大地が割れるような音がする。
どうやら明日この世界は壊れてしまうらしい。
突然降って湧いた世界滅亡。
残された時間はあと僅か。
でもね、多分だけど。
ぜんぶぜんぶ壊れてしまった後、またこの世界は新しくなるのだ。
だから心配いらないよ。
そっと目を閉じて、その時まで一緒に眠ろう。
最期は笑って、そしてまた笑顔できみとぼくは会う。
抱きしめる手にそっと力を込めた。
どうか神様ほんの少しの希望をぼくらに。
(明日世界が終わるなら……)
ぽかぽかの陽だまりの中で眠る布団とか。
最高過ぎてなかなか出れない。
まどろむ意識の中ふと聴こえてくるハミングに。
耳を澄ますと隣りの部屋から聞こえてくるちょっと調子外れの鼻唄。
きっとおれの代わりに洗濯ものを干してくれちゃったりしてるのだ。
その姿を想像ながらその声にそっと目を閉じる。
決して上手くないし、なかなかおれの前で歌ってはくれないけど。
君の奏でる歌声がおれは好きだったりするのだ。
(耳を澄ますと)
「それなにそれなにーうちもやるー!!」
と、まるでたくさんの色を撒き散らかさんばかりの元気いっぱいの笑顔でこちらに走り寄ってくる。
あたしたちの前にはいま流行りのさまざまなシールが机いっぱいに広がってた。
「で、意気込んで参加するって言ったけどあんたのそのシールは何?」
あの後また交換しようとおのおの集めたシール帳を広げてるのが現状。
「え?可愛いっしょ」
問われた本人はなんでそんな事を言われてるのか分からないと言う風でポッキーなんて口にしながら首を傾げる。
「いやいやいやこれはなによ?」
彼女の前に広げられたシールを指差して聞く。
「これはーせんべいのキャラクターでおにぎり君でしょ。そしてこれはチョコのキャラクターのサンダーくんにー」
それぞれのシールを指差しながらどこまでも続くお菓子メーカーのキャラクター。
「待って待って…あんたのシールお菓子のノベルティしかないじゃない!!」
「いいっしょ!美味しく食べれてキャラクターも可愛い」
悪びれずににっこりと笑ってさらにそのお菓子について熱く語られる。
「もういい。分かった分かった」
「で、なに?どれと交換する!?」
溢れんばかりの笑顔に思わず得体の知れない牛のキャラクターのシールを指差した。
「お客さまーお目が高いですねー♪」
また彼女の周りに明るい色彩が纏われてるように見えた。
なるほど。彼女の眩しいほどの彩りはお菓子から出来ているらしい。
(カラフル)
真っ暗な視界からまぶたをゆっくりと開けると、そこには俺を見つめる整った顔があった。
さらりとその顔を柔らかな髪が流れ落ちる。
「なんだここは…天国か?」
言った瞬間にぱちりと勢いよく頭を叩かれる。
「いた!!何すんだよ」
「ふざけた事言うなよ。いきなり倒れたから何事かと思うじゃないか!!!」
倒れた…?だれが??
落ち着いて現状を確認してみる。
ここはソファの上で…コイツの膝に。
………ひざまくら!?!?
「やっぱりここは天国じゃないのか!!」
ごろりと寝返りを打ち彼の腰に抱き付く。
「お前!人が心配してんのにふざけんな離れろ!!」
シャツを引っ張られてるが力いっぱい抱きついて離さない。
だってこんな役得なかなかない!!
