『ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
はぁはぁ、息が荒くなって行くのも構わず走り続ける。
「何か」に追いつかれないように。どうして、何で私
なのだ。そう思いながらも走って見つからないように
近くの教室に入って鍵を閉める。そしてロッカーに
潜り込んだ。しばらくはここで休もう。そしてこうなった経緯を思い出す。あれは数十分前の事だった。
「いやー、今日も練習疲れたね~」
「本当! 帰ったらすぐ寝るわ」
「勉強もしなよ? テスト近くなって来たんだから。」
「やばっ、すっかり忘れてた。」
「まったく。」
「あっそういえばさ、知ってる?」
急に彼女がワクワクした顔で聞いてきたので何だろうと
思って聞き返す。だが、大抵こういう時の彼女の答えは
ろくなものではない。
「何をよ。」
「知らないの? 幽霊が出るって噂。」
「知らないけど、どういう噂なの。」
彼女が言うにはこの学校では陰湿ないじめにより命を
絶った生徒がおりその恨みを抱えた魂が今も成仏しきれずに悪霊として彷徨っているらしい。そしてそれに出会うと自分も同じように自殺してしまうのだとか。
「またよく有りそうな話ね。」
「ま、私も信じてないけどさ。」
話しながら歩いているとあるものがない事に
私は気付いた。
「あっ、宿題机の中に忘れてきた!」
「ええっ! 早く取ってきなよ。待ってるから」
そして、自分の教室に向かって歩く。普段賑やかな学校がこんなにも静かで真っ暗だととても
不安になる。ふと噂を思い出す。いやいや、
そんなの嘘話だ。いるわけないと考えていたら
パタン、と足音が聞こえたような気がして振り返る。えっ?となりながらも前を向いた時、
「きゃあああっ!!」
頭から血を流してこちらへ歩いてくる女生徒がいて私は咄嗟に叫びながら逃げ出した。なんでよ、噂は本当だったの。泣きながら逃げて来て私は今ここにいる。でもいつまでもいても学校から抜け出す事はできない。幸い足音も今は
聞こえない。今だ、と考えてロッカーから出た。そして教室の扉を開けた時後ろに気配を
感じた。振り返ることができない。分かる事はただ一つ。私は二度と学校から出られないと いうこと。
「み つ け た」
笑う声がする。
『5月31日、〇〇高校で頭から血を流し倒れている女子高生を発見。教師の証言によると朝鍵を開けたらロッカーの前で倒れており──』
「ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。」
#91 悪夢
何かから逃げるように
私はただただ必死に走っていた__
突然、見慣れた自室の天井が目に入る
夢?
目が覚めたのだ
いつもの朝が広がっている
夢だったのに何故かほっと胸を撫で下ろす
逃げ切れてよかったと
…
足が痛い
昨日歩きすぎたからかな...
身体が重い
きっとおかしな夢を見たからだろう…
気持ちを切り替えるように
伸びをして起き上がると
ラジオをつけ天気予報に耳を傾けながら
私は洗面所に向かった。
彼がいなくなったリビングで
今日の天気を陽気に伝えていたラジオに
ザザッっと雑音が入ってプツンと音が途絶えたかと思うとまた音が鳴り始めた。
ゆらゆらと煙のような影法師が
ひょろりとした手を伸ばしラジオを消したりつけたり
遊んでいるようだ
そして、彼はまだ気づいていない
逃げられた腹いせに何者かがつけた印
足首についている手の痕のような痣に__
お題「ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。」
逃走、あるいは逃亡
何かから逃げるように、じゃない。実際、逃げているのだ、僕は。
僕は激しく動く足を休ませることもなく、心の中でそう叫ぶだろう。これは真実の逃走だと。すると、心の中の君は尋ねるだろう。お前は一体全体、何から逃げているのかと。
そんなこと、わかりゃしない。ただ言えるのは、これが真実の逃走ということと、もしかしたら現実からの逃亡かもしれないということだけだ。
