「はいこれお前にやるよ」
気軽に渡してるけどそれ結構お高い服だよね?
「俺が会いたかったから!」
自分も忙しいのに少しでも時間が出来たりおれが淋しそうな雰囲気出すと飛んでくるよね?
「ちゃんと食べろよ」
なんて誰がこんなに食べるの?ってぐらいデリバリーしてくれたり。
「これ食べさせたかったんだよ」
ってこれまたお高そうな予約なんてすんなり取れなさそうなお店にさらりと連れていってくれたり。
いつも不安になって見上げると変わらない蕩けそうな笑顔で何も言わずに抱きしめてくれる。
それからそれから。
他にもたくさん。
全部全部すごく嬉しいんだけど。
たまにはおれにも何かお返しさせて。
君はそばに居てくれれば何もいらないと言うけどおれが何かしたいんだ。
君と同じくらい想いを返したいんだよ。
だからたまには、
おれにも君のために何かさせて。
(たまには)
いつの間にか君の視線は彼女に釘付けで。
彼女を見つめる君をぼくは見つめてた。
「なにぼーっとしてるんだよ、おはよ!」
アイツを見つめてたら後ろから首を軽く閉められながら挨拶される。
「別に何も見てないよ」
なんでもないように笑ってアイツから視線をそっと外す。
それから他愛もない話しをしながらアイツの元へ合流する。
「おはよー!」
ぼくの肩に回されてた手は次のターゲットに向かって走り抜けていく。
そのまま戯れる彼らを少し離れた場所から眺めてると、ぼくに気付いた彼がにっこり笑って名前を呼んだ。
「おはよ」
その後に続いた挨拶に同じ言葉で返して隣りに並ぶ。
いつもと変わらないその笑い方、仕掛けてくるプロレス技、戯れるその手。
すべてが変わらないのに。
数日前、アイツはぼくにこう告げた。
「好きな子が出来たかもしれない」
少し照れたように俯き加減にポツリと漏らしたアイツの言葉の意味を理解するのに時間が掛かった。
どうやら委員会で知り合ったその子に恋をしたようだと。
すべてが変わらない君なのに彼女の前ではぼくの知らない君になる。
何だか困惑してしまってそしてなぜ困惑するのか自分の気持ちが分からなくてただただ見つめるしかなくて。
程なく観察していて気付いてしまった。
アイツへの気持ちに。
それからぼくは、その気持ちに蓋をする事にした。
君にはいつだって笑っていて欲しいから。
秘め事にしていれば100年だって続けられる。
ねぇ、恋ってなに?
(大好きな君に)
仕事が終わり家に帰ると上機嫌で迎えられた。
「おかえり〜」
「ただいま」
それに反射で答えて上機嫌で鼻歌なんて口ずさみながら先に歩く恋人の後ろについて行く。
いつもは玄関先まで迎えに来ないのにどうしたんだろうと考える。
リビングに着くとテーブルの上にはちらし寿司やらお吸い物やら白酒やらひなあられまで美味しそうに並べられてた。
「わぁ…まるでひな祭りみたいだね」
「そうそう。今日はひな祭りだしね」
そう言いながら席に案内される。
豪華に並ぶその料理に驚きながら素直に席に着いた。
「でもあれだね。ひな祭りって女の子のお祭りじゃない?」
「そうだねー」
「俺もお前も関係ないよね?それともイベント事好きだったっけ?」
まだ席に座らず傍らに立つ恋人を見上げながら疑問を投げかける。
「関係あるよ。お前にもおれにも」
にっこりと笑い掛けられるが訳が分からなくてその顔を見つめ返したままでいると
「ひな祭りってさー女の子のお祭りだよね。女の子の」
がっつり後ろから両肩を掴まれて顔を覗き込まれる。
「うん?」
なぜか圧を感じて曖昧に返答してしまう。
「女の子のね。そして」
意味ありげに間を置いてにっこり笑って付け足された。
「厄払い」
その笑みが怖くて無言でいると
「ねぇねぇ。この前SNSでメッセージやり取りしてたオンナだれ?たまたま見えちゃったんだけどさー」
耳元で低く囁かれた。
心なしか肩に掛かる手にも力が込められた気がする。
