『ところにより雨』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
"ところにより雨"
ある日の昼下がり
なんだか怪しげな空をしているとは思っていた
清々しい雨の匂いを連れた風が私をくすぐる
足元に視線を落とすと、雲り空に当てられて影が消えている
影を伴わない足元は全く見慣れず、地から浮いた私は作りかけのゲームのNPCのよう
そんな様子を見つめていれば突然冷たい水滴で頭を叩かれる
咄嗟に抑えて顔を上げれば、運悪く雨が目の中を濡らした
びくっと体が反応して、突然洗われた目を擦り上げる
カバンに突っ込まれた手の先は、小さく畳まれた傘に触れた
けれども遅く、瞬きの間に悪戯な雨は強くなる
通り雨、数年前にも同じ状況にあったことがある
あの日の冷たい雨と思い出をなぞる。
楽しかったような切なかったような、ふるふると頭を揺すって思い出すのをやめた。
パチンッとボタンを外して傘を広げる
やっと降る雨から逃げ出したことに安堵する
傘の下で水滴の付いた髪や服を叩いて
どこからか来た雨を、どこかへ向かう雨の声を聞いていた
「私勉強一回もしてないー!やばいー!」
なんて言う人は、実は陰で勉強してます。
「私友達全然いないもん……。」
なんて言う人は、実は学年全員と友達だったりします。
「私運動神経めっちゃ悪いよー?100メートル走とか超遅い!」
なんて言う人は、いやもうお分かりの通り、実は体力テストでオール5取ってたりします。
謙遜とか信じちゃダメです。日本人は謙遜する人種ですが、その大半は嘘です。
てか謙遜が嘘なのは当たり前です。
少なくとも「あの子もしてないから私もしなくていいや〜。」なんて思ってると、マジで痛い目見ます。
やめましょう。ソースは私。
『ところにより雨』
私の心は基本的に雨が降ってて、
晴れてる日なんて数える程しかない。
でも明日は、大事な日だから、
毎日のように降っている雨も少しは止んで、
晴れ間が見えてくれるんじゃないかなって願ってる。
明日の天気は、晴れところにより雨。
「メーデー、メーデー、メーデー。聞こえますか」
ノイズ混じりの無線が、無人の管制塔に虚しく響いた。送信元は高度一万メートルを飛行中のはずの貨物便「アルファ502」。しかし、レーダーの画面には、ただの一点も光は灯っていない。
「こちら、誰でもいい。応答してくれ。視界が……真っ白だ。計器がすべて逆回転している。空を飛んでいるのか、海底を這っているのかさえ判らない」
パイロットの声は、恐怖を通り越して、奇妙なほど透き通っていた。
街の広場では、人々が足を止めて空を見上げていた。雲一つない快晴。雲雀の声がのどかに響く午後。それなのに、スピーカーというスピーカーから、そして人々のスマートフォンの端末から、この「幽霊通信」が流れ出していた。
「ああ、窓の外が見える。花が咲いている。……おかしいな。一万メートル上空に、真っ赤なチューリップが咲き乱れている。それから、誰かが傘を差して歩いている。あいつは……俺だ。地上にいる、子供の頃の俺が、こっちを見て笑っている」
街の気象観測所では、若手職員が震える手でモニターを見つめていた。湿度は0%、降水確率は限りなくゼロに近い。しかし、空の「色」が、墨を流したように変色し始めていた。
「高度が下がる。いや、上がっているのか? どちらでもいい。ただ、すごく懐かしい匂いがする。土の、埃っぽい、降り始めの雨の匂いだ」
ふっ、と通信が途切れた。
同時に、抜けるような青空から、大粒の雫がアスファルトを叩き始めた。太陽は燦々と輝いたまま、狐の嫁入りのような、奇妙な静けさを伴った雨。
翌朝の新聞の片隅には、小さな予報が載った。
『昨日の怪現象について、当局は電波障害の可能性を示唆。本日の天気、概ね晴れ。ところにより雨』
ところにより雨
今日は私の上だけ雨
ざぁざぁ降ってる
悲しいような悔しいような
お昼何食べたい?
