『伝えたい』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
《伝えたい》
強く願ったからといって、必ず伝わる訳ではない。
そんな物語のような、劇的な事は起こらないのだ。
けれど、その想いが無駄であるという訳でもない。
だから、わたしはこうやって言うようにしている。
伝えたくても伝わらないものは絶対あるだろうが、
伝えたくなくても伝わってしまうものもあるのだ。
怯えたとてらそれが意味を成さないときも知って、
生きる他ないのだろうね、いつかを信じ続けて。
“伝えたい”
「行かないで」
今しかない、と思った。立ち去ろうとするその袖を半ば反射のように掴まえる。
自分の意地っ張りな性格と、優しいのか無関心なのか、なんでもかんでも受け入れてしまう彼によって。ひねくれにひねくれて、とうの昔に忘れてしまった素直な態度。何を言っても柔らかな笑顔で「いいよ」と返されるものだから、自分ばかりが必死な気がして、「嫌だ」という言葉を引き出そうと躍起になった。結局、何を言っても彼は変わらず笑顔で受け入れるだけだったのだけれど。
「もうやめよっか」
そんな決定的な言葉を投げつけた瞬間でさえ。
簡単に別れを受け入れられるほど、最初から私に興味なんてなかったんだ、とか。けれど、それならどうして、好きでもない私とずっと一緒にいてわがままを聞いてくれたんだろう、とか。
傷つきと戸惑いと、なんだかどうしようもないくらいに様々な感情が渦巻いて。最終的に口をついた言葉は、冒頭のソレだった。
行かないで。まだ一緒に居たい、と。
パチリ、とひとつ瞬いた彼はいつものように朗らかに笑って頷いた。
「いいよ」
「……ぎゅってして」
「うん」
抱きしめて、ぽんぽんと私の頭を撫でる。その手は確かに温かくて、そばにいると思うのに。心だけがいつからか、ずっと遠い。
「なんかないの?」
「なんかって?」
「私に、言いたいこととか」
自分でも勝手だってわかってる。不満とかいっぱいあるんじゃない?
今なら聞いてあげてもいいよ、なんてこの期に及んで素直になれない自分に嫌気がさす。だからこうなってしまったのかもなんて後悔してもどうしようもない。
「言いたいこと……」
オウム返しに口にした言葉が困ったように途切れるのに耳を塞ぎたくなる。だって、こんな状況に至っても何も思ってもらえないなら、本当に惨めだ。
「伝えたいことならたくさんあるんだ」
「……え?」
想定とは違う答えに顔を上げる。穏やかな、いつも通りの表情をしていると思っていた彼は、意外にもその面差しに緊張の気配を纏っていた。
「照れくさいけど──大好きだし、何より大切だって思ってる。それが行動から伝わればいいなって」
俺は、言葉にするのが下手だから。ため息を吐くみたいに紡がれた台詞は思いもよらぬものだった。
「だから、なんでも“いいよ”って言うようにしてたんだけど。うまく伝わらなかったみたいだ」
このやり方は良くなかった。ごめんね。と背中に触れる手に力が入る。一方、こちらの肩の力の抜け具合といったら。
「わかるか、バカ……!」
不器用にも程がある。人の感情を理解できないロボットでもあるまいに。
「泣かないで」
「ッ! 泣いてないし」
「……別れる?」
「別れない!」
あーあ。バカみたいだ、二人して。
伝えたい気持ちは言葉にしないとわからないのに。
「……私も、大好きなんだから」
幾星霜,ただ過ぎ去る流星群だけを見つめていた。
隣を歩いたニンゲンは寿命で朽ち果て,呆然とヒトリで吹く風に身体を委ねていた。
寿命が尽きる迄は孤独だと,もう二度と,誰とも関わらないと,そう思っていたのに。
あの日,あの場所,あの時間。
誰にも認識されずに,孤独だった自分の姿を見つけ出した彼女。
彼女の紅い瞳が,ひょこりと覗く八重歯が,『 玄武 』と名を呼ぶその声が。
余りにも彼奴にそっくりで,漆黒の夜空から一筋の星が零れ落ちてしまった。
「 オレは…ここにいても…いいのか…? 」
『 勿論だ!! 』
大きく頷き,太陽のような笑みを浮かべた彼女に,どれだけ心が救われた事か。
今となっては,自分の中じゃかけがえのない存在になってしまっている。
あまり気に入りすぎてしまうと,また,寿命が2人を分かちあってしまうから。
それでも,彼女の事は,オレが護る。
そう,鳥居の下で誓ったんだ。
_後先考えず突っ走る彼女を後ろから抱きしめ,静止させるような体制へ持ち込む。
そして,彼女の耳元で小さく囁くんだ。
今までずっと,喉奥につっかえて紡げなかった言の葉を。
「 ありがとう 」
伝えたい
生きたいと伝えたい。
体は死にたいくらいボロボロでもう自殺祈願者のような風貌の私。
けど、生きたいの。
夫からはDVを受け双子の育児、深夜までのパート。
この生活に慣れてくると身体中はアザになり目の下にはドス黒いクマができる。
疲労で倒れると夫は「何で言わなかったんだ」。
「は?」咄嗟に出た言葉だった。
私の事をこんな風にした張本人にそんな事を言われるなんて思いもしてなかった。
無責任すぎる。
けど、言えない。
伝えたいのに伝えられない。
【脱力ラッキー🍀】
今日こそ伝えなければ...