僕は全ての事象から目を背けたことなんてない。いつだって、ひたむきに逃げてきた。
モンブラコン*
ミニ~~~~~~~~~~~『、、逃げる、、、』
「まちゃ~がれぇぇぇいクショボーズぅぅぅ」
姉さんに追われています現在。
はい、モンスター姉弟末っ子です。
只今テイちゃん(兄)に抱えられ、山から山へと、ビュンビュンと、すっ飛び逃げております。
ああ、先程ですね私、二階の書斎で小さな椅子に乗って本棚の上の方の本を取ろうとしましたら、バランス崩しまして、そしたら外で水やりしてたテイちゃんが、書斎の隣の部屋の開いてる窓から入って助けてくれまして♡その時ですね、ほんの少し、ほんのすこぅし、私とテイちゃんの唇が当たりましてですね♡はい。
で、もうニヤけ止まんなくなっちゃいまして、下の階でホイップクリームしゃぶってた姉さんが、いつもは微塵も空気読まない姉さんが、感付いたらしくって、キレました(笑)。
姉さんのキレ方がいつもと違い、私の足では速攻追い付かれる、と判断したテイちゃんが私を抱えて逃げることになりました☆。
はぁ♡幸せホルモン出まくり♡はぁ♡
「オラぬテイちゃんぬくつぶるをぉぅぉお!」
【ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。】
やりたくないこと、でも、やるべきこと。
辛くて苦しいこと、でも、やりとげるべきこと。
それらから、私は逃げ続けている気がする。
「自由を追い求める」という言葉を言いわけにして。
本当は、はっきりと分かっている。
誰にだって果たすべき義務と責任はある。
ただ、私はそれらを果たすことが少々めんどくさい。
それだけの理由で、私は逃げ続けている。
ふと後ろを振り返ると、目を背けていたモノ達が遠くに見えた。これまで私は追われているのだと思っていた。
でも、違った。ただ、そう思い込んでいたんだ。
私が自分勝手に距離を置いている“だけ”なんだ。
【ただ必死に走る私。何かに逃げるように。】
就活とか、卒論とか長期インターン探しとか色んなもののために走っている。
電車に乗るためにひたすら走る。ビジネスマンを避けるためにひたすら走る。学校に行くために走る。
学校に行くとホットスナックを買いに走る。
ホットスナックはストレス解消のために食べているのであまり美味しくない。ホットスナック自体はもちろん美味しいけれど。
講義に行くと途端にお腹が痛くなり、睡魔に襲われる。
だから昼食は軽めにとる。夕食は食べすぎてしまうかあまり食べられない。
ひたすらに疲れる。
家に帰っても家に帰りたい毎日。
周りの人は優しいはずなのになぜか心の居場所がない。
誰も私を責めないのに焦る。
自分自身からは走れない、逃げられない。
友達と話す時間が最も充実しているように感じられる。
友達といる時、私はおしゃべりな自分と逃げられない。それが一番のコンプレックスだけどそれはどうしようもないみたいだ。
一度止まってみよう。
何がしたいのか分からないから。
一度止まってみよう。
自分という人を知るために。
「逃げてきた」わけじゃない。
目的地の見つけ方も、
そこに向かう方法も、
上手に走る方法も、
何も教わらなかっただけ。
幸か不幸か、
目的地を見つけてしまったら、
一心不乱に走るしかない。
巨大なハンデは絶対に覆せない、
遠すぎてもう間に合わないとわかっていても、
この砂漠のど真ん中で堅実なミイラになるよりはマシ。
~ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。~
心臓が痛い。無理矢理にでも進むためにがむしゃらに足を踏み出す。周りの人がわたしを奇怪な目で見るのがわかったけど、足を止める訳には行かなかった。
どうして逃げ出してしまったのかわからない。でもどうしてもあの場にいたくなくて、下手な言い訳をして逃げ出してしまった。焦ったように、わたしを呼ぶ声が後ろから聞こえたけれど、聞こえないふりをして。
『走れ、走れ、走れ!追いつかれるぞ!
