『ずっと隣で』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『ずっと隣で』
「もうええわ! どうもありがとうございました」
まばらな拍手に追い立てられるように、舞台袖の狭い階段を下りる。
舞台を下りた俺と相方の間に会話はない。控室まで無言の時間が続く。
「あ、おつかれっす」
控室に戻ると、出番を待つ芸人の視線がパラパラとこちらに向く。後輩の形ばかりの挨拶に俺は「うっす」と軽く顎を引いた。
大部屋の芸人たちの中で、俺達はもう中堅近くの立ち位置となった。後輩でも、売れれば個室があてがわれていく。シビアな世界だ。
芸歴が長いからと言って、もれなく後輩たちから尊敬されるというわけでもない。面白いか、面白くないか。それは舞台上だけでなく、舞台を下りて、生身の人間としての生き方にも求められる。
つまり俺達は彼らにとって、舞台の上でも下でも面白くない先輩だということだ。
相方であるアツムとは大学で入った漫才サークルで出会った。
学年でいうと1つ下だったが、アツムは1浪していたため年は俺と同じで、なんだかんだとすぐに意気投合した。
アツムの考えたネタを初めて聞かせてもらった時、コイツは天才なんじゃないか俺は本気で思った。
漫才を見たり真似したりするのは好きで、漫才師として売れることを夢見る俺だったが、ネタ作りの方はからっきしだめだった。だからアツムにネタ作りに才能があると分かった時には、大きく胸が高鳴った。
「一緒にやらないか」
心の準備に数日を費やした俺は、一応の先輩としての、それに一友人としての見栄もプライドもすべて捨ててアツムにそう声をかけた。
しばらく沈黙があった後、考え込むように口を開いた。
「お前とまったく同じことを、ついこの間先輩にも言われたよ」
思ってもみなかった言葉に、俺は頭を殴られたような衝撃を受けた。
「……そっちと、組むのか?」
掠れた声で尋ねた。アツムの目は見られなかった。
「時間をくれ」
アツムはそう一言言い残してその場を立ち去ると、それからしばらくサークルに顔を出さなくなった。
そんなアツムが久しぶりに顔を見せたのは、アツムを相方に誘った日から1ヶ月ほどが過ぎた時だった。
「なぁ! ついに出来たぞ!」
アツムが脇目も振らず大声でそう言いながら、まっすぐに俺の元へやってくる。
「出来たって、何が!?」
「何がじゃないだろ? ネタだよネタ! 俺とお前がする初めての漫才のネタ!」
「な、それってつまり、俺と組むってことか?」
「何言ってんだよ今さら。この1ヶ月、何のために頭を捻りに捻ってネタを考えてきたと思ってんだ」
後から分かったことだが、あの時の「時間をくれ」というのは俺とコンビを組むかどうかを考えるためではなく、俺とやるネタを考えるための時間だったらしい。
「まあそんなことはどうでもいい。とりあえず早く読んで感想聞かせてくれ」
俺達コンビの初舞台は──大成功だった。
俺が左で、アツムが右。その方が何かしっくりくるからとアツムが言い、俺も同意した。
テンポよく進む会話に、あちこちから笑い声が上がった。終わった時の盛大な拍手と客席のざわめきは、今でも忘れられない。後にも先にも、あんなに興奮する舞台はなかった。
「俺達、これからもやってけるだろうか」
舞台から下り、興奮が少し落ち着いた時俺はぽつりと呟いた。
「やるに決まってんだろ。まだ始まったばかりじゃないか」
大学を卒業した俺は、バイトをしながら劇場で漫才をさせてもらう日々を続けた。そしえ、アツムも実家の農場を手伝いながら漫才に明け暮れた。
周りの就職していったやつらのことが気にならなかったと言ったら嘘になる。だがそれでも、夢を追いかけ続けることに大きな誇りを持っていた。
「いつか絶対売れてやろうな」
「ああ。漫才でてっぺんとろう」
何度そのやり取りをしただろうか。
だがいつからか、お互いにそう口に出すこともなくなった。
思うようにお客さんを笑わせられないし、場の空気が掴めない。そんなだから、ネタを作る方もいろんな方向に迷走した。
衝突するたびに「だったらお前がネタ書けよ」と言われると、それ以上何も言い返せなかった。
ただ、俺の中で、アツムのネタで売れたいという気持ちは揺るがなかった。舞台の上で、他の誰かの横に立っている自分が想像できなかった。俺の右側にはアツム以外考えられなかった。
そう思っているのは俺だけじゃないと思っていたのに。信じていたのに。──現実は違っていた。
劇場からの帰り道、突然のことだった。
「この辺で終わりにしないか」
「──え……」
「終わり」という言葉が頭の中で反芻する。
「もう潮時だと思うんだ。この辺で夢はきっぱり諦めて、実家に戻って農家にでもなろうと思う」
俺は言葉を失った。