と、拳を力強く握りしめていた昼下がり
ところが、春になりかけの陽ざしが優しすぎて何だかもうどうでもよくなってきて、このままここで野良猫を愛でながら春を待とうと思い至る。ベンチに座り直し、握りしめた拳をひらいたら、足元のクローバーの葉が四枚なことにやっと気がつけた。
#伝えたい
君が俺に見せてくれた、世界の広さを。
君の声を聴いて、俺は人間になった。
そして、感情を知った。
君の孤独に触れたとき
どうしようもなく辛くて
でも、それと同時に救われたんだ。
「ズボンのチャック開いてるよ」って伝えたい。
平日昼間、春の公園はのどかであたたかく、ブランコでは幼児がキャッキャして遊んでいる。
だからこそ彼に伝えたい。でも。
彼はまっすぐ私の目を見てこう言った。
「やっぱり俺たち、別れた方が良いと思う」
こんな別れ話の最中に言うのもなあ。
でも早く言わないと、恥ずかしい思いをするのは彼なんだし。こういう時は多少空気を読まない方が良いかもしれない。
「あの」
「分かってる。俺だって辛い。でもこれ以上好きになったら、どうしていいか分からなくて」
「あの、チャック」
「もう一度友達に戻らないか。それくらいの関係の方が、きっとうまくいく」
「チャック〜」
さりげないチャックをあげる動作をしてみるも、彼は話に夢中で気づかない。
今日は水玉柄だなあ。
まあ別れ話だからな。でも1ヶ月前もこんな話をして結局こうしてよりが戻ったんだから、たぶん大丈夫。
どこかでウグイスが楽しげに鳴いている。
【お題:伝えたい】
よくがんばったね
たぶん世界でいちばん
今日きみがえらかった
できたことも
できなかったことも
全部ひっくるめて
よくがんばったね
できたことも
できなかったことも
全部ひっくるめて
世界でいちばん素敵なきみへ
「伝えたい」
【伝えたい】
こいつはオレを『性的』に見ている。
なんて
そいつはそんな目をしていた。
男だらけの社会で
ただ仕事をしているだけなのに…
「愛斗さん!」
「はい」
ただ従っていただけなのに
それはそれは 汚らわしくて…
「愛斗くん…君、エロすぎだよ 誘ってるの?
今度いつ会える?君にまた会いたい
思いっきりデートしようよ
大丈夫 任せてよ
この関係は誰にもバレないから」
…どうしてなんですか?
