『世界の終わりに君と』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
【世界の終わりに君と】
“世界を終わらせる武器はなんだと思いますか?”
数年前に同期たちと受けた授業を思い出す。
子供の頃の僕は1人、大昔の懐中時計を改造しようと弄くりまわしていた。
そんな“捻くれ者”の僕がおそらく形ばかりのお偉いさんに腕を買われてー自慢じゃないが、成績トップで、この軍隊の技術士官とかになったのは2年前。
ありがたいことに、庶民には決して手の届かない機密も文献も、それっぽいことを言えば簡単に閲覧できる。楽しい。
調査のという名目で勝手に作った大昔の船や戦闘機の模型も、かなりリアルだと自信がある。
でも世界情勢とか仕事に興味はない。
10年前に4つに分断された世界はそれぞれ国民を豊かに暮らさせることと、兵器の開発に勤しんでいる。1つ言うならば、国内の様子はどこも同じ様なものだと言う事。
国民は気ままにのうのうと暮らすだけだ。
まったく、へらへらした顔には辟易する。
医療も科学も人々が何もしなくなるには既に充分で
美しい芸術も、心踊る物語も、今まで作られたものがたくさんあった。
だが、それらは所詮暇つぶし。新しいものが生み出されることはなかった。
……大きな学校、派手なアトラクションの遊園地…
それも今日で終わりだとか誰も知らないな。
あと一時間か。
平凡な月曜日、8月15日の午前6時。
政府が秘密裏に勧めた超巨大な爆弾が,実験と称して遠くの海で爆発する。
奇しくも4つの陣営が同時に。
暇つぶしで片っ端から集めた情報と、
戯れに書いた計算式を信じたくなかった。
自分の腕が落ちただけであってほしかった。
ーガタンッ
嫌な気分だ。
僕は引き千切るようにドアノブに手を掛ける。
明けかけた日に向かって駆け出す。
こんなむさ苦しい部屋で最期を過ごしてたまるか。
世界を終わらせる武器は何だ?? 原子力? ウイルス?
違う、そういう意味じゃない。
5年前、海辺で出会った少女。密入国なんて見つかれば捕まって、酷い目に遭うなんて君のとこでも同じはず。なのに、
『イルカを見たくて』、と言っていた。
明日への希望がなくなって、やる気も精神力もなくなったときを、人は終わりと表現する。
だから
“捻くれ者”の僕と、“愚か”と言われた君。
黒い髪の僕と碧い瞳の君は気付いてしまった。
既に死んだような世界だったと。
湊に着いた。
涼しい朝の風に、結えられた金髪が柔らかく舞う。
透き通るような青い目が僕を写す。
こんな美しい色を僕は他に知らない。
放射能で汚れた世界からまた生命が発生するにはどれくらいかかるだろうか。
海で炭素とか水素が化合して、それからー
まぁいいや。
終わってからもどうせまた始まるだろう。
暖かい白い肩に触れる。
夢を抱いてもがき続けた君。
今やかっこつけの道具になった聖書とやらに出てくる女神はきっとこんな感じか、
君と一緒に海から見る世界の終わりはきっと美しい。
もうすぐ時計の針が重なる。
語り合った夢がいつか叶うことを願って
『世界の終わりは、君とー』
世界の終わりに君と、何をするかって?
そうだなあ。
どこかに出掛けたり、美味しいものを食べたり?
それじゃ、普段と変わらないって?
