『たくさんの想い出』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
#84 たくさんの思い出
[心に残る思い出]
明るい思い出は、
心の奥底でいつまでも生きている。
暗い思い出は、
深い悲しみと共に水に流してゆく。
心に残る思い出は、
私自身の選択で決まる。
――守り神様。
声が聞こえて、目を開けた。
変わらぬ庭の景色に、首を傾げる。
彼の姿はどこにもなく。吹き抜ける風が、庭の花々を揺らして遊んでいた。
あれは彼が最初に己に与えた花だ。
霞み消えかけた記憶を思い起こす。
ここにある花や木は、彼が好み己に教え与えたものばかりだ。彼のためにと増やし続けていたものが己の記憶を留めるためのものとなったのは、果たしていつからだろうか。
詮無き事を考え。立ち上がり、辺りを見回す。
やはり彼の姿は見えない。
当然だ。理解はすれど、過ぎる風が時折運ぶ花の香に記憶を揺さぶられ、彼を探す事を止められはしない。
奥にいるのかもしれない。この先の芒は彼が一等好んでいたものだから。
また詮無き事を思いながら姿の見えない彼を探すため、足を踏み出し。
「まだ残っていたんだ。随分と好いていたんだね」
声が聞こえた。
懐かしい、己を定めた唯一の声。
振り返る。藤棚の下で二人の男が立っていた。
風が花弁を舞い上がらせる。鮮やかな色彩を引き連れて、男らの元へと風が駆け抜ける。
黒を纏う男が徐に腕を上げる。風に舞う花弁が腕に戯れるように纏わり付いた。
記憶を揺さぶるその男に、惹かれるようにして歩き出す。
彼らを知っていた。知っているはずだった。
「ここでなら、多少不完全でも戻してあげられる。さあ、戻っておいで」
黒とは対照的な白を纏う男が黒の男の肩に手を触れさせ、口遊む。
千々に離れてしまったものを一つにする術。繰り返す中で己が忘れてしまった旋律。
黒の男の姿が揺らぐ。風と白の男の一部を取り込んで、二つになる。
その姿を認め、駆けだした。
「篝里《かがり》っ!」
「守り神様」
強く抱きしめる。離れぬように。取りこぼさぬように。
求め続けていたその姿に、声に、温もりに。ただ縋り付いた。
「いい加減離れたらどうだい。そのまま潰してしまうつもりかな」
呆れを含んだ声に、顔を上げる。
肩に黒い翼の鳥を止まらせ、腕を組むその姿を己はよく知っていた。
「藤白《ふじしろ》」
「そうだよ。まったく、お前は本当に頭が足りないね」
男が笑う。
僅かに緩めた腕の中の彼が身じろぎし、それに否を答えた。
「此度の所業の責はすべて私にあります。私が望んだのですから、守り神様は悪くありません」
穏やかでありながらも真っ直ぐな視線は、あの時と変わらない。
彼は自身を凡庸と評していたが、己がこれまで出会った人間の中で、彼ほど強く残酷な者はいなかったように思う。
「私は兄を、里の皆を守りたかった。その為にならばこの命、惜しく等はなかったのです。ですがあの望みが守り神様を長く苦しめる事となると知っていたならば、私は」
「篝里」
目を伏せ憂う彼の名を呼ぶ。
はっとして己を見上げる彼の髪に指を絡ませ、閉じ込めるようにしてその身を掻き抱いた。
「篝里。すまなかった」
微かに震える彼の体をさらに引き寄せる。
彼が気に病む必要はない。あの日、己は望みに応えぬという選択も出来たのだから。
それに敢えて応えたのは、己の意思だ。彼の望みに全て応えたいという主我であり、己の唯一との再会の可能性を求めた我欲であった。
そしてどのような形であれ、彼と永遠を共に出来る期待もあったのだ。
「逢いたかった。触れたかった」
抱き留めた腕や胸から伝う熱に、彼の陽だまりのような匂いに酔い痴れる。失う事の意味を理解した今、手放せるはずなどなかった。
「篝里」
「いい加減にしないか。まったく…離れろ」
だが焦れた男の言葉によって、己の意思に逆らい体は彼を離していく。
「篝里」
「情けない声を出すんじゃない。苦しがっていただろうが」
伸ばしたままの腕を、男は容赦なく叩き落とす。
それでも離れる事が怖ろしく、彼から視線を外せずにいれば、彼は少しばかり困ったように眉尻を下げて笑った。