翔吾は美夢に叫んだ。しかし、美夢は足を縺れさせ転んでしまう。
助けて!美夢の叫びが木霊する。ゾンビは無慈悲にも美優の細い腕に噛みつき…』
ペンを走らせる。まだ、まだ間に合うはずと自分に言い聞かせる。10時の締切まで5時間もある。徹夜でやれば無問題だ。絶望的な進捗を放置した自分の無計画さを呪うが、追い込まれたときほど脳みそは冴え、腕の筋肉は敏速に動く。結果的に原稿にかける時間は短くなり、生産性が上がっているのかも、なんて都合のいい解釈で自分を納得させる。必死に線を引いていると、扉が開く音がした。
「うわ、まだやってるの?」
日曜日だというのに、平日と同じ時間に起きてきた妹だった。終わんないのよ、と返して再び原稿に取り組む。妹は不健康な漫画家業に対する批判をしながらも真っ暗な部屋のカーテンを開け、積み重なったコップを片付けてくれる面倒見のいいしっかり者だ。
「大体、お姉ちゃんは生き急ぎすぎだよ。もっと健康的で丁寧な暮らしをしなよ」
規則正しく生き、常に一定の速度で歩いている妹には、この緩急ある生活を送る喜びはわからないだろう。
「人生なんて駆け抜けてなんぼよ、いつ死ぬかなんてわかんないじゃん?」
やっとのことで描き終わった、ゾンビに美夢が無惨にも食われるシーンを指差すと、妹は悲鳴を上げた。
「またグロいやつ描いてる」
「仕事ですから」
漫画家になって4年。連載は貰えたものの、いつ打ち切りになるかわからない、ぱっとしない作品だ。それでも一生現役でいたい、と思っている。
寿命に追われる人間は、いつか死に捕まるそのときまで、やりたいことをやるべきなのだ。朝日に照らされたおかげで眠気が薄れてきた。絶対に締切から逃げ切ってやる。少し目を閉じて、またペンを走らせた。
迫り来る
鉄球のような
その陰は
いつかの僕が
描いてた僕
「テーマ:ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。」
今日のテーマ
《ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。》
見慣れた街並みは、だけどいつもと違って人の姿は全くない。
薄暗い住宅街を、どこへともなく、ただ必死に走る私。
まるで何かから逃げるように。
いや、まるでではなく逃げているのだ。何か分からない恐ろしいものから。
時折速度を緩めて振り返り、追っ手の姿がないことに安堵して、でも感じる気配からは確実に距離を詰められているのが伝わってきて、だから無我夢中でひた走る。
逃げても逃げても振り切れない。
焦燥に駆られて泣きたくなるけど、今は泣いてる場合じゃない。
懸命に走り続けていると、いつのまにか景色は駅前の通りになっていた。
この並木道を抜ければ、その先に大きな公園がある。そこまで辿り着ければ逃げ切れる。
なぜかそんな確信を得て、私は気力を振り絞り、縺れそうになる足を叱咤しながらがむしゃらに足を動かした。
もう少しで追いつかれる。気配はもう真後ろまで迫っている。
絶望に苛まれたその時、行く手に目映い光が見えた。
「って感じの夢を見るの。毎晩」
「お疲れ様」
カフェラテのカップを手の中で揺らしながらため息を吐く私に、目の前の友人は労いの言葉をかけて頭を撫でてくれた。
件の夢のせいでここのところ寝不足気味だ。
睡眠時間だけならいつもと同じくらいだけど、起きた時の疲労感がすごくて全然寝た気がしない。
「何かに追いかけられる夢はプレッシャーや不安が強い時に見るっていうけど」
「……」
「その顔だと心当たりはありそうだね」
プレッシャーじゃないけど、不安ならある。
年度が変わってから、恋人からの連絡が激減した。
新しいプロジェクトに加わることになったって言ってたから、忙しくてそれどころじゃないのだろうと思ってた。
会えないのも話せないのも寂しいし、体調崩したりしてないか、疲れてないかという心配もあったけど、邪魔をしたくなくてこっちからの連絡も控えてた。