それでいいんだよ。特別なことはしなくても、キミがいるなら、俺はそれだけでいい。
#42 世界の終わりに君と
「本日晴天、風向きは…と」
航海日誌に書き込みながら、ボクは船長に目を向けた。彼は風に合わせて帆の調整をしている。
「なんだ?言っておくが今日は進むぞ」
「分かってるよ。もうすぐだもんね」
ボクと彼は船で旅をしている。旅といっても、行き先は陸じゃない。
「ああ。この航海でたどり着いてやる。世界の終わりに」
ただ、そこに辿り着けたのは彼の何代も前だから、航海のノウハウも廃れてしまっている。
ボクがこの船に乗ってから数年、手探りながら航海を続けてきた。
ボクと船長が出会ったのは、それよりもっと前-
---
ボクは、船大工の家に生まれた。
でも仕事はあまりない。
というのも、ボクの住む国がある大陸では平和な歴史が続いている。海もはじまりの雨があるだけで、どうもこの世界に他の大陸はないらしいことが伝わっている。
だから、船といえば漁業船か観光船がほとんど。貨物船もなくはないけど、何か物足りない。
そんな日常が続いていた。だけど。
「船を頼みたい」
そう言って入ってきたのは、ボクよりは年上、くらいの若い男だった。
「へえ、どんな船をご希望で?」
「長い航海に耐えられる、小さい船を」
この時点で変なヤツだと分かった。だって漁も観光も長くは海に出ない。貨物船は大きいのが普通。
「お客さん、そりゃあ…」
「他の店では全て断られた。ここが最後なんだ」
さもありなん。だけどこの言葉を聞いて困惑していた父さんの顔つきが変わった。きっとボクも。
「まずは詳し「やってもいいけど、代わりにボクを乗せてよね」
そのときの二人の顔ときたら!
「だが、性別で測るべきではないが女の子だろう?いろいろと大丈夫なのか?」
「悪いが、お客さん。コイツは俺に似て言い出したら聞かねえんだ。腕はいい。長い航海なら整備する人間が必要だろう。乗っけてやってくれ」
「…わかった」
「やった!…で、どこ行くの?」
「世界の終わりだ」
その後ボクたちは、この世界がひとつの大陸と海でできた平面の世界であること、海の沖に降るはじまりの雨よりも、もっとずっと沖には世界の終わりがあることを知った。
さらに、船長の家に代々伝わる書物には、本来は終わりなどない球体であるはずだから、世界の終わりについて調査を進めてほしい、と書かれているとのことだった。
「行くよ、世界の終わりでも、どこにでも」
だってこんなに興奮することがあるなんて!
ここは地に雨無き平なる世界。
海と呼ばれる広き水の、その沖にて天より降り注ぐ唯一は、全てを潤すはじまりの雨である。
さらなる沖には世界の終わりを見たり。
雨に愛を、月に願いを、
世界の終わりに祝福を。
(#29,30と同じ世界)
世界の終わりがきたらどうするかって話をした時できる限りいつも通りに過ごして心の平穏を保とうとするだろうなって言ったら「死ぬ気で生き延びる方法を探す」って言われてそれもそうかもと思った 死にそうになったらきっと死ぬ気で抵抗するだろうななどと思ったり
【世界の終わりに君と】
5年付き合った彼女の生命が、今まさに尽きようとしている。既に意識はなく、自力で呼吸することもできなくなった。
機械の力でかろうじて生命を維持している彼女を目の前にして、僕にできることは何もない。こうしてこのまま、世界の終わりを待つだけなのか。そう思った瞬間、目の前が真っ暗になった-
…ちゃん…っぺーちゃん…徹平ちゃん‼︎
突然、自分の名前を呼ばれて我に返った。目の前には、純白のウエディングドレスに身を包んだ彼女の姿があった。
「舞衣…意識、戻ったのか⁈」
「ううん、違うの。これはね、神様からの『ラストプレゼント』」