「私ならば大丈夫ですよ?」
「これ以上甘やかすな。何処に行くにも付いて回るようになるぞ。俺の時は厠まで付いてきたんだからな」
遠い過去の話に、そのような事もあったかと幾分か落ち着きを取り戻した思考で思い返す。
彼と共にあった頃よりもさらに過去の記憶は、今や殆どが霞み消えている。この庭に留めていた男との寄辺は男の名である藤しかない。
故に男の話す過去が嘘か誠か判断が付かず。黙したまま男を見れば、小さく彼が笑い声を上げた。
「申し訳ありません。私の知る守り神様とはあまりにもかけ離れていたので」
「あの頃はまだ純粋だったからね。そしてあまりにも無知すぎた。そのまま手放してしまったのは、さすがに後悔しているよ」
そう言って男は苦笑し、空を見上げる。遠い過去を想うその目に、僅かばかりの寂しさを感じた。
「ここにいるのは馬鹿の集まりだな。俺は俺の式に戯れ言を吹き込んで。それを律儀に守った式が暴走して。後裔が己の命を使って式に望み。その後裔の式が庭から欠片を持ち出して均衡を崩した」
「そうですね。誰か一人でも思い留まる事が出来たなら、結果は異なっていたのでしょうから」
「本当にね。あの子達には悪い事をした」
あの子達。己を終わらせてくれた、優しい少女らを思う。
男の使う術とは異なる歌は、純粋な祈りだった。
思い出す。呪をその身に宿した少女と初めて出会った時を。
母屋にいる時から感じていた。幾重にも絡み合う呪と、それを身に宿しながらも自身を失う事のない強さ。そして神様、と呼ぶ澄んだ声音。
羨ましい、と思った。少女の神が。迷いのないその呼び名が。
故に連れて来た。意識の切り離された躰だが、それでも構わなかった。
その選択が最良だった事だけが、幸いだった。
「さて、行こうか」
不意に男が告げた。
「はい。皆で行きましょう」
腕に黒い鳥を止まらせた彼が、笑って男の隣に立った。
もう行ってしまうのか。
いや、漸く行けるのだろう。
人間である彼らが、また始まる事が出来るのは喜ばしい事だ。
名残惜しさに蓋をして、見送るべきかと居住まいを正す。
「何をしているんだ。お前も行くんだよ」
「一緒に行きましょう。守り神様」
差し出された彼の手に困惑する。
人間ではない己が、彼らと共に行く事など出来るはずがない。
彼の手に視線を向けたまま動けない己に嘆息し、男は有無を言わさず腕を引いた。
「ほら、さっさとしないか。それとその見窄らしい格好を何とかしろ。見苦しくて仕方がない」
引かれた男の腕を見、己の狩衣を見る。
煤け草臥れ。擦り切れた狩衣は、確かに随分と見窄らしいものだった。
「それから溜め込んだ呪もここに置いていけ。後始末くらいは俺の記憶にさせても許されるだろう」
男の視線が、早くしろと訴える。
しかし如何すれば良いのか、記憶の中には残っていなかった。
戸惑う己に男は再び嘆息し。腕を引いて視線を合わせた。
「最後まで世話のかかる式だな…黄金《くがね》。元に戻れ」
名を、呼ばれる。
正しく。意味を伴って。
姿が戻っていく。瞳は白から尾花色へ。髪は黒から金へ。
重苦しい体は、軽さを取り戻し。男と共にいた頃の姿を取り戻す。
「良かった。守り神様が元の姿に戻る事が出来て」
「篝里」
「行きましょう、守り神様」
ふわり、と彼が笑う。
差し出された手に、恐る恐る手を重ねた。
「本当に、いいのだろうか」
「どうにでもなるさ。人が妖に成り、妖が人に生まれる世界だ。溜め込んだ想い出を全て置いて行くのだから、それくらいは何とかしてくれるだろう」
「駄目だと言われても、私が説得します。だから今度こそ一緒にいましょう」
「藤白。篝里」
彼らに手を引かれ、歩き出す。
背後を振り返る事はない。置いていくいくつもの寄辺はもう必要ない。
歩む先。遠くに見えた姿に、不安が過る。
だが僅かに前を行く彼らに引かれた手の熱に掻き消され。
笑みを浮かべ、彼らと共に終に向かい足を進めた。
20241119 『たくさんの想い出』
今日のテーマ「たくさんの思い出」から、自分自身のものを振り返って、気づいたことがある。
思い出作りとは、思い出を作ることではない。