毎回、どうでもいい奴に抱かれる度に
あの8歳の頃の悪夢を思い出す。
あの時、
オレは恐怖から目を背け
ただ『人形』のようになっていた。
聞こえる荒々しい吐息と
汚らわしい愛液と
鋭い痛みの感触
時を経て大人になり
せっかくまともに働くつもりだったのに…
ああ…所詮は『人間』でした。
欲望には逆らえない汚らしい人間…
やはりあなたも同じでしたか。
伝えたい
違う、そんなんじゃない。
口から出る言葉は、本心から逸れていて、
伝えたい言葉が置き去りになる。
大事なことのはずなのに。
あなたにこそ伝えなくちゃいけないのに。
#171
「きょ、今日の…ロクは…」
肩で息をしながら、絶え絶えに吐き出した。
三段飛ばしで駆け上がってきた、震える膝を押さえながら呼吸を整える。
連続不審水死事件。その調査としてあてがわれた鑑識官の守山の元に届いた“新たな水死体”の速報。
休みであったが、逸る気持ちを抑えられずに職場に飛んで来たのだ。
「今日揚がったのは男。年齢は…10代後半から20代前半ってとこだな」
「揚がって間もないんですか?」
「ええ、検視に回ってるとこだ。じきにうちにもサンプルが回ってくる」
鑑識課長はふっくらとした腹をたわませて椅子にどかりと腰かける。
どれだけの量のサンプルが届こうとも、物ともしない課長がこれだけ疲労を見せるのは珍しい。
「課長…今回の遺体、何かあったんですか?」
聞きたいが聞きたくない。聞きたくないが聞かなければならない。
つい先ほどまで“海神様のお社”にいたのだ。現実と非現実が混ざり合う感覚に眩暈がしそうだった。
「お前には伝えんとならんな。今回は、事件性がありそうでな…」
頬から吐くように、短い呼気をプゥと吐いた口元がどこか遠い景色のようだ。
「首には絞められた痕。ポケットにはノートが詰め込まれてな…」
そっと差し出された写真には、引き揚げられてすぐの写真とみられる、濡れたノートが写っていた。
くしゃくしゃに水で固められた、かろうじてノートであったと分かる紙の塊。
そこには、赤黒い文字がびっしりと書き込まれていた。
何で何で何で何でわかってくれないの!ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ
ツタエタイのに
どうして
ドウシテ
アイシテル
「残念ですが貴方は死にました」
「へっ」
いきなり真っ白な世界が広がったかと思うと、目の前に小さな女の子が現れて僕に淡々と言った。
「死因は失血死。信号無視をしたダンプカーにはねられて即死でした」
「え、な、何を」
「よって、これから冥界へ向かう手続きに入ります。まず、お名前と誕生日と血液型を」
「待ってくれよ。死んだってなんだよ。ちっとも意味わかんないよ」
少女は僕を見て顔を曇らせながら溜息を吐いた。そんな憐れんだ目で僕を見ないでくれよ。いきなり死んだとか言われて、こっちはそれどころじゃないんだよ。ちゃんと分かるように説明してくれ。
「ていうか、ここ何処なんだよ」
「三途の川を渡りきったところです」
「まだそんなこと、言って……」
「無理もありません。貴方は自分が車に轢かれたことを自覚する前に息絶えたんですから」
「だから!なんだよそれ!僕は死んでなんかいない!来週には結婚式が控えているんだ!死んでなんかいられないんだよ!」
自分よりふた周り近く離れてそうな子に向かって怒鳴りつける。本当ならこんなことしない。けどこれは夢なんだ。たちの悪すぎる悪夢なんだ。だったらいくらでも喚いて早く目を覚ますべきだ。
「嘘なんだろう?早く覚めてくれよ。帰らなきゃ、彼女が僕を待ってるんだよ」
「じゃあ、見てみますか?」
少女が手を掲げると、真っ白な空間の中にスクリーンのようなものが現れた。そこに見えるのは紛れもなく僕の彼女だった。黒い服を着て、何かにしがみついて泣いている。それも尋常じゃない泣き方だった。
「あの中に貴方が入っています」
彼女がしがみついているのは棺桶だった。目を疑う他なかった。そんな、まさか。本当に僕は死んだのか。ならば、今見せられているこれは僕の葬式だというのか。
「うそだ」
「残念ですが」
淡々とした少女の言葉が響き渡る。僕は死んだ。それが真実だと、認めざるをえない声音だった。
「貴方はあまりにも不慮の事故で可哀想な最期をとげたので、1つだけ願いを叶えることができます」
「……死んだんだから、叶えたいことなんて何も無いよ。生き返らせてくれなんて、無理だろ?」
「そうですね。事実は変えられません」
「じゃあ何も要らない」
がっくりと項垂れて、僕はその場に倒れ込んだ。もう、どうだっていいや。どうにでもなってしまえ。何もかも信じられない。もう何も見たくないし聞きたくない。どうせその内できなくなる。
「良いんですか?例えば、あの女性」
「だって、どうすることもできないじゃないか」
「貴方も可哀想ですが、残された彼女も凄く辛い気持ちだと思います」
「そりゃそうだよ。僕ら、本当は一緒に暮らすはずだったんだから」
彼女はいつまでも泣き続けている。酷い嗚咽で、こんなに取り乱した様子を初めて見た。寂しがり屋で優しい僕の愛する人が、僕の棺桶を抱き締めて泣き叫んでいる。
「……ごめんな」
僕は悪くないのに謝らずにはいられなかった。僕のせいで、彼女はこれからひとりぼっちになる。孤独にさせてしまう事実に、何の言葉も浮かばなかった。でも伝えたいことは山ほどある。感謝とか懺悔とか願望とか好きの気持ちとか、こんなにも伝えたいことが沢山あるのに、どれ1つ上手く言葉に表せられなくて、辛くて悔しくて、泣いた。
「その総てを伝えましょう」
少女はぽつりとそう言って、スクリーンの中の僕の彼女に向かって手のひらを向けた。まばゆい光の線が彼女のほうへ伸びてゆく。すると絶えず泣いていた彼女が不意に顔をあげ僕のほうを見た。スクリーン越しに彼女と目が合った。真っ赤に泣き腫らした彼女の瞳が僕をじっと見つめている。
「あぁ――」
最期の最期まで、うまく言葉がでない。ごめんとかありがとうとかさようならとか愛してるとか。伝えたいことは沢山あるのに声にならない。でも少女が届けてくれたようだから、無事に数え切れない僕の思い総てが伝わってくれてればいいな。今はそれしか考えられない。
願わくば、もっと一緒にいたかった――
それを思った瞬間に僕は光に包まれた。お迎えか。
少女が差し伸べてきたその小さな手を取り、光の中へと歩きだした。
きっとあなたは知らないのでしょう。
本当は私がとても小心者だということを。
人の目に映ることが怖くて、
真っ直ぐに誰かを見据えることが苦手だった。
私の言葉が誰かを傷つけないか、
言葉を選び過ぎてやがては声を失ってしまった。
些細な人の声に恐怖を覚えて、
いつしか無意識に両の耳を塞いでしまった。
私の存在は必要ですか…?
