『ブランコ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「ブランコ」
ぶらん
ぶらん
ぶらり
ぶらり
いつまでもブランコで
遊んでいる子供
ブランコを漕ぐ
絶妙なタイミングがある
力任せじゃない
思ったより丁寧に
ぶらん
気持ちが飛んでいく
私は漕いだ。大きく揺れた。
私は立った。大きく揺れた。
私は飛んだ。美しく飛んだ。
隣のあの子は背を押されている。
私は大きく揺れた。
「ブランコ」
誰か来るかもしれない
変に思われるかもしれない
いい歳だから
ひとりだから
いいえわたしが漕ぎたいと
そう思ったのだからいいのです
ブランコに乗ることは
いつからこんなに難しくなったのだろう
#ブランコ
「ブランコ」
そっと目が合う。
一秒にも一瞬にも満たないその間に濃密な色が見えた。胸をくすぐる羽根のような高鳴りを鎮めて会議に集中しようとするが、乙女心はすでに溶け出している。
結局ほとんど話を聞かないまま、会議が終わり彼は悪戯っぽい笑みを浮かべて部屋を出て行った。
ああ、絶対後でからかわれる。でもその時間を待ち遠しく思う自分を無理に否定することもなくなった。
彼と出会ってから世界が美しく思えた。
薔薇色と表現するのはありきたりだけれど、色褪せていた世界が急に鮮やかになってハッと目が覚めた気がした。
彼は私よりも少し年下だ。けれど若くまっすぐな姿勢は私がまだ女性であることを思い出させるには十分だった。
これまで欲しいものはすべて手に入れてきた。退屈なことは決してないようにしてくれる。それらを手に入れられるだけの価値が私にはあるのだ。
書類をまとめて部屋を出ていこうとして、勢い余りドアノブに指が当たった。廊下に響き渡るような金属音。
左手薬指の時代遅れのシルバーリングが少し震えていた。
昔、好きな遊具があった
回る球形のジャングルジム
ゴンドラみたいなブランコ
列車ごっこじみた遊動木
小さな魚のいる噴水
今はほとんど無くなって
すっからかんな公園に
静かな風が吹いている
砂埃だけが遊んでいる
‹ブランコ›
艱難辛苦の荒波を超え
遂に果たした世界平和
沸き立つ民衆を潜り抜け
政の思惑を振り切って
走って走った故郷へ
大切な人達の居る場所へ
けれど必死に止める人がいて
その為に襲う人すらいて
何だか嫌な予感がして
走って走った故郷へ
何度も辿った道筋を
地図を見た 方角を数えた
けれど其処には何も無い
人も家も草も地も
何も何も何一つ
耳元に声が囁いた
間髪入れずに頷いた
何処にも帰れぬ平和なぞ
何にも何にも価値が無い
‹旅路の果てに›
開けた手のひら大きな蛙
怯える無様を嗤っていた
開けたプレゼントは虫まみれ
上がる悲鳴を嗤っていた
掛けた言葉の棘まみれ
震える背中を嗤っていた
開けた靴箱に手紙が一つ
拾う指先を見つめていた
開かず手紙はびりびりと
開かずプレゼントは潰されて
開けた手のひら振り払われ
「永遠に赦さない」と
冷たい声で嗤っていた
‹あなたに届けたい›
大好きだよ、と君が言う
その目は私を見ていない
愛している、と君が言う
その目は私を見ていない
そっと近付いて口付けた
その目は私を見ていない
見えないくせに見ようとして
ほんとうほんとうバカな人
さようなら、と最期にちゃんと
君に言えていたのなら
‹I LOVE…›
故郷に戻ってきた
優に数十年振りだった
駅からのバスは無くなって
三十分の徒歩の道
友人達とぎゅうぎゅうに
なりながら通学したなと
バスの面影を追おうとして
買い食いした商店も
駄弁っていた公園も
入り浸った友人の家も
更地か、あるいは全く別の
建物に成り代わっていた
そういえば
実家も立て直したと聞いていた
不意に
わたしが懐かしむべき街は
もう無いのだと気が付いた
‹街へ›
[ブランコ]
昔からブランコが好きだった。
僕の家は、母子家庭だった。
母は帰ってくるのが遅かった。家に帰るといつも一人で、学校の宿題を終わらせていよいよ暇になってくると、家の近くの公園で遊んだ。
僕はその公園のブランコで遊ぶのが好きだった。
学校や、その近くの公園で遊ぶ時はいつも誰かに取られていて、僕が遊べることは滅多にない。
だから、夕暮れ時の、しかも住宅街から少し離れたこの小さな公園のブランコは僕だけの物だった。
少しひんやりした木製の板に腰掛け、鎖を握る。
足を前に投げ出す。ゆらゆらと揺れる。
背中を反らすと、鎖がキィキィ軋んだ。
そのまま漕いでいると、だんだん足と地面が遠くなっていく。風が頬を撫で、まるで自分が飛んでいるような錯覚を覚える。
ぼくは今、世界の誰よりも自由だ!