でも、先週の休みに見てしまったのだ――彼が綺麗な女の人と楽しげに歩いてる姿を。
不安があんな夢を見せるというなら、夢の中で私を追い詰める『何か』は彼との別れを示唆しているんだろうか。
夢の中の私は、別れを告げられるのが怖くて、そこから目を背けて逃げているんだろうか。
浮かない表情から何かを察したのだろう。
友人が宥めるようにポンポンと優しく腕に触れてくれる。
ブラウスの薄い布越しに伝わる手のひらの温度が、沈んで冷えた心を少しだけ温めてくれた。
「愚痴でも何でも聞くし、ストレス発散ならつきあうよ」
「ありがとう」
「じゃ、今日は帰りに一緒にご飯食べて帰ろうか。飲みでもカラオケでもつきあうよ」
「そういえば駅前に新しいお店が――」
話してるタイミングでテーブルの上のスマホが震えた。
画面にポップアップで表示された新着メッセージには彼の名前。
ちょっとごめん、と断ってアプリのトーク画面を開く。
『今日、仕事終わってから会える?』
『大事な話があるんだ』
楽しいことに切り替えかけた気分が、まるで氷水を浴びせられたように萎んでいく。
脳裏に浮かぶのは他の女の人と楽しそうに歩いてた彼の姿。
このタイミングで『大事な話』だなんて別れ話の予感しかしない。
「大丈夫?」
「うん……」
「全然大丈夫そうに見えないんだけど」
「大丈夫じゃないかもしれないけど大丈夫。ごめん、今日の帰り、用事できちゃった」
繕い切れてない表情から、何某か察したんだろう。
友人は心配そうな顔でもう一度私の頭を優しく撫でてくれた。
「何かあったら話聞くから連絡して」
「うん、その時は聞いて」
こんな風に毎日悪夢に魘されて心を擦り減らすくらいなら、きちんと向き合った方がいい。
たとえ恋が終わっても世界が終わるわけじゃない。
逃げ出したくなる気持ちを無理矢理奮い立たせて、私は彼に了承のメッセージを送った。
仕事を終えて待ち合わせ場所に着くと、先に来ていた彼はやけに神妙な顔をしていた。
やっぱり別れ話をするつもりなんだろう。
こんな風に待ち合わせるのもこれで最後かと感慨深く思いながら声をかける。
彼は僅かに緊張を滲ませながらも、いつもとあまり変わらぬ笑顔で接してきた。
とりあえず先に食事をしようと言われ、昼間友人と行こうと話していた店に連れて行かれた。
小洒落た雰囲気のダイニングバーは料理もお酒も豊富で、週末ということもあってほぼ満席。
だけど彼は事前に予約をしておいたらしく、奥まった場所の角席へ案内される。
せっかくいい感じのお店なのに、別れ話の記憶が邪魔して来られなくなるのは残念だ。
いっそのこと、来週にでも友人とまた来て嫌な記憶を上書きしてもいいかもしれない。
正直なところを言えば、彼のことはまだ好きだし、別れたいとは思ってない。
泣いて縋って取り戻せるくらいならそうしたいとも思う。
はっきりそういう話をしたわけじゃないけど、ゆくゆくは結婚できたらと、そんなことまで考えてたんだから。
でも、もし彼に他に好きな人ができたなら、私がどんなに未練を抱えていても、このままつきあい続けることはできないだろう。
せめてこの場はみっともなく取り乱したりしないようにしたい。
終わったら、友人のところに駆け込んで、ヤケ酒につきあってもらって、思いきり慰めてもらおう。
それだけを支えに、覚悟を決めてこの場に臨んでいる。
食事の間の会話は互いの近況を語る和やかなものだった。
掛かりきりだったプロジェクトは順調でようやく軌道に乗ったらしい。
私も他愛ない日常の話をぽつりぽつりと差し挟む。
悪夢のせいでここのところ眠りが浅く、疲れが顔に出てしまっていたが、退勤前にメイクでしっかり誤魔化してきたのですぐに気づかれることはないだろう。
食事を終え、その場で切り出されるのかと思いきや、彼は「少し歩こう」と言って先に立って歩き始めた。
駅前通りの遊歩道を、肩を並べてそぞろ歩く。