「ラストプレゼント?」
「うん。私の生命が尽きるまで、短い時間だけど願い事を叶えてくれるんだって」
「願い事って、何でも叶うのか?じゃあ、舞衣の生命も…」と言うと、彼女は「それだけはダメなんだって」と悲しそうに首を横に振った。本当なら、それが唯一の願いなのに神様は残酷だ。
「それで、舞衣は?」
「うん、最期に徹平ちゃんのお嫁さんになりたいってお願いした。それで、お葬式じゃなくて結婚式で旅立ちたいって」
冷静になって見渡すと、ここは教会のようで周りには誰もいない。彼女の願いが反映されているのか、いつの間にか僕もタキシード姿だった。結婚式か…そういえば、ちゃんとしたプロポーズもまだだった。
「舞衣、こんなタイミングでアレだけど…僕と結婚してください!」
「もぉ〜、何かしまらないなぁ〜」と彼女は笑いながら、僕の手をとって。そして、そのまま2人でくるくると回り始めた。
「初めてだね、こんなふうにダンスするの。こんなに楽しいんだったら、もっと前から一緒に踊ればよかったなぁ〜」
こんなふうに、ずっと楽しそうに笑っている舞衣を見たのはいつ以来だろう。病気がわかってからは、笑顔の中にも深い悲しみがわずかに潜んでいた。解き放たれたように天真爛漫な彼女を見ることができたのは、僕への『ラストプレゼント』なのかもしれない。
「舞衣と踊ったこと、忘れないよずっと」
「ありがとう、徹平。すごく楽しかった。あと、私が最期に願うのは-」
また急に目の前が真っ暗になった。
一瞬、強い光が差し込んだような感じがして目を開けた。その情景は、最初に目の前が暗くなる前と同じだった。少しだけ違うのは、機械につながれた舞衣の口角が、少しだけ上がっているように見えること。
僕は、彼女の生命が尽きたら世界は終わると思っていた。自分には、その時を待つことしかできないと思い込んでいた。でも、その時がきても世界は終わらないし、待つだけじゃないことを舞衣が教えてくれた。彼女は、何を僕に言おうとしていたのだろう。
「笑って。笑って、幸せに生きてね、徹平」
どこからか、舞衣の声が届いた。
大丈夫だよ、舞衣。僕は生きる。
世界の終わりに君と踊ったことを、
胸の奥深くに刻みつけて。
お題 失恋
失恋っていう失恋をしたことがないんだよね。
そんなこと言うとどんだけ良い女気取りだよって突っ込まれそうだけど。
全くそういう事じゃなくて。ちがうんだよ。
失恋って初恋くらい尊いものだと美化しちゃってるの。
きれいで、切なくて、叶わないもの。みたいなさ。
若い頃から瞬間瞬間でしか誰かと交われた事がなくて
次の瞬間にはもう興味がないみたいな、無意味にスマホの画面をスクロールして暇じゃないふりしてるみたいな、
そんな生き方をしていたからさ、どうしてもね。貧相だよね。
お題 狭い部屋
昔ほんと一瞬だけ、6畳ひと間に暮らしてた事がある。
古い5階建のアパートの角部屋、410号室。
観葉植物と本と、無駄に多い洋服たちと、
お気に入りだったゲランのイディールの香りに満たされて、
毎日ベランダから外を見るのが好きだった。
夜はたまに酔っ払いの叫び声とか、揉める男女の声が聞こえてきて、その度に睡眠を妨害されてた。
あの頃、簡単に消えてしまえるくらい人に飢えてたけど、死にそうなほど人が憎かった。
お題 誰にも言えない秘密
言えないことはこの先も口に出すべきでない。自分の身を滅ぼす事になる。
わたしの身が滅びるだけならいいが
たぶん周囲を巻き込んで、わたしでない誰かが深く傷つき、落胆するだろう。
地獄まで持って行くよ、大丈夫。
お題 最悪
最悪なこと。色々あるなぁ。
湿気で前髪が唸るのが気になることとか、縮毛矯正の匂いとか。