そんな馬鹿なことを考えるほど、僕はブランコに魅了されていた。
いつからだろう、見向きもしなくなったのは。
当然のことなのかもしれない。人はいつか大人になっていくのだから。小さな公園のブランコよりも最新のゲーム機の方が、最新のゲーム機よりも受験の方が、良い企業に就職する方が、業績を上げて昇格して、金を稼ぐ方が……。
大人になった僕は、もうブランコなんて気にも留めなかった。
「あなた、少し疲れてるんじゃない?」
久々に実家に帰ると、少し老けたように見える母が心配そうに言った。
大丈夫だよ、と誤魔化す。
それでもまだこちらを心配そうに見つめる母に、心がチクリと痛んだ。
金、金、金、、、
滑稽だ。
いつも金のことばかり考えている生活に嫌気がさす。
目先の欲に囚われる上司。
必死に媚を売る同僚。
いつからだろう、目を閉じても浮かんでくるのは数字ばかりになったのは。
母を少しでも楽にさせたいという思いで大企業に就いて、必死に仕事をして金を稼いでいた僕は、いつの間にか金そのものに縛られていた。
窓の外に目をやる。夕暮れの空だった。
オレンジ色に染まる景色を見ていると、理由もなく、あの小さな公園のことが頭に浮かぶ。
実家を出て、あの小さな公園に足を向けた。夕暮れ時の空気が肌を撫でる。ブランコは、静かにそこにあった。
フラフラと近づき、そっと座る。木製だったブランコはいつの間にか丈夫なゴム製になっている。その椅子は、成長した僕にとっては少し窮屈だった。
首元を風が通り抜け、息を吸うたびに冷たさが肺を刺した。
地面から体が離れて、空へと向かう。
空を蹴るみたいに足を伸ばす。
なんて懐かしいあの感覚。
――あの頃の僕は、何を考えていたんだっけ。
「………転職しよ」
嗚呼、僕はきっと今、世界の誰よりも自由だ。
ブランコぶらぶら。
地面を大きくけって誰より高く遠く、私は確かにとんだのだ。
まるで鳥のように、羽ばたく感覚。
風の抵抗すら心地よく、あの時の高揚感は今でも忘れられない。
ブランコぶらぶら。
大人になった今、あの頃に思いを馳せる。
そうして私はいままで逃げてきたが覚悟を決める。
足を大きく蹴る。
私は揺れる。
揺れる。
揺れ
ブランコぶらぶら。
わたしはなんだか悲しい気持ちになった。
さっきまで楽しかったブランコが怖くなった。
けれどそれは一瞬で消えた。
私はまた地面を大きく蹴る。
そうして私はまた空へと羽ばたくのだ。
ブランコぶらぶら。
ブランコぶらぶら。
私が2歳の時に、小さな三毛猫が我が家にやってきた。
ちいちゃん。人間の子供がいる家庭でも辛抱強く遊ばれてくれるメス猫だった。
うちのママは「チイ!壁ボロボロじゃないの」と怒って猫を探す。チイは高い所が好き。 彼女はかわいい顔に似合わずいたずら好きだった。
「ちいちゃん、ママもう行ったよ」
って私が言うと「なぉん」って本棚の上から目線を送ってくる。
まるで「ママやっと行ったわね」って言っているような余裕をかましている甘い声。
私が叱られたときは、そばに来てくれて、ふわふわな額を腕にこすりつけてゴロゴロ喉を鳴らしていた。私たち、助け合ってるみたい。これからもずっと一緒よ。って思ってたのにな。
私が社会人になったころに、ちいちゃんはすっかり小さくなって目が見えなくなって歩けなくなって、最後は冷たくなっていってしまった。
お医者さんにも連れて行って「長く生きましたね。一緒に居たかったのでしょう」
家族みんなで代わる代わる看病していたけど、最後は私の腕のなかで旅立ってしまった。愛してる。私の親友。また来てね。
私はその時大人になっちゃってると思うけど、女子同士でまたいっぱいお話ししたいのよ。
ブランコ
「ああ、懐かしいな」
所用で初めて来た街。スマホのルート案内に従い歩いていると、小さな公園が目に入った。
「誰もいないし、まだ約束の時間まで余裕がある。ちょっと寄ってみるか」
と中に入ると
「あ、ブランコ」
ブランコが真っ先に目に入り、近づいて行った。
「あれ~、こんなに小さかったかな」
