は、大きな地震・津波・地殻変動・火山噴火などの多くの自然災害が起きるに十分な時間である。
また、例えば、現代の科学・知識がすべて失われ、一から文明が構築されるにも十分な時間である。
このため、10万年以上後においても有害な毒物を、生き物に触れさせないためには、なんとしても、この危険性を伝え、近づかせないようにしないといけない。
*
ある研究室で、一人の博士と助手が話をしている。
博士は、この10万年プロジェクトに席を連ねていたが、別に放射線の専門家ではない。
あまり乗り気ではなかった。先の未来過ぎて伝わらないと思ったのだ。
半ば投げやりに、助手に聞いてみる。
「どうすればいいと思う?」
「ドクロマークじゃだめですか?」
「ドクロが通じるか分からないよ。そもそもドクロって人間の頭蓋骨なので。10万年経ったら人間の文化じゃないかもしれないし。ナメクジとか。」
「手塚先生ですか?」
「そう。学生の時、図書室で読んだ。」
「じゃあ、壁画に、だんだん溶けていく生き物の絵を描くとか。」
「それは伝わるかもしれないな。」
「お、ありですか」
「でも、逆に先の絵を知りたがって深入りするかもしれない。」
「じゃあ、もう溶けた鉄とかで埋めてしまうというのは。物理的に。」
「鉄が欲しくて掘り出すかもしれない。」
「水で水没させてしまう。」
「潜られるだろ。それなら埋めた方が良いい。」
「毒蛇を繁殖させる」
「10万年も繁殖しつづけるかな」
「じゃあ、いっそ毒ガスを発生する土地にしてしまう。体調を崩す生き物が発生すると、近寄らないでしょう。」
「10万年後も発生している毒ガスってなんだよ。」
「・・・放射性物質とか」
「いや、それを触れさせないために、埋めるっていう話でしょ。」
「比較的小規模に生き物を殺す放射性物質を浅い部分に埋めておくんです。同胞が死ぬことで、危険性を訴えるんです。」
「壁画の奥はそれか。」
人類は、何のために、これを伝えたいのか。
伝えるしかない。
劇物を作ってしまった人類には、同じく生きているはずの未来の同胞を殺したくはないのだから。
仮に、同法は人間でなかったとしても、知的生命体として、同じ知的生命体を殺したいと思ってなどいないから。
「じゃあ、DNA配列の使用しないところに文字列で組み込んでおくとか、どうですか。」
「ある程度文化が発展していることが前提のメッセージだな。まあ、壁画・埋蔵・弱い放射線とやっていけば、ある程度文明が発達して、読んでくれるかな。」
ああ、なんということか。危険を伝えるために、未来の無実の知的生命体を何人か殺すことを前提としたメッセージを送ろうとしている。
これに、何の意味があるのか。
助手が手を叩く。
「あれだ。我が国の文化を使うんですよ。」
「何だよ。我が国の文化って。」
「マンガですよ、マンガ。クールジャパン」
博士は肩を落とした。一人で考えるよりマシかと思ったが、どうもこの助手は畑違いの問題には趣味を突っ込むらしい。
「10万年後の知的生命体がマンガ、読めるか?そもそも吹き出しになんて書くんだよ。根本的な話として、どこに書くんだ?石版か?」
頭を捻る助手。
「・・・吹き出しは使いません。無文字です。コマ割りもなしです。順番に読めるかもわかりませんし。そして書くのは壁です。壁画にするんです。1コマを1部屋にして、2部屋使って描くんです。このままでは死ぬぞって。」
博士はピンときていないが、助手は乗り気のようだった。『知り合いの同人作家に声をかけてみます』とか言っている。
「10万年後まで残すんだぞ。同人作家の絵でいいのかよ。それこそ手塚先生並みの人に頼んだほうがいいんじゃないか。」
「そんな有名人に頼んだら、ファンが見に来ちゃうかもしれないじゃないですか。」
博士は乗り気ではなかったが、他に案がなかったので、次の会議で意見を求められたら言うか、くらいに思っていた。
(どうせ、最終処分場は世界各地にできるんだ。一つくらいそういうところがあってもいいんだろう。)
*
時は流れて8万年後。
人類の文化は終焉し、砂漠となった大地に再び植物が茂り、別の文化が栄える。
もしかすると、その文化は人類の次ではなく、次の次とか、次の次の次とかかもしれない。
その生物は、かつて「イルカ」と呼ばれていた哺乳類であった。
