『たそがれ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
誰そ彼
暗くて見えない状況で彼は誰ですか?
っていうのが語源だったっけ
昔の言葉って良いねえ
沈みゆく太陽が、私の手を引いてくれたら
#たそがれ
橙色の空と、灰色の雲。
日中の騒がしさなど嘘のように、誰も彼もがいなくなってしまった静寂の田舎道を、少女はひとり歩いていた。
いつもの帰路。いつも通りの景色。
だが今日は、なんとなく、胸騒ぎのような、不安のような、なにか、なにかを覚える。
いつもと違うような、なにか……。
視線を上げれば、真正面に位置する沈みかけの西陽が、一日の終わりを告げるように強く輝いて、視界を覆い尽くさんとしてくる。
眩しい。
あまりの眩しさに耐えかねて、少女は目を細めた。ぱちぱちと慣らした後で、光から逃げるように左右に瞳を動かせば、今度は黒が視界に映る。
西陽を受けた周囲の景色は、その光に反比例するように影と化していた。道の両側を囲む林などは緑も茶色もない混ぜに、黒だけが道に覆い被さるようにして、仄暗さを演出している。
やけに静かだ。
風に揺れる木々の音と、鴉の鳴き声だけが物悲しげに響き、胸をざわつかせる。
「誰?」
不意に、声がかかる。
少年とも青年とも言い難い、けれどおそらく男性の声。
きょろきょろと声の主を探そうとして、その前に目に留まる。
正面、少し先に、いつのまにか一つの人影があった。
逆光で顔も姿も見えず、あくまで影でしかわからないが、声から察するに男だろうか? すらりとしていて、長身というほどでもないが、背は低くはなさそうだ。
誰だろうか。というより、さっきまでいただろうか?
いや、それよりも。
なぜ、誰何をされたのだろう。
こんな、誰もいない道の真ん中で。
口を開きそうになって、慌てて閉ざす。
ざわざわと胸が騒ぐ。
少女は瞳に警戒の色を滲ませて、その影を見据えた。
「君、名前は?」
また、誰何。今度は先ほどよりもはっきりと鼓膜に響いて、思わず答えなきゃと口を開く。
声が、喉元まででかかったところで、少女は慌てて両手で口を押さえた。
影が、ゆっくりと歩み寄ってくる。
「誰? って、聞いてるんだよ」
優しく穏やかな声は変わらず、なのに語気が強まる。
男の声の持つ不思議な強制力が、何度も少女の名前を音にしようと働くが、少女は息すらも留めて、沈黙を守る。
“絶対に、名は、口にしてはいけないよ。
黄昏時は、特にね。”
そう、警鐘が鳴る。昔誰かに教えてもらった忠告が。
ピリピリとした緊張感が、乾いた秋の冷たい空気の間を流れた。
口を押さえる少女の手が震える。
また、声が、耳に届く。
──ふっ。
今度は、気の抜けたような、笑い声だった。言葉ではない。張り詰めた空気が、一気に散るような感覚。
「賢明」
影が肩をすくめながら、少し残念そうにそう言う。
「いいよ、答えないで」
言いながら、男は少女に近付いてくる。まるで知り合いに歩み寄るかのような、軽やかな足取りで。
けれど反対に少女のほうは、当然警戒を解かずに、身を固める。男の歩みを止めようと、口許を抑えていた手を恐る恐るゆっくりと離し、
「あ、あなたこそ……何……?」
と、小さく震える声を絞り出した。
その言葉に男は足を止め、じっと少女を見つめる。
面白そうに目を細めたように見えた。
「自分は答えないのに?」
けれど、声は冷たく、僅かに嘲笑の色が透ける以外に感情は読み取れない。
「君が答えないなら、こっちも答えないよ。当然ね。でも、知る必要もない。そんな無駄話をする前にさっさと帰ろう。逢魔時だから。君は気を付けて帰らないと」
そう言って、男はさらに近づいてくる。
それに警戒するように少女がジリジリと退けば、彼はその様子にくすりと笑って、「後ろ、見てごらん?」と自身の指で促した。
彼から目を離すのも怖くて、少し逡巡したあとで、少女は恐る恐る彼が指し示す方向を辿るように追う。
そこにあるのは、ついさっき歩いてきたただの田舎道のはず──だった。
振り返った先にあったのは、迫り来る夜の濃紺と紫色の空。見事なグラデーションを描くそれは、頭上を境界に広がっている正面の橙色の景色との差に、綺麗を通り越して不気味ささえ感じる。
