#42 世界の終わりに君と
「本日晴天、風向きは…と」
航海日誌に書き込みながら、ボクは船長に目を向けた。彼は風に合わせて帆の調整をしている。
「なんだ?言っておくが今日は進むぞ」
「分かってるよ。もうすぐだもんね」
ボクと彼は船で旅をしている。旅といっても、行き先は陸じゃない。
「ああ。この航海でたどり着いてやる。世界の終わりに」
ただ、そこに辿り着けたのは彼の何代も前だから、航海のノウハウも廃れてしまっている。
ボクがこの船に乗ってから数年、手探りながら航海を続けてきた。
ボクと船長が出会ったのは、それよりもっと前-
---
ボクは、船大工の家に生まれた。
でも仕事はあまりない。
というのも、ボクの住む国がある大陸では平和な歴史が続いている。海もはじまりの雨があるだけで、どうもこの世界に他の大陸はないらしいことが伝わっている。
だから、船といえば漁業船か観光船がほとんど。貨物船もなくはないけど、何か物足りない。
そんな日常が続いていた。だけど。
「船を頼みたい」
そう言って入ってきたのは、ボクよりは年上、くらいの若い男だった。
「へえ、どんな船をご希望で?」
「長い航海に耐えられる、小さい船を」
この時点で変なヤツだと分かった。だって漁も観光も長くは海に出ない。貨物船は大きいのが普通。
「お客さん、そりゃあ…」
「他の店では全て断られた。ここが最後なんだ」
さもありなん。だけどこの言葉を聞いて困惑していた父さんの顔つきが変わった。きっとボクも。
「まずは詳し「やってもいいけど、代わりにボクを乗せてよね」
そのときの二人の顔ときたら!
「だが、性別で測るべきではないが女の子だろう?いろいろと大丈夫なのか?」
「悪いが、お客さん。コイツは俺に似て言い出したら聞かねえんだ。腕はいい。長い航海なら整備する人間が必要だろう。乗っけてやってくれ」
「…わかった」
「やった!…で、どこ行くの?」
「世界の終わりだ」
その後ボクたちは、この世界がひとつの大陸と海でできた平面の世界であること、海の沖に降るはじまりの雨よりも、もっとずっと沖には世界の終わりがあることを知った。
さらに、船長の家に代々伝わる書物には、本来は終わりなどない球体であるはずだから、世界の終わりについて調査を進めてほしい、と書かれているとのことだった。
「行くよ、世界の終わりでも、どこにでも」
だってこんなに興奮することがあるなんて!
ここは地に雨無き平なる世界。
海と呼ばれる広き水の、その沖にて天より降り注ぐ唯一は、全てを潤すはじまりの雨である。
さらなる沖には世界の終わりを見たり。
雨に愛を、月に願いを、
世界の終わりに祝福を。
(#29,30と同じ世界)
6/8/2023, 9:36:48 AM