進化に進化を重ねて適応した者が繁栄した。
海から大地に上がり、ひれと尾びれ手足になった。道具を使い、家を作り、職業によって人が分かれ、いくつもの街ができ、それをまとめる国ができた。
文化という物を積み上げ始めた段階だが、その数はすでに相当数に膨れ上がっていた。
イルカは超音波を発して反響から物の位置や大きさを知ることができるエコーロケーション能力というものを持っているため、狩猟や危機回避に有用であったのだ。
そして、幸か不幸か、文明というものを積み上げるために必然であったか、それがイルカであったときには退化していた視力が、陸上に上がってからは強化されていた。
近くのものは超音波で正確に、遠くのものは視力によって判別した。
*
この時代、過去の文明が使っていた金属の塊を探して世界中を掘り起こされていたが、その無数のグループのうち一つが、地下深くへ続く道を掘り当てた。
掘り当てた者たちはそのまま奥に入ったが、何人かが原因不明の体調不良で倒れたため、国にその報告をした結果、危険に対する専門家が調査することになった。
その洞窟に入ることになったのは、冒険家と呼ばれる職業のイルカ人だった。
読んで字のごとく、危険を冒す職業だ。
危ないかもしれない場所、よくわからない場所に率先して入っていき、成果を持ち帰る。
当たれば名誉も得られるが、死亡率の高い職業。
そこへ入った冒険家は、それなりに場数を踏んだ熟練の冒険家だ。
ランプとロープと食料、(現代とは比較にならないが)空気が入ったマスクなどを用意して、中に入っていく。
*
奥の大きな部屋に入り、照明を使って周囲を見たのは偶然だ。
イルカ人類はエコーロケーション能力で部屋の形状くらいはわかるのだ。
無理に光源が必要な訳では無い。
しかし、その偶然が壁の絵を発見した。
壁一面に描かれた鮮やかな絵。
「これは素晴らしい。古代文明の遺産か?」
光が当たらなかったからだろう。色鮮やかな絵が大きく描かれていた。黄色い肌に頭に毛が生えているが、足で歩行し、手に何かを持っている。
巣を作り、家族で何かを食べている。笑顔で溢れた街の絵。
しかし、その部屋には絵以外にはなにもない。
冒険家は奥の部屋に進んだ。
*
「ひっ」
冒険家は、次の部屋に入ると思わず超音波を出してしまった。(人間で言うと鳥肌が立つような仕草だ)
先の明るく温かな絵から、一転して暗く冷たい色。
肌色は紫色になり、毛は抜け、家の中でも外でも、その生き物は横たわっていた。一見して、死んでいるように見える。
そして、その絵の中央には、この洞窟と思しき穴から、何かが持ち出されているように見えた。
「これは・・・警告か。」
警告。
そうとしか思えなかった。
その冒険家は、暫く2つの部屋の絵を見ていたが、黙って帰ることにした。
自分が帰っても、次のやつが来るだけだとも思ったが、この絵はどうも病気を表しているように見えたのだ。
(この生き物の体は、毛が抜ける以外には破損していない。それなのに、家の中でも外でも人が倒れている。つまり、病気の元が、この奥にあるのだ。)
冒険家は、家族や知り合いに声をかけ、この地から遠く離れようと決心した。
ちょうど、都合がいいことに奥の部屋には当時の地図のようなものもあった。今と異なる大地もあるように見えたが、大まかな位置はわかる。
印がついている部分が、きっと同じような場所なんだろう。
(つまり、これらの印のどこにも近づかなければいいんだ。)
*
その後、逃げ帰ったことで、この冒険家の名声は地に落ちた。
彼の主張した世界各地の危険地帯についても一笑に付されたが、一部のイルカ人は引っ越しの参考にしていた。
そして、次の冒険家も次の次の冒険家も帰ってこなかった。
成果が出ないので国の調査隊が入り、何人ものイルカ人が原因不明の体調不良で死んでいく中、奥にある見慣れない金属の1本にロープを結びつけて地下深くから地上へ持ち出してしまった。
その街は放射性廃棄物で全滅し、その後、その地域は死の街として近寄らないようになった。
イルカ人が放射性廃棄物を理解するまで、まだ数百年は必要な時代だった。
今回の事案は、個人一人一人には伝わったが、それを指示する指導者の意思を変えるには至らなかった。
伝えるというのは、かように難しいのである。