長い長い遠征から旦那が帰って来たとの知らせを受けて急いで駆け付けた旦那の屋敷。
「帰って」
そう奥様に撥ねつけられた。
「旦那が帰って来てると聞いた」
「誰のせいでこうなってると…!!!」
何故だかすごく怒っているようだ。
旦那に何かあったのだろうか。
嫌な予感がする。
「奥様お願いだ。旦那に合わせてくれ」
「一目でいいんだ」
追い縋って袖を掴んで必死で懇願する。
「離してよ!!」
奥様は振り払おうと必死だがこちらも譲るわけにはいかない。
「一目でも、一目でもいいんだ!!お願いだから」
うんざりしたのか奥様は俺が掴んでた袖をもぎ取りながら睨みつけた。
「もう勝手にして。自分の目で確かめるといいわ!」
道を開けられたその隙間を駆け抜けるように旦那のいる寝室に向かう。
そこで目にしたのは目を閉じたまま横たわる旦那の姿だった。
「もう長いこと目を覚まさないわ」
いつの間にか横に来てた奥様に話しかけられた。
「身体中怪我だらけだし目も開けない」
射抜くように目が合った。
「あなたのせいよ」
「あなたがあんな事しなければこの人はこんな目に遭わなかった」
静かにたんたんと責められる。
よろよろと駆け寄り旦那の身体を必死で揺すると周りから止められた。
「何してるの!!」
そんな声を無視してさらに旦那の身体を揺する。
「旦那!旦那!!目を開けてください!!」
何度も何度も語り掛ける。
それでもその目が開く事もあの憎たらしい笑みですらも見ることが出来なかった。
旦那はずっと昏睡状態で居るらしかった。
「いつまで居るのよ」
あれから旦那のそばにずっと付いて離れない俺に向かって奥様が言い放つ。
「旦那が目を覚ますまで居る」
「帰りなさい」
「いやだ」
「医者だって手を尽くしたのよ。貴方にやれる事はないわ」
「それでも側にいる」
こうなったのは俺の責任だから。
俺が考えもなしに行動して敵国の舞を舞ってしまったから。
だから旦那は俺の尻拭いをするために戦地に赴いた。
「勝手にしなさい」
ひとつ大きなため息を吐いて奥様は居なくなった。
旦那の部屋に旦那と俺、ふたり。
そっとその色を失った頬に触れてみる。
「旦那。旦那…なぜ目を開けない」
どうしてこんな事に。
俺のせいだ。
「起きてください。お願いだから」
その手に腕に胸にそっと触れる。
腕にも脚にも大きな傷があった。
ごめんなさい。ごめんなさい。
こんな事になって。
俺が考えなしだったから。
何だってするから。
お願いだから目を開けて。
そしてまた罵倒してもいいから。
もう会えなくてもいいから。
お願いだから、また目を開けて笑ってよ。
まだ生きようともがいているその胸に懇願するように顔を埋めた。
「旦那…旦那…帰って来て。頼むから」
🍁(伝えたい)
2/13/2026, 9:53:30 AM