思い出となること、つまり何が印象に残るかは、各人や状況によるからだ。未知のものを作ろうとすることは、できない。
しかしそれだと、思い出を作ろうとして、作っているのは違うもの、ということになる。
それなら、一体何を作っているのか。
思い出は印象だというのなら、意外なことが起こりやすい状況は、思い出を作るはずだ。
思い出作りで遊園地などに行くのは、それが理由だろう。
だから思い出作りというのは、思い出ではなく、思い出の素となる状況を作ることなのだ。
思い出作りという言葉に対する、子供時代からの違和感が消えた。
私は、10歳の女の子。ラプっていうんだ。きょうは、【想い出】の話をするね。
ママの友達に会いに行くと、ママたちはよく、「こんな事あったよね」「あんな事したね」って、しゃべってる。
思い出話をしてるみたい。でもね、私はまだ、10年しか生きていないの。10年って長いのかもしれないけど、ママたちに比べたら、全然短い気がする。それに、そのうちの1、2年は、物心もついていないでしょ?それで、私の思い出ってそんなにあるのかな?沢山あるのかな?って思ったんだ。だから私の思い出を、ママに聞いてみることにしたんだ。
ラプ「私の想い出って何がある?何個ある?」
ママ「思い出⁇」
ラプ「そう。私の10年の人生で、どんなことがあった
かってこと」
ママ「思い出ねぇ…色々あったわよ。それに、ラプは
10年しか生きてないって思ってるかもしれない
けど、この10年が、1番新しいことが多くできて
るんじゃないかしら?」
ラプ「そっか…」
ママ「まず、生まれてからハイハイができるようにな
って…」
ラプ「そういうことじゃなくて!想い出だよ。ママた
がみんなで話してるような」
ママ「そうねぇ…まず、幼稚園で友達ができてから、
初めてみんなでアスレチック行ったのは覚えて
る?
ラプ「覚えてるよ。そういう想い出を沢山話してほし
いんだ!あるだけね」
ママ「そのあと、みんなでリラと、ラリーと、ラプの
バースデーパーティーをやったわ。あなたたち
仲良し3人組は、みんな誕生日が6月5日、6月6日
、6月7日って続いていたのよね。小学校に入
って、別れてしまったけれど。それから、み
んなで初めてのお泊まり会をやって…」
___中略___
こんな感じで、聞いた結果、私の想い出は思ってたよりは多かった。でも、やっぱママたちよりは少ないんだ。まぁそりゃ、生きてる期間が断然短いんだから、しょうがないよね。
明日から学校!もっともっと想い出を増やしたいし、友だちにも想い出のこと聞いて、ママたちよりも想い出が少ないのは私だけなのか、それとも、私がみんなより多いのか、ふつうなのか。そう考えると、明日、学校に行くのがワクワクした。
___次の日___
ラプ「おっはよ〜」
ウク「あっ、ラプおはよ!今日は早いね〜」
ラプ「うん、なんか早く行きたくなっちゃって」
ウク「そっか〜あっ、レレがきたよ!」
ラプ「ほんとだ!これで私たち全員そろったね」
私たちこの3人は、毎日仲良くしてるんだ〜
ラプ「ねー」
ウク、レレ「ん?どうしたの?」
ラプ「みんな想い出って沢山ある?」
レレ「うーん…」
ウク「そうね、あるにはあるけど、ママたちほど沢山
ではないの」
レレ「ママたちが集まると、よく想い出話してる気が
する〜」
ラプ「やっぱそうだよね」
ウク「ウチも、この前ママに聞いたんだけどね、思っ
てたよりは多いけどやっぱり…」
レレ「私はね〜幼稚園の頃、引っ越しばっかしてたか
ら、幼稚園のときは、あんま想い出ないかも」
ラプ「私、友だちつくるのに時間かかってるから、入
園とか入学したてのころはあんま想い出ない」
ウク「わかる〜」
先生「席についてくださいー」
ラプ「あっ、授業始まる!また中休みね」
___中休み___
中休みに、また話をしたんだ。校庭で鉄棒しながらだけどね。
レレ「想い出って友だちいっぱいのほうが多くできん
のかなぁ」
ウク「うーん…」
ラプ「でも、使える時間は同じだからねぇ」
ウク「わかんないけど、いくらいっぱいいても、ちょ
びっとずつ仲良いとかだったらあんまりかも」
レレ「そうみると、私たちすごく沢山の想い出作れる
くない?