溜まったお題を一気にやってる辺り、仕事と生活が慌ただしい。
お題 世界の終わりに君と
世界は終わらないんだけど
もし終わるなら、普段通りに過ごしたいな。
きみが作った少し雑な卵料理と
カリカリというより、もはや焦げてるベーコンと、ライ麦パンで朝の時間を過ごして
庭仕事したり、家事をして、前日に焼いたお菓子とコーヒーで休憩して
昼から外出して、のんびり散歩しながら夕飯の材料を買って家に帰ろう。
2人で台所に立って、夕食を食べて、お風呂に入って、ベッドに入る。
今日も明日も、ずっと愛してるよ、おやすみ。
最近テレビをつけても、どのチャンネルもアニメやバラエティなんかやってなくて、みんなニュースをやっている。
もうすぐ世界が終わるらしい。巨大隕石が地球に衝突、とかなんとか言ってるけど、俺は正直信じてない。
ニュースキャスターが言うには、どうやら今日隕石が落ちてくるらしい。
みんなこんなの信じて、おかしいだろ。
そんな風に思っていたとき、電話がなった。先輩からだ。
「もしもし!」
「もしもし。あのさ、今から公園に来てくれない?話したいことがあるんだよね」
「え、いいですけど……」
「ありがとう。じゃあまた後で」
ぷつん。彼女は要件だけ伝えると、すぐに電話を切った。
先輩から呼び出しなんて、珍しいな……。
そう思いながら俺は玄関の扉を開けた。
公園の入口に先輩を見つけた。俺は自転車のブレーキを踏む。
この公園は、先輩と一緒に帰る時によく寄り道していた。展望台みたいな高いところで、ベンチに座って話したり、肉まん食べたり。
高台にあるから、ちょっと階段がキツいけど。
「先輩!」
「来てくれてありがとう」
「いえ……それより話って?」
俺が問いかけると、彼女はにっこりと微笑む。
「うん、たくさん話したいことがあるの。はやく行こう」
そう言って俺の手を握る。俺は思わずドキンとした。
彼女に連れられたまま着いたのは、やっぱりいつものベンチだった。
「はやくはやく」
先輩に急かされて座ると、彼女はそれから色々なことを話し始める。
本のこと、学校のこと、友達のこと、家族のこと、俺との思い出とか、色々。
先輩は話が上手い。なんだか興味をそそられて、つい聞き入ってしまった。
すると、彼女は
「あなたも話したいこと、ある?私、あなたのことももっともっとたくさん知りたい」
と俺に迫った。
急に言われても話題が……とか思ったけど、話し始めると案外そうでもなかった。
部活のこと、ダチのこと、後輩のこと、ライバルのこと、家族のこと、先輩との思い出とか、色々。
彼女は聞くのも上手だ。うんうん、と相槌を打ったり、聞いて欲しいところで質問してくれたりで、俺はつい話しすぎてしまった。
それに気づいて、
「あ、すみません…俺ばっか喋ってますね」
と謝ると、彼女はふるふると首を振った。
「ううん、あなたの話聞いてるの、とっても楽しいよ。もっとたくさん聞きたいくらいよ」
そう言って笑ってくれる先輩を見て、ああ、やっぱ好きだな……って。
俺がそんなことを思っていると、彼女は少し探りげに喋りだした。
「……あのね」
聞いたことのないくらいか細い先輩の声。
なにか重要なことを言われるのだな、と察した。
「わたし……」
「ど、どうしたんですか?」
「……もうすぐ、終わっちゃうね」
「え?」
「世界。私ずっと信じられなかったけど……なんかようやく実感湧いてきて……最後に思い出作りたいなって……」
先輩は泣きそうな声でぽつりぽつりとそう零した。
「俺は……まだ…信じられないですけど……」
「ふふ…うん、あなたならそういうって思ってた。頑固だもんね」
そう彼女が笑う。苦しげなその表情が、俺を堪らなく焦らせる。
ほんとうに……終わるのか……?