、何でもいい
何か決めて
、じゃあ食べなくていい
どしゃぶりの雨
何も分かってないんだろうな
たびじ
【ところにより雨】
気持ちは天気のようにコロコロかわる
今まで嬉しかったのに、周りのひそひそ話に胸がしくしく
急に火が着いて、カッと怒鳴り散らす
後悔の波が押し寄せて、胸がぎゅうと縮む
おおおいおいあえ
どうですか
このよに子音なんていらないんです
全ては母からうまれ絶えていく
思考は幻影だし自分以外の人間なんて存在しない
あからってないあしろにしてあいえあい
いいあああらあい
おういいかな
あいあい
『ところにより雨』
今日は僕たちの番らしい。
姉ちゃんが交通事故で死んだと、父さんから報告を受けたのが、つい10分前の事だった。
婚約者を紹介するため、群馬県にある我が家に、高速道路を使って向かっていた姉と婚約者の男性は、大型トラックに背後から衝突され、即死でこの世を去ったらしい。
遺体は潰れてぐちゃぐちゃで、もはや人の原型も留めていなかったそうだ。
トラックを運転していた54歳の男性は、軽度の打撲で済んだとか、どうだとか。
だけど怒りや悲しみは湧いてこない。
まだ、何も脳が理解していない。
いや、理解したら壊れると、分かっている。
大好きな姉と二度と言葉を交わせない悲愴と絶望。
危険運転で人を殺しながら、自分は軽傷で済んだ社会のゴミクズに対する怒りと殺意。
そんなもの、認識してはいけない。
認識したら壊れてしまう。
だけど、どうにも、抑えきれそうにない。
母が発狂したように泣き叫ぶ声が、家の中に響いている。
父が静かに憎悪と憤怒を燃やす気配が、家屋を震わす勢いで漏れ出ている。
不意に、僕の右頬を、雫が伝っていた。
ポタポタと、畳の上を濡らしていく。
そうか、今日は僕たちの番なのか。
気まぐれに降り注ぐ絶望は。
僕たちの元に落ちる事を、決めたらしい。
そういえばさあ、天気予報でしか聞かない言葉ってあるじゃん。
ところにより雨となるでしょうとか、そういうの。
それさあ、例えばだよ? ゲリラ豪雨的に一箇所集中しててもところにより雨になるのかなあ。
……それはゲリラ豪雨になるって? いやそれはそうなんだけど、そうじゃなくて。
こう……ゲリラ豪雨にならない程度の雨で一箇所集中というか、ドラ◯もんで言うところのさすと雨が降る傘みたいにさ。
……天気予報の定義としては合ってる? ほーん。やっぱりそうなんだ。
てことはじゃあきつねの嫁入りなんかもところにより雨になるってことになるのかな。
うーん……それだとなんかロマンというか、なんかこうグッとこないなあ。
ね、君はどう思う?
……どうでもいい? まー、そうだよねぇ。
14 「ところにより雨」
あなたは、雨は好きですか、嫌いですか。
私は、雨は嫌いです。
ジメジメしてるし、気分も上がらないから。
あと、何より眼鏡が曇る。
ほんの一瞬曇っただけでも、腹が立ってしまう。
ところで、
“雨”って場所によって、降るか降らないか、小雨か大雨か、みたいに
どこでも“全く同じ雨”が降るというわけではない。
なぜ、場所によって“降る雨の種類”が違うのだろうか。
私は“空”がどこにどんな雨を降らせるかを決めているからだと思う。
“空”は「ところにより雨」を自身で選んで、
私たちの1日1日を作ってくれているのだ。
2026.3.24.Tue.
