『たそがれ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「真人(まひと)~アイス買ってこ~」
そう言ってコンビニを見る陽太(ひなた)。
「悪。金欠」
「マ?」
「ま。あんな頻繁に食ってたら、金欠なるだろ」
真人は悔しそうに「金がねぇ...」と呟いた。
「じゃあ俺のやつ半分あげる。二つに分かれるやつとかあるじゃん?」
「おま、そこまでして食いたいのか」
「ノンノン真人くん。俺はそこまで食い意地無い」
コンビニに入り、陽太は目当ての二つアイスを探す。真人は、ぼけっとそんな陽太を見ている。
「じゃあなんでそこまで食いたいわけ?陽太ってもしかしてアイスマニアだった?」
「発想が面白いね真人クン。アイスマニアは考えてなかったよ」
お、見っけ~と陽太はショーケースを開けてそのままレジへと持っていく。
「...やっぱ俺も食うんだし払う」
「はい駄目~真人は払っちゃ駄目です~残念でした~俺に奢られてくださ~い」
陽太はササッと会計を済ませてしまった。
二人は土手に座って、夕日を眺めてアイスを頬張る。
「うんめー」
「...なんか悪いな」
「悪くなーい」
「...でもなぁ...」
食べてはいるが、浮かない顔をしたままの真人に陽太は言う。
「じゃあ真人クンが大学生になって、バイトして、金銭的余裕ができたら!...奢られてあげるよ?」
「奢ってよ、とかじゃなくて奢られてあげるかよ」
「だって~真人は俺のワガママに付き合ってくれてるんだから、このくらい当然なんだけどね」
「ワガママじゃねぇけど」
「え?」
「俺はそれに好きで付き合ってるわけだしなぁ」
もにょもにょとアイスを食べる真人を見る。
「ほ、へぇふぅん?」
「なんだその返事」
「真人って意外と緩いんだなぁって」
「緩い...?」
「わは」
黄昏時にアイスを食べる二人であった。
お題 「たそがれ」
出演 陽太 真人
たそがれ
もうすぐ夕暮れ時が…あの人がきてくれるいつもの時間がやって来る
あの人がいてくれるだけで、心が楽になる
「なん...で?わ、たし...あ、なた...を、あ、い...してっ............!」
「ごめん、ごめんね。ほんとに、ごめん...自分勝手でごめん。辛いよね。痛いよね。でももう、これしか...ないんだ。」
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赤く染まった■■が異様な匂いを放つ。急いでキャリーケースに入れて、臭いも閉じ込める。手袋をして、指紋は残らないように。
赤く染まった床を雑巾できれいに拭く。指紋が残らないように。誰かに見られないように素早く。でも慎重に、慎重に...
「よし、おっけ。」
緊張していたからか、汗がブワッと噴き出す。ふぅ.........赤い床は綺麗な真っ白に戻った。証拠隠滅。完全犯罪だって夢じゃない。僕は、なにも...僕は!.........なにもしてない。
机の上にあらかじめ用意していた「失踪の手紙」を置く。字体もアイツに寄せたから、バレることはない。
玄関に置いていたキャリーケースに目をやると、血が染み込んできているようだった。急いで車に乗り込み、山奥へ出かける。キャリーケースと一緒に。
山奥に、キャリーケースから取り出した■■を埋める。そして、キャリーケースは別のところに捨てる。......かんぺき。
また急いで車に乗り込む。微かに血の臭いのする車にファ◯リーズをして、微かな臭いすら消した。もう、未練はない。後悔はない。罪悪感は...ちょっとあるかもだけど。
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「もう夕暮れか。」
車の窓から外を眺める。
...たそがれ時の空は、いつもより赤黒く染まっていた。
#たそがれ
最近釣りにはまっている。
だが日中は仕事で休みの日は混雑しているので
私と妻は大抵平日の夜に釣りをする。
仕事が終えて夜釣り。
2人でぼんやりウキを眺める。
釣りの間はほとんど言葉を交わさない。
黄昏時。沈みゆく夕陽となかなか沈まぬウキ。
会話のない静かな時間も心地いい。
さて、すっかり月が昇り夜がきた。
そろそろ納竿。
ウキは今日も沈まない。
常に黄昏れてるわ
人生が黄昏れだわ
もはや終わりたい
《たそがれ》
ふと気が付くと、自宅のどの部屋にも彼女がいない。
銀にも見える白髪に、紫がかった赤い瞳。
闇に魅入られその力を受けた証の色を持つ彼女を、大掛かりな騒ぎにしない為にも同居をさせる形で監視を始めて暫く経つ。
何も企む様子は無い。悪事に手を染める兆候も無い。