久しぶりにブランコに乗ってみると、思い出の中にあるブランコよりも小さい。
「座ってると膝が痛くなりそうだ」
ブランコのイスから立ち上がりブランコを見る。
「いつの間にか、大きくなってたんだな」
ブランコで自分の大きさを知り、中身も成長しないとな。と思うのだった。
『ブランコ』
フランスの画家ジャン・オノレ・フラゴナールの代表作に、「ブランコ」というものがある。
ピンクのドレスを着た若く美しい貴婦人が、庭園でブランコに乗り、脱げたミュールが宙を舞う瞬間を描いたものだ。
一見、とても美しく麗らかな情景に思えるが、よくよく注意してみると意味が変わる。
中央の女性の足元には、茂みから彼女をのぞき見る愛人の貴族が描かれている。彼の目線は彼女のドレスの中。足の間だ。
また、左端のキューピッド像は秘密を隠すように人差し指を口に当てている。
ここまでなら、秘密の恋。
だが、それだけでは終わらない。
女性の背後には、ブランコを揺らすロープを掴む初老の男性。彼は彼女の夫だ。
彼の傍らに描かれた天使像の表情は驚き?それとも困惑だろうか。
夫の周辺は薄暗く光が差していない。光を浴びているのは自分の妻と、その若い愛人。
なのに、夫の口元は笑みを浮かべている。
夫は何を思ってブランコを揺らしているのだろう。
美しいのに、どこかゾワリとさせられる一枚だ。
【ブランコ】
コロナ禍で学校が休校になったとき、
毎日のようにブランコに乗っていた。
ブランコに乗って、飛んで行きたかったのだろう。
ある日は本を片手に、ある日はスマホを片手に。
恐怖を感じるほど高くブランコを漕いでは
変わらない日々を、いや変わってしまった日々を嘆いていた。
将来の不安と世界の不満。
誰にも話せないそれらを、
高い空に向かって吐き出していた。
無人の遊具がゆらゆらゆれる
まるで泣いているみたいだ
きしんだ音をたてている
夕やけこやけでまた明日
ざわめきは残響だけをのこして
それきり凪いだ世界にひとりぼっち
去り行く背中に手を振りながら
長く伸びた影は誰より明日を待ち侘びている
大人になっていく君たちを
見守って
見送って
いつまでだって、ここにいる
【ブランコ】
ブランコ、それは誰もが知る遊具だ、使い方を知らない人など見た事がないほどに。
だが、今やブランコは兵器とかして活躍している。
ブランコ
春先の公園。
ブランコを漕ぐ。
頬を撫でる風が心地よい。
私は不意に下半身にも風を直接感じてみたくなった。
しかし、ここで出すわけにはいかない。
街が寝静まったころ、誰にも気づかれぬように忍び足で、またこのブランコまで戻ってこよう。
「ブランコ」
ブランコに乗ることが1番好きだった
空を飛んでいるみたいで
でも今は子供じゃない
だから空を飛ぶことはない
『ブランコ』
いつぶりだろう
誰にも負けないくらい
足を上下にぶらぶらさせて
風になる感覚は
いつしか足と地面との距離は近くなっていて
体力なんて簡単に底をついてしまうけど
ときには何もかも忘れて
ただただ青空を目指すのもいいなと思う
『ブランコ』
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん。
ブランコの体が振れるのをそう表したのは中原中也だが、私はこの詩を朗読する度に、薄汚れた空気を吸って一寸目を閉じるうちに自分が全くの独りであるように感ぜらる。
ジジ……と消えかかりそうな薄暗い白熱電球が、ポツリと小さなテントを照らしている。
耳を澄ませば微かにヒュウと風の通る音が聞こえるが、この見世物小屋にある音はそれのみで、他はがらんどうである。
油で茶色く汚れたテントの幕は木綿で、赤や緑や黄色で彩色されていたようだが、今は剥げてしまって僅かに残るのみであり、そのことが在りし日の栄光が続かなかったことを端的に示している。
テントの真ん中に、細く頼りないブランコがひとつ、風に吹かれてカランと音を立てている。
人のいない空洞の幕の中に、弱々しいスポットライトを浴びたブランコのなんと心細いことか!