拝啓
桜が咲きほころび全国各地で優しい春の到来を感じさせられるようになりました。本日も楽しく過ごせましたでしょうか。
桜の花は、人を見送り、また出迎えるものにございますね。まるで私たちの歩む道を、そっと見守り、応援してくださっているかのように感じられます。
けれど、桜時雨という言葉があるように、雨に打たれた花びらは、やがて静かに散ってゆくのでしょう。
人もまた同じく、いつかはこの世を去るもの。散りゆくものだからこそ美しい。そのように申す方も多くいらっしゃいますけれど、私は時折、それだけではないのではと考えてしまうのです。
この世に果てぬものはないと、誰もが知っております。けれど、たとえ終わりがあるとしても、その中に宿る想いまでもが、同じように消えてしまうものなのでしょうか。
想いもまた、『ところにより雨』のように移ろい、揺らぐことがあるとしても、その奥に在るものまでが消えてしまうとは、どうしても思えないのです。
もしも人が、その最期の瞬間まで、誰かを想い続けていたとしたなら…その想いは、果たして「終わり」を迎えたと言えるのでしょうか。
たとえば、最後にその瞳に映るものが、大切な人であったなら。胸に抱いた愛しさを、そのままにして時を終えたのなら。その心の内にあった想いは、決して途切れることなく、在り続けたと言えるのではないかと、そんなことを考えてしまうのでございます。
うまく言葉にすることが叶わず、独り言のようになってしまいましたこと、お許しくださいませ。
ただひとつ、確かに申すことができるとするならば、
私はこの想いを、決して手放すつもりはない。
ということでございます。
たとえ時が流れ、季節が巡り、やがてすべてが移ろいゆくとしても、あなたを想うこの心だけは、静かに在り続けるものと信じております。
全く、こうしてお話し相手もなく筆を取っておりますと、つい思いの丈を綴りすぎてしまいますね。
願わくば、桜の雨がそっと降る日、あなたと並び立ち、他愛のない言葉を交わしながら、ただ穏やかに笑い合えるひとときを迎えられますように。
本日はこのあたりで筆を置かせていただきます。
敬具
ところにより雨
雨は好きじゃない。
傘はもっと好きじゃない。
「ところにより雨」
「ところにより雨」。そんな予報が出た時、大抵君の住む街で雨が降っている。ピクニックをする時も、ドライブデートをする時も君といる時はいつも雨だった。そう、君はまごうことなき雨男だ。それもなかなか強力な。小雨に困っている地域に行けばさぞかし喜ばれそうな存在だが、当の本人は、雨のせいで彼女に振られるし花見もできないし大変だ、と嘆いていた。
けれど、私は雨が好きだ。雨が降るおかげで君と相合傘ができるし、傘の中では雨音と君の声だけしか聞こえない。晴れている時には見えない景色、できない体験を君とできる。
「全国的に晴れですが、ところにより雨が降るでしょう」
そんな気象予報士の声を聞きながら服を選ぶ。雨の中、今日は君とどこへ行こうか。
本を読もう。
晴耕雨読、働こう。
文を嗜むか、
畑を耕すか。
晴れていれば
どうってことはない。
僕の心は、ところにより雨。
本を読んで
心の畑を耕そう。
ところにより雨
おかしいな何時まで経っても雨が止まない。
雨が降る日は君が僕の前に来る日。
今日も雨が降ってくるのを僕は冷たい石の上から君を眺めてる。
最初はこの雨と白色の花も嬉しかった。
でも、雨がずっと続くと嫌になる。
そろそろいい加減に晴れてくれないかな。
僕だってこの雨は仕方ないとは思う。
でも、一年間もずっとこの雨は降り続けてる。
『ねぇ、君、いい加減に空を見てみなよ』
一応君に語りかけてみる。
けれど君は僕に気づかない。
僕の言葉は決して君には届かない。
「ねぇ、なんで私を庇って一人だけでいっちゃうの?