「やーだー!!」
「おいこら冗談やめろ」
「絶対離さない」
シャツなんて伸びたってどうだっていい。
いまこの瞬間を逃すものか。
しばらくジタバタ俺の下でもがいてたけど盛大にため息を吐いて諦めたみたいだった。
「お前…もう具合はいいのか?」
「んーあぁ…ただの寝不足ー。仕事が立て込んでて寝たから大丈夫よー」
目の前のお腹にすりすりしてると小気味よく頭を叩かれた。
「ひどい…病人よあたし…」
「誰が」
ちらりと恨めしく見上げると冷たく笑われた。
「もういいなら離れろよ。重いんだよ」
「いやだよ。こんな事滅多にないもん」
「ふざけんな」
言葉とは裏腹に優しくあたまを撫でる気配がする。
「あんま無理すんなよな」
小さく聞こえたその声に視線をあげるとその顔は違う方を向いていてほんのり耳が赤く染まってる。
「やっぱりここは天国だなー」
思わず緩んでしまう頬に声だって弾む。
「またバカなこと言ってる」
呆れてこちらを向いたその顔に、手を伸ばして軽くキスをした。
(楽園)
もうみんなの元に届いただろうか。
みんなにとって決して嬉しくない報せ。
長く続いた俺たちのバンドはひとりが離れ活動を休止する。
脱退と活動休止。
この2つの衝撃を1度に、俺たちに愛を捧げてくれているファンのみんなへ伝えるのはとても辛くてしんどい。
こんなにもお互いに信頼し築いてきた俺らの関係にこんなにも楽しくない出来事を伝えなければいけないと思うと逃げ出したくなるほど嫌だった。
発表が近付くにつれ、上げなければいけない公式文を書いては消し、また書いては足したり減らしたりした。
どう伝えていいか分からない。
俺らだってこれが正しいとは正直分からないんだ。
いつからかズレてきた方向性。
同じ方向を見てがむしゃらにやって来た筈だった。
時には衝突した。それでも話し合い、何とか乗り切って来た。
だけど盛大に祝った周年ライブ。
ここまで来た、ここまで来れたその集大成のライブでやり切ってしまった。
疲れてしまった。消耗し切ってしまった。
俺はずっとロックバンドでありたい。
ロックやってこそのバンドだと思う。
流行りなんて知らない。
だけど、そうでもないメンバーだっている。
流行りに乗るのも悪い事でもないし、幅を広げるのも悪くはない。
分かってはいる。分かってはいるんだ。
お互いの妥協点をすり合わせてここ数年は何とか形を保っていた。
だけど日数が経つにつれ赦せない部分が増えていく。
違う違う俺がやりたいのはこんなのではない。
激しくぶつかる事も増えて来た。
間に入るメンバーも辛いという事も頭から抜け落ちてた。
「もう辞めたい…」
限界だった。いつの間にか口からこぼれ落ちていた。
決して仲良しこよしとまではいかなくても音楽を通して心を通わせたメンバーだった。
こんなに衝突し合って作る音楽とは本当に良いものなのか。
もう全てを手放したくなった。
しばらく沈黙が流れたその後にぽつりと声がした。
「じゃあ、俺が辞める」
それは自分とよく衝突してたメンバーだった。
別にこのバンドを無くしたいわけじゃない、意見が対立する俺が抜ける事で成立するならそうしよう。
という事だった。
そうじゃなかった。
別に俺は彼に抜けて欲しかった訳じゃない。
だからと言って譲歩も出来なかった。
何も答えが出ないままずるずると月日は過ぎた。
このままではいけない。
きっとずっと好きで居てくれるファンならこの異質な状況に気付いてしまうかもしれない。
耐えられないなら俺自身が抜ければいいんだ。
でもそしたら俺の歌は、その声に惚れに惚れ込んだ彼に歌ってもらえない。
俺の歌は彼のためにあるんだ。
彼が歌ってくれなきゃ俺が作るこの歌は意味がないんだ。何の価値もない。
このひとの歌声を手放したくはない。
だから1つの手を離し、ただ黙って差し伸べてくれるもうひとつの手を握りしめる事にした。
それからファンのみんなも。
どうしても無視する事はできない。
こんなに好きで居てくれるのに置いていけるわけがないと思った。
自分だけしんどくて何もかも辞めてしまおうかとも思ったけど、どうしても無視出来なかった。
支えられてここまで来た。
これまでもこれからも。
だから、少しだけ待ってて欲しいんだ。
悲しい報せを届けてしまうかもしれない。
それで傷付き離れてしまうかもしれない。
それはごめんね、受け入れるよ。
でも少しだけその先に明るい未来があるように考えるよ。
だから少しだけ待っててくれないか。
もう少し先で君たちに明るい報せが届けられるように。
(風に乗って)
待っていてくれてありがとう。
これが書き上げたい話しでした!
たくさんのありがとうをあなたに。