木蘭

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【世界の終わりに君と】

5年付き合った彼女の生命が、今まさに尽きようとしている。既に意識はなく、自力で呼吸することもできなくなった。

機械の力でかろうじて生命を維持している彼女を目の前にして、僕にできることは何もない。こうしてこのまま、世界の終わりを待つだけなのか。そう思った瞬間、目の前が真っ暗になった-

…ちゃん…っぺーちゃん…徹平ちゃん‼︎

突然、自分の名前を呼ばれて我に返った。目の前には、純白のウエディングドレスに身を包んだ彼女の姿があった。

「舞衣…意識、戻ったのか⁈」
「ううん、違うの。これはね、神様からの『ラストプレゼント』」
「ラストプレゼント?」
「うん。私の生命が尽きるまで、短い時間だけど願い事を叶えてくれるんだって」

「願い事って、何でも叶うのか?じゃあ、舞衣の生命も…」と言うと、彼女は「それだけはダメなんだって」と悲しそうに首を横に振った。本当なら、それが唯一の願いなのに神様は残酷だ。

「それで、舞衣は?」
「うん、最期に徹平ちゃんのお嫁さんになりたいってお願いした。それで、お葬式じゃなくて結婚式で旅立ちたいって」

冷静になって見渡すと、ここは教会のようで周りには誰もいない。彼女の願いが反映されているのか、いつの間にか僕もタキシード姿だった。結婚式か…そういえば、ちゃんとしたプロポーズもまだだった。

「舞衣、こんなタイミングでアレだけど…僕と結婚してください!」

「もぉ〜、何かしまらないなぁ〜」と彼女は笑いながら、僕の手をとって。そして、そのまま2人でくるくると回り始めた。

「初めてだね、こんなふうにダンスするの。こんなに楽しいんだったら、もっと前から一緒に踊ればよかったなぁ〜」

こんなふうに、ずっと楽しそうに笑っている舞衣を見たのはいつ以来だろう。病気がわかってからは、笑顔の中にも深い悲しみがわずかに潜んでいた。解き放たれたように天真爛漫な彼女を見ることができたのは、僕への『ラストプレゼント』なのかもしれない。

「舞衣と踊ったこと、忘れないよずっと」
「ありがとう、徹平。すごく楽しかった。あと、私が最期に願うのは-」

また急に目の前が真っ暗になった。

一瞬、強い光が差し込んだような感じがして目を開けた。その情景は、最初に目の前が暗くなる前と同じだった。少しだけ違うのは、機械につながれた舞衣の口角が、少しだけ上がっているように見えること。
 
僕は、彼女の生命が尽きたら世界は終わると思っていた。自分には、その時を待つことしかできないと思い込んでいた。でも、その時がきても世界は終わらないし、待つだけじゃないことを舞衣が教えてくれた。彼女は、何を僕に言おうとしていたのだろう。

「笑って。笑って、幸せに生きてね、徹平」
どこからか、舞衣の声が届いた。

大丈夫だよ、舞衣。僕は生きる。
世界の終わりに君と踊ったことを、 
胸の奥深くに刻みつけて。

6/8/2023, 8:59:10 AM