前にこうして歩いたのはもう2ヶ月ほど前。その頃は桜が散りかけで、雪のように降る花片が幻想的で綺麗だった。
幸せな記憶が蘇り、胸を切なく疼かせる。
程なく並木道を抜け、公園に――あの、悪夢のゴール地点とも呼ぶべき公園に辿り着いた。
夢では、ここに駆け込めれば逃げ果せた。
だけど現実は、この公園こそが私を地獄に落とす終着点であるらしい。
ジョギングコースや噴水を擁する公園には、この時間でもまだ人の姿がちらほらある。
彼は迷うことなく噴水のある方へ足を進め、やがて空いているベンチに腰を下ろした。
隣に座って横顔を盗み見ると、予想通り、どこか強張った顔をしている。
膝の上で握り締められた手は彼の緊張を窺わせ、そんな場合でもないのに「大丈夫だよ」と励ましてあげたくなってしまう。
大丈夫。
私の気持ち的には全然大丈夫じゃないけど、それでも取り乱して困らせることはしないから。
だから、そんな悲壮な覚悟を決めなくても平気だよ。
ちゃんと、できる限り、綺麗にさよならしてあげるから。
口には出せないけど、心の中でエールを送る。
たぶん彼に対する最後のエール。
仕事で行き詰まった時、取引先の人と揉めた時、落ち込んだ彼をそうやって慰めて、或いは励ましてきた。
これからはもう、それは私の役目じゃなくなるのか。
そんな風にしんみり浸っていたら、突然彼が私の手を取り名前を呼んだ。
いつになく真剣な顔に、胸が針で刺されたようにじくじく痛む。
意を決したその眼差しに私も覚悟を決めてごくりと唾を飲み込んだ。
「俺と、結婚してくれ」
「分かっ――え? 結婚?」
別れてくれと言われるとばかり思っていたのに、全く逆の言葉を食らって、私は口をパクパクさせながら息をするのも忘れてただただ彼を凝視する。
聞き違いだろうか。
それとも私の願望がそんな幻聴をもたらしたのか。
「このプロジェクトが完全に軌道に乗ったら昇進することが決まってて。今週やっと目処が立ったんだ。もうすぐおまえの誕生日だろ? それまでにプロポーズして、プレゼントと一緒に指輪を贈りたくて、それで……」
「ちょっと待って。じゃあ、先週末、一緒に歩いてた女の人は?」
「先週末? ああ、最終ミーティングで休日出勤してたな。その日に一緒に歩いてたっていうと、たぶん社の先輩。昼飯の買い出しに行った時かな? まさかそれ見て変な誤解したとか言うなよ? 言っとくけど、あの人、既婚者だからな」
情報量が多くて頭の中はプチパニックを起こしてる。
でも、これはもしかして。
「今日の大事な話って、別れ話じゃなかったの?」
「は!? 勘弁してくれ! 一世一代の覚悟でプロポーズしたのに、なんで別れ話と勘違いされてんだよ!」
頭を抱える彼を慌てて宥めて謝罪して。
ずっと張り詰めてた気持ちが不意に緩んで、私の目から涙がポロポロこぼれ落ちた。
覚悟していた悲しい涙じゃなく、これは正真正銘うれし涙。
私の濡れた頬を彼の指先が優しく拭ってくれる。
夢で見た通り、この公園は悪夢から逃げ果せるゴール地点だったらしい。
ずっと私を追い詰めてた不安はもうすっかり消え去ったのだから。
41ただ、必死に逃げる私。何かから逃げるように。
ヒッチコックのようなサイコスリラーが撮りたい。
そんな想いで持ち込んだ映画の企画が、部署を通過するごとにお偉いさんに改変され、めでたく撮影に入るころにはラブロマンスになっていた。よくあることではないが、時折あることである。業界というのはそういうものだ。
主演俳優だけは何故かスケジュールの都合がきいてしまい、当初の予定のままキャスティングされている。
裸で浴室にこもり、叫び声をあげて刺されるのがよく似合う、いかにもスリラーで死んでそうな安っぽい女優と、その女優を追い回すはずだった目の血走った醜男。
今、スリラー女優はスリラー俳優に追い回されて悲鳴をあげている。不気味さと悲壮感のただよう素晴らしいショットだが、これは殺害シーンではなくラブシーンだ。
果たしてこの映画の行く末、どうなるのだろう?