それどころか、その明るさと僕への信頼は揺るぎの無いもので、今は傍にいないと不自然さすら感じる。
そんな彼女が家を出る時は、大抵庭で過ごしている。
予想を立てて庭に出ると、その通り彼女はそこにいた。
庭に昔から植えられている、一本の大きな木。
その幹から生える太い枝に、彼女は座っていた。
それなりの身体能力があると気付いてから、彼女は時々ではあるがその木に登り遠くを眺めるようになった。
高さとしては、成人男性一人分ほど。枝ぶりとしては、大人が乗っても優に耐えられるようなものだ。
しかし万が一手を滑らせたり枝が折れたり危ないからと木に登る事を控えるよう言ってはいるのだが、
『ごめんなさい。どうしても、そこからの風景が見たくなって。』
と、寂しげに謝られてしまうため、僕はそれ以上強くは止められなくなってしまった。
頻繁ではない上に、今まで小さな怪我を負うような事も無い。
が、それでも何かあってからでは遅いという心配が消える事も無い。
その想いを胸にしながら彼女に声を掛けようとして、僕はその姿を見た。
沈みゆこうとする太陽を背景に、木の枝に腰掛け遠くを見る彼女。
僕に比べて小さな身体と白い髪が作り出すシルエットは、橙色の光に縁取られている。
暖かな光の色彩が作り出す風景のはずなのに、何故かそこ一帯の空気は暖かさを奪われた感じがした。
逆光でよくは見えないが、彼女の眦は下がり、唇は一文字に引き結ばれているのか。
その赤紫の瞳の奥には、一体何が映されているのか。
いつもの明るい貴女とは全く違う、辺りの空気。
今木の上にいる貴女は、本当にいつも一緒にいる貴女なのか。
それとも、何かが貴女の周りの暖かさを奪っているのか。
それはもしかして、僕なのではなかろうか。
暫し時が止まったかのように身動きが取れなくなった僕に気付き、樹上から彼女が降りてきた。
その動作には、少しの危なっかしさも無い。
そして木の根元に降り立ち、彼女がこちらに駆けて来た。
背後からの太陽で、やはりその表情は掴み辛い。
「ごめんなさい、また木登りしてしまいました。」
僕の目前に立ち、申し訳無さそうに彼女は詫びた。
樹上での空気から一変、そこにはいつもの暖かさが戻っていた。
僕は、その変化に圧倒された。
「い、いえ、謝らないで。怪我が無いならいいです。何かいい景色が見れましたか?」
僕は動揺しながらも、彼女に問いかけてみた。
ただ見える物ならば知っている。ここは、僕が生まれ育った家だ。
あの時と然程変わらぬ、帝国の景色。黄金色の金属で作られた、過去よりの技術と圧政の結晶。
でも、そんな物ではなくて。
さっきの貴女の瞳に映ったもの、感じていたものを知りたくて。
貴女を疑い監視をしている。そんな僕が言えた義理じゃないと思うが。
その質問を聞いた彼女は、一瞬だけ目を見開いた。
そして赤くなり始めた光をその背に、明るい笑顔で答えた。
「…はい! 夕日に照らされた街並みがキラキラ光ってて、とても綺麗でしたよ。」
東の空は闇に溶け始め、西は地平線に向かう太陽が藍の雲を濃桃に染めている、そんな黄昏時。
貴女は、何者なのか。
その瞳に何を映し、何を想っているのか。
それを貴女から聞ける機会が、いつか訪れる日は来るのだろうか。
そんな想いが少しずつ、僕の中から湧き出てきた。
意味としては夕暮れでしかないけれど、それを「黄昏」って言うと、どこか禍々しさとか雅な雰囲気を感じる。世界最後の日の空とか、異世界の空とか、平安時代ぐらいの空とか、そんな感じのものがイメージされる。
nmmnです。読む際は注意してください。
『天災、疫病、飢餓
災厄に見舞われた国を立て直すべく、元号が「神和」に改められる。
それから早数年。
魑魅魍魎、有象無象が跋扈する皇都は、「人」「神」「魔」、
それぞれの陣営が奇妙な均衡を保つ都市へと変貌していた。』
私の推しは明日存在しているかも分からない、そんな世界に住んでいるらしい。
彼らの世界においての魔というものは人でも神でもないものであり人間の負の感情から生まれてくるらしい。全ての魔が悪なわけではないが害をなしてくるものが多いそれは祓魔師である彼が日々命をかけて祓っている。
神においても必ずしも良い影響を及ぼすのではなく神に魅入られた人間は神隠しにあい存在自体が無くなってしまうのだとか。その後、神になるのか玩具として過ごすのかは私には定かでは無い。そんな神に御加護を頂くべく官吏である彼がリスクを背負って毎日のように神に謁見をしている。
魔が人間に及ぼす影響を調べ弱点を見つけ出すのは研究者である彼だ。直接神と対面する訳でもなく祓魔のために前線に出ることも多くない研究者はそれでも人のために魔を研究し作戦をたて自らの身を費やしている。