「あれは会社の業務連絡で大した意味は…」
「コノマエノノミカイタノシカッタデスネー」
答えてる途中で抑揚もない声で遮られて言葉を失う。
「って書いてあったよね?確か」
「それも会社の付き合いで…」
「そう…」
ポツリと呟いて目の前を通過したその指がきれいに並べられたひなあられを一粒摘んで、それから俺の口元に運ばれる。
「ちゃぁんと食べてよね、厄払い」
そのまま口に入れられる。
「浮気は許さないからね」
怒ったように呟いて、そしてそのまま口付けされた。
それを咄嗟に引き寄せて深く口付ける。
こんな可愛い恋人が居るのによそ見なんて誰がするかよ。
でもせっかく用意してくれた事だし美味しくいただくことにしよう。料理も恋人も。
本当に、“今日は楽しいひな祭り”になりそうだ。
素敵なお祭りありがとう。
(ひなまつり)
天高く青い青い空をぼぅっと見上げる。
頭の中は空っぽにして。
何も考えずただただ空を見上げる。
おれの魂はただ今遠い遠い空のなか。
「おい、よだれ出てるぞ」
ポコンという音とともに丸めたプリントであたまを叩かれる。
意識を空に残したまま声のする方へ顔を向けた。
呆れた顔でこちらを見てる幼馴染と目が合った。
「誰の居残りを手伝ってると思ってるんだ」
ため息混じりにそう呟かれて自分の置かれてる状況を思い出す。
そういえば宿題のプリント忘れて居残りさせられてる途中だった。
ひとり教室に取り残されたおれを憐れむように一緒に残ってくれてる彼を置き去りに心を遠く飛ばしてしまっていた。
「天気が良すぎてつい見ちゃうよねー」
にひゃらと笑いかける。
「まだ寝ぼけるつもりなら俺が起こしてやろうか」
ちらりとこちらを見ておれの頬に手を当てて顔を近付けてくる。
咄嗟に身を引くおれを見て笑って。
「起きたか?」
さらに不敵に笑った。
「お前はなんちゅう事をしようとしてんだ」
「目が覚めただろ?」
肩ひじ立ててそこに顔を乗せ下から見上げてくる。
「最初から起きてるよ」
恨めしくその顔を睨んでプリントに目を向けた。
一気に夢から揺り起こされて目覚めは最悪。
そんな気分。
現実は世知辛い。
はやくここから解放されるべく頑張ることとする。
監視の目も厳しい。
(現実逃避)
びーえるかな。
酔い潰れて乗せられたタクシー。
「住所教えろ」
行き先を誰ともなく伝える。
「それでは運転手さんお願いします」
静かにそう言って車内から消えていくその手を取って引き寄せた。
「送ってって」
甘えた声で目の前の男の目を見つめると一瞬驚いたような表情を見せた後黙って隣りに収まったようだった。
それがなんだかおかしくてバレないようにこっそり口の端だけで笑った。
「教えた住所がラブホて、お前ふざけてんのか」
肩に腕を抱えられて運ばれた俺はそのまま乱雑にベッドの上に投げられた。
そのままドアの方へ向かう背中を呼び止めて。
「ねぇ」
律儀に振り返るその嫌そうな顔に笑いかける。
「しよ」
「何をだよ」
「せっくす」
さらに一層嫌な顔をされた。
「俺と寝よう」
ベッドの上から誘うように彼を見上げる。
「ひとりで勝手に寝てろ」
冷たく言い放たれて出て行かれてしまった。
「ざーんねーん」
結構本気だったのに。
誰もいない部屋でひとりポツリと呟く。
飲み過ぎて頭が痛い。
ぐらぐらと揺れる世界に目を閉じた。
次の日会社で彼を見かけて足早に近づく。
「昨日はどーも」
前を行くその肩に手を掛けて話し掛ける。
少し揺らぐ肩。
だけどぶれない口調。
「酒はほどほどにしとけ」
「はいはーい」
「手をどけろ。歩きにくい」
そんなに本気で嫌そうに言わなくてもいいじゃない。
その肩に乗せた手に力を込めて引き寄せて耳元で囁く。
「ねぇねぇ…昨日の、」
「酔って覚えてないとか俺はないけど?」
背中をこちらに向けたままの彼はゆっくり振り返って静かに俺を見つめてくる。
ねぇ…君はいま何を考えてるの?
(君は今)