私も一緒に連れていってほしかった」
今日も君は僕の名前が刻んである石の前で泣き崩れている。
『あぁ、いつになったらこの雨は止むのかね』
今日も僕は雨が止むのを諦めて、どこまでも続く青空を眺めるしかなかった。
おまえには雨の才能あるよって囁く君にだけ降りかかる
題-ところにより雨
「おい深山、大丈夫か」
俺はローテーブルに突っ伏している深山の傍にしゃがみ込み、軽く肩をたたいた。返事はなく、深山は顔を伏せたまま動かない。
俺は小さく息をついて、買ってきた薬の箱とミネラルウォーターをテーブルに置いて「これ買ってきたから」と言った。すると深山はようやく、のそりと顔を上げた。それからだるそうにこめかみを押さえながら、かすれた声で「あけて」と言う。
「え?」
「フタ」
早くしろという目で睨まれる。召使いじゃねえんだぞとでも言いたくなるが、仕方ない。俺はペットボトルを手にとって、フタを開けてやってから手渡した。
深山はお礼も言わずにそれを受け取ると、手のひらに出した2錠の錠剤を口に含み、水で流し込んだ。そのあいだ、俺は波打つ喉仏をなんとなく眺めていた。
半分くらいまで飲むと、深山は無言で俺にペットボトルを差し出した。「もういらないからフタ締めろ」の意だろう。はいはい、と心の中で肩を竦めながらフタを締める。
「水、冷蔵庫いれとく?」と訊けば、深山は力なく首を横に振った。「ここに置きっぱでいい」と言うので、俺は言われたとおりにペットボトルをテーブルに置いた。
深山とは大学で知り合った。授業が被ってなんとなく喋るようになったところから、今はちょくちょく互いの家に行き来するくらいの仲までになった。
深山と付き合う中で知ったのは、こいつは片頭痛持ちだということだ。雨の日は決まってだるそうにしているし、顔色が悪い。ご機嫌もナナメである。
ひどいときは、大学やバイトを休むこともある。そしてそういう場合はたいてい、俺に雑な呼び出しがかかる。ちなみに今日は『頭痛薬切らしたから買ってきて。あと水』というメッセージ。
残り少なくなった時点で買っとけよなと思うが、芯からだらしない男に言い聞かせてもきっと無駄だ。恐らくこいつは「ま、あいつに頼めばなんとかなるし」とか思っている。
実際、なんだかんだでこいつのことを放っておけない俺は、ため息をつきながらも言うことを聞いてしまう。甘やかしている自覚はある。
というのも、深山の「呼び出し」は、単なるパシリというわけでもなさそうなのだ。以前、買ったものを届けてさっさと帰ろうとしたとき、深山は俺の襟首をひっつかんで引き戻してきた。
ぐえっとなりながら「何?」と訊けば、しんどそうな顔で「帰るな」と言う。なんで、と訊いたら、深山は目を伏せた。それから少し間を置いて、ぽつりと言ったのだ。
「一人でいたくない」
「……なんで?」
「雨が降ってるから」
雨の日に一人でいたくない理由が何なのかは知らないが、俺はそのときの深山の顔がどうしてか忘れられない。つめたい雨の中でひとり震える、小さな子どものような顔だった。体調不良のせいで心細くなるというのはよく聞くけれど、深山の場合、なんとなくそれだけではないような気がする。
だから雨の日はこうして、隣にいてやることにしている。窓に吹きつける雨風の音を聞きながら、何をするでもなく。
つけっぱなしのテレビは、夕方のニュースを垂れ流している。明日の天気は、ところにより雨。お天気お姉さんはそう告げた。
【テーマ:ところにより雨】
書く習慣:本日のお題「ところにより雨」
ところにより雨。ネガティブ・ケイパビリティを試される言葉である。
小学生の私はいつも天気を気にしていた。
私の家は学区の端っこにあった。学校までの最短ルートは交通量が多くて子どもの登下校に向かないため、田んぼやら野原やらを経由する田舎の自然堪能コースが通学路に指定されていた。その結果、隣の学区の小学校に通った方が近いという謎の現象が起きていた。
そんなわけで、天気が悪い日は足元が悪いなか長い距離を歩かねばならない。帰り道に雨が降るのも嫌だが、下校時なら途中で水たまりで遊んでもいいし(よくない)、家にさえたどり着けばお風呂で温まることもできる。
