冬至。

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3/27/2026, 9:30:25 AM

「あるんだけど…ないんだよねぇ」
ソファでくつろぐ俺は、ちらりと隣りに立つ男を覗き見た。
「なによ?」
上からジロリと見下ろされる。
「何でもない」
どうせ「お前が欲しい」って言っても鼻で笑って馬鹿にされて終わりだし口に出すのも馬鹿らしい。
「俺って可哀想…」
どさくさに紛れて横に立つ男の腰に抱き付いた。
「おま…何やってんだよ気持ち悪い」
力いっぱい俺を剥ぎ取ろうとする。
気持ち悪いって何よ失礼しちゃうわね。
悔しいから目一杯力を込めて抱き締めてやった。
「ふざけんな!皿洗ってる途中で呼ぶから何事かと思ったら何やってんだよ!そんな事する暇あるなら手伝えよ」
「俺ソファの妖精だから動けなーい」
「地縛霊の間違いだろ図々しい」
「ひど…そんなあなたも愛してる♪」
「はいはい、きもいきもい」
「泣いちゃうぞ」
しつこく腰にまとわりつきながら見上げるとにんまりと笑い返されて
「泣け泣け。存分に泣いていいぞ」
とか言いながら優しくあたまを撫でるのやめてくれないかな?
また好きになっちゃうじゃん。

俺の欲しいもの。
隣りには居てくれるけど、心までは中々俺にくれないんだよねぇ。
早く俺に落ちてくれないかなぁ。
待ちくたびれたよ。



               (ないものねだり)

3/26/2026, 10:20:09 AM

「ねぇ…ねぇってば!!」
「なぁに?」
話し掛けてる最中もその手は止まらない。
「あのさー…俺がピーマン嫌いって知っててわざとやってる?」
俺の目の前の皿には、下には美味しい他の食材も入っているだろう料理の上にこんもりと盛られた色鮮やかなピーマン。
せっせと自分の皿からご丁寧にピーマンだけ選んで俺の皿に運んでいたその手を止めてにっこりと微笑まれる。
「まさかこの僕が丹精込めて作った料理が食べれないとか、そんな事ないよねー?」
サクッとピーマンの山にフォークを刺してそのまま俺の口に差し出される。
それを俺は意を決して口の中に入れた。
口の中に広がる苦味。
やっぱりどうしたって好きじゃない。
何とか飲み込んで水で流し込む。
「美味しいだろ?好き嫌いはよくないぞ!」
にこやかにご機嫌な彼は言い放った。
それを恨めしそうに見つめる事しか出来ない。
反論したら何をされるか。
「…やっぱりお前のこときらいだ」
ひっそりと彼に聞こえぬように呟いた。
問題は残りのこの緑の山をどう攻略するかだ。
何とか彼の機嫌を直して回避する策を捻り出さなくては。
目の前にはご機嫌にピーマンを差し出してくる強敵。
にこやかなのが逆に怖い。
俺は何をして怒らせてしまったんだろうか。



              (好きじゃないのに)

3/24/2026, 9:33:55 AM

きみは友だち。
男だとか女だとかそんなの飛び越えて、くだらない事でも情けない事でもどうでもいい事でも何でも話せる友だち。
一緒に居ると楽しくて、気付けばいい事があったり悩んだり何か聞いて欲しいことがある時に思い浮かんで連絡するのは彼女だった。
お互いに好きな相手が居て、まぁどちらも花開くことはなかったけど恋愛相談とかもしててどんな人が好きかとか知ってるしアドバイスもしたりしたけど。
君のことを好きだなんて、意識したこともなかった。
だけど何だろ。
一緒に居る時間が長ければ長いほど彼女という人が可愛いとか思える時間があって。
やばいやばい。冷静になれ。
ひょっとして…ひょっとするけどあれ。
もしかしてあれだよな。
俺、彼女のことが好きなんだ。
「…最悪」
それはさすがにやばいだろ。
彼女にとっても俺は気の置けないただの友だちでそれ以上でもないはずだ。
いつでもただ側にいて気兼ねなく話せるただの友だち。
楽しくて会いたいから会う、それだけ。
そうなんだよ、俺たちはただの友だち!!
そっちに向かっては駄目だろ。
この心地いい関係は今の状態がベストでそれより先は望まれてない。
進んでしまってもし拒絶されてしまったら…無理。
このまま何も言わずに側で笑って過ごせたらそれで。
会えなくなるよりはずっとマシなはず。
でもなぁ。
彼女に特別な人が出来たら俺は側に居れるんだろうか。
相手に異性の友だちの存在とかいい気分じゃないよって言ってたもんな。
そうなると離れて行っちゃうのかな。
「…それは嫌だな」
きみは友だち。
ただの仲の良い女友だち。
ずっと隣りに居たい、特別なひと。
「あーどうする俺!!」
この想いをぶつけてもいいだろうかきみに。