「私、まだやりたいことたくさんあるよ。あなたと沢山色んなところも行きたいし、本だって沢山読みたい…家族とも友達とも、もっと笑っていたかったな」
ついに彼女の瞳から雫が落ちた。
俺は慌てて彼女の目を手で拭う。
「……あなたは最後まで優しいのね」
先輩は俺の手を握った。
そしてぎゅっと繋ぐ。
「……ごめんね。私、あれだけ喋っておいてまだ話してないことがあるの」
「な、なんスか?」
「……最後の最後に伝えるなんて、ちょっと卑怯かもしれないけど…」
そう呟くと、彼女は俺をそっと抱きしめた。
「せ、せんぱ……」
「ずっとずっと、好きでした」
その瞬間、向こうの空に、流れ星が通った。
【2023/06/07 世界の終わりに君と】
世界の終わりは突然告げられて
いつの間にかカウントダウンが始まってたらしい。
隣に立つ君を見上げる。
「滅びの呪文、誰か唱えたのかな」
なんて言えば
「アレか?オレらも言おうぜ!」
て、適当な石を一緒に握って呪文唱えた。
クスクスという小さな2つの笑いはアハハと大きくなったと。
パラパラと崩壊していく世界はどこか現実味がなく、儚くて美しいと感じた。
「世界なんて滅びてしまえばいいって思ってたんだ」
そう言ったボクの目からポロリと雫が落ちた。
少し、いやかなり強引なキミと出会って、世界はあっという間に色づいて。
何もなかった灰色の世界は鮮やかに彩られた。
だから。
告げられた終わりのくる世界が恨めしくて。
訳も分からない悔しさが込み上げる。
キミのいる世界が愛しくて。
キミといる世界が愛しくて。
もっとこの美しい世界をキミといたかった。
キミと過ごしたかった。
「回復魔法とか再生魔法とか言っとこ!」
なんてポーズ取りながら叫んで。
泣き笑いになった。
背後から抱きしめられて、肩口に頭が埋められた。頬に柔らかな髪の毛が触れて擽ったくて。少し振り向けば、優しいキスが降ってきた。
「世界の終わりにオマエといれて嬉しいよ。もう誰にも邪魔されない。世界が終わってもーーー」
ーーーー『ずっと一緒だ』
2023.6.8/世界の終わりに君と
【世界の終わりに君と】
世界の終わりに、かけがえのない大切な人と会って、「来世でも会いましょうね」なんて話ができるならば、とてもロマンチックだろうに、とたびたび考えている。
そう、ずっとロマンチックな妄想のままでいい。
世界の終わりに君と
世界の終わりに君と一緒にいられるくらい
あなたの大切な人の1人になりたい
行きたくない。
何もやりたくない。
体が重たい。無理してやってたことがバカみたい。
いい事起きるって言ってたり悪いことばかりじゃないって言うけどいいことなんて起きないし、負の連鎖。
楽しそうに過ごしてるみんなはいいなって。
自分を傷つけて生きてる実感が湧いてくる。
でも、どんどん傷ついていく自分の手が....
その瞬間まで踊っていよう
//世界の終わりに君と
太陽の光が反射して、海がキラキラと輝く。
青い空。そして、静かな波の音。
〝平和〟そのものだ。
僕はずっと海の絵を描いている。
毎日毎日海に赴き、海の姿をスケッチに記録するのだ。
雨や雪、天気が荒れてる日は出来ないが、晴れや曇りの日にはなるべく描きに行くようにしている。
なぜ俺が、毎日海へ向かうのか。
それは、ある人との約束だった。
『君の絵の中に、私を入れてよ。』
黒いロングのストレートヘアーを風になびかせながら、彼女は僕に言った。
彼女の瞳は、海を写しているような綺麗な青色。
そんな瞳に心を奪われてしまったからか、僕は身勝手な彼女の願いを聞き入れた。
その日からずっと、僕は描く海の絵のどこかに彼女を潜ませている。
浜辺を歩かせたり、波打ち際で遊ばせたり。
様々な彼女を描いた。
ちなみに彼女とは、一度しか会ったことがない。
初対面の男に、こんな我儘を言ってきたのだ。
普通、無視か断るものだと思うが、僕は出来なかった。
