→創作に必要だと信じるもの。
自分のことが好きではない。
それも一つのアイデンティティだ、と自嘲。
そんなひねくれた感覚を、けっこう大事にしている。
テーマ; 宝物
→短編・初心の灯り
通勤で通る道に、気になる家がある。通りに面した出窓にキャンドルが置かれていて、夜になると火が灯される。
今日も灯っていた。
よそ様の家なので、あまり覗き込んで見ることはできないが、優しいながらも芯の通った美しい灯りは目を引いた。
「今日もろうそく灯ってた?」
ロッカーで着替え中に同僚に訊かれて、私は頷いた。キャンドルのことは前に話していた。
「毎日、戴帽式気分だね」
「最近は少なくなったんだってね」
「あぁ、ナース帽ね。でも、ナイチンゲール誓詞はあるでしょう?」
「何となく、あってほしいよね」
ウン十年前の看護学校の卒業式を思い出して私は言った。ナイチンゲールの灯火、そして誓い。あの日、私は立派な看護師になろうと胸を高鳴らせていた。
私たちはロッカーを後にした。今日から深夜勤だ。
「さて、じゃあ参りますか!」
立派な看護師になれたかは判らないが、私はずっとこの仕事を続けていて、この仕事に誇りを持っている。
通勤途中の家は、初心を、当時の若いこころざしを私に思い出させてくれる。
テーマ; キャンドル
→短編・想い出箱
僕はパソコンを自作している。自分で組み立てたものが動く達成感と、パーツの組み換えが効くのが何とも楽しい。
ケースだけは買い換えていなかったのだが、先日とうとう新調した。
「まるでテセウスの船ね」
妻が横に寄ってきた。
なるほど、僕の愛機問題は同一性の問題に近しい。僕の愛機に、初期のパーツはもう残っていない。それでも僕の愛機と呼べるのか、感覚派と実体派のバトル。
「ケースまで変わってるんだから、テセウスの船よりも同一性はないけれど、コイツは昔から変わらない僕の愛機さ。
何せ想い出が詰まってるからね。例えば、君にパーツ選びを付き合ってもらった時のこととかね」
僕の言葉を受けて、妻がニヤッと笑った。
「例えば、動かないって大騒ぎして電源のコード?を挿し忘れてたときのこととか?」
寄りかかってきた彼女に対抗するように、僕も寄りかかる。
「あれ一回きりだし、割とあるあるなんだよ」
「そういうことにしといてあげる」
僕の愛機には、こんな想い出がたくさん詰まっている。
テーマ; たくさんの想い出
→短編・冬に備えよ!
冬になる前の今、
がんばれ、私!
通勤では一駅前で乗り降りする。
会社のエレベーターは使わない。
食事は適度に減らして栄養重視。
ストイックにストレッチも忘れずに。
冬になる前に、とにかく体型を絞り尽くす。
秋の味覚よりも冬の怠惰。
コタツ亀になったら最期!
出れないんだよ〜。
動けないんだよ〜〜。
そしてアイスとか食っちゃうんだよぉ〜〜〜。
テーマ; 冬になったら
→短編・お兄ちゃんとぼく
ぼくたちはそっくりで、お兄ちゃんは右、ぼくは左って決まってるんだよ。
ぼくたちは、後を追い合って進む。そうしないと前に行けないの。
それでね、オヤスミの時はお隣同士で並んでお話しながらゆっくりするの。
それなのに……
いつも横にいるお兄ちゃんがいなくなっちゃった!
お兄ちゃんとぼく、いっつも一緒だったのにっ。
エーン、エーン。
お兄ちゃん、どこに行っちゃったの?
ぼく、はなればなれは嫌だよ。
「もー! 玄関の靴、脱ぎっぱなし! ちゃんと揃えなさい!」
「あとでやろうと思ってたのー!」
そんなやり取りの後で、玄関のあちこちに脱ぎ散らかされた靴が、男の子の小さな手で一組を成した。
揃えられた靴は、仲良げに寄り合いおしゃべりをしているように見えた。
テーマ; はなればなれ