さながら天から降ろされた蜘蛛の糸のように、直ぐにでもブツリと切れてしまいそうなそれは、どれだけ軽い人でも落ちてしまいそうである。
ペチャクチャ、グチャグチャ。
知らぬ間に満員御礼、周りには鰯頭が所狭しと並んでいる。
頭の左右に大きく離れた2つの大きな目が、ギョロリと動いて正面のブランコをジッ……と見る。
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん。
ブランコが左に揺れれば黒黒とした目は左を見、右に振れれば右を向く。
そうして魔性のブランコに観客共とともに目が釘付けになっている内に、はっと気がつくとそこには何も無い。
真っ闇な、穴の底のような夜空を俺は見上げているだけであった。
草原の中に独り佇む俺!
ふいの風にぶるりと震えたあと、俺は普段のようにぐるりと首を回して、トタンの家に戻った。
──────────────────────────────────
昔の文章みたいなものを書いてみたくて。
模倣出来ていたら良いのですが。
ギーコギーコ
公園のブランコから音がなる
「次は私のばん ね」
仲良しな2人が順番に交代しながら楽しそうに乗っている
ギーコギーコ
「あっそうだ!」
そう言って1人がブランコの後ろ側にまわる
「よいしょ」
そう言ってブランコに乗っている子の背中を押す
すると、ブランコはさっきよりも高く上がった
「わぁ!」乗っている子はびっくりしつつも高く上がって嬉しそうだ。
「このまま くもに 飛びのれそう!たかーい!」
「次は ワタシね」「いいよー!」
『(*´艸`)(#^.^#)フフフ(*´v`)』
2人は楽しそうにブランコを漕いでいる
ふと我にかえる
今は、火の消えた炬燵の中
なんだ ただの白昼夢か
時計を見ると14時
土曜日の昼下がり
いつもなら部活があるこの時間
たまたま休みになって、課題を進めるのに丁度いいと思いしていたはずだったのだけど
まぁいい とっととやって仕舞おう
課題を進めながら、どうにもさっきのブランコが頭に浮かぶ
もちろん見覚えのない その2人にも会ったことなどない
何となく散歩がしたくなった
課題があらかた終わると妹の部屋に顔を出す
散歩するけど、一緒に来るかい?
「兄さんと散歩なんて久しぶり!私も行く」
歳の少し離れた妹はたのしそうにジャンバーを羽織る
「あんたと散歩なんて無理」
歳近い妹は、思春期恒例の反抗期らしい
コートを羽織ると歳の離れた妹と二人で家を出た
数年前まで通っていた近くにある小中学校の周辺を
何となく歩いていた
「私、あの公園で遊びたい」
妹の目線は、学校近くの公園にあった
特に目的地も決めていないし別に良いだろう
妹に従うまま公園へ
久しぶりの公園を見た途端思い知った時の流れ
あの頃は沢山合った遊具も人気も今はほとんどなく
所々黄色テープの付く滑り台とブランコ、所々草の生える砂場後だけだった
寂しくなったものだ
妹はブランコに乗った
私も隣のブランコに腰掛ける
妹は、勢い良く立ち漕ぎをする
大きくなったものだ
妹が幼く、よく兄妹で公園に行ってた頃。中々ブランコを漕げなかったのを後ろから軽く押してやったものだ
時の流れは、時に残酷だ
今では小さい子供も、どんどん少なくなって
今 妹が通っている小学校 は数年後に隣町の小学校と合併するらしい
工事は既に始まってて、昔よく遊んでいた校庭も跡形もなくなっているらしい
もうあの場所は無くなった
悲しみがしんしんと歩み寄ってくる
「にーいさん」
「ん?」
顔を向けると、いつの間にか座って漕いでいる妹が言った。
「ブランコ! 昔みたいに押して!!」
ニコニコしながら言うその様子にハッとした。
ーそうか、思い出は消えないんだ。いつか忘れたとしてもー
「にーさん?」
あぁ、ごめんごめん
そう言ってブランコを押す
しばらくすると寒空に夕日がさしはじめた。
