一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→短編・黄昏ちゃん

 待ち人の現れない僕の隣で、ちょうど待ち合わせを済ませた女性二人組が話し始めた。
「ラグナロック、久しぶりー!」
「うぅっ……。その呼び方、止めてってばぁ」
「いやぁ~、学生時代のあだ名ってなかなか抜けなくて」
「厨二病的黒歴史みたいで辛いンよ、そのあだ名」
「じゃあ、本名にしとく?」
「ウチの親、やらかしてくれたわー。自分らの出会いを子どもに刻印しやがって」
「でもさぁ、一周回って可愛くない? 黄昏ちゃんって」
「そりゃぁ、まぁ、嫌いじゃないけどさぁ……――」
 去ってゆく彼女らの会話が遠くなる。
「ごめん! コウセイ、遅れた」
 僕の待ち人に肩を叩かれる。
「あ、ヒロトくん」
「何か考え事?」
「んー? 自分の名前が黄昏だったらどう思う?」
「スパイ活動してそう。常にたそがれてそう。でもカッコいい名前だと思う」
 即答のヒロトくん。アニメの影響も入ってるな。
 いや、それ以前に、ヒロトくんのビジュアルで黄昏って名前だったら、ハマりすぎててチート(改名)を疑う。
「行こうか」
 僕たちは西日の赤さが仄かに残る黄昏時の街へと歩きだした。

テーマ; たそがれ

10/2/2024, 7:24:06 AM