私に至ってはとにもかくにも思ったことを次から次へその通りに口に出す性分でして、ホントは何重にも紙を巻いて話すことを覚えねばとあたふたするわけだけれどもね。
ほらそーこーしてるうちに、またそげなことを性懲りも無く言ってもーたワケだわよ。ほんと何度嘆いたこったろうね。
彼は、静かに、ゆっくりと、語る。
あまりにゆっくりなので聞き取れず、何遍も同じところを聞き返す。
あ、の、ね。
私にとっては多弁な奴こそが正義で、言葉を持たない奴というのは心を持たないのと同義であった。
あ、の、ね。
彼は、静かに、ゆっくりと、語る。
あまりにゆっくりなので癪に触って、彼の言葉を私の強い言葉たちで遮る。
口下手な奴というのは、よからぬことを考えていると、自己弁護の言葉を繰り出そうと焦っていると、私は解釈する。
あ、の、ね。
私のための言葉でなければ、彼の言葉は意味を持たない。同じ国の言語を共にしているはずなのに、どうしてこうも埒が開かないのだろう。苛々を通り越してついに落胆する。
あ、の、ね。
それでもなお、
彼は、静かに、ゆっくりと、語る。
背丈に合わない言葉を手繰る私を諭すように。
あなたがかつて教えてくれたのだよ、と口の端を結んだまま持ち上げて。
伝えるということは、聴くことなのだと。
受け取ったよ、と返すことなのだと。
彼は、静かに、ゆっくりと、語る。
お題:伝えたい
2/13/2024, 8:59:09 AM