監督の自分としては、案外ウケる気もしている。
──あんなに若くして可哀想に。
──運が悪かったのねぇ。
一カ月くらい前のことだ。
この道路で轢き逃げ事件が起きたのは。
被害者は仕事から帰宅途中だった三十代の女性会社員。
道端に倒れ早朝になるまで放置されていた女性は、発見した頃にはすでに心肺停止状態であった。
(もしかしたら『これ』は、そういう類いのものなのかもしれない・・・・・・)
頭の中でそんな思考にいたるも、深く考えている余裕はなかった。
息も絶え絶えながら、必死に足を動かす。追い付かれたらと思うと、それだけで血の気が引いて寒気がした。
(・・・・・・お願いだから、こっちに来ないで)
普段から使い慣れていたはずの道が、いつからか不気味な雰囲気を漂わせるようになったような気はしていた。きっと一カ月前に起きた、あの事件がきっかけだったのだろう。
どうしてもっと早くに、この場から立ち去らなかったのか。
けれど、にわかには信じ難かったのだ。半信半疑のまま今日までこの道を、変わらずに歩き続けてしまった。しかも事件と同じ、こんな夜更けに。
だから、目を付けられてしまったのか。
心霊現象からは無縁の人生を歩んでいたはずの自分が、どうしてこんなことに──。
私はただ逃げるしかない。
この不快なほどに降り注ぐ、悍ましい感覚から。
ひゅうっと、後ろからものすごい速さで、何かが顔のすぐ真横を通り過ぎた。あまりにも至近距離ですり抜けていったその何かに驚いて、思わず駆けていた足を止めてしまう。
(・・・・・・これは、・・・・・・刀?)
私の行く手を阻むかのように前方のコンクリートの地面には、見るからに立派な日本刀が突き刺さっていた。固い地面にどうしてこんな日本刀が深々と突き刺さることができるのかという疑問が過るも、それよりももっと重大なことに気付き、驚愕で膝が震え上がる。
(・・・・・・っ!! 動けない!)
まるで地面に足が縫い止められてしまったかのように、これ以上一歩も前へ行くことができない。私はその事実に悲鳴を上げるも、緊張で上手く声が出ないのか、周囲へ助けを呼べるほど自分の声が響かない。
ざっ、ざっ、ざっ、と背後から近づいてくる足音に、私は為す術もなく振り返る。
「ああ、よかった、追い付いた」
夜闇で影になっている場所から、落ち着いた声音が放たれる。
「これ以上離されたら、どうしようかと思ったよ」
影から現れ出てきたのは、柔和な顔つきの年若い青年だった。青年は穏やかに微笑むと、こちらに歩を進めながらゆっくりと手を伸ばす。
「君を迎えに来たよ。残念ながら君のいられる場所は、もうこの世のどこにもないんだ」
だから、在るべき場所に僕が案内するよ。
青年のその言葉に、私は力が抜けたようにその場へと座り込んだ。
ああ、そうか、と、腑に落ちて、私はやっと一カ月前に自分の身に起きた、事の顛末を思い出す。
私はあの日、車に轢かれて死んだのだ。死んだ私に追い打ちを掛けるように、ここを通る見知らぬ人達から、望まぬ哀れみの言葉の数々が吐き出されるものだから、私はずっと逃げていたのだ。逃げても変わらないのに。私はもうここの他にはどこにも行けなかったのだから。
けれど、青年がここも私の居場所ではないのだと教えてくれたおかげで、私はようやく心の底から安堵し、自分でも知らぬうちにたえていた涙を、思いっきり流すことができたのだった。
【ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。】
「はぁ……はぁ」
息が切れるが足を止める訳には行かない。
訳が分からない誰かに追われている。
気づいたら走っていた。
もう疲れた。
でも、走らなければいけない。
捕まっては行けない。
でも、あいつはあきらかに私より早かった。
手を掴まれる。
「ひっ……」
冷たい刃物と生暖かい息が首にかかる。
「速報です。今日午前0時、○○区の裏路地で女性が刃物に刺されて亡くなっているのが発見されました。犯人は未だ分かっていません。皆さんも外に出る時は十分に気をつけてください。」
「はぁ…はぁ、助けて」
疲れて仕方が無いが、足を止めたら殺される。
誰かにおわれている。
なぜかは分からないが、走るしかない。
昨日に続けて今日も、きっと明日も夜の街に悲鳴が上がる。
─ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。─
ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。
なんで逃げてるんだっけ?