そんな彼らは今この時間を「黄昏」ではなく「逢魔ヶ刻」と呼ぶことが多いらしい。語源は分からないがおそらくは「誰ぞ彼は」と同じ、薄暗くなる時間帯に顔が見えずらくなることからだろう。顔が見えずらくなればそのものの存在は薄くなる。人なのか魔なのか分からない。気がついた時には隣にいた友人が神に連れていかれ存在が消えうせてしまっていたり、魔に食べられ跡形もなくなっていたり、友人だと思っていたのに実は魔だったり。とにかく、この時間帯には事件が多い。その事から「逢魔ヶ刻」と呼ばれるようになったのだろう。
そして彼らの住む世界は桜魔皇国。桜魔ヶ刻、、、
この世界に住む私には何も分からないが、彼らがせめて死ぬことが当たり前の世界で死にたくないと思ってくれるように安心できるような帰って来れるような場所を、未練を残せるような居心地のよい場所を、
そう思いながら毎日この時を過ごしている。
__たそがれ__
※実際に存在する人物、又は団体にはなんの関係もありません。
彼らをみて日々私が思っていることを書いただけです
これを見て不快になってしまった方がいたら本当に申し訳ございません。
陽が沈む前の
完全に暗くなる前の
あのせつないような寂しさを
感じるために生きている
「たそがれ」
たそがれ
午後5時半頃
空が黄昏ていた。
水を垂らすと空が滲んでいった。
色が混ざって白っぽく黒っぽくなっていく。
空はいつでも私を待っている。
用意をしても届かない場所。
早くいっても、遅れても、
空はいつでも私を呼んでいる。
✡
【お題:たそがれ 20241001】【20241003up】
「こんな所で何してるの?」
背後からかけられた声に柏崎隆太はびくりと肩を震わせた。
街で一番高い場所にある公園。
春になると桜の花が見事に咲き乱れ、市の桜まつりが開かれる場所。
その頃は皆、夏の大会のことで頭がいっぱいだった。
6月に行われる総体の地区予選。
そこで勝ち進めば県大会、全国大会と駒を進めるが、大抵は地区予選で終了、良くて県大会までで全国大会へ行った話など聞いたことがなく、大抵の3年生は夏休み前には部活を引退する。
残るのは一部の運動部と文化部だけだ。
隆太も大抵の3年生のうちの一人だ。
小学4年から始めたミニバスケットボール、そしてそのまま中学でもバスケ部に入った。
去年の6月には先輩から部長を引き継ぎ、忙しい一年を過ごし今年の6月に後輩へ部長を譲り、引退した。
それからは、受験に備えて勉強に専念⋯⋯できるはずもなく、時々部活に顔を出しては、ボールを触り適度に体を動かしてストレス解消していた。
だがそれも夏休み前までの話で、夏休みに入ると同時に親から勉強に専念するよう釘を刺された。
ただ、隆太としては、それほど頑張って勉強しなくても志望校に受かるだけの学力は維持しているつもりだ。
だって、そうでなければ竹内朱莉と同じ高校には通えない。
学年で五本の指に入るほどの成績の彼女と一緒にいたいと思うから、1年の頃からずっと勉強も部活も頑張ってきたのだ。
「久住こそ、何で居るんだよ」
「さぁ、何となく?」
この、とぼけた答えを返してくるのは、竹内朱莉の親友の久住京香。
元バスケ部女子の部長で、隆太がここに居る理由の一つを担う人物だ。
何だかんだで3年間同じクラスで席も近く、腐れ縁と言うやつだ。
「⋯⋯久住は、高校、どこにするんだ?」
地方の田舎だ、市内にある高校は3校、近隣の市を入れても9校しかない。
私立や市立の高校は通える距離にはなく、下宿か寮に入る他ない。
選択肢はあるようで無いのが現実で、成績が良くても家庭の懐事情で市外の学校に通える者は少ない。
それこそ部活などで優秀な成績を修めたのなら話は別かもしれないが、そうそうない話だ。
「聞いてどうするの?」
「⋯⋯別に、どうもしないけど」
「ふーん。柏崎は北高でしょ?」
「ん?まぁ、な」
「朱莉は商業って言ってたけどなぁ」
「えっ!?」
ちょっと待て欲しい、そんな話は聞いていないし、想定していない。
今から進路変更をして⋯⋯、いやダメだ、両親が絶対許してくれないだろう。
想定外のことに、隆太の頭の中はパニック状態だ。
青い顔をしてブツブツと呟く隆太を横目に京香は視線を街へと向ける。
この街の太陽は海から昇り、山へと沈んでいく。
だから、黄昏時が少し早く訪れる。
その時間の街を、この場所で見るのが京香は好きだ。
部活があった頃は中々見れず、天気の良い休みの日にランニングをしながら通った。
部活を引退してからはほぼ毎日通っている。
家が近いのもあるが、物事を整理するのにこの場所は最適だからだ。
ほとんど人がこなくて、街を眺めることができる場所。
「ふふっ、嘘だよ」
「⋯⋯はぁ?久住お前、性格悪いぞ」
「何とでも。でも、朱莉がどこを受けるのか私、知らないよ。これは本当」
