カラン、と涼しげな音をたてて氷が溶けていく。暦の上ならもう秋のはずなのにまだアイスティーが飲みたくなる気温が続いている。
レトロモダンとでもいうのだろうか、ステンドグラスの窓やランプシェードが可愛らしい。窓辺に飾られている砂時計や小さな花瓶もすべてが私好みだ。
机を挟んだ正面でニコニコと笑いながら日常のくだらないことを嬉しそうに話している、私の恋人。
初めて他人に好きだと言われていい気になってしまった。好きとも嫌いとも思っていないのに恋人になった。
失礼だと、はやく別れたほうがいいと、ずっと思っている。だけど別れる理由がなくてズルズルと続いていた。
私の好みに合わせてくれる。上手く話せなくても笑わずに聞いてくれる。無愛想な私を心底愛おしそうに見つめてくる。些細なことだけど、それが嬉しくてたまらない。
――恋してみたい、恋してみたいの
氷はもう溶けきって、アイスティーも温くなった。店内が少し薄暗くなってきて照明がキラキラと輝きだす。すっかり短くなった日に秋の訪れを感じる。
居心地のいいこの時間が好きだ。燃えるような夏よりもずっと好きなんだ。
【題:たそがれ】
10/2/2024, 5:37:46 AM