「きょ、今日の…ロクは…」
肩で息をしながら、絶え絶えに吐き出した。
三段飛ばしで駆け上がってきた、震える膝を押さえながら呼吸を整える。
連続不審水死事件。その調査としてあてがわれた鑑識官の守山の元に届いた“新たな水死体”の速報。
休みであったが、逸る気持ちを抑えられずに職場に飛んで来たのだ。
「今日揚がったのは男。年齢は…10代後半から20代前半ってとこだな」
「揚がって間もないんですか?」
「ええ、検視に回ってるとこだ。じきにうちにもサンプルが回ってくる」
鑑識課長はふっくらとした腹をたわませて椅子にどかりと腰かける。
どれだけの量のサンプルが届こうとも、物ともしない課長がこれだけ疲労を見せるのは珍しい。
「課長…今回の遺体、何かあったんですか?」
聞きたいが聞きたくない。聞きたくないが聞かなければならない。
つい先ほどまで“海神様のお社”にいたのだ。現実と非現実が混ざり合う感覚に眩暈がしそうだった。
「お前には伝えんとならんな。今回は、事件性がありそうでな…」
頬から吐くように、短い呼気をプゥと吐いた口元がどこか遠い景色のようだ。
「首には絞められた痕。ポケットにはノートが詰め込まれてな…」
そっと差し出された写真には、引き揚げられてすぐの写真とみられる、濡れたノートが写っていた。
くしゃくしゃに水で固められた、かろうじてノートであったと分かる紙の塊。
そこには、赤黒い文字がびっしりと書き込まれていた。
何で何で何で何でわかってくれないの!ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ
ツタエタイのに
どうして
ドウシテ
アイシテル
2/13/2024, 9:50:11 AM