                🙋‍♀️(特別な存在)

3/23/2026, 9:53:24 AM

散々酷いことを言われて拒絶されたのに。
顔なんて見たくないのに周りをウロチョロし続けて散々苛つかせてくれたのに。
突然「君が気になるんだ」とか言われたって。
そんなの今さら。
今さら何なんだよ。
ってめちゃくちゃ腹が立つけど。
腹が立ってしょうがないけど!!
それでも嬉しいと思う自分が居るなんて。
ほんと何なんだよ。
こんなにされてもまだ好きだなんて。
ほんと俺バカみたいだ。


                 (バカみたい)

3/22/2026, 9:55:54 AM

忘れものを取りに誰もいないと思っていた教室のドアを勢いよく開けると、そこにはこのクラスの静かな優等生の姿があった。
眼鏡越しのきれいな瞳がこちらを向いた。
「あーごめん。忘れものして…邪魔した?」
がっちり目が合って咄嗟に謝る。
「別に、ちょっと驚いただけで」
そう言って手元のノートに視線を戻す。
「すぐ出てくからさ。そっちは日誌?」
さらさらと整った字を綴っていく彼の側を通り過ぎて自分の席へと移動して話し掛ける。
「日直だから」
ガサゴソと机を探っていると、少し間が空いて目線は下に落としたまま答えが返って来た。
後ろの席からこっそりと彼の背中を盗み見る。
思い返せばこんなにちゃんと話すのは初めてかもしれない。
きちんと切り揃えられた黒髪。
俯く伸びたその首筋のきれいなうなじに目が行く。
知らぬ間に無遠慮に見つめていたのがばれたのか
「なに?」
と振り返らぬまま声を掛けられた。
慌てて目を逸らす。
ばれてないと思うけど後ろめたい。
「何ってなに?」
「…別に」
素っ気なくぽつりと呟かれた。
「あんたはまだ帰らないの?」
「おれはもう少し掛かるから」
聞けば返事は返ってくる。
それはちょっと気分がよかった。
自分でも知らないうちに笑みが浮かんでくる。
目の前の彼に集中している側で水の滴る音がした。
窓の方に目をやるとさっきまで今にも降りそうだった灰色の雲から雨粒が落ちて来ていた。
「うわ…最悪。雨降り出した」
その声に下ばかり向いていたその顔がふと窓に向いた。
その横顔をじっと見つめて話し掛ける。
「なぁ…傘持ってる?」
「持って来てるよ」
「何で持ってんの!?」
「今日は雨の予報って出てたよ」
素っ気なく答えて、またその目は手元へ戻って行った。
話している間にも雨足はますます強くなっていく。
静かな教室に雨の音が響く。
「ねぇ…傘に入れてくんない?」
「まだ掛かるよ」
「待ってるから」
そう言って返事も待たないまま椅子をひいて自分の席に座って腕を枕に寝の体制に入る。
ちらりとこちらを見た気配がしたけど、あえて顔を上げなかった。
それから小さなため息が聞こえて、いいとも駄目とも返事はなかったから自分のいいように解釈した。
ザァザァと窓に雨が打ちつける。
静かな教室のなか、ふたりきり。
そっと腕のなかから顔を上げてその後ろ姿を見た。
手元を見たままこちらを見ない彼の後ろ姿を眺めながら、振り返ってこっちを見てくれたらいいのにと強く願った。



                 (二人ぼっち)

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