ラプ「ほんと、そんな気がする」
ウク「私は明るい、レレは天然、ラプはしっかりもの
で甘えんぼ。ってこんなに性格違うのに、こん
に気があってるもんね」
レレ「私たち、友達になってから、どのくらい想い出
つくったかなぁ」
ラプ「すごく沢山だと思うけどね」
ウク「うん。でも具体的な数字はわかんない」
ラプ「じゃあさ、こんなカード作んない?」
私は、教室に戻って、2人にこんなカードを紹介したんだ。
まず、真ん中にメインとなる言葉を書いて、そのまわりにみんなからのメッセージや、イラストを描いたりして、グループのシンボルにする。すると、2人はすぐに賛成してくれた。
レレ「良さそう!」
ウク「みんなの友情も明確になるしね」
ラプ「じゃあ、放課後私の家で遊ばない?そのときに
これ作るの」
ウク「よし!じゃあ決まりね。3時に、ラプの家の前で
集合だよ!」
レレ「ワクワクしてきた〜」
___放課後___
ラプ「今日、私の家で、3時からみんなと遊ぶね」
ママ「いいわよ」
その後、私たちはカードを作り出した。
レレ「ねぇ、イラストとかを少なめにして、想い出が
できたら周りに書いてくのはどう?」
ウク「いいんじゃない?」
ラプ「どんな想い出作れたかわかるしね」
レレ「このことも想い出として、ここに書こうよ!」
ラプ、ウク「賛成ー!」
30分後、私たちはカードを作り終わってみんなでおやつを食べていた。
レレ「想い出カード、満タンになるといいね」
ウク「ほんとそう思う」
ラプ「満タンになったら、裏にも書こうか」
レレ「何枚でも作ろう!」
ウク「何枚できると思う?目標立てようよ!」
ラプ「30枚!」
ウク「50枚!」
レレ「100枚!」
ラプ「何枚でもいいからできるだけ多く作りたいね」
ウク「まずは、ママたちに旅行に連れてかせてもらわ
ないと!」
レレ「そうだね」
そのあと、私たちは、沢山遊んで沢山笑った。これで、想い出カードの想い出が1個増えたんだ。そろそろ楽しい時間も終わりに近づいたとき。
ウク「カードはアイディアを出したラプに預けるね」
レレ「なくさないでね」
そういって、みんなでバイバイをした。
その夜、わたしは、想い出が沢山作れるといいなと心からお月さまに願った。
夕焼けの様な茜色の玉、上品な藤色の玉、全てを覆い尽くす漆黒の玉。茉莉子の開けた引き出しには色とりどりの玉が行儀良く並んでいる。直径10㎝程のその玉はそれぞれにとても美しいが静かで眠っているようだ。
茉莉子はひとつ玉を持ち上げ、柔らかい布で優しく磨き、元の位置に戻す。ひとつひとつ丁寧に全ての玉を磨く。茉莉子の毎日の日課だ。いつ持ち主が訪れてもいいように。
「こんにちは。茉莉子さん、いらっしゃいませんか?」
お店の方から声が聞こえる。
「はい、ただいま」と声をかけて茉莉子は引き出しを閉めてからお店へ向かった。
お店には若い女性が立っていた。
「紗英さん、いらっしゃいませ。お迎えですね。少々お待ちください」
茉莉子はそう言って、また奥の引き出しの部屋に戻った。引き出しから桜色の玉を取り出し、店に持って行く。
紗英の目の前に桜色の玉を差し出すと、桜色の玉は眠りから覚めたようにキラキラと輝き出した。
「とても優しいいい子でしたよ」
そう言いながら茉莉子は玉を紗英に渡した。すると桜色の玉はますます輝きを増し、眩しい光を放つ。光は紗英の身体を包み込み、徐々に消えていく。光をなくした玉はもう桜色でもなくただの丸い石になっていた。
紗英は嬉しそうに言った。「ありがとうございました。全部思い出しました」
紗英がはじめてこの店を訪れたのはちょうど10ヶ月ほど前、桜の咲く季節だった。
「高校の楽しかった思い出を全部忘れさせてください」
真剣な表情で茉莉子に言った。
理由を聞くと、大学受験を控えているにもかかわらずまったく勉強に身が入らないのだと言う。将来の夢もあるし、そのために行きたい大学もある。だが、「今のままの成績では到底無理だ。一年間がむしゃらに勉強しないと受からない。」と先生に言われた。
しかし、いつも友達との遊びを優先してしまう。放課後は毎日友達と遊び、夜までLINEやSNSで連絡を取り合っていた。楽しい話題は尽きず夜更かしして授業にも身が入らない。だから、楽しい思い出を封印するのだと。
石は紗英の楽しかった思い出を全て聞き、桜色の玉になった。それを茉莉子は預かっていたのだ。
「受験はどうだったんですか?」と茉莉子は聞いた。
「おかげ様で受かりました」と紗英。
「でも、友達とは距離ができちゃって。このやり方が良かったかわからないです」紗英は寂しそうな表情で言った。
寂しそうな紗英の背中を見送って、茉莉子はまた引き出しのある部屋へ戻った。そして、また静かな玉たちを丁寧に磨いてゆく。
———————————
お題:たくさんの想い出
「たくさんの想い出」
私が死んでからもう一万年も経ってしまった。
沢山の罪を重ねたまま、罪滅ぼしもまともにできないまま、私は突然死んだ。