それくらい、彼女の瞳は魅力的だった。
彼女を描き続けて、気づいたことがある。
彼女は絶対にこちらを見ない。
絵の中の彼女も、海かまたは別のどこかを眺めている。
僕を見ることは、きっとない。
だからこそ、僕が見ていないとどこかへ飛んでいってしまう気がした。そう思うと、筆が自然と動いて彼女を描くのだ。
そう描き続けて、どれくらいの月日が経ったのか。
僕の家には、彼女と海の絵が何百もある。
最初に比べて、筆のスピードも遅くなってきた。
もしかしたら、筆を持てなくなる時が来るのかもしれない。
そうすれば、この〝平和〟な時間も終わりだ。
もしこの時間に、この世界に終わりが来るのだとしたら。
僕は君と一緒にいたい。
君と海を眺めて、その姿をまた描きたい。
そう思いながら、徐々に重くなっていく手を動かしていく。
懸命に、海とキャンバスを見ながら描いていたからか、僕は後ろから来る人に気づかなかった。
『ねぇ。』
その声を聞いた瞬間、僕は涙がこぼれた。
#世界の終わりに君と
その男は知っていた。
己が水槽の中の脳とシミュレーテッドリアリティに伴ってできた存在だと。また、同時に己の死期も知っていた。神の手――実際はどんな手でもいいが、脳が明晰夢にも近い状態になったとき、きちんと用意された手順に則って終わらせるのだと。
多少のイレギュラーも実はなんら想定内というのも知っている。そのイレギュラーで死期が早まったとしても第二第三の男が何事もなかったかのようにして、進んでゆくのも。
男はそれを思い出すたびに、毎回、ならば死期は必ず一定に絶対的なのだと首を傾げたくなる。
そして、男は白く硬い糸のようなグラフィックの中、全身を濡らしてじっと上を向いていた。
ずぶ濡れだ。
「……」
それから神の手が飽きたことも悟った。
そろそろゴミ箱に廃棄される頃合いだろうか。
ふと振り返った。
随分むかしにバグで生まれた己――姿かたちが寸分違わずおなじのそれは、確かに男自身。それがピクリともせずに濡れている。
「(イレギュラーで全くの不本意な終わり方だ。首を傾げている場合でもない)」
縛り付けられたように白い地面と固定されていた足を動かした。なんら抵抗もなく、それを担ぎ上げる。
奇跡的に思い描く場所は近かった。
線だけで区切られた長い長い梯子を汗もかかずに昇り上げてゆく。ひとつ不満があるとすれば、担ぎ上げた己でない己が邪魔だったこと。
煙突のいちばん底に白い炎。
あれに触れるためにはここまで昇らなくてはいけなかったし、何となく己の身ひとつでは釈然としなかった。
長く聳え立つ焼却炉の入り口。そこに己ではない己を横たわせ。支えを失くした頭がかくん、と炎に近づいた。
ぱちりと閉じた瞼は見ようによっては表情を変える。
「そんな顔をするな」
その身体をずらしたとき、均衡が崩れる気配がした。見れば炎にも穴ぼこが開き始めている。
すると男はさっさと己ではない己の胸倉を掴み、自身も一歩踏み出した。下までの高さにひやりと腹が疼いたのがやや疎ましい。
もう一度「そんな顔をするな」と誰に言うでもなく口遊む。
浮かんで落ちてゆく中で己ではない己がとなりに見えている。それを認めた男は何か声を発したくなったが、浮かんでくる言葉もなく。
「ああ」とだけ気を抜いた。
#世界の終わりに君と
世界の終わりに君と
「寿司食いたい。回る寿司」
19日前に予告された世界の終わりは、次の0時頃だそうだ。友達、親友,ソウルフレンド、この世の言葉では表現し難い関係である人間に希望すれば、「まだ回ってんのかな?」と。
はたして、回っていなかった。
「え、でも店開いてんね」
「仕事ラブの人とか結構まだ働いてるよね」
「お前も昨日出勤してたじゃん」
「まあね」
何度か来たことのあるチェーン店の、店員ふたりが、ラッシャセー! と迎えてくれた。回ってはないが、使える素材手に入れられた素材で寿司を作っているという。
