朝倉 ねり

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『ブランコ』

ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん。
ブランコの体が振れるのをそう表したのは中原中也だが、私はこの詩を朗読する度に、薄汚れた空気を吸って一寸目を閉じるうちに自分が全くの独りであるように感ぜらる。

ジジ……と消えかかりそうな薄暗い白熱電球が、ポツリと小さなテントを照らしている。
耳を澄ませば微かにヒュウと風の通る音が聞こえるが、この見世物小屋にある音はそれのみで、他はがらんどうである。
油で茶色く汚れたテントの幕は木綿で、赤や緑や黄色で彩色されていたようだが、今は剥げてしまって僅かに残るのみであり、そのことが在りし日の栄光が続かなかったことを端的に示している。
テントの真ん中に、細く頼りないブランコがひとつ、風に吹かれてカランと音を立てている。
人のいない空洞の幕の中に、弱々しいスポットライトを浴びたブランコのなんと心細いことか!
さながら天から降ろされた蜘蛛の糸のように、直ぐにでもブツリと切れてしまいそうなそれは、どれだけ軽い人でも落ちてしまいそうである。

ペチャクチャ、グチャグチャ。
知らぬ間に満員御礼、周りには鰯頭が所狭しと並んでいる。
頭の左右に大きく離れた2つの大きな目が、ギョロリと動いて正面のブランコをジッ……と見る。
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん。
ブランコが左に揺れれば黒黒とした目は左を見、右に振れれば右を向く。
そうして魔性のブランコに観客共とともに目が釘付けになっている内に、はっと気がつくとそこには何も無い。
真っ闇な、穴の底のような夜空を俺は見上げているだけであった。
草原の中に独り佇む俺!
ふいの風にぶるりと震えたあと、俺は普段のようにぐるりと首を回して、トタンの家に戻った。



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昔の文章みたいなものを書いてみたくて。
模倣出来ていたら良いのですが。

2/2/2026, 9:16:28 AM