「そう、なのか?」
無言で頷いた京香は街の様子に目を細める。
もうすぐ太陽が山に隠れ、街は夜に包まれる。
「直接聞けば良いんじゃない?ついでに告白しちゃえば?」
『どうせ両思いなんだから』
京香はその言葉は飲み込んだ。
親友とその親友を一途に想う男の焦れったい恋愛。
それを京香は2年近くも目の前で見せつけられてきたのだ。
そりゃあ言いたくもなる。
「お前な、簡単に言うなよ」
そう、簡単に言わないで欲しい。
自分が酷く情けなくなるから。
「そう?簡単じゃない、『好きです、付き合ってください』って言えばいいんだよ。あ、いや、これだと固いし面白くないか。じゃぁ『愛してる、俺の女になってくれ』とかどう?」
「どう?じゃねぇよ⋯⋯、ったく」
「⋯⋯私たち受験生だけどさ、自分の気持ち伝えるくらいは許されるんじゃない?」
「そういう問題じゃない。それに⋯」
『お前だって人の事言えないだろう』
そう、言いそうになって隆太は口を噤んだ。
「それに?」
「⋯⋯ナンデモナイ」
隆太はつい2時間ほど前の親友、各務との会話を思い出す。
『えっ、久住は北高じゃないのか?』
『市外だって』
『えっ、どこ?』
『それは、俺の口からは言えない。なぁ、隆太。お前何で竹内に告白しないんだ?』
『はっ?なっ、何っ、俺っ、違っ』
『隠しても無駄だ。って言うか、隠せてないから、全然。わかりやす過ぎ』
『う、うるさい。あ、もしかして竹内にもバレてるのか?』
『いや、そこは大丈夫だろ。竹内も鈍いみたいだし。でも、久住にはバレてるだろ?』
『あー、うん。速攻でバレた』
『久住が気にしてたんだよ。竹内が高校に行っても大丈夫かって。自分は一緒に行けないから虐められないか、とかさ』
『それと、俺が竹内のこと⋯⋯す、好き、なのと何の関係があるんだよ』
『⋯⋯安心できるだろ。知ってるやつがすぐそばにいれば。少なくとも竹内はひとりじゃないからな』
『そんなの、久住の他にも竹内には友達がいるじゃないか』
『お前、それ本気で言ってるのか?』
『⋯?、当たり前だろ。嘘言ってどうなるんだよ』
『はぁぁ、マジかよ。鈍い鈍いとは思ってたけど、ここまで鈍いとはな』
『なっ、喧嘩売ってるのか?』
『竹内の周りにいるのは、久住の友達であって竹内の友達じゃない。寧ろ竹内を虐めようとしていた連中だよ。まぁ、今はそんな気は無いだろうけどさ。それにあいつらは竹内と同じ高校に行けるような成績じゃないだろ。竹内の見た目や性格は、女子には嫌われやすい。なまじ男子にはモテるから余計イジメの対象になりやすい』
『⋯⋯⋯⋯でも、イジメられてるなんて聞いたこと無かったぞ』
『そうだろうな。久住がいたからな。ずっと久住が竹内のことを守っていたからな。でも、その久住が居なくなるんだ。どういう事かわかるだろ?』
『⋯⋯だからって別に告白しなくても』
『はぁ、久住も何でこんなヘタレを好きなんだか。俺にしとけっての』
『⋯⋯⋯⋯⋯⋯えっ?』
『いい加減、腹決めろ。それで俺みたいに振られてしまえ!』
『はぁ?お、ちょい、待てよ!各務!』
自分が朱莉を好きなことが多方面にバレているらしいことよりも、最後の最後に投下された爆弾の方が隆太には重かった。
それで、パニックになっている頭を整理するためにここに来たのだが、爆弾そのものに出会うなんて思ってもみなかった。
「私の親、去年離婚したの」
「へっ?」
いきなりの話の切り出しに隆太は戸惑ったが、横にいる京香はいつもと変わらぬ顔で、夕暮れの街を見ている。
大通りの車の数が増えたのは、働いている大人達の帰宅時間になったからなのだろう。
隆太もそろそろ帰らなければ、母親に文句を言われてしまう。
「前から喧嘩ばかりだったし、当たり前って言えば当たり前なんだけどね。5年生の秋にここに引っ越してきたのもそれが原因で、叔母さんのところでお世話になってるの」
「そう、だったんだ」
知らなかった。
というか、知ろうともしなかった、の方が正解だろうか。
家庭環境がどうであれ、久住が久住であることに変わりはない。
「うん、で、私は父親に引き取られることになったんだけど、朱莉も居るし、学校も部活も楽しくて、ここを離れたくなかった」
「⋯⋯⋯⋯」
「だから、父にお願いをしたの。卒業までは、ここにいさせて欲しいって。その代わり高校からは父と一緒に暮らすからって」
「一緒にって⋯⋯」
京香はスっと海を指さし、淡々と告げる。
「海の向こう、アメリカに行くの、私」
「えっ?」
「父が向こうに居るから。高校もあっちの学校になるし、そのまま大学にも進むと思う。たぶん、日本にはもう帰ってこないかもしれない」
「それ、竹内は知ってるのか?」
京香は首を左右に振り俯く。