そろそろ帰るか
「そーだね、だいぶ寒くなってきたし」
手を止め、妹がブランコをおりる
さあ、帰ろう暖かい我が家へ
#ブランコ
夕暮れに染まる公園には、誰の姿もない。
誰かが置き忘れたのだろうか。砂場に築かれた山には、スコップが刺さっている。滑り台には溶け残った雪が滑り面の終端部を濡らしていた。
とても静かだった。昼間は子供たちの笑い声で満たされている公園の別の顔に、訳もなく落ち着かなくなる。
早く帰らなければ。
帰りを待つ人がいる。帰りが遅いと心配させてしまうだろう。迎えに来てしまうのかもしれない。
帰らなければ。
焦燥感にも似た思いが込み上げ、公園から目を逸らして踵を返す。
一歩、足を踏み出した時だった。
――きぃ。
公園から、微かな音が聞こえた。金属の擦れるような、悲鳴のようにも聞こえるか細い音。
振り向きたくはないのに、体は意思に反してゆっくりと振り向いていく。
――きぃ。
公園の奥から音は聞こえてくる。大きな滑り台の後ろ。入口からは見えない場所から途切れ途切れに響いている。
気づけば足は勝手に奥へと向かい進んでいた。
帰らなければいけない。焦る気持ちとは裏腹に、奥へと進む足取りに迷いはない。確かめなければという強い思いが浮かび、焦りをじわりと塗りつぶしていく。
――きぃ。
滑り台を通り過ぎる。
そこで立ち止まり、視線を奥へと向けた。
「ブランコ……」
小さく呟けば、答えるようにブランコがきぃ、と音を立てる。
誰も乗ってはいない。風もないというのに、小さくブランコが揺れていた。
まるで、見えない誰かがブランコに座っているかのように。
――鬼は……。
不意に声が聞こえた。ブランコが立てる音に重なり、はっきりとは聞こえない。
――鬼は、外……鬼は外……。
次第に明瞭になる言葉。ブランコが揺れ、不自然な影が纏わりついていく。
それは次第に小さな子供の影を作り出した。ブランコにただ座り、深く俯いている。
――鬼は外。鬼は外……内へ……閉じ込め……。
歌だろうか。繰り返す言葉に思い浮かぶのは、数日後の節分のことだ。
鬼は外。福は内。豆をまきながら唱える言葉が過ぎていくが、何か違うような気もした。
ゆっくりとブランコに近づいていく。俯く影は顔を上げない。ただ鬼は外と繰り返すだけ。
何が違うのか。それを知るため、聞こえなかった言葉を拾おうと耳を澄ませる。
そしてブランコの前に立った時だった。
「鬼は外、鬼は外。村から外へ、遠くへ追いやれ。柊立てて、転じて内へ。四方を打ちて、閉じ込めよ」
影が顔を上げた。
「――っ」
息を呑む。
露わになったその姿。細い手足。黒い衣と赤い下衣。
金の四つ目の仮面の奥で、静かな目がこちらを見据えている。
「鬼は外」
幼さが滲む声。異様な姿をした子供がブランコから降りる。
ざり、と地面を擦り、子供が足を踏み出す。
「外から内へ。鬼を閉じろ」
そこで、目が覚めた。
「いやっ!」
小さく悲鳴を上げ、継枝《つぐえだ》睦月《むつき》はベッドから飛び起きた。
「ゆ、め……?」
かたかたと震える肩を抱きながら視線を巡らせる。慣れ親しんだ古めかしい和室ではなく、どこか殺風景な洋室に一瞬だけ混乱する。
「あ……そっか。燈里《あかり》ねぇと一緒に村から出たんだっけ」
緩く頭を振り、睦月は苦笑した。
村を出て二週間以上経つというのに、未だに実感は薄い。小正月前の数日間の濃い出来事を思い出す度、今の穏やかさが夢ではないかと疑ってしまう。
「慣れないとなぁ。こんなんじゃ、燈里ねぇに気を使わせちゃう」
優しい家主を思い、小さく息を吐いた。
睦月がこの家で暮らし始めてから、家主である宮代《みやしろ》燈里は何かと気にかけてくれている。
不便はないか。足りないものはないか。押しかけた身であると自認している睦月にとって燈里の気遣いが、逆に申し訳なく思う。せめてできることをしようと率先して家事を手伝っているが、それが燈里の庇護欲に拍車をかけていることに睦月は気づいていなかった。