登校時の雨は最悪だ。長靴を履いていても、足を伝った雨水が靴の中に侵入して気持ち悪いし、靴の中に水が溜まってきてどんどん足が重くなる。ランドセルの隙間から雨が入りまくって教科書も筆箱もプリントも濡れる。
体育がある日は最悪で、濡れた私服から湿った体操服に着替える時間ほど虚しいものはなかった。もちろん給食袋も濡れるから、下手するとトレイに敷くランチョンマットがお昼時までうっすら湿りけを帯びている。パン給食の日はランチョンマットに直置きしたパンまでしっとりしてしまい、しけった雨水パンをモソモソ食べるのも憂鬱だった。
大人になった今なら「着替えを持っていけばいい」と思うが、小学生の限られた体力と腕力を思い出してほしい。荷物は最小限にしたい。おまけに私に課された通学路は、東京の一駅間よりも長い道のりだった。そもそも小学校に更衣室などという気の利いたものはないので、替えの靴下を持っていくのが精一杯だった。
「ところにより雨が降るでしょう」などと平然と言ってのける天気予報士は、いつも乾いた服を着ていた。こいつも私みたいに沼地と化した野原を突っ切る朝が待っていたら、「ところにより雨が降るでしょう」なんて気軽に言わないだろうと思っていた。クソガキは心が狭いうえにすぐ八つ当たりするのだ。
雨が降るかもしれない日でも、折りたたみ傘などという洒落たものは持っていけなかった。キッズは黙って学校指定の黄色い長傘である。地味に重いし、みんな同じ傘だからクラスメイトに間違えて持って帰られるし、黄色は特に好きな色じゃないから、持っていても本当に楽しくなかった。
中学校に入って通学距離が半分になり、折りたたみ傘が解禁になり、私の登下校はバラ色になった。家が近いって素晴らしい。
中学校の学区はえげつない広範囲だったから、私の家から小学校までの距離の2倍近い道のりを毎日歩いてくる同級生もいた。しかし私は気の毒な学区の端っこ勢になんの思いやりを示すこともしなかった。
通学距離が縮んで体力に余裕ができても、心の余裕は生まれなかった。精神的な成長がなかったクソガキ時代の思い出である。
世界は不条理で満ちている。
『天は人の上に人を作らず』とは言うけれど、世の中には不公平や不平等が当然のようにまかり通っている。
偉い人たちは平等公平を叫ぶけれど、一向に不条理は無くならない。
いったい彼らは何をしているのだろうか……
彼らの怠慢のしわ寄せが、私に不条理として襲い掛かっていた。
「お前は追試だ。
赤点だったら、春休み返上で補習な」
どこか疲れ切った顔をした担任から告げられる、無慈悲な宣告。
私は陰鬱な気持ちで、その言葉を受け止めた。
春休みは、一種の天国だ。
世の学生たちが聞けば、誰もが狂乱して喜ぶだろう。
かくいう私も胸が高鳴る。
夏休みほどじゃないけれど、春はイベントが目白押しなのだ。
なのに、なぜこんな事になってしまったのか……
確かに勉強は苦手だけども、赤点回避のために頑張った。
なのに、私に突き付けられた『追試』という現実。
やはり世界は不条理に満ちている。
そんな事を考えながら自分の席に座ると、隣の席の沙都子が意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「バーカ」
とても傷心の友人に掛ける言葉とは思えない言葉。
沙都子の悪口はいつものことだけども、今日はことさらに堪える。
でも泣かないよ。
だって私は悪い事をしていないもん。
「百合子のことだから、どうせ徹夜でゲームでもしていたんでしょ?」
なんという言いがかりであろう。
確かにゲームは好きだが、徹夜なんてしていない。
自らの名誉のためにも、間違いは正すことにした。
「沙都子は見くびっているね。
長年のゲーマー生活で培った、私の自制心を!」
「具体的には?」
「ゲームは寝る十分前まで。
時間管理は完璧さ!」
「……で、勉強したのかしら?」
「……5分だけ」
「バーカ」
沙都子は、まるで路傍のゴミでも見るかのような目線を送って来る。
長い付き合いだから分かるが、これは本気で路傍ゴミと思っている目だ。
この目を何度も見たことがあるから間違いない。
……ちょっとだけ泣きそう。
「で、どうするつもり?