通りにはヘッドライトを点けた車が列をなしている。
皆が帰るその先には、暖かい家族が待っているのだろうか。
「朱莉は知らない。言ってないから。知ってるのは先生達と、各務くんと柏崎だけ」
「何で言わないんだ?竹内は親友だろ?」
「だって朱莉、絶対泣くでしょう?私、朱莉のこと泣かせたくないもの。だから⋯⋯、柏崎は早く朱莉に告白してよ。柏崎が朱莉の彼氏になったら、朱莉に教えていいから」
「お前、何言って⋯⋯」
自分を見る、京香の真っ直ぐな視線に耐えられなくて隆太は視線を外した。
「あ、『俺、竹内と一緒に北高に行きたい』とか、良くない?好きとか愛してるとか入ってないから、ヘタレな柏崎でも言えるでしょ」
「ヘタレって⋯⋯」
「ヘタレだよ。ねぇ、いつまで片思いで満足してるの?」
一日で2人からヘタレと言われると、何だか一気に悲しくなってくる。
自分はそんなにヘタレだろうか?そんなことは無いと思っているのだが。
それに。
「お前は⋯⋯久住は、本当にそれでいいのか?」
隆太の言いたいことを正確に把握して、京香はこれ以上はない笑顔で笑ってみせた。
隆太と朱莉が付き合うということは、京香は振られるということ。
けれどもそんなことは初めからわかっている。
わかっていても、好きになることを、好きでいることを止められなかった。
朱莉を想っている隆太だから好きなのであって、朱莉以外を好きな隆太はいらない。
「私は良いの。初めからわかってて、こうなってるんだから。柏崎は気にする必要はないよ」
「でもさ」
「私は、残す方、なんだよね」
「うん?」
「卒業式を終えたら、そのままここから居なくなる。友達も思い出も全部ここに残して居なくなる。そして朱莉や柏崎、各務くんは残される方になる。こういう時って、残す方より残される方が辛いと私は思う。仲が良ければ良いだけ、関係が深ければ深いだけ辛くなる。だから朱莉には、支えになってくれる人が近くにいて欲しい。それも自分が信用している人がいい。そう、思うの」
自分は新しい土地、新しい環境で一から人間関係を築いて行く。
そこに今までの思い出はあっても、自分を縛るものは何もない。
それはここに越してきた時よりも身軽で行けると言うこと。
切り離して置いていくことが辛いのは一時だけ、新しい環境に慣れるのに一生懸命でその辛さはすぐに忘れてしまえる。
けれど残される方は違う。
今までと変わらない環境でそこだけが欠けている。
だからこそ余計に『いないこと』を突きつけられ現実が辛くなる。
時間が経てばその状況にも慣れるけれど、必要な時間は関係の深さに比例する。
「これは私の我儘で、それに柏崎を巻き込んでしまうけど⋯⋯考えてみて欲しい。私は泣いている朱莉を見たくない。朱莉には笑っていて欲しい。だから、お願い。朱莉の支えになって欲しい。他の誰でもなく、私は柏崎になって欲しい」
「これが久住なのか?」
「うん、京香ちゃんだよ。ほら、ここ。ね?京香ちゃんでしょ?」
大学のカフェテリアで朱莉が隆太に見せているのは、全てが英語で書かれた雑誌。
その中に掲載されている論文と共に印刷されているのは、一人の女性。
中3の秋頃、隆太に対し、早く朱莉に告白しろと脅してきた朱莉の親友で、隆太にとっても頭の上がらない人物だ。
結局あの公園での『京香からの脅し』の後、たっぷり1ヶ月間悩みに悩んだ隆太は、朱莉の15歳の誕生日に告白した。
朱莉からOKの返事を貰った直後に、隆太は京香の事を朱莉に伝えた。
朱莉はだいぶショックを受けた様子だったが、一言『京香ちゃんらしいなぁ』とだけ呟いた。
それから受験一色の冬が過ぎ、受験を終え迎えた卒業式当日、久住京香は学校に現れなかった。
担任に確認したところ、本人と家族から事前に式へは不参加である旨が伝えられていたと言う。
『昨日、挨拶に来られてね。父親の仕事の関係で、どうしても今日の昼の便でアメリカに行かなければならなくなったと。皆に挨拶くらいはって言ったんだが、時間的に難しいと言われてね』
勿論、電話やSNSで繋がってはいるが、やっぱり面と向かって別れが言いたかったという思いはあった。
まぁ、その後も何かと連絡は取っているし、朱莉と喧嘩した時は相談にものってもらっている。
ただ、隆太と京香は顔を見て話す事も、互いの画像を送り合うことも一切していない。
何か理由がある訳ではなく、ただ何となくだ。
「うーん」
朱莉が指さしたのは、黒髪に少し茶色の目をしたロングヘアの女性。
目元はきりりとしていて、可愛いではなく美人と呼ばれる類の顔立ちだ。
隆太の記憶にある京香はショートで日に焼けた健康的な肌色をした、ボーイッシュな感じなので、どうにも写真の女性と同一人物だとは思えなかった。