「っと。ご飯の準備をしないと」
カーテン越しの仄かな明るさに気づいて、睦月はベッドを抜け出した。夢の残滓を消すように大きく伸びをして、深く息を吐き出した。
「それにしても何だったんだろう?あの夢」
見覚えのない公園だった。ブランコに乗っていたあの異形の面をつけた子供も、見たことはない。
所詮は夢だと思いながら気にかかるのは、睦月が故郷の村で起きた悲劇を夢に見ていたからだろうか。
ヒガタという、小正月の来訪神を思い出しながら、何気なく枕元の時計に視線を向けた。
聞こえた悲鳴に、目覚めたばかりで微睡んでいた燈里の意識は一瞬で覚醒した。
「睦月!?」
自室を飛び出し、隣の部屋の戸をノックもなしに開け放つ。薄暗い部屋の電気を点ければ、ベッドの脇で、楓《かえで》にしがみつきながら震えている睦月の姿が目に入った。
「睦月!」
「燈里ねぇ……」
睦月の体を抱きしめ背を撫でながら、燈里は楓に視線を向ける。何があったのかと視線で問いかけられ、楓はどこか困惑げに眉を寄せ口を開いた。
「四つ目の面をつけた子供がいたらしい」
「四つ目?」
燈里も同じように眉を寄せた。
四つ目の仮面で思いつくものはあるが、それが何故睦月の部屋に出るのかが分からない。
室内を見回すが、睦月のいう子供の姿はどこにもない。
「四つ目って……方相氏《ほうそうし》のことかな?」
「特徴からしてそうだろうね。金の四つ目。黒と赤の装束……大晦日は過ぎたけど、節分は数日後だ。関係はあるのかもしれない」
だとしても、何故睦月の元に現れたのかが分からない。そう言いたげな楓に、燈里はさらに困惑を強めた。
腕の中で震えている睦月を見る。彼女には酷だが、もう少し話を聞けば何かが見えてくるかもしれない。
そう思った時だった。
「何をしているんだ?ちびの部屋に集まって」
部屋の入り口で、冬玄《かずとら》は不思議そうに声をかけた。どうやら朝食の時間になっても誰も来ないため様子を見にきたらしい。
「四つ目の面をつけた子供が出たんだってさ」
燈里の元へと歩み寄る冬玄に、楓は簡潔に答えた。
「四つ目?方相氏のことか?」
予想もしていなかったのだろう楓の言葉に冬玄は目を瞬き、次いで訝しげに周囲を見る。何の気配も感じられないことに息を吐き、どこか呆れを滲ませて口を開いた。
「何も感じられないな。そもそも俺がいる限り、この家に何かが入り込めるはずはないだろう」
今は燈里の婚約者ではあるものの、冬玄は今も宮代の守り神だ。その冬玄が何も感じないというのであれば、本当に何もいないのだろう。
「節分も近いことだしな。何かの影響を受けて夢で見た可能性は否定できないが……」
特に問題はない。
そう続けるはずだった冬玄の言葉は、睦月の姿を見て途切れた。
膝をつき、目を合わせる。困惑と僅かな険しさを浮かべ、冬玄は低く呟いた。
「入ってきているな」
「え?」
「夢を介して入り込んできている」
冬玄の言葉に、途端に燈里は不安げに睦月を見つめた。かたかたと震え続ける睦月は、先程から一言も話してはいない。それ程に怖い思いをしたのかもしれないが、睦月の性格から考えれば不自然だった。
「それは悪いモノかい?」
楓の問いに、冬玄は首を振る。睦月の頭に触れ、目を細めた。
「方相氏は鬼を追いやる存在だろう?」
悪いモノであるはずがない。
言外に告げて手を握りしめ、何かを引き摺り出す仕草をした。
びくりと睦月の体が震え、脱力する。
「睦月!?」
反応のない睦月に燈里は慌てるが、穏やかな寝息に安堵の息を吐く。
睦月に何をしたのか分からず冬玄を見るものの、彼は自身の握った手に視線を向けたまま動かない。
「冬玄?」
「悪いモノではないが、良いことが起きるわけでもなさそうだな」
嘆息して、冬玄はゆっくりと握っていた手を開いていく。
「これって……」