正直、いつかそう言われる日が来るかもしれないと考えることはこれまでにもあった。ただ、その"いつか"が"今"だとは少しも想像していなかった。
重たい沈黙が、暗い夜道に更なる影を落とす。
そんな沈黙を破ったのはアツムだった。
「お前は、俺のネタじゃなくてもやってける。だから、他の──俺よりもっと面白いやつと組んだ方がいい」
「何言ってんだよ!」
考えるより先にそう言っていた。
「お前の他にいるわけないじゃないか! 俺の隣はこれまでも、これからも、お前しかいないんだよ!」
驚いたように口を開けてこっちを見るアツムの表情で気がついた。俺は泣いていた。そして、そのまま泣き叫ぶように続ける。
「ああいいよ! 分かったさ! お前が辞めるなら俺も辞めるよ!」
そう叫び残して俺は早足で歩き始める。そんな俺の背中に後ろから声が飛んでくる。
「お前には……お前には! 漫才でてっぺんとるって夢があるだろ!」
アツムがこっちに走り寄って、俺の肩を掴んだ。
「俺の分まで、その夢叶えてくれよ……」
アツムの声が滲む。
「俺の夢は、そんなんじゃない。お前がいない漫才なんて楽しくないし、お前が隣にいないなんて想像できないし、俺はアツムの隣でずっと漫才がしてたいんだよ!」
普段なら気恥ずかしく決して口に出せない言葉が、感情に任せて口から出た。
「──このままずっと売れなくてもか?」
俺の肩を掴むアツムの手に、さらに力がこもる。
「……いやまあ、そりゃ売れるに越したことはないけどもな」
俺がそう言うとアツムが笑った。そんなアツムを見て俺も吹き出した。
「俺達、まだやっていけると思うか」
ふと笑顔が消えたアツムがそう呟いた。
あの時──初舞台が終わった後、俺がアツムに聞いた言葉が重なる。
体中からかき集めたありったけの自信をこめて、俺は答える。
「やるに決まってんだろ。まだ終わってたまるもんか」
「やるからには絶対売れてやろうな」
「ああ。漫才でてっぺんとろう」
ずっとわかってた、辛い思いをする日がくることは。
目を当てないようにして逃げてた。
見たくない現実から目を逸らして、
大人になった振りをして、
自分を騙してたの。
あなたは大人な私が好きなんだと思ってたから。
でもあなたは、
俺と何年付き合ったって、お前は本心で話してくれないよなって悲しそうに言ったの。
甘えてるようで甘えてないし
頼ってるようで頼ってない。
何も本心で言ってくれてないだろって。
そんなこと、気づく人いたんだなって。
それを言われた時なんだか私の中で糸が切れたみたいに
溜まってたものが堰を切ったみたいに
涙になって溢れたの。
何だこの人私のことよく見てるんじゃん。って。
だから私も初めて素直になれたの。
ずっとおって。
離れないで。
わたしがもっと素直になれるまで。
もっと甘えられるようになるまで。
私の隣におって。って。
涙でぐしゃぐしゃの私の顔みて、
そんな急に子供みたいな顔しないでよって
あなたは困りながら笑ったの。
大丈夫だよ、おるからねって撫でてくれたあなたの手を私はきっとずっと忘れないよ。
だからずっとずっと私の頭を撫でて、
ずっと抱きしめて、
ずっとそばにいて。
見られてる。
今日はテレワークの日で
机にノートPC置いて
ひたすらカタカタカタカタ。
ちょっとコーヒーでも飲もうかしら、って
席を立とうと横を見たら
見てる!見てる!!
ジト目のねこが!!!
集中していたものだから、
あなた、いつ来たのか知らないけども。
そんな親の仇みたいに私のPC睨まないでよ。
私を睨んでって言ってる訳でもないのよ。
まあまあ、それでもとりあえず、
コーヒー入れて戻りましょうか。
椅子に座って、コーヒー隣に置い、置い、
ねこ!!!
あなた、ずっと隣にいる気なの!?
コーヒーぐらい置かせてよ。
なんか臭いお湯飲んでる、って顔、しないで。
そう、場所を譲る気、全くないのね。
わかった、わかった。反対側に置きましょう。
ひと息ついて、ふー。
さてさて、続きをやりますか。
はてさてやっとひと区切り。
あちこちバキバキいってるみたい。
眼鏡を置いて、肩をぐるぐる、顔をもみもみ。
ちょっとコーヒー、飲もうかな。
もふっ
あら、そうだ、コーヒーは反対側に置いたのだった。
まだ居たのね、あなた。飽きないの?
ずーっと睨んでいるけれど、
ずっと、隣にいてくれる。
ずっと、隣で見ていてくれる。
優しいね、いいこだね、
うんとうーんと長生きしてね。
これが終わったら
一緒におやつでも食べようか。
あら、もう行くの?
え、そっちって、あ。
今じゃないの!おやつは今じゃないのよ!!
ああ、2回も言っちゃった。
こういう時だけ速いんだから。
特別だよ、一つだけね。
そうしたらまた、私のお仕事、隣で見ててね。
もう!一つだけって言ったでしょ!