「それにしてもすごいよね京香ちゃん。飛び級で博士号まで取っちゃって、論文が専門誌に載るとか」
「あぁ、そうだな」
そんな人物に好かれていたのかと思うと、少し照れくさい気分になる。
いや、勿論、隆太は朱莉一筋で、互いの親に挨拶も済ませて親公認で付き合っているし、既に婚約して同棲している。
「はぁ、会いたいな」
「そうだな」
「⋯⋯⋯⋯会いに行ったら迷惑かな?」
「いや、喜ぶんじゃないか?」
「そうかな?」
「あぁ、絶対大丈夫だ。そうだな⋯⋯、各務にも会いたいし、貯金して2人に会いに行くか」
「うん!」
隆太の親友は、高校卒業後アメリカの大学に進学した。
元から頭のいいやつではあったが、高校時代の各務の勉強量は半端ではなかった。
どうしたのかと聞いたら、各務は少しの間を開けて、こう答えた。
『1回振られたくらいで諦める必要はないよな』
それは多分、柏崎に対してのことで、幼い時から一緒に育ってきた隆太は各務のひとつの物に執着する性格をよく知っていた。
隆太は心の中で京香に対して静かに手を合わせた。
救ってやることの出来ない自分を許して欲しいと⋯⋯。
半年後、彼らはアメリカで再会する。
黄昏に染まる街を背景に、離れていた時間などなかったかのように。
━━━━━━━━━
(´-ι_-`) 最後がなんだかな⋯。各務と京香の話も楽しそうだな。
たそがれ
町が青く染まり、
遠く西の空を眺めれば、わずかに赤みが残るだけ。
見知った顔も見知らぬ人のように見え、
足元の影も消えてしまった。
いつもの道は、すっかり青く様変わりして、
まるでどこかに続くよう。
あの角を曲がったら、
見慣れた家が見えるはずなのに、
もし消えてしまっていたら、どうしよう。
とりとめのないことを考えながら、
足早に辿る家路。
トパーズからサファイアへ変わりゆく
境目の世界で待っていた 彼は彼女は
誰だったかあるいは私自身だったのか
朧げな記憶がよみがえりはしないかと
いまひとり佇む私もたそがれに染まれ
#たそがれ
たそがれと言えば…
思い浮かぶのは「黄昏のビギン」
ちあきなおみさんという歌手を勧められて
探して初めて聞いたのがこの曲
当時の私にはとても背伸びしたような
大人に感じた音楽でした
最近になって聞き直してみたら
原曲は水原弘さんという
男性が歌っていたことを知りました
しっとりと雨に濡れた大人の恋
そんな艶のある雰囲気のうたです
気になる方は
夜に独りひっそりと聞いてみてください
きっと素敵な情景が思い浮かぶと思います
みっちゃんがいなくなった。ゆーくんも、あっちゃんも。みんな、いなくなった。
いつも四人で遊んでいた。みんなの家のちょうど真ん中にあるから、いつも公園に集まった。ブランコと滑り台と、なんかよくわからない丸くて大きくてたくさん穴の空いたもの。ボールを思いっきりけったり投げたりするには狭いけど、禁止されているわけじゃない。そんな広さの公園。公園に集まってはボール遊びや鬼ごっこをしていた。
最初はみっちゃんからだった。
かくれんぼしようとみっちゃんが言い出して、私たちがそれに乗っかった。鬼はじゃんけんで負けた私だった。
目を瞑って、大きな声で数える。
いーち、にー、さーん、しー、ごー、ろーく、しーち、はーち、きゅー、じゅー!
もーいーかい!
まーだだよ!
何度もやりとりを繰り返して、返事がようやく「もーいーよ」になった。私は目を開けて、みんなを探し始めた。
木の影にかくれたゆーくんは、すぐに見つかった。木が登れないから影にかくれていたらしい。顔を真っ赤にして照れていた。
次にあっちゃんを見つけた。あっちゃんは滑り台の頂上でしゃがんでいた。公園の中だとかくれる場所がなさすぎて、時間がかかったって。
あと一人、と思ったところで二人が帰ると言い出した。
「まだみっちゃんが」
「みっちゃん? だれ?」
「最初から三人で遊んでたじゃん」
二人は不思議そうな顔をして「変なの」というセリフを言って帰っていった。私はその場で立ちつくしていたけど、みっちゃんを見つけて早く帰ろうと思って公園中を探した。
みっちゃんはいなかった。
親に聞いても、他の友達に聞いても、先生に聞いても。みっちゃんのことを知っている人がいなかった。私は学校帰りに必ず公園へ行って、みっちゃんを探した。遊具の中も、生け垣の影も全部すみずみまで探した。それでもみっちゃんはひょっこり現れることもなかった。
次また三人で公園に集まった時、かくれんぼしようと言われた。ゆーくんだった。私は前回のことを思い出してイヤな気持ちだったけど、断れなかった。
三人でじゃんけんして私がまた負けた。公園の真ん中で目を瞑り数を数える。
いーち、にー、さーん、しー、ごー、ろーく、しーち、はーち、きゅー、じゅー!
