→短編・閉塞感の醜い轍
必ず納得のいくものができるのだと、これはまだ完成ではないと、何度も僕は塑像を壊す。
繰り返す、制作と破壊。
いまさら引き返せない。完全な完成作を作るんだ、と。僕は今日も粘土を捏ね回す。
友人、知人は、日増しに僕から距離をとっていった。いや、僕が彼らを遠ざけたのかもしれない。想像に没入するために雑音は要らない。
最後に他人と話したのは、別れた恋人。悲惨な別れが嫌で僕はあまり話さなかった。彼女が別れの言葉を口にして、僕はそれに頷いた。ただ、それだけ。
去り際、僕の暗い部屋の扉を開け、外の光を背負った彼女は言った。
「ウロボロスみたい」
尾を噛む蛇。
あれは独り言だったのかな? それとも何もなさない僕へのあてつけだったのかな?
想像、破壊。
あの日からウロボロスが僕の横で輪転する。創造の神は、僕を急かすように鱗粉を振り撒く。
僕はできたはずの想像傑作を背負って、まだ見ぬ傑作創造に勤しむ。
できない、という逃げ場ははるか過去にしかない。
いまさら引き返せない。
僕の彫刻は完成しない。
テーマ; 軌跡
→曖昧
世界が二進法で
すべてが白黒判定で
社会規範は勧善懲悪で
自分と他人のパーソナルスペースが完全分離で
ゼロか満タンしか存在しない、
そんな世の中が、どこかの世界線に存在するなら、
そこにだけは異世界転生したくないな。
自分すら好きでも嫌いでもない私は、
曖昧な笑顔と生返事で、
なんとか今日を乗り切った。
なんとか今日を乗り切ったよ。
テーマ; 好きになれない、嫌いになれない
→地球の自転、止まれってくれよ。
夜明けなんて大嫌いだ。
ただ空が明るいってだけで、
心に妙な希望が湧いてくる。
実際には何も変わっていないのに。
いっそのこと、
夜の闇に染まって、
真っ黒く染まって、
もう後戻りもできないくらい、
闇夜に迷って果ててしまいたい。
眠れぬ夜の先にある白んだ朝、
いつもそんなことを考える。
今日もまた夜が明けた。
この歯車を回すような毎日から、抜け出したい。
テーマ; 夜が明けた。
→付加価値
ふとした瞬間、自分が無価値に思えて、
なぜ生きているのかと自虐的な気分になることがある。
背中が痒いと悶えるパートナーの背中を掻いたり、
このアプリで誰かが自分の書いたものを読んでくれたり、
そういった諸々の繋がりが、
自分の価値をちょっと肯定してくれる。
消極的な承認欲求。
テーマ; ふとした瞬間
→ペア
どんなに離れていても、彼らはお互いに干渉しあう。
片方が上向きなら、もう片方は下向き、右回転には左回転。
惑星間ほどの距離が離れていても、その連動に狂いはないらしい。
息ぴったりの反目。天邪鬼でもこうはいかない。
一周回って相思相愛だな、もつれた量子たち。
テーマ; どんなに離れていても