一尾(いっぽ)in 仮住まい

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5/1/2025, 2:48:49 AM

→短編・閉塞感の醜い轍
 
 必ず納得のいくものができるのだと、これはまだ完成ではないと、何度も僕は塑像を壊す。
 繰り返す、制作と破壊。
 いまさら引き返せない。完全な完成作を作るんだ、と。僕は今日も粘土を捏ね回す。
 友人、知人は、日増しに僕から距離をとっていった。いや、僕が彼らを遠ざけたのかもしれない。想像に没入するために雑音は要らない。
 最後に他人と話したのは、別れた恋人。悲惨な別れが嫌で僕はあまり話さなかった。彼女が別れの言葉を口にして、僕はそれに頷いた。ただ、それだけ。
 去り際、僕の暗い部屋の扉を開け、外の光を背負った彼女は言った。
「ウロボロスみたい」
 尾を噛む蛇。
 あれは独り言だったのかな? それとも何もなさない僕へのあてつけだったのかな?
 想像、破壊。
 あの日からウロボロスが僕の横で輪転する。創造の神は、僕を急かすように鱗粉を振り撒く。
 僕はできたはずの想像傑作を背負って、まだ見ぬ傑作創造に勤しむ。
 できない、という逃げ場ははるか過去にしかない。
 いまさら引き返せない。
 僕の彫刻は完成しない。

テーマ; 軌跡

4/29/2025, 1:49:56 PM

→曖昧

世界が二進法で
すべてが白黒判定で
社会規範は勧善懲悪で
自分と他人のパーソナルスペースが完全分離で
ゼロか満タンしか存在しない、
そんな世の中が、どこかの世界線に存在するなら、
そこにだけは異世界転生したくないな。

自分すら好きでも嫌いでもない私は、
曖昧な笑顔と生返事で、
なんとか今日を乗り切った。
なんとか今日を乗り切ったよ。

テーマ; 好きになれない、嫌いになれない

4/28/2025, 3:47:31 PM

→地球の自転、止まれってくれよ。

夜明けなんて大嫌いだ。
ただ空が明るいってだけで、
心に妙な希望が湧いてくる。
実際には何も変わっていないのに。

いっそのこと、
夜の闇に染まって、
真っ黒く染まって、
もう後戻りもできないくらい、
闇夜に迷って果ててしまいたい。

眠れぬ夜の先にある白んだ朝、
いつもそんなことを考える。
今日もまた夜が明けた。
この歯車を回すような毎日から、抜け出したい。


テーマ; 夜が明けた。

4/27/2025, 3:55:53 PM

→付加価値

ふとした瞬間、自分が無価値に思えて、
なぜ生きているのかと自虐的な気分になることがある。

背中が痒いと悶えるパートナーの背中を掻いたり、
このアプリで誰かが自分の書いたものを読んでくれたり、
そういった諸々の繋がりが、
自分の価値をちょっと肯定してくれる。

消極的な承認欲求。


テーマ; ふとした瞬間

4/27/2025, 4:52:02 AM

→ペア

どんなに離れていても、彼らはお互いに干渉しあう。
片方が上向きなら、もう片方は下向き、右回転には左回転。
惑星間ほどの距離が離れていても、その連動に狂いはないらしい。
息ぴったりの反目。天邪鬼でもこうはいかない。
一周回って相思相愛だな、もつれた量子たち。

テーマ; どんなに離れていても

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