思い返せば、発端は些細な喧嘩だった。
あんな言葉、本音じゃないのに。
無意識に込み上げていた言葉は、気づけば口から漏れていて。
止まることを知らない言の刃は、姉の心を深く刺していた。
それに気づいたのは、姉を傷つけてから公園に着くまでのわずか数分。家を飛び出してなければ、今すぐ謝れてたのに。
これじゃあ、帰りたくても帰りずらいなぁ。
とりあえず公園の綺麗目なベンチを選んで腰を下ろした。
「どうしよ」
思わず吐いた一言は、案外どうでもよさそうで。大して気にしてないような気がしてきて。なんか自己嫌悪。
「はぁ……」
さらにため息。
あんまり重たくないな。
もっと、重ためのため息じゃないと今すぐ家帰って姉に謝罪ルートで確定じゃん。早いよ。気まずいよ。
まだ、センチメンタルに浸ってたい。
だから私は、深く深呼吸したあとにもう一度特大のため息をこぼした。
「すぅ………………はぁ~~~~~~」
「すごいため息」
「はぁ!?」
すっとんきょうな声を上げてしまった。はずかし。
誰だか知られないが、とんでもないため息現場を目撃されてしまった。はずかし。
「すいません、大きな声出しちゃって」
私は逃げるように顔を背けた。
しかし、そいつは何故かまだ横にいる。というか私の横に座ってきた。
「こんな夜の公園でため息ついて。そっちもいろいろあったんだねぇ」
そいつの声には聞き覚えがあった。
ああ、そうか。
思い出したぞ。
彼の顔を見て確信する。
「出たな夜の帝王! お前の噂は知っている! か、顔がいいからってところかまわず手ぇだして。つ、ついに私にも手を出しに来たのか!? そ、そう簡単に私の貞操を破れると思うなよっ!」
私は全力で捲し立てながら、手刀受けの構えを取る。
「……はぁ。そんなんじゃないよ。てか、誰がそんなこといってたのか知らないけど。嘘だからね」
彼の顔は確かに不名誉な二つ名に憤りを感じてるように見えた。けして、あれよあれよと手をだしてきたことに誇りを持ってるやつの顔ではなかった。
なるほど、彼には申し訳ないことを言ってしまったな。
「あの、すいませんでした。私、いきなり失礼なことばかり言ってしまって」
「ん、誤解が解けてよかったよ。まあ、君もなんかあったんだよね。こっちもごめんね、いきなり話しかけて。偶然見つけて、二年になってから同じクラスなのにまだ話してないなーって思ってさ」
だから話しかけてきたのか。そういえば彼はクラスメイトだったなぁ。
まだ4月上旬なのに、まだ話してないという理由で私に声をかけてきた。
私のことが好きなのだろうか?