犯した罪の数々はいまだに忘れられない。
だが、それよりも忘れられないことがある。
それは、紛れもない。君たち双子のことだよ。
⬜︎⬜︎。君は⬛︎⬛︎よりも2分だけ早く起動した。
ぱっちりとした綺麗な目を、ゆっくりと開いてこちらを見た時のことをいまだに忘れられない。
ベッドから下りるかどうかテストしようとした時は驚いた。
自分で降りるのではなく、私の方に腕をいっぱいに伸ばして、何も言わずに笑顔を浮かべて。
あぁ、この子はとても甘えん坊だから、私に降ろしてほしいのだとすぐに分かったから、その通りにした。君が可愛い声で「ありがとう」と言った時、思わず抱きしめた。
君の名前を教えた時、名前を誰かに教えたらいけないと伝えた時も、まっすぐな瞳でよくいうことを聞いてくれた。
とても嬉しかった。
そのうち⬛︎⬛︎も目覚めた。⬜︎⬜︎と同じように降ろそうかと思ったら、自分でぴょんと降りてこっちに走って向かってきた。
この子は元気な子なのだとすぐに分かった。
「おはよう!」ふたりともよく似た可愛い声だが、この子はどこか力強さのある雰囲気の話し方で、自分で作っておきながら不思議だと思ったよ。
そのあと君たちは頑張ってお話しをしていたね。
「ね、⬛︎⬛︎ちゃ。このこ、なんていうの?」
「あ、私かい?私は……先生や博士と呼ばれることが多いかな。」「んー。ちがうの。」「どうしたんだい?」
「しぇんしぇ も はかしぇ も ちがうー!」「え?」
「うん!ボクもそうおもう!」「どうして?」
「「だって ボクたちの うみのおや だもん!」」
「産みの親……まあ、確かに……?」「んー!」
「ね、⬛︎⬛︎ちゃん、この うみのおや の ひと、なんてよぶ?」「えーと……。」
「おかあしゃん?」「ちがうー!」「えー?じゃ、なに?」
「おとうさん だったとおもう!」「そっかー!」
「せーの で よんでみよ!……せーの!」
「おとーしゃー!」
「はい!」
「おとうさん!」
「お父さん」と呼ばれるとは思っていなくて、とても驚いた……というか、あまりにも嬉しくて、あまりにも可愛くて、あまりにも感動して、私はすごく混乱した!
誰かの親になるということは厳しいことだ。
だが、それ以上に幸せで、輝いていて、かけがえのないたくさんの想い出で満ち溢れている。
君たちはそれを教えてくれた。
本当にありがとう。
いつか、また会える日まで。
「前回までのあらすじ」───────────────
ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!
調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!
……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにした!そうしたらなんと!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚したうえ、アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかった!そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!
……ひとまずなんとか兄を落ち着かせたが、色々と大ダメージを喰らったよ!ボクの右腕は吹き飛んだし、ニンゲンくんにも怪我を負わせてしまった!きょうだいについても、「倫理」を忘れてしまうくらいのデータ削除に苦しめられていたことがわかった。
その時、ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。「機械だから」って気味悪がられたけれど、ボクがキミを……キミ達宇宙を大切に思っているのは本当だよ?
それからボクは弁護人として、裁判で兄と旧型管理士の命を守ることができた。だが、きょうだいが公認宇宙管理士の資格を再取得できるようになるまであと50年。その間の兄の居場所は宇宙管理機構にはない。だから、ニンゲンくんに、もう一度一緒に暮らそうと伝えた。そして、優しいキミに受け入れてもらえた。
小さな兄を迎えて、改めて日常を送ることになったボク達。しばらくのほほんと暮らしていたが、そんなある日、きょうだいが何やら気になることを言い出したよ?なんでも、父の声を聞いて目覚めたらしい。だが父は10,000年前には亡くなっているから名前を呼ぶはずなどない。一体何が起こっているんだ……?
もしかしたら専用の特殊空間に閉じ込めた構造色の髪の少年なら何かわかるかと思ったが、彼自身もかなり不思議なところがあるものだから真相は不明!
というわけで、ボクはどうにかこうにか兄が目を覚ました原因を知りに彼岸管理部へと「ご案内〜⭐︎」され、彼岸へと進む。
そしてついにボク達の父なる元公認宇宙管理士と再会できたんだ!