もーいーかい!
まーだだよ!
返事が「もーいーよ」と帰ってくるまで繰り返した。そして、返事をもらった私は目を開いて歩き出す。もーいーよの声が一人分しか聞こえなかったことが気になったけど、きっとイジワルされてるだけだろうと思った。
あっちゃんがすぐ見つかった。生け垣のところに体を丸めていた。あっちゃんは立ち上がって砂をはらいながら言った。
「やっぱり二人でかくれんぼはないか」
「え?」
私があっちゃんを見つめても、あっちゃんはあははと笑うだけだった。
私は毎日公園へ通ってみっちゃんとゆーくんを探した。これだけ探したのに見つからないのはおかしい。でも二人とも早く帰ったわけじゃない。二人は学校も来てないし、机もいつの間にか無くなっていた。そして、二人のことを誰も覚えてないのだ。
二人を探した帰り、ゆーくんママとばったり会った。「こんにちは」と声をかけたら、ゆーくんママは不思議そうな顔をして「こんにちは」と言った。
「ゆーくん、元気ですか?」
私が笑顔で言うと、ゆーくんママは眉を下げた。
「ゆーくんってあなたのお友だち? 誰かと間違えてないかしら」
ゆーくんママはそそくさと帰っていった。私はその後ろ姿を眺めているだけしかできなかった。親ですら、子どものことを忘れてしまうんだと思った。
じゃあ何で私は覚えているのだろう。
いつもの公園で、あっちゃんと二人きりのかくれんぼをすることになった。鬼はじゃんけんで負けた私だ。いーち、にー、と数えながら考えることは、いなくなった二人のことだ。
どうしていなくなったのだろう。
どうして誰も覚えてないのだろう。
どうして私だけ覚えているのだろう。
グルグル頭の中で考えて、ふとかくれんぼ中だったことを思い出した。私は大きな声で叫ぶ。
「もーいーかい!」
私の声は公園じゅうに響き渡った。そして、しんと静かになった。
「もーいーかい!」
もう一回、今度はもっとたっぷり息を吸って大きな声を出した。それでもあっちゃんは、返事をしてくれない。
私は勝手に動き出し、あっちゃんを探した。木や生け垣の影、滑り台の頂上、丸い遊具の中。
誰もいない。どこにもいない。
公園には私一人しかいない。
私は公園の真ん中で一人しゃがんだ。一体何が起きたのだろう。ただ公園でかくれんぼしただけなのに、みっちゃんも、ゆーくんも、あっちゃんもいなくなった。私はさみしくて泣いた。
「泣かないで」
どこからともなく声が聞こえた。子どもの高い声だった。
「みんなここにいるから、泣かないで」
「ここってどこ? どこにもいないよ」
私は顔を上げて周りを見渡した。誰もいない、静かな公園しか広がっていない。
「ここだよ、ほら、おいで」
私は立ち上がり、声のする方へ歩いた。丸い遊具の中だ。中に入ると、たくさんの穴から外の光が入ってきている。
「光っている穴へおいで」
私は声に従って光る穴を探した。光る穴はすぐ見つかって、手を伸ばせば届きそうな高さにある。私はとっさに手を伸ばした。光の枠に触れると、そのままみるみる吸い込まれていく。
「あーあ」
最後に聞こえたのは呆れ声だった。
『たそがれ』
たそがれ
世界をつまらなく思っている私は世界からどんな風に見えているのか。つまらない人間か、傲慢な人間か、ワガママな人間か……まあどう見られていても私にとってはどうでもいい事だ。学校の先生も友達もみんなみんな頭がおかしい。こんなつまらない世界を楽しいなんて頭がおかしいよ。実はみんな、本当はつまらないと思っているけど行動に起こせないから楽しいって言っているのか
それか本当に楽しんでいるのか、それもまあどうでもいいことだ。世界がつまらないのはただ何も起きてないからつまらないだけじゃない。みんながみんな誰かの思い通りに動いているのがつまらないのだ。だからきっと外れている人を見れば私は少しでも世界が変わって見えるかもしれない。けど日本ではやっぱりそんな人ほとんど居ない。みんながみんな誰かの手のひらの上で踊ってる。気持ち悪い、反吐が出る。いつも思う、英語の授業で先生の英語を全員でオウム返しをする。これは普通に受けていたらきっと気にはならないと思う。けど、不意に読むのを辞めた時違和感を覚える。みんながみんな同じ言葉を繰り返し全員で合わせて読む。良く考えれば気持ち悪いことだ。だからそんな世界が嫌だ。つまらない。
いっその事この川に落ちてみれば世界が変わるかな?