加えてその下にあるのは道──だが、その先は真っ暗だった。両側の黒い木々が閉じていくようにして道ごと闇に溶けていっている。まるで、霞んで見えないその向こうで、世界が途絶えてしまっているかのように。
思わず後退りをしそうになって、気付く。
──自分の足元から伸びる影が、西陽を受けて、その闇に飲まれている。
「ね、あっち、行きたい?」
男の声に、慌てて視線を戻した少女はふるふると首を横に振る。
「だよね」
くすり、男はまた笑う。
「どうする?」
「……か、……帰りたい…………」
「じゃあ、一緒に行こう」
気付けば、男は目の前に立っていた。
「送ってあげる。ほら、なんだっけ? 童謡でも言うだろう。『おててつないでみなかえろう』ってさ」
そう言いながら、手を差し伸べてくる。
「そう警戒しないでよ、傷付くなぁ。お家に帰りたいんでしょ」
「本当に、帰してくれるの」
「まぁ、お利口さんだったからね。仕方ない」
男はにこりと、今度は穏やかに笑う。逆光で見えなかった表情もここまで近付けば、互いにわかる。
少女は男の顔を見て、差し出された手を見て、それから後ろを僅かに振り返り。
やがて、意を決したようにその手を取った。
「……約束、してくれるなら」
「約束、ねぇ」
やくそく、やくそく、と男は面白そうに反芻する。
「仕方ない」
くすりとまた笑って、男が少女の手を引く。
ふたりの歩いたあとに、ひらりと黒い羽が舞い落ちる。
遠くで、夕方のチャイムの音が鳴っていた。
── おてて つないで みなかえろう──
──からすと いっしょに──
──かえりましょう────…………
title. 誰そ彼、と。
Thema. たそがれ
誰そかれと 我れをな問ひそ 九月の
露に濡れつつ 君待つ我れを
また、夕暮れのこと。
僕の友達がこう、いってきた。
「ねえ、夕暮れのことはたそがれっていうんだよ!」
すごいでしょ?と言わんばかりに僕の目をのぞきこんでくる。
「知ってるよ。」
僕が友達に言うと、悲しそうにしょぼくれた。
「知らないはずないじゃないか」
何回も繰り返してる会話なんだから
たそがれ
ゆったりと
空を見上げて
たそがれ
明日も
暑いかな
早く秋になあれ
なな🐶
2024年10月2日2256
私はラジオ体操の出席頻度が他メンバーにくらべ少なく夏休み中『リスナーの皆さんに楽しんで頂く回数がメンバーの中で1番少なかった』ことに反省している所存です。
こちらは言い訳にはなりますが朝のラジオ体操の時間が早かったことが原因になっているのではないかと考えております。
遅刻または欠席するこになった原因は
『朝、決められている時間に目覚めることができなかった。』
『そもそも起きる気がなかった。』
この2点が主な欠席理由になるかと思います。
『朝、決められた時間に目覚めることができなかった。』 このことにつきましては『目覚ましをその日の夜にセットして寝る』こちらが解決方法かなとこの1週間で思いました。
『そもそも起きる気がなかった。』こちらにつきましては『起きる気を持つ』こちらが解決方法になるかと思います。
『起きる気がない』とか言ってたら『ライブとかどうすんねんっ!』って話しになってくると思ったのでメリハリを付けること習慣にしたいと思いました
今後はその様なことがないように
これまでの生活、歌い手活動を振り返り規則正しい生活を志す。
生活リズムを安定させる。
見てくれているリスナーさんに感謝する。
自分の配信は必ず出席する。
活動者であることに自覚と誇りを持ってこれからの活動人生を歩み続けて行きたいと思います。
すべてのラジオ体操に出席することが出来ず
誠に申し訳ごさいませんでした。
今日もその店へ寄る為に自宅の最寄り駅よりひとつ手前で電車を降り、真樹夫は黄昏に染まり始めた美しい街の景色を楽しみながらゆっくりと歩いて行く
その店の名は『たそがれ』
昭和の時代に流行した昔ながらの喫茶店で、外観も店に通う客層も、名前の由来はそこからだと思わせるように皆まさにたそがれている
もちろん、真樹夫自身もその一人だ
元々の店の名の由来は、その店から眺める黄昏時の美しさに感動したオーナーが名付けたらしいのだが、その名に吸い寄せられるかの様に黄昏世代の客は足が向いてしまうようだ
