冬至。

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2/13/2026, 9:53:30 AM

長い長い遠征から旦那が帰って来たとの知らせを受けて急いで駆け付けた旦那の屋敷。
「帰って」
そう奥様に撥ねつけられた。
「旦那が帰って来てると聞いた」
「誰のせいでこうなってると…!!!」
何故だかすごく怒っているようだ。
旦那に何かあったのだろうか。
嫌な予感がする。
「奥様お願いだ。旦那に合わせてくれ」
「一目でいいんだ」
追い縋って袖を掴んで必死で懇願する。
「離してよ!!」
奥様は振り払おうと必死だがこちらも譲るわけにはいかない。
「一目でも、一目でもいいんだ!!お願いだから」
うんざりしたのか奥様は俺が掴んでた袖をもぎ取りながら睨みつけた。
「もう勝手にして。自分の目で確かめるといいわ!」
道を開けられたその隙間を駆け抜けるように旦那のいる寝室に向かう。
そこで目にしたのは目を閉じたまま横たわる旦那の姿だった。
「もう長いこと目を覚まさないわ」
いつの間にか横に来てた奥様に話しかけられた。
「身体中怪我だらけだし目も開けない」
射抜くように目が合った。
「あなたのせいよ」
「あなたがあんな事しなければこの人はこんな目に遭わなかった」
静かにたんたんと責められる。
よろよろと駆け寄り旦那の身体を必死で揺すると周りから止められた。
「何してるの!!」
そんな声を無視してさらに旦那の身体を揺する。
「旦那!旦那!!目を開けてください!!」
何度も何度も語り掛ける。
それでもその目が開く事もあの憎たらしい笑みですらも見ることが出来なかった。
旦那はずっと昏睡状態で居るらしかった。


「いつまで居るのよ」
あれから旦那のそばにずっと付いて離れない俺に向かって奥様が言い放つ。
「旦那が目を覚ますまで居る」
「帰りなさい」
「いやだ」
「医者だって手を尽くしたのよ。貴方にやれる事はないわ」
「それでも側にいる」
こうなったのは俺の責任だから。
俺が考えもなしに行動して敵国の舞を舞ってしまったから。
だから旦那は俺の尻拭いをするために戦地に赴いた。
「勝手にしなさい」
ひとつ大きなため息を吐いて奥様は居なくなった。
旦那の部屋に旦那と俺、ふたり。
そっとその色を失った頬に触れてみる。
「旦那。旦那…なぜ目を開けない」
どうしてこんな事に。
俺のせいだ。
「起きてください。お願いだから」
その手に腕に胸にそっと触れる。
腕にも脚にも大きな傷があった。
ごめんなさい。ごめんなさい。
こんな事になって。
俺が考えなしだったから。
何だってするから。
お願いだから目を開けて。
そしてまた罵倒してもいいから。
もう会えなくてもいいから。
お願いだから、また目を開けて笑ってよ。
まだ生きようともがいているその胸に懇願するように顔を埋めた。
「旦那…旦那…帰って来て。頼むから」


                 🍁(伝えたい)

2/12/2026, 9:42:06 AM

             びーえるだとしたら…?