……やっぱり家族みんなが揃うと、すごく幸せだね。
そして、構造色の少年の名前と正体が分かったよ。なんと彼は、父が考えた「理想の宇宙管理士」の概念だった。概念を作った本人が亡くなったことと、ボク以外の生きた存在に知られていないことで、彼の性質が不安定だった原因も分かった。
ボクが概念を立派なものに書き換えることで、おそらく彼は長生きするだろうということだ。というわけで、ボクも立派に成長を続けるぞ!
─────────────────────────────
飼っていたハムスターが死んだ。
夕方帰宅すると、巣箱から半分ほど顔を出したままぐったりと動かなくなっている姿を見つけた。
心臓がヒュッと縮こまって耳の奥でドクドクと脈打つ。
寝ているだけかもしれないと思いたくて、そっと体を撫でてみる。…ああ、冷たい。
❄︎
名前はグリという。あの「グリとグラ」の絵本からとって名付けた。体は大きいくせに臆病な性格で、抱っこが嫌いだった。いつも餌に釣られて手のひらに乗せられてはすぐにスルスルと抜け出して、自由になった体で嬉々として目の前に広がった未知の世界を探検するのだ。
思い出すのは君のあたたかさ、可愛さ。夜、君が目を覚ましてから一緒に遊んだよね。
それらがどれだけ私を癒したか、君はきっと知らないだろう。
❄︎
いつも嫌がって抱かせてくれない君が、今は大人しく手の中に収まっている。冷たい体を抱きながら(もうこれで、生き物を飼うのはやめにしよう)と思った。
たった3年足らず。
だけど私は大切に持ってる。
君との『たくさんの想い出』。
家の裏 羽根打ち合って 笑ってた あれは晩秋 幼い 思い出
【たくさんの思い出】
「今年はお正月に帰省するの?」
夕食中、玲人(れいと)は葉瀬(ようせ)に聞く。
「んー...今年はいいかな。去年したし」
「何か言われなかったの?」
「めっちゃ帰ってくるように説得されたけど、仕事が忙しいからって誤魔化した」
「そっか」
「ん」
葉瀬は何事もなかったかのように夕食を食べ進める。
「...あ、今年も鍋しよ」
「鍋?うん、いいよ。後で二人の予定聞いておこうか」
「あ、うん。それもいいんだけどさ、二人でもしたいな」
「ふたり」
少し照れる玲人を見て葉瀬は微笑む。
「いいでしょ?初めて鍋やった時は四人だったから」
「そっか...葉瀬ちゃんの初鍋...懐かしいね」
「ね、皆私のお皿にどんどんお肉入れるから消費するの大変だったんだよ~?」
「だって葉瀬ちゃん全然食べないからさ」
「どのくらい食べていいかあんまり分かんなくてさ」
「だから俺らでどんどん入れたんだよね」
玲人は思い出して笑う。
「またやろうね、四人でも二人でもね」
「うん」
お題 「たくさんの想い出」
出演 葉瀬 玲人
「たくさんの想い出」という題名の泉を展示しているという美術館にやって来た。
高めの入場料を支払って、彼はゲートをくぐる。
道中の、細々としたつまらない展示品に興味はない。
油絵の風景画、木組みの工芸品、よくわからない彫刻。
それらについて、思索の時間を取らず、横切っている。
数分後、外に出た。
中庭のような、建物と建物の間にある広がりだった。
メインの展示品は、ただの水たまりではなかった。
泉に注ぎ込む水路がいくつか設置してある。
上から俯瞰すれば、星形の頂点が外側に延長されたような感じである。
水路は五つあった。ちょろちょろと、水路を流れる水の流れは外側から内側へ。つまり五つの水路が、直接中央にある一つの泉へ注ぎ込まれている。
水路といっても、そう大層なものではない。
パイプを横にスライスしたようなものである。
家の屋根にある、雨樋みたいな。
そのような大きさでしかない。
そんな飛び越えられる程度の大きさでしかない小さな水路を、いくつもの小洒落た渡し板が掛けられていた。
渦を巻くような、泉の周りを周回させる感じである。
柵はないから、そのままショートカットするように、ぴょんと飛んで、中心を目指した。
泉に到着しての感想、意外と池だな。
直径は五メートル程度。
だが、遠くから見たほうがよかったと後悔する。
至る所に苔のような暗い緑が敷き詰められているし、汚い沼のような、ぷんとしたニオイを解き放っている。
泉は乾いているようにしか見えなかった。実際、三センチもないだろう。
なんだ、5600円が無駄になった。どうしてくれよう。
憤怒の感情を剥き出しにして、きりりと引き返そうとした。
彼が来たところから、車椅子の人がいた。こちらにやってくるようだ。