入り口のドアを開けるとカランカランと客が来たことを知らせるドアベルが鳴り、「いらっしゃいませ」というマスターの渋い声が迎えてくれる
すでに先客は数人チラホラと来ているが、誰一人として視線を向ける人はいない
それが暗黙のルールなのか、興味が無いのかは分からなが、それくらいそれぞれが自分の時間を楽しんでいるのだろう
真樹夫が『たそがれ』に通うようになって5年ほどが経つ
おそらくそのずっと前から通っているのだろうと思われる常連さんや、比較的新顔の客と様々だが、その誰もが顔は知っているという感じだ
ただ、その誰のとも言葉を交わしたことはない
誰かと連れ立って来るという雰囲気の店でもないし、それぞれがのんびりとコーヒーを楽しんでいる
それぞれに背負う人生の荷を、そこでは一瞬下ろして、一息ついている…そんな形容が似合う空間なのだ
真樹夫はそんな客たちに密かにあだ名をつけている
1番の古株のような常連のその紳士は、歳の頃は70手前といったところか…
週に2度ほど真樹夫は訪れるが、その紳士は必ずカウンターの1番端に座り、おそらくマイカップと思われる大きめのマグカップでゆっくりとコーヒーを楽しんでいる
言葉を発することは殆ど無いが、時折話しかけるマスターの声に穏やかな微笑みを返している「まったりさん」
営業の途中の時間調整にこの店を利用していると思われる「せかせかくん」
常にパソコンで忙しなく何かを打ち込み、時計をチラチラ気にしながらコーヒーになかなか口をつけない
せっかくのマスターの美味しいコーヒーが勿体ないと真樹夫は気になって仕方がない
そんなに派手に広げなくても良いだろうと思うほど、新聞を両手いっぱいに広げてパサパサと捲りながらコーヒーをズズッと啜る「新聞さん」
静かな店内にはオーナーのセンスの良さを感じさせる素敵なジャズが心地良い音量でリズムを刻んでいるというのに、その「新聞さん」の立てるパサパサという音と、大袈裟な咳払いに残念な思いをしているのは真樹夫だけではないだろう
それから、「和歌子さん」
もちろん本当の名前を知っているわけではない
真樹夫が昔好きたった女優さんに、その女性がどことなく雰囲気が似ていることから勝手に呼んでいる
彼女には毎回会う訳ではないけれど、いつもスーパーで買い物してきた重そうな荷物を持って入って来る
着ているものも雰囲気も、会社帰りではなく家庭の主婦なのだろう
目が回るような忙し時間の中でほっとひと息ついて飲むコーヒーが、彼女にこれから夕飯の支度に向かうパワーを与えている、そんな感じだ
彼女からどことなく漂う雰囲気に何故がシンパシーを感じて、真樹夫はこの店に来ると彼女の姿を探すようになった
それでも、話しかけたことも無いし、話しかけようと思ったことも無い
ここに来れば彼女も来ているかも知れない、それで十分だし、その距離感が良いのだ
もしかしたら、皆それぞれに複雑なものや重いもの、人には言えないものを抱えて生きているのかも知れない
一度言葉を交わせばその一端を覗き見してしまうこともある
そんなものはここでは必要無いし、むしろそういうのもから逃れてここに来ているのだ
妻からのLINEが届いた
「今夜は貴方の好きなエビフライ揚げるわ 会社から寄り道せず帰ってきて」
そろそろタイムオーバーだ
ここへ度々寄っていることを妻は知らない
ここは仕事で戦う戦士から家庭で務める夫役に交代するための楽屋的存在だ
妻に打ち明けることはおそらくしないだろう
「あいつの好きな駅前の店のシュークリームでも買って帰るか」
人生のたそがれ時を迎えた男の隠れ家『たそがれ』を真樹夫はあとにした
『たそがれ』
たそがれることで楽になることもあるし辛くなることもあるよなー。
なんてふざけたこと言ってみたり。
黄昏時、いつもの帰り道。彼はいつも手を差し出してくれるから、私は何も疑うことなくその手を握る。そして、何も変わらぬ一日が過ぎてゆく……はずだった。
雨が降り、風が吹き付ける。あるはずの暑さはどこかに過ぎ去り、上着を羽織るだけでは肌寒かった。異様に眠かったのを覚えている。帰ったら休もう、そう思いながら彼と歩いていた。
「xxxx」
私を呼ぶ声が聞こえて、顔を上げてみる。しかし、辺りには誰もいない。そう、一緒に歩いていた彼すらも。それを理解した瞬間、風邪とは違う寒気に襲われた。
「xxxx」
声が近くなった?