「寿司好きが作る寿司は格別だね」
「ほんとそれ」
他愛のない話をしながら寿司を食い、金を払い、食った食ったと店をでて、ふと、思いつく。
「来世で会った時の合言葉は、最後に食べたネタにしよう」
「おっけ。でももしかしたら、魂が合わさって、1人として生まれるかもよ」
「その時はその時」
「うい。じゃ、また明日」
「おう。また明日」
今日で世界が終わるとしたら、最期に何をしたいか。
「私は君と一緒に過ごしたいな」
「……酒にでも酔ったか、冗談も休み休み言え」
10分前は、領地の酒の銘柄について談義していたはずだ。それがいつの間にか過去のベストセラー恋愛小説の話題に変わってしまった。
「冗談じゃないよ本当だよ。大臣との会議や諸王とのやり取りで時間を費やす最期より、気心の知れた相手と一緒に過ごして終わる人生の方がよほど良いじゃないか」
「太子の台詞とは思えんな。世界の滅亡を阻止して国を守るのが仕事だろ」
一宮じゃない。誰が耳をすましているのかわからない地方公務先で、他愛もない話とはいえ太子の素質を疑われるような発言は止めたかった。しかし、この不毛な会話を太子は続けたいらしい。
「世界が滅ぶ期限がわかってて手の施しようもないなら、最期くらいやりたいことをやって終わりたいよ」
「……何かあったか?」
いくら気心が知れている仲とはいえ、ここまで本心を曝け出すのは珍しい。よくよく太子の顔を見ると、少しやつれているようだった。
「ん、まあ色々。私一応娘婿なんだけどなあ」
「…………」
太子の舅は6人いる。実母の後ろ盾がさほど期待できなかった太子は、即位後の盤石な基盤作りのために手中に収めたい家の娘を娶った。結果、今や太子派なんて呼ばれる一大派閥ができた反面、権力を持つ外戚との関係に苦労している。
よくやってられるな、と思う。昔から。
「おっ、くれるの。ありがとう」
「これで最後だぞ、明日も明後日も人生は続くんだから」
とぽとぽ酒を注ぐと、太子は破顔した。酒好きで体質も弱くない方だが、万一のことがあってはならないと普段から自制している。
本当によくやっている。自分ならとっくに逃げ出している。
「マーヤ、いつかの約束の期限はまだ来てない?」
学舎卒業の一年前だった。久々に校内に姿を見せた太子は、帰ろうとする真穂を昔の愛称で呼び止めた。
嫌な予感がした。マーヤ呼びに、妙に緊張した様子。昔戯れにした約束。最近耳に入ってくる一花の噂。
妃選びが上手くいっていないのは知っていた。元々太子に釣り合う娘が少ないことや、継承問題のゴタゴタがあった後で周囲も様子見をしていた時期だった。タイミングが悪かった。きっとお家騒動がなければ、妃の件だってすんなり決まったはずだ。
「あの約束は婿養子にって意味だろ。私が六花の庭園の主人になるのは約束が違う」
「わかっている。あの時の約束は、お互い本気にしていたわけじゃない戯れの言葉だったってこともわかっている」
太子は本気だった。
それから真穂の生活は一変した。
「マーヤは何をしたい?」
「そんなあり得ない出来事は来ないさ」
「それじゃ死ぬ前に何をしたい?」
こいつ世界の滅亡から変えやがった、真穂は自分の老後を想像した。
子供はいるだろう。美琴妃や小雪妃のように後継者を望まれているわけでもなし、澪子妃のように神力が高い子供を期待されているわけでもない。自分の子供が帝に即位するとは思えない。実家には跡継ぎがいるから王家と縁組することこともないだろう。
他の多くの皇子皇女のように新たな王に冊封されるか、他王家か上級貴族と結婚か、神官職か王宮の名誉職に就くか。その頃には、誰が後継者になるか粗方決まって、太子妃も選定されているはずだ。私の一花の役割はもう終わっているだろう。
「誰の監視もなく買い物がしたい……死ぬ前というか晩年にしたいことだな」
「いいじゃん、今は飲んでみたい地酒があっても酒屋で試飲なんてできないしねえ」