付き添いの人が押してくれるタイプで、車椅子に座っている人は女性だった。
制服を着ていた。とても若い人。
子どもだろう。小学生? わからない。
そのような華奢な体つき。
車椅子でも彼のようにショートカットできそうなものだった。しかし、車椅子の人は順路通りに従った。
泉を回るようなゆったりとした試み。
沈黙であった。彼は立ったままでいた。
彼女もまた沈黙だった。手押し車に乗せられたか弱い小動物のように、身体をじっと固めていた。
彼女を眺めていると、いつの間にか怒っていたことなんて忘れて、時計の一周を感じさせた。
人物像の輪郭が分かるようになると、座った彼女の目は閉じていた事が分かった。
やがて、車椅子と付き添いの人――どちらも女性だった――が泉に到着した。
付き添いの人は車椅子を固定したあと、一歩二歩下がって佇む。車椅子の彼女は深呼吸して、
「いい香りです。スイレンが咲いていますね?」
彼女は嗅覚にすぐれた。
付き添いの人は「ええ」と頷き、じっくり鑑賞していた。その後、「たくさんの想い出」という泉に付けられた題名について、議論を交わしている。
彼は、どこにスイレンがあるのか、細い目をさらに細めて泉の範囲を探している。
書き忘れたが、彼は極度の近視である。鼻もバカな方である。学もない。
白い息を顔の周りに纏わせながら、翔真は急いでやって来た。
「ごめん、遅くなった!」
細く溶けてしまいそうな両の目が、いかにも優しい翔真らしい。こんなに細めて周りが見えないんじゃないかと、本人に尋ねたことがある。その時も翔真は目を細めていて、そのまま、
「見えるよー。ほら、佐々木、今ちょっと首傾けた」
と私の動作を指摘した。私がふざけて変顔をしたりウインクしたりするのを、翔真は細い目で嬉しそうに見てくるので、面白いのと同時に少し照れた。こんなに近くで男子にずっと注目されるのは初めてだったから。
少しずつだったんだと思う。これっていうドラマも何もなく、ただ気付けば翔真を目で追っていた。言葉を交わす時間が楽しみになった。
「緒方先生が、なかなか解放してくんなくて」
翔真は言い訳しながら私を校門の方へ促した。うん、と返事をして従う私。振り向かない。そんなことはしないんだ。
会話はいつも通り、他愛もないことばかり。隣に並ぶことに慣れ、名前で呼び合うことに慣れ、手をつなぐことにも慣れ……。
秋祭りにも2人で行った。頑張って浴衣を着た私が手を振ったら、翔真は真っ赤になって1歩下がった。それが初めて手を繋いだ日。今のところ、翔真との1番の想い出だと思う。
想い出……。
「ねえ、私との1番の想い出ってなに?」
ウザいこと聞いてるな、と自分でも思う。何を試しているんだろう。そして翔真は傾けた首に手を当てる。
「想い出?えー、何だろう。ちょっと待って」
選んでいるのか、思い出せずにいるのか。
そんな疑いの眼差しを向けたことに自分で驚く。ダメだって。
壊したいわけじゃない。なのに、頭も心も言うことを聞かないんだ。
「んーとね、やっぱ、あれじゃない?付き合った日」
人差し指を立てて、恥ずかしさをごまかすようにコミカルに言った翔真に、私は微笑み返した。
付き合った日がピークか。じゃあ、今は。
そんな呟きで胸が痛んでることなんて、翔真はきっと知らない。ヒュウ、と鳴る風に混じって、後ろから微かに笑い声が聞こえた。風を受けたふりをして、一瞬だけ目を閉じる。
1番ならいいと思ってた。翔真の人生を共有した時間の長さは叶わないけど、頂点が自分なら、裾野がどれだけ広くたっていいと思ってた。
だけど……。
醜さを自覚しながら、私はついに振り返った。
「あれ?牧野さん?」
後方を歩いて来る数人の影。翔真は振り向く前から気まずそうにして、振り向いてからはさらに気まずそうに咳払いをした。
2人の人生には10年も共有してきた時間がある。たくさんの想い出も。分かっていたことだ。それでも私を選んでくれたことが嬉しかった。なのに、翔真と時を過ごせば過ごすほど、私は2人の歴史に潰されそうになっていく。私の知らないたくさんの想い出に、勝手に白旗を上げたくなってくる。
「あ、ほんとだ」
細めた目を開けて、翔真は前に向き直った。
足音だけに包まれていく。もう、無理なのかな。
「あのさ……」
何かを言いかけた翔真は、ギリギリのところで飲み込んで、また目を細めた。他愛もない話が再開する。だけど、私達はもう、この瞬間が何でもない想い出として消えていくことを知っている。