確かめようにも、身体は思うように動いてくれない。しかし、繋いだ手は驚くほど簡単に動いて、解けてしまいそうだ。
「……今更惜しくなったのか?」
彼の声が聞こえた直後、強く握り直される感触がした。
「お前は負けた。あのような不義理を、俺が許すとでも?」
がっ、と肩を掴まれる。
「どのような形であれ、二度と彼女に関わるな」
私を呼ぶ声は断末魔の叫びに変わった。恐怖に目を瞑っていたが、首元の感覚に目を開けた。
「よく耐えたな。何か温かいものでも買って帰るか?」
目線の先にはコンビニがあった。何か口にすれば安心できるかもしれない。その提案に乗ると、彼はいつも通りの、柔和な笑みで歩き出した。
『過去の隙間』
たそがれ
たそがれ
夕方のことだよなと思いつつも確信を持てないので調べた。やっぱり夕方のことだった。
日本語にはほとんど同じ意味だけど違う言葉ってのがよくある印象。具体的にどんな言葉があるかといわれるとパッと出てこないけど。
とにかく夕方とたそがれもそんなほとんど同じ意味で違う言葉の一つなわけだ。このほとんどの部分が重要ってのもまたよくあることだ。
それで夕方とたそがれが具体的にどう違うのか。それは調べてもわかりませんでしたぁ。
いや、もっとちゃんと調べれば違いがわかるとは思うんだけどね?ただそこまでがっつり調べるほどのことじゃないなぁって。まぁめんどくさいわけだ。
イメージとしてはなんだろ。夕方はまぁ夜のちょっと前全般でたそがれはもう少し時間をしぼって狭い範囲を指してる印象がある。
夕方が全体を指す言葉ならたそがれは一瞬、ピンポイントな瞬間を指してるんじゃないかな。個人的な印象だけど。
カラン、と涼しげな音をたてて氷が溶けていく。暦の上ならもう秋のはずなのにまだアイスティーが飲みたくなる気温が続いている。
レトロモダンとでもいうのだろうか、ステンドグラスの窓やランプシェードが可愛らしい。窓辺に飾られている砂時計や小さな花瓶もすべてが私好みだ。
机を挟んだ正面でニコニコと笑いながら日常のくだらないことを嬉しそうに話している、私の恋人。
初めて他人に好きだと言われていい気になってしまった。好きとも嫌いとも思っていないのに恋人になった。
失礼だと、はやく別れたほうがいいと、ずっと思っている。だけど別れる理由がなくてズルズルと続いていた。
私の好みに合わせてくれる。上手く話せなくても笑わずに聞いてくれる。無愛想な私を心底愛おしそうに見つめてくる。些細なことだけど、それが嬉しくてたまらない。
――恋してみたい、恋してみたいの
氷はもう溶けきって、アイスティーも温くなった。店内が少し薄暗くなってきて照明がキラキラと輝きだす。すっかり短くなった日に秋の訪れを感じる。
居心地のいいこの時間が好きだ。燃えるような夏よりもずっと好きなんだ。
【題:たそがれ】
たそがれ
たそがれ時を二人で過ごす。
たそがれ時を君と手をつないで歩いた。
一め人に広がる茜空に綺麗だねって微笑む君の横顔が愛しい。このまま時が止まれば良いのにって、そんな事を思ったりする。
今日も一日君と過ごせて幸せだったよ!ありがとう
たそがれ
空に朱色と藍色が混ざり淡いグラデーションが掛かる頃 私は、学校からの帰り道を
ひたすら歩いていた。
不気味な程 黒く 暗くは無く
かと言って心から安心出来る程明るくも
無いそんな淡い黄昏時なら 私達の中に
私達じゃ無い者が私達の振りをして
混ざっていても不思議じゃ無い
そんな幻想的な妖しい者を呼び寄せる様な
そんな空を見上げながら 私は一つの
好奇心と不安 恐怖と期待を胸の中に
抱えながらいつも通っている通学路を
ドキドキしながら歩いて行く
何かが起こって欲しい様な 起こって欲しくは無い様な相反する気持ちがせめぎ合い
ながら 一歩 一歩 足を踏みしめて行く
家に着くまで 私の心は前のめりになり
落ち着かなかった。.....