ぴんぽーん。
店内に響き渡る軽快な来店音。
顔に影が掛かると同時に声を掛けられる。
「ひさしぶり」
最後に会ったのはいつだったか思い出せないその顔は思い出のままふにゃりと笑う。
変わらな過ぎて笑えてくる。
「なに笑ってんの?」
ちょっと困り顔でおれの目の前の席に荷物を置きながら笑い返される。
「いや、変わらないなって思って」
「そっちこそ」
目を細めて笑う。
その笑い方。
相変わらず好きだなぁって思う。
「まぁ座りなよ」
そう言ったらジッとおれの隣の席を見つめて。
「オレそこに座る?」
指を差しながら真剣な顔で返してきた。
「いやいやいや、何でだよ。そっち空いてるからそこに座りなよ」
真面目な顔で何言っちゃってんの。
咄嗟のことで半笑いになりながら目の前の席に案内する。
「そぉ?」
残念そうに向かいの席に素直に収まる。
「オレはお前の隣りに座りたかったのにな」
「男2人で並んで座ってたらおかしいだろ」
笑いながら返すけど目の前のこいつは釈然としない様子で見つめてくる。
「オレは気にしないけどなぁ」
「おれは気にする」
何年経ってもテンポが合わない。
でもこれがおれとこいつの日常だった。
「本当久しぶりな。元気にしてた?」
こうして2人で会うのも何年振りだろう。
どこに行くのも何をするのも一緒なおれらだったけど、高校卒業と同時に進路が分かれてそれっきり。
こいつが遠方の大学に進学したのもある。
でも連絡しようと思えばいくらでも出来た。
あえてそうしなかったのはおれだ。
こいつからの連絡も次第に途絶えた。
あんなにいっぱいこいつは送ってくれてたのにな。
「まさかアイツらが結婚するなんてな」
物思いにふけってたら突然現実に戻される。
「そうだな。あんなに喧嘩して別れる別れないを繰り返してたのに」
今回こうして久しぶりに会っているのもこれが理由だった。
いつもつるんでる友達の1人がずっと付き合ってたこれまた同級生と結婚するって事でその結婚式のためにこいつは帰って来てるのだった。
「それにしてもさ。まさかここがファミレスになるなんてな、思いもしなかったよ」
そう笑いかけられておれも釣られて笑う。
そうここは元々は公園と言うには少し寂しい作りの空き地でよくこいつと遊んでた場所だった。
こいつが居なくなってファミレスが建つことが決まったその時にひとりこっそりと覗きに来たことがある。
無くなってしまうこの想い出の場所に立ち尽くしたあの日。
その場所に今こいつと共にいる。
「本当だよな。おれらの想い出の地」
冗談めかして笑い掛けるけど目の前のこいつは薄っすらと笑って。
「でもまたここでお前とたくさん会えるね」
そう言った。
またここで、たくさん。
そう聞こえた。
言われた意味を咀嚼してる間に重ねて発されたその言葉は、
「オレ、こっちに転勤になったよ。帰ってくるんだ」
真っ直ぐにおれに刺さる。
思わず目を見開いて何も言えずにただ目の前のこいつを見つめることしか出来なかった。
「だから…」
その後に続いた言葉が遠く聞こえた。
そんな都合のいい展開なんてあるはずないんだ。



                 (この場所で)

2/11/2026, 9:56:24 AM

彼について問われたらみんなこう言うだろう。
傍若無人なゴロツキだと。

「あんたまた街で騒動起こしたそうじゃないか」
朝早く屯所の自室で深酒で酔いの冷めやらぬ風情で横たわっている男に、この組織を取りまとめる男が詰め寄る。
「あぁん?そんな事した覚えねぇな」
大きな体躯でぞんざいに横たわりながら上目遣いでその男に視線をよこす。
「角の問屋を襲ったのはおめぇさんじゃないってことかい?」
静かに怒りの色を添えて上から見下ろす男は問い返した。
「しらねぇな。どっか他のやつがやったんじゃないのか」
とぼける男に業を煮やしたのか、その男はピシャリと盛大に音を立てて障子を閉め足高に去っていった。
「うるさい」
ポツリと言ってまた寝返りを打って寝直す。
後に知れるのだが、その問屋は物品を買い占め私腹を肥やしていた。
それが彼は気に入らなかったのだ。
またある日は屯所によく遊びにくる女の子が行方不明になった。
かくれんぼをしていたらしい。
周りのみんなが必死に探したが、次の日にはその子の訃報が伝えられ、その葬儀からその男はふらりと飲みに消えたらしくそこでも周りの反感を買った。
実はひっそりとひとりで涙を流してた事は誰にも知られていない。
またある時はこの男に付いていきたいと幼い剣士が願った時。
「邪魔だ。付いてくんな」
とそこにあった茶碗を投げられた。
子供相手にと非難を受けたが、その時この男はこの屯所内で自分がよくない方向に向かいつつある事を知っていたのだと思う。
度重なる目に余る暴挙、程なくして彼の粛正が決まった。