「柊の葉……?」
冬玄の手の中に収まっていた、特徴的な棘のような葉。
一枚の柊の葉に、燈里は言いようのない不安が込み上げてくるのを感じた。
20260201 『ブランコ』
ポツンと、ブランコだけが揺れている。
ずるりと肩から落ちてきたスクール鞄の肩紐を、揺すり上げる。
スクール鞄は、分厚い参考書と教科書で、重たく角ばっている。
公園には誰もいなかった。
いくら小学校では名高い悪ガキだったとしても、高校生の塾帰りの時間まで遊ぶような子どもは、イマドキいないのだろう。
街灯が、申し訳程度に、公園の、裸の土の地面を照らしている。
夜空が浸透したように、この一帯の空気には、夜の黒紫色の闇が染みていた。
シンとした夜の静寂に塗れた空気に誘われるようにして、僕は、公園と道路の敷居をするりと跨ぎ、揺れているブランコの横に座った。
冷たい夜風が頰を撫でた。
冬の夜らしく、鋭く冷たい風だった。
肩に参考書の重みを抱えたまま、そっとブランコを揺すってみた。
きぃ、と小さく悲鳴をあげて、ふらふらっと、ブランコは揺れた。
「寒いでしょ?」
同じようにふらふら揺れていた、横のブランコから声だけがした。
「早く帰ったら?人生でも大切な時期でしょう。風邪をひいちゃう」
「いいんだ。」
僕は俯いたまま、返事を放った。
遠い昔、小学生の頃に、怪談で、夜に1人で揺れるブランコがある、なんて都市伝説が噂になったことがあったのを思い出した。
思い出しただけだった。
「ふぅん」
隣のブランコの声は、柔らかく相槌だけを返した。
「受験生なんて、ガラじゃないんだ。一生懸命頑張るなんてさ。こんな言い方ダサいけど。でも僕なんてね。」
弾みをつけて、足元の石を蹴った。
ブランコがきぃぃ、と抗議の声を上げながら、ずいっと揺れた。
「そうかな?意外と似合うと思うよ」
声は、素直な柔らかさで、そういった。
今日の夜空と同じように、どこにでも浸透していきそうな柔らかさだった。
空気にも、僕の胸にも。
「頑張れた方が、かっこいいし、未来も周りの人も楽なんだけどね。」
隣の声に比べると、僕の声は固くて、頑なで、まるで問題用紙にきっちりと作図された鋭角みたいだった。
「でも僕は頑張れない。1日中勉強しないといけないのにさ。僕自身でさえ8時間勉強したいのにさ。今は死ぬ気で頑張りたいのに。頑張れない。頑張れないんだ。」
「死ぬ気で頑張れない」
声は、相変わらずの調子で柔らかく復唱した。
輪郭のなさそうな、柔らかい声だった。
「偏差値も点数も足りてるんだ。足りなかったことがない。でももうたくさんなんだ。」
僕の声は、ざらざらとけばだっていた。
頑なに、まるで肩に下げられたスクール鞄のように、角ばっていた。
「…素敵な才能だと思うけど」
柔らかな声が、柔らかな闇に溶けていく。
「あなたには自由がある」
「そう、僕には自由がある。」
僕の声は夜闇にくっきりと掠れていた。
「でも僕は罰当たりにも欲張りなんだ。努力に相応の結果が欲しかったんだ。努力に見合う結果で良かったんだ。」
柔らかな声は、何も言わずに続きを促した。
それで、僕は言葉を継いだ。
身じろぎすると、ブランコがきぃと鳴った。
「父さんも母さんも死んでしまった。けれど、兄さんは、僕ばかりを大学に行かせようとするんだ。」
月明かりが、公園の時計を照らした。
「そろそろ帰るよ。兄ちゃんが心配する。」
肩からずり落ちてきた肩紐を揺すり上げて、僕は言った。
かたん、と隣のブランコが軽く跳ねて、止まった。
「明日もこの時間にここにいるから」
柔らかな声が、ふんわりとこちらに放られた。
「ありがとう。」
僕が立ち上がると、ブランコはきぃ、と泣いて、それから、かたん、と一度跳ねた。
付け足すべきではなかったけど、愚かな僕は、どうしても伝えたくて、その一言を付け加えてしまう。
「愛してるよ。ずっと」
君はきっと、寂しそうに笑った。