『黄昏』
黄昏と聞くと、すきなバンドの曲を思い出してしまう
厳密には『黄昏』ではなく『黄昏〇〇〇〇〇〇』というタイトルなのだが
(初めて行った)ライブでこの曲を聴いた時、なぜか泣いてしまった
歌詞と自分の心情がリンクしたのか、音圧がすごくて思わずだったのかは分からないが泣いてしまった
(個人的には前者だと嬉しい)
それと同時に音楽という物の力の素晴らしさに改めて気づいた
それ以降、この曲の歌詞に救われ続けている
別の話に話になってしまうが、黄昏という時間帯にノスタルジーを頻繁に感じる
黄昏=夕方らしいので、大体17時と思っておく
17時というと、学校帰りや会社帰りなど、帰路についている時だといえる
自分は、帰り道の時は、ついつい、昔のこと(友達のこと、楽しかったこと)などを考えてしまいがちになる
そういった部分からノスタルジーを感じてしまうという結論に辿り着いた
廃れた村の山深く、真っ赤な朱の鳥居の柱の間に立っている少年は誰そ彼。
あの狐面で隠れた顔でどうして少年と理解出来たのか、村に背を向けた臆病な私には永遠に分からないまま。
『たそがれ』
📍
子供の頃、夕方遅くに帰ってきて
うちの団地の棟の前に
大人が何人かいると不安になった。
黄昏時で顔が皆よく見えない。
うちの棟の人じゃないかもしれないと
すれ違うのが怖い気がした。
(たそがれ)
夕暮れ時。空と地がオレンジに染まって、地平線が曖昧になってゆく様をぼんやりと眺める。昼でも夜でもない、刹那の時間。儚くも美しいこの光景を見るのが、私は好きだった。
黄昏、あるいは、逢魔が時。どちらもあまり良い意味で使われる言葉ではないけれど。太古から人々はこの時間に何某かの意味を見出したかったらしい。
そうしてたそがれていると、ぼやけた地平線からポツリと人影がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。明らかにそれは、私を目的とした足運びで。けれど白金とオレンジの逆光に包まれて影は黒に染まり、容姿の判別がつかない。形からして、多分、男。……彼は誰だろう? なんだか少し怖くなって身構えていると、影は口を開いたらしい。何をそんなに怖い顔をしているんだ、と馴染みのある声が耳に届く。
「……お兄ちゃん?」
「他に誰が……ああ、西日で見えなかったのか」
距離が近付いて、顔も判別する。間違いなく兄で、強張った肩から力が抜けるのを感じた。
「こんな人気のない場所でこんな時間に一人でいたら危ないだろ。人拐いにあっても知らないぞ」
呆れたような、けれど少し心配の色も含んだ兄の声。過保護だな、と今度はこちらが呆れた。
「心配しすぎだよ。まだ暗くないし。だいたい、私を拐う人なんかいないって」
「バカ。さっきオレの顔も見えてなかったくせに。オレが不審者だったらどうするんだ。……『誰そ彼』って言うしな。危ない時間帯なんだ。用心しろ。ああちなみに、誰そ彼って言うのは――」
突然始まる兄の講義に、笑ってしまった。兄妹二人、他愛の無い話をしながらゆったりと家へと足を進める。
彼は誰ぞ――魔が闊歩する、そんな時間。あまり良い意味ではないそれだけど。私にとっては、お節介お兄ちゃんが迎えに来てくれる、そんな時間。
テーマ「たそがれ」
たそがれになると この辺りを境に家に明かりが灯り始め 反対に外は少しずつ暗くなっていく カラスの鳴き声も大きくなり だんだんと街の景色も寂しく感じ 人は家路を急ぐ… 灯りはあたたかく 1日疲れた人を優しく灯す…
ポポヤ
さむい海を一人で歩く
ちゃぽんと鳴る投げた石ころ
息を細く吐きながら、涙目のあたしはまだ俯いて
なくせないから美しいと
景色には嘘はつけないと
さむがる悴んだ手を広げて
遠くの灯を見つめたあたし
貝殻にぜんぶ吐き出せば楽じゃないか
いっそ海にさえ藻掻いてしまえば生きれたのに
悲しくなって
愛を売って
死にたくないと呟いた
朝焼けの、海
振り返った彼女の輪郭はぼんやりとして見えづらい。
あっという間に落ちていく夕日に、
この時間に、彼女がスゥッと溶けていくようだった。
「ごめんね」
そう一言だけ呟き、彼女は電灯のない方へ歩き出した。
僕の瞳は簡単に彼女の姿を捉え損ね、
次の言葉を出す前に彼女は見えなくなった。
仲間だと思っていた。味方だと思っていた。
大切な人だと思っていた。
そうではなかったのだと知って、
クラクラと衝撃を受けている間に僕の前から消えてしまった。
前から彼女は儚い人だと思っていた。
でも、こんなにあっさり灯火が消えてしまうなんて。
静かに頬に伝う雫が襟元を濡らした。
【たそがれ】2024/10/02