その男にはその男なりの正義があった。
誰にも理解されなくても譲れない正義があったのだ。
荒々しく振る舞うその裏で。
この国をよくしようと、その男なりのやり方で成し得ようと。
思う気持ちは誰よりもあったのだ。
誰にも知られる事もなく。
その強い信念は。

そして、
彼がどんな人だったかと聞かれたらみんな変わらずこう言うだろう。
彼は、傍若無人なゴロツキだったと。




             ⚔️💙(誰もがみんな)

2/10/2026, 10:00:06 AM

「やるよ」
軽い感じのその声と共に俺の顔に降ってきた黄色いかたまり。
目一杯広がるその黄色を視界から引き離すとひまわりの花束。
「どしたのこれ」
季節外れのその花をくるくると回しながら珍しそうに眺めながら聞く。
「お前に似合いそうだったから」
目があってやんわりと笑われる。
「男に花って…お前マジ?」
半ば呆れ気味にそう返す。
「なんかねー珍しいなーって思ってまじまじ見てたらお前思い出した」
「だからって買ってくるか普通」
「なんでよ。似合ってるよ」
何でか自信満々な感じで言われて変に照れてしまう。
「まぁ、せっかくだから貰ってやる」
「そうしてそうして!」
にこやかに満足気で何だかなって思うけど楽しそうならいっかとか思ってしまう。
不意にじっと見つめられてるのに気付いてたじろぐ。
「なんでそんなに見てんだよ…」
「ん?いや、きれいだなって」
「あー花が?」
「いや、そーじゃなくて」
きれいな指が俺の方をそっと指差す。
その意味を理解し掛けて首を振って否定する。
「バッカじゃないのお前」
慌てて差された指を掴んで引き下ろす。
目の前にはにんまり笑った顔。
何だか憎らしい。
「ねぇ。口開けて」
言われるまま条件反射で口を開けると、不意に口に何かを突っ込まれる。
反射で取り出そうとするけど甘く広がるそれは。
スティック状の飴で。
「美味しい?」
また楽しそうに笑いかけられた。
「…何よこれ」
「お前には正直こっちかなーと思って」
笑いながら差し出されたそれは花束状にまとめられたスティックキャンディ。
「これもどーぞ」
「むしろこっちが嬉しい」
「だよねー」
もう笑うと言うよりニヤつかれてる。
「お前って想像通りの…」
「みなまで言うな」
それは絶対言わせない。
その先の言葉を制止すると耐えきれないとばかりに爆笑された。
分かってる。分かってるよ。
色気なくてごめんなさいねー。
どうせ俺は花より団子だよ!!!



                    (花束)

2/9/2026, 9:57:42 AM

「本気で楽しくないのにむやみに笑うな」
そう言って不機嫌に彼は俺に言い放った。
これは癖だからしょうがない。
楽しくなくても面白くなくても場を和ませるために俺は笑う。
気持ちはそこには無くても笑うカタチは作れる。
表だけでうっすら笑って気持ちは剥がれ落ちて。
心も色を失って。笑って笑って。
それでその場が平和ならばそれでいいのではないか。
それなのに俺が笑うたびに彼は不機嫌になるのだ。
「へらへらするな」
「本当は笑いたくもないのだろう」
無表情で言い放つその言葉に戸惑い、そして苛立ちもした。
「ちゃんと楽しくて笑ってる」
「おまえは…」
少しの間を置いて射抜くように見つめられる。
「侮辱されても笑ってる」
咄嗟のその言葉にハッとして噛み付くようにでも静かに答える。
「笑って何が悪いのさ」
そうしないとやっていけない。
むかついても傷付いても笑って笑って。
そうやってやり過ごしてここまで来たんだ。
そうしないと自分が可哀想だろ。
「そんなの悪いに決まってる」
「お前には関係ないだろ」
「それだと…お前の心はどうなる。お前の気持ちは」
尚も真っ直ぐに見つめてくるその瞳に耐えれなくて何も言えなくなる。
「自分に嘘をつくな。笑いたくない時は笑わなくていいんだ」
そんなの無理に決まってる。
それじゃあ世の中上手く渡っていけないんだよ。
でもなんで。
お前が俺より辛そうな顔をするんだ。


                  (スマイル)

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