わざわざ春休みに学校に来たくないでしょ?」
「当然だね。
こうなっては万難を排するべく、やりかけのゲームをクリアするよ」
「なんでやねん!」
沙都子の口からコテコテの関西弁が!?
付き合いは長いけれど、初めて聞いた。
「ねえ、冗談よね。
冗談と言って!」
「凄い心外なんだけど!
なんで本気でドラクエをやると思われているの!?」
「日頃の行いよ!」
ぴしゃりと言い放たれる。
「前々から思っていたけど、アナタ、よくこの学校に受かったわよね。
百合子ってば、けっこう運がいいのかしら?」
「当てずっぽうじゃないやい!
ちゃんと勉強して、実力で合格したんだよ」
「実力……
ああ、替え玉試験!」
「……私ってそんなに信用ならない?」
想像していたよりも、ずっと低い信用度で少し悲しい。
というか、それを面と向かって言うかね。
私たちは親友だと思っていたけど、認識を改めないといけないかもしれない……
「長い付き合いだけどさ、アナタが勉強に本気出すところ見たことないのよね。
合格したって聞いた時、耳を疑って耳鼻科に行ったわよ」
「そこまで!?」
「あと警察に連絡すべきか迷った」
「ひどい!」
まあ、確かにそう思ってしまう位には、私の成績は悪いけども。
両親ですら、あまりの衝撃に熱を出したからね。
「まあいいわ。
とりあえず、勉強を頑張った仮定で話を進めましょうか?」
「仮定で進めないで」
「それで、なぜ頑張ったのかしら?
勉強嫌いでバカなアナタが勉強するなんて、よっぽどの理由があったんでしょうね」
「一言多いなあ……
それで理由だけど、それはこの学校の学食を食べたかったからだよ」
「……ふぇ?」
予想外だったのか、沙都子は変な声を漏らす。
今日は『初めての沙都子』をよく見る日だなあ。
「『進学は学食の美味しいところ』って決めててね。
それで、自宅から通えそうなところがここだったの。
あの時は人生で一番頑張ったよ」
「食欲だけで、受験を乗り切ったの……」
「何言っているのさ。
人間は食事をしないと生きてはいけない。
科学や社会の発展だって、そもそもは食料を効率的に安定して集めるためにあるの。
食事のためなら、不可能を可能にするのが人間なのさ」
「くっ、食べ物が絡むと、急にIQが良くなるわね……」
「そういえば、今日の食堂は『お代わり無料』の日だったね。
よーし、記録更新しちゃうぞ!」
「一瞬でIQが溶け落ちたわ……」
「なにか言った?」
「なんでも」
何か言いたげの様子で、頭を振る沙都子。
いつもなら歯に衣着せぬ物言いをするのに珍しい事だ。
「まあ、いいわ。
それよりも……」
沙都子は私の後ろに視線を投げかけた。
「――そういう事だそうですよ、先生」
「え?」
驚いて後ろを振り向くと、そこには補習を宣告した先生が私を見下ろすように立っていた。
相変わらず疲れたような顔をしてるが、目には怪しい光を灯し口元が微かに歪んている。
そのアンバランスで不気味な表情を見て、私は猛烈に嫌な予感を覚えた。
「先生は聖職者ですよね。
まさか、カワイイ生徒に罰なんて……」
「ほう、まさか学食禁止などと言われると思っているのかね?