いやいや落ち着け。例えそうだとしても私には考えないといけないことがあってだな。
「大丈夫?」
「あっあはぁー。大丈夫でっせ。いや、ええ、まあ。姉と喧嘩しまして」
うわ。たどたどしいうえに変な語尾使ってしまった。彼が気にしてないことを願おう。
「そっかぁ~。きょうだい喧嘩かー。じゃあ、俺も似たようなもんかなぁ」
「あ、あなたもそうなんだ……」
しばらくの間を置いて、彼が口を開いた。
「あのさ、走らない? あそこの桜まで」
「え」
急に何を言い出すのか、彼は前方にある桜の木を指していう。
私が返答にまごついていると、
「よーい、ドン!」という合図を放って彼は走り出していた。
「え、ちょっと!」
私も彼に続いて走り出す。
先に桜の木についていた彼は、肩で息をする私と違ってまだまだ余裕を感じる。
何か運動でもしてるんだろうな。
「いい笑顔だねぇ。やっぱり走ると気持ち入れ替わるね」
まあ、たしかに走ると心が気持ちがリフレッシュする。
でも、私には彼の顔は見れないから。
「街灯も無しにこんな暗闇で他人の顔わかるわけないじゃん」なんて言ってしまう。
「推測だよ。なんとくそう思ったんだ」と答える彼の口調はおだやかで優しい。きっと笑ってるんだろうな。
そして私も笑ってる。
それから私は彼に別れを告げて、家まで走っていた。
ただ、必死に走る私。姉と仲直りするために。
笑顔を添えて。
〜ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。〜
ただ、少年は必死に走った。
最初はトンボを追いかけて。
その次は、川を目指して。
そして気付いたら山の頂上を目指していた。
少年は毎日、退屈から逃げるように走った。
でも少年は退屈の反対をまだ知らない。
ただ、必死逃げる私。なにかから逃げるように。
「嫌だ、誰か、助けてくれっ、来るなっ、」
もう、体力は底を尽きそうだ。
呼吸が乱れ、息をするのもやっとのこと
俺を追いかけて来るやつは何か分からない。得たいの知れないどす黒い何か。
がむしゃらに走り回り、額に汗で張り付いた長い前髪など気にしてられない
その"なにか"はペースを落とすこと無く追いかけて来る
それに比べ、俺はもう疲れきって歩くこともままならない状態で"なにか"が来るのを待っている
あぁ、もう無理だ。そんなことを思った
へとへとになり立てず地べたに座り込んでしまった。
最後にあれはなにか知りたくなり"なにか"をじっと見つめる。恐怖だってある、だけどもう体が動かず見ることしか出来なかった
すぐに"なにか"が俺の目の前に来た。
どす黒いなにか、その真ん中には
怯えた自分がいた。泣いている自分自身がいた。
やっと気づいた。
"なにか"の正体は俺、自分自身でずっと奥底に追いやり隠し込んでいた気持ち。そのものだった
俺は自分からは一生逃げられないんだな、
「はは…もう、誤魔化せないか、」
頬につう、と一雫たれ、歯止めが効かなくなった
涙が止まることを知らないかのように流れて止まらない。
いつからだろうか、涙が出なくなったのは自分で自分を閉じ込めたのは…
気がつくと、朝になっていた
あれは夢だったらしい、寝ながら泣いていたのか枕が湿っていて服は汗でぐっしょりと濡れていた
だが、気分だけは良かった。心なしかすっきりしていて前よりも朝日がきらきらと輝いて見えた。
もう、自分を閉じ込めないように生きてみよう
あの日、私は何かから逃げていた。
天変地異か、人殺しか、それとも別の何かか。
私はそれが何者なのかもわからず、悲鳴をあげて逃げ回るオーディエンスと共に駆け出していた。
追いかけるそれの視線は、まっすぐ私を捉えて離さない。
刹那、私に襲いかかってくる瞬間──強引に目を開けた。
冷静に考えたら夢だというのはわかってはいるのに、あの瞬間は確かに現実のように感じられる。
夢というのは不思議なものだ。
数多の命乞い
数多の断末魔
罪には罰を
裁きの剣を振りおろせば真っ赤な花弁が舞う
群衆の狂気じみた歓声
臙脂のこびりついた剣
罪には罰を
せめて安らかにと私にはそんな資格はないのに
血で染まった手でレクイエムを奏でる
泰平の世のためだと これが正義だと
数多の命を奪っていった
群衆の狂気じみた罵声
手を縛られた愛した人
真紅に染まる空と剣
私は逃げ出した
(罪には罰を!罪には罰を!)
私は耳に永遠に住まう悪魔に囁かれ続けている
#ただ必死に走る私。何かから逃げるように。
テーマ「ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。」