疑り深く疑って、疑心暗鬼に包まれる。
本当はあなたに伝えたい。
どんなに明るく振る舞ってはいても、
心の中では怖いくらいにあなたに怯えていると。
あなたから貰う愛さえも疑って、
いつかは路傍に捨てられるのではないかと。
あなたはきっとその話を笑って聞くのでしょうけど、
その笑顔ですら、私にはただ恐れの対象でしかない。
だけど、そんな私に触れてくれるあなただからこそ、
私はあなたのこの腕を離すことができないのです。
【伝えたい】
唐突に来る寂しさ、悲しさ、虚しさをどうやってのりきるの?
雲ひとつない空に、雲を想ってもわたしのわがままひとつでは何も動かせないし、変わらない。だけどソレを求めてしまう。
夜になれば、明日になればきっと、雲だって顔を出すのに。そこに太陽と月、無数の星が出ているのに、雲だけがいない。流れる風を、水を堰き止めようとしても、願いは叶わない。落ちるりんごを必ず手にできるとは限らない、えぃっと唱えたら信号が青に変わる、あの角を曲がればあなたがいる、そんな不確定な可能性を追いかけてしまう。
伝えようのない
伝わりようのない
【伝えたい】想い。
叫べ吠えろ
それくらいしなきゃ
伝わらないから
どうしてくれようか
この真っ赤な身の内
〈伝えたい〉
伝えたい事には
勇気が要る
その意味には
君が必要
伝えたい。
お腹空いた!!
伝えたい。
抱っこ!!
伝えたい。
大丈夫だよ。
伝えたい。
泣かないで。
たくさんいっぱい
伝えたい。
声を出して伝えたい。
でも伝わらない。
悲しいな。
悲しいな。
でもね、悲しくないよ。
だって君は、必ず僕にこう言うの。
大好きだよって。
ずっと一緒に居てねって。
嬉しいなぁ。
嬉しいなあ。
これだけは、
僕も君に伝えられる。
大きくしっぽをふって。
大きな声で。
君むかって。
僕もだよって。
大好きだよって。
ずっと一緒に居ようねって。
僕は、この気持ちを
君に伝えるために。
分かってもらえるために。
こう言うの。
【⠀ワン!!⠀】ってね。
それは愛では無いと、思うのです
貴女は幸せになるべきだと、思うのです
言葉にしようと思うことはある。日に一度。いや、もっとかもしれない。けれど、お前の背中を見ていると……言葉にして伝えてしまうと、お前が居なくなってしまうような気がするんだ。
だから、俺は、今日も噤んでしまう。
「今日はいい天気だな」
そんな言葉しか伝えられない。
2024/02/13_伝えたい
あなたに伝えたかった。
大好きだって。
貴方に伝えたかったんだ。
大っ嫌いだって。
でも、伝えられないんだ。
あなたは、私の嫌いなあいつが好きだったから。
貴方は、私の大好きな彼が好きだったんだから。
両思いなら、仕方ない。
けど、許せない。
みんな、許せない。
私を残した彼も。
私を惨めにしたあんたも。
そして、本当の気持ちを伝えられない私も。
みんなみんな、大っ嫌いだ。
でも、2人には伝えたいんだ。
せめてもの報い。
『ふたりとも、お幸せに』って。