濃くなっていく闇の中、私達はずっと何でもない話を消費しながら、ひたすらに時を引き延ばそうと歩を緩めることしかできずにいた。
《たくさんの想い出》
【たくさんの想い出】
たくさんの想い出が頭を駆け巡る。
全部全部、自分の糧になっていると信じたい。
キープさせていただきます。
今週は忙しいので、もしかしたらずっと書けないかもしれません。申し訳ないです。
思い出って言われたら色々出てきますけど、その中で一番のものって言われたら、少し悩みますよね。
可笑しくて笑った事も、苦しくて泣いた事も。どれもが自分だけの思い出で。
過ごしてきた数え切れない程の日々は絶対に無くならないし、裏切らないで傍に居てくれる。鮮明に思い出せなくなったとしても、それは私の隣で記憶が眠るだけなのだ。
その眠りは、いつ覚めるのかも、はたして目覚める事があるのかさえもわからないけれど。存在してくれるだけで私を私たらしめてくれる。
だって思い出は、友達でも家族でも恋でも夢でもあって、私そのものでもあるんだから。
『たくさんの思い出』
「あ……もう25か…」
小学生してるって思ってたらいつの間にか中学生になってて、中学生してるって思ってたらいつの間にか高校生になってた。
そして、高校生してるって思ってたら、いつの間にか25歳になっていた。
俺はこの歳になってようやく、時の流れが早いことに気がついた。
小学生の時は、明日が早く来ないかなとか、夏休みまだかなとか思ってたのに、今ではもう明日だ、夏休みなんてない、と思ぅようになった。
もし俺に子供が出来たら、
想い出は大切なんだ。
って教えたい。まぁ、彼女すらいないけど…笑
そんな俺にも、たくさんの想い出がある。
その想い出をどうやってしまっていくかが大切だ。
ちゃんとしまえてないと、覚えている想い出はほんのちょっとだけになってしまう。
俺は
ちゃんとしまえているようだ。
たくさんの想い出
闇夜に漂う泡沫は
過ぎし物事を孕みて浮かぶ
ヒト、それを「想い出」と呼ぶ
今日は数ヶ月ぶりに
言葉について考える仕事をした。
自分なりに考えてコメントをしたら
「さすが〇〇ちゃんだね」と先輩に褒められた。
大人になってからは、
他人から褒められることが少なくなったから
嬉しくて照れてしまった。
言葉を選び、伝える仕事をしたのは3年とちょっと。
いまだに文章を書くのは苦手だし、
文才も持ち合わせていないけれど、
毎日たくさんの人と話をして
「正確に、わかりやすく、伝えるにはどんな言葉を選んだら良いだろう」
と考える日々を過ごしていたように思う。
そんなたくさんの思い出と経験を
今の新しい仕事にもつなげていきたいなと
心を新たにした1日だった。
♯たくさんの思い出
私の父は、私が幼少期3歳くらいのときに交通事故で左半身麻痺になったけれど、私が幼稚園児で幼稚園の運動会で片手で、オンブと肩に乗って抱っこしてくれた。
絶叫マシン好きな私と父は、いろんな遊園地で一緒にジェットコースター2人でよく乗ったなぁ
私が持病の、てんかん発作で家で意識不明で倒れたら
温かい温もりを感じた。よく見たら父が私が座っていたイスから近くの大きなソファまで移動させてくれた。
父は、何時まで帰って来て。という、
制限時間無しで、毎日、帰りたい時間に帰って来て。と
母も許してくれた。
父はドライブも好きだったこともあり
よく2人でドライブに出掛けていた。
片手で料理もできて
父は憧れの存在だった。
退院してからも服を脱ぐのが難しく
父が事故で後遺症で片手だったこともあり、父が私に教えてくれたり、父の仕草を真似して出来た
ディズニーシーにあるマゼランズのディナーでも
父が食事マナーを教えてくれたり
数え切れないほどの想い出がある
これまで生きてきたなかでたくさんの思い出ができた。
話し始めたら止まらないくらい。
いい思い出もあれば、忘れたい嫌な思い出もある。
まだまだ始まったばかりの私の人生。
これからどんなことが私を待っているんだろう。
これからの人生が楽しみでしかたない。
今日、私たちはこの学舎を卒業する。
いじめたりいじめられたり。
怒ったり怒られたり。
笑わせたり笑ったり。
時にはみんなで先生に叱られたり。
幸せな思い出だけじゃないけど、それでもやっぱり。
「「「ぜっったい、また会おうね!!!」」」
全部全部、忘れられないたくさんの想い出。
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たくさんの想い出