そんな酷い教師に見えるのかね?」
「そんなことありません。
私は先生を信じています!」
「安心しろ、そんな事はしない。
近頃はすぐに『体罰だ』などとネットで炎上するからな」
先生の言葉に、ホッと一安心する私。
だが先生は、表情を変えず不気味に笑っていた。
「ところで、食堂には裏メニューがあるのを知っているか?」
「……へ?」
「いや、忘れてくれ。
お前には関係ない話だ」
「ちょっと待ってください。
うちの食堂に、裏メニューなんてあるんですか!?」
「忘れた方が身のためだ。
裏メニューは、成績優秀者にしか出されないからな。
お前には縁のない話だ」
「ちょ、ちょっと待って!」
「それこそ、テストで90点以上取らない限りな」
「……ッ!」
先生は手をひらりと振って、教壇へと戻っていく。
私はそれを黙って見送ることしか出来なかった。
そして思う。
大人ってなんて汚いのだろう。
私は勉強が嫌いだ。
だけど、『裏メニュー』と聞いて黙っているほどお利口じゃない!
私が道理を弁えているのなら、最初からこの学校に来てなどいないのだ!
でも現実は非情だ。
前回のテストで10点を叩き出した人間が、一週間後のテストで90点……?
無理だ。
そんなことが出来るなら、そもそも赤点なんて取ったりはしない。
自分の馬鹿さ加減に打ちひしがれていると、そっと肩に暖かい手が触れた。
顔を上げると、そこには聖母のような微笑みを浮かべた沙都子がいた。
「大丈夫よ、百合子。
アナタなら出来るわ。
さっき不可能を可能にするって言ってたじゃない」
「沙都子……」
沙都子が、力強く頷いた
「アナタなら、きっとお代わり記録の更新が出来るわ。
だから裏メニューなんて忘れて、今日のお昼に集中すべきよ」
慈愛に満ちた表情の裏で、沙都子の口角がぴくぴくと動いている。
私は確信した。
こいつ、一ミリも私のことを信じてない……
「ざけんな!
私はやれば出来るってところ、見せてやるよ!」
食堂の裏メニューは絶対に食べる。
沙都子の心底馬鹿にした顔を見て、私は固く決意したのだった。
『ところにより雨』
「局地的ににわか雨があるでしょう」
いつから使ってるのか分からない、真っ赤なラジオから天気予報が聴こえる。
いつも天気ばかり気にしている母が「傘を持っていけ」と、しつこいため、うるさいなと思う。降水確率は午後から30%くらいのものだ。荷物はなるべく増やしたくない。
「いや、めんどうだし」
「あんた、そういって、この前も雨に濡れて帰ってきたじゃないの」
「傘、すぐ盗まれるし」
「そんな悪い人ばかりじゃないよ」
確かに、窓から見える空は鉛色の雲が重なり合うようにして、せわしなく流れていき、今後、雨が降りそうだ。憂鬱な空だ。雨ならはっきり降ってほしいし、降らないなら、カラッと晴れていてほしい。つまりは、中途半端が一番よくない。
うちには、折りたたみ傘がない。小学生みたいに長い傘を武器に見立てるような遊びももうしない。
「は〜い、もしもし…」
母に電話がかかってきて、長話の予感がしたため、その隙に、傘を持たず、素早く玄関から出ていく。
午後、目の前は見事なザーザー降りだ。空を見上げる。
「やっぱり、傘持ってくれば良かった」
めんどうに感じたのは、傘を持ってでることだったのか、母との会話だったのか…しばらく、母とゆっくり話してないかもしれない。