そう思い柵に手をかけたその時。自分の目に光が差し込んできた。光が落ち着いてきた時見てみると、そこには世界の美しい姿が形を表した。これを人は黄昏と言うのだろう。オレンジ色の太陽と青い色の空が重なり合い美しいグラデーションを生み出していた。これほどまでに美しい景色を私は初めて見た。ああ、まだこの世界にはこんなにも楽しいものがあったのか。この世界のほとんどがつまらない。けれど自然が生み出したこの世界は人の世界とは比べ物にならない美しさがあった、さらに私が人の世界で求めている自由もあった。自然の世界はどんな事があっても不思議では無い世界。
この美しい景色を思い出す度にこの世界が少し楽しく感じた。
たそがれって表記の仕方が2個(黄昏と、誰そ彼)があるけど、個人的には「黄昏」の方が好き。なんか妖しい雰囲気がするから。
たそがれ。
黄昏、誰そ彼、たそかれ。
夕暮れで影が深くなって相手の顔が見えず、誰そ彼と尋ねる時間であったからという。
時代は経て、文明がどんなに進んでも、人工物の明かりがなければ、夕日だけが爛々と輝く。
空は分厚い橙色に侵食されて、見渡しの良い畦道との境界線が夕に染まっていく。
誰そ彼とは、きっと今のような時に使われたのだろう。
だってほら、先ほどまで人気の無い道を歩いていたのに、じりじりと輪郭が焼ける夕焼けのまんなかに、いつの間にか影がいた。
そこにいることはわかるのに、その表面は、服装は、顔は、表情は、薄い真っ黒で何も見えない。
「■■」
影は何か言った。
水の中で聞く音のように上手く聞き取れない。
違う、聞き取ってはいけないのだ。
そんなことはわかっている。
でも。
その表面も服装も顔も表情もわからないのに、その姿形だけで、誰なのかわかってしまった。
それだけでもわかる大切だった人。
否、今でも大切で、だけどもう二度と会えない、はずのひと。
「■■」
その影は、姿形だけなのかもしれない。
本当は邪悪なモノなのかもしれない。
ただの幻なのかもしれない。
でも、彼が誰なのかわからないなら、正解が無いのなら。
「会いたかった」
「■■■」
「ずっと、もう一度だけでも、あいたかった」
「■■■■」
「でも、いい」
「■■」
「もういいんだ」
「■■」
「もう大丈夫だから」
「……■■■」
「もう、いいよ」
溺れた音は聞こえなくなった。
影に背を向けて歩き出す。
見上げた空には、藍色のベールがかかり始めていた。
自分の隣まで薄く伸びていた影の影は、蜃気楼のように揺らいで、消えた。
夕方が明ける。
【たそがれ】
お題『たそがれ』
隣の部屋から声の音量がたそがれ始めた。
それもそうだろう。誰だって1時間以上も叫べばな。
疲れたのかな、聞いているだけの俺でさえ疲れて来た。
壁から耳を離し、ベットに戻り少し横になった。
枕の下に手を入れると何かある。
それを掴んで、仰向けになった。
起き上がり、手を開くと小さく4つ折りに折られた紙切れを手に入れた。
紙を開くとこんな文章が書いてある。
『過去の自分へ こんにちは。知らない部屋にまた来てしまったんだね。どうすればいいのか、わからないだろう。大丈夫さ周りをしっかりみて判断するんだ。
君ならできるさ!冷静になれよ!そうだ。大事なことだから覚えててくれ、【黄昏】には気をつけろ』
【黄昏】には気をつけろ、どういうことだ?
謎が深まった気がする。
だけどこれだけははっきり分かった。
俺は一度この部屋に来たことがあるらしい。
End
→短編・黄昏ちゃん
待ち人の現れない僕の隣で、ちょうど待ち合わせを済ませた女性二人組が話し始めた。
「ラグナロック、久しぶりー!」
「うぅっ……。その呼び方、止めてってばぁ」
「いやぁ~、学生時代のあだ名ってなかなか抜けなくて」
「厨二病的黒歴史みたいで辛いンよ、そのあだ名」
「じゃあ、本名にしとく?」
「ウチの親、やらかしてくれたわー。自分らの出会いを子どもに刻印しやがって」
「でもさぁ、一周回って可愛くない? 黄昏ちゃんって」
「そりゃぁ、まぁ、嫌いじゃないけどさぁ……――」
去ってゆく彼女らの会話が遠くなる。
「ごめん! コウセイ、遅れた」
僕の待ち人に肩を叩かれる。
「あ、ヒロトくん」
「何か考え事?」
「んー? 自分の名前が黄昏だったらどう思う?」
「スパイ活動してそう。常にたそがれてそう。でもカッコいい名前だと思う」
即答のヒロトくん。アニメの影響も入ってるな。
いや、それ以前に、ヒロトくんのビジュアルで黄昏って名前だったら、ハマりすぎててチート(改名)を疑う。
「行こうか」
僕たちは西日の赤さが仄かに残る黄昏時の街へと歩きだした。
テーマ; たそがれ