「おい、あんたもいるのか」
「えー、だって私一人で買い物したことないし」
「ボンボンめ」
地酒の試飲ね……。
昔ながらの酒屋で、偏屈な老婆の隣で楽しそうに酒を飲む爺。実際は近くに護衛が付いているに違いない。太子も自分もそんな簡単に街を散策できる立場になるとは思えないが、小説の中で世界が滅亡するように想像だけなら自由だろう。
案外悪くないかもと真穂は思った。
世界の終わりに君となんていてあげない。
僕の世界が終わっても、君の世界は続くから。
僕の世界は僕一人で終わらせる。
いつか、君の世界から僕が消えたとしても、君には君の世界でずっと笑っていてほしい。
でも。
もしも何かの間違いで、君の世界が僕の世界よりも早く終わってしまったら。
君の世界が終わるのと一緒に僕の世界も終わるだろう。
だから僕は、今宵も部屋の窓から月を眺めて祈る。
「君の世界が、僕の世界よりも長く、幸せでありますように」
~名前のある猫~
(世界の終わりに君と)
「明日、世界が終わるとしたら、どうする?」
そんな、よくある質問。けれど一番答えに困る質問。
「なんだよ、いまになって。」
「いや、何ていうかしてみたくてさこの質問。」
「相変わらずだな。うーん、やっぱり家族と一日に過ごすかな。ていうか、お前はどうなんだよ。」
「そうだな、俺は───」
彼が口を開こうとして止まる。顔が何故か赤く染まっている
「俺は?」
「俺はこうしてお前と話していたい。だってお前は俺の親友だからな。」
「ふはっ、最高の答えだな。」
「からかうなよ。」
あはは。ひとしきり笑いあった後、シンとした空気になる。外から聞こえるのはいつもの笑い声ではなく絶望に満ちた悲鳴。空から見えてくる大きな石。もうすぐ終わるのだ、この世界は。
「もうそろそろだな。」
「ああ。なあ、お前に出会えて良かったよ。」
「俺も。」
隕石はどんどん近づいてくる。世界が終わるときそばに
親友がいてくれて良かった。そう思いながら目を閉じた。
『世界の終わりに、君と』
自分にとっての世界の終わりとは自分の死だ。
人口の過半数が死んでも自分が生きていれば終わりではない。でも世界の終わり感はあるね。
死んだことがないし、死にそうになったこともないのでわからないが、自分は死ぬ時誰かと一緒にいたいと思うだろうか?
もちろん死後の後始末は気になるしちゃんとしたいが、死に目を誰かに看取られたいって気持ちになれるかわからない。
本当に地球が壊れるなら別だが、自分だけ理不尽に死んでこれからも元気に生きていけそうな人がそばにいたら、ひがんだり憎んでしまいそうで怖い。
世界の終わりに君と。ポストアポカリプス的なやつかと思ったけど違うか。あれは世界崩壊したけど生き延びてやるぜ!みたいな感じだしな。
もっとしっとりとした感じかね。もう人類滅亡待ったなしな状況で最後の瞬間くらいは君と·······みたいな。つーかだめだな。今日はバイトでヘマしたからいまいちテンション上がらん。
なんか今日はなんも考えたくないから今日あった出来事でもかくか。ちょうど今日は書くことがあったからな。
俺の部屋は出入口が引き戸なんだよ。でその引き戸が障子みたいな感じでガラス張りになってるんだけど、今日そのガラスにぶつかっちゃって割っちゃった。
幸い大きな怪我はなかったけど肩を少し切ったしガラスが割れたから色々後処理めんどうだしでついてないわ。賃貸だから金かかるだろうしな。
引き戸は今ガラスがなくなって穴が空いてる状態だけど、元々出入口はカーテンをつける予定だったから特に問題ないのも救いか。引き戸に穴が空いてたらエアコンの効きが悪くなるからな。
だから今日は予定通りニトリにカーテンを買いに行った。ちょうどいいのが買えたからエアコンもつけれるしよきよき。
今日はなんだかアンラッキーな日だったけどへこまずに生きていかなきゃね。