「ずっと隣で」
その身👉️身なり👈️で
面接にいくんじゃない
違うわ~ってかあε=(ノ・∀・)ツ
お題は👉️隣👈️じゃあ~ってかあε=(ノ・∀・)ツ
腕枕の中
ずっと隣で
あなたの寝顔を
見ていたいと
思っていた
甘い 時代…
ごめんなさい
今 もう無理…
窓ガラスが
ひび割れそうな
爆音の往復イビキは
拷問です…
強引に腕枕を外し
別室のベッドへ退避…
あ〜 極楽〜 …♡
腕枕 って肩凝るし
嫌いなの…
大の字に寝られるって
ホント 幸せ…♡
#ずっと隣で
もう疲れたから戻ってきたよ
身体的にだけどね。
独り言を聞いてくれるかい?
そろそろ環境が変わるからやることがいっぱいだ
それだからか風邪気味だけど
今休むわけにはいかないし、頼れる人もいないし
四面楚歌だ。
真面目すぎるだけかな…
これでも力を抜いてるんだけどな
力を抜いててもガス抜きをしなきゃ意味無いのか…?
疲れに敏感過ぎるのかな
やっぱり甘えてるだけかもしれない。
ごめんね。やっぱり疲れてなんてなかったよ
話を聞いてくれてありがとう
今日も書いてから行くよ
また聞いてほしい
【ずっと隣で】
君は優しいな。
僕がどれだけ言おうと一緒にいてくれる
そんな君に僕は救われてるよ
いつもありがとう。
この前、さりげなく悩みを話したら
君もさりげなく否定せずに応援してくれた
いつも何かと気遣ってもらってばかりいる。
寒かったら上着とか貸してくれる
僕は君に支えられてばかりいる
でも僕は君に何も返せない。
何も持ってない。
そんなことを思えば
何も返さなくていいと言わんばかりに
君は僕を支えてくれる
僕は君に甘えていいのだろうか。
君だって疲れてるじゃないか。
僕よりずっと頑張ってる
君は優しいな。
僕は隣にいてくれるだけで嬉しいのに
こんな僕は君を救えた時があっただろうか
いつもごめんね。
―――――――――ずっと隣にいるのに
ずっと隣で笑っていてくれたら
ただ、それだけで良かった。
他に何も望まない。
君が僕の全てだった。
不思議なもので
傍に置いておきたいと思えば思うほど
手の届かないところへ行ってしまう。
愛が重すぎる?
束縛しすぎ…?
よく言われる台詞
いつか、きっと、誰かと…
心から笑い合えたら。
僕の全てを君にあげたい。
考えていても解決策が見つからないこともあるでしょう。
それはあなたたちの内にあるのです
私たちの世界とつながることは少し難しいかもしれませんが、それは気にすることはありません。
実際、今の時点で私たちとのコンタクトは十分です。私たちが隣にいることを忘れないでください。その意識があれば、
私たちとのコンタクトは容易になるでしょう。私たちは遠くにいるのではなく、いつも隣にいます。
隣だけなんて足りない。
前後左右、あなたの四方が欲しい。
それから、あなたにとっての私の存在を、何にも変えられなくしてしまいたい。
じわじわっと膨らませて、戸惑うくらいの大きさにして。
…みたいな。
本音はさ。
私無しで生きるあなたを見たくないといいますか。
でもずっとなら、たぶん、少しでも十分なので。
片隅にでも、席を置いておいてほしいのです。
「ずっと隣で」
毎朝海に行く習慣なんて、作るつもりはなかった。
確かに何度見ても飽きない魅力が海にはあるが、じゃりじゃりと足にまとわりつく砂の不快さと磯臭さを考えたら度々訪れるような所じゃない。なのに、君が
『何か言った?』
ぼんやり波の動きを追っていた僕の顔を、彼は不思議そうに覗きこんだ。サンダルをはいた僕と違い、彼の白い裸足は砂まみれだ。
『なにも』
君がいつも隣にいるから。
僕はこの時間を止められない。
ずっと隣に
ずっと隣で
幽霊のいる部屋に引っ越してしまった。
部屋にいる間、姿の見えない霊がずっと隣にいて話しかけてくる。
他に何をしてくるわけでもないし話の内容もたわいない隣近所の噂話だから同居人のようなものだと考えることもできるが、なにしろひっきりなしで一人にさせてくれない。
仕事に集中したいから黙っていてくれと言うと意地になるのか余計に話しかけてくる。玄関やベランダに移動してもついてくるしヘッドホンで音楽を聴くとそれを貫通するほどの声量で話しかけてくる。風呂やトイレでも遠慮なしに耳元で喋っているのでやめろ出て行けと叫んだり暴れたりしたが通じない。
とにかく私の意識を自分に向けていたいらしい。
私が考えごとをしたり書き物を始めるとすかさず話しかけて介入してくる。
騒がしい実家を離れ、静かに趣味の小説を書きたくて部屋を借りたのにこれでは意味がない。
お札を貼ったりお経の音声を流したり十字架やニンニクを置いてみたりしたが一切効果がなく、どう頼んでも絶え間ない介入をやめてくれないので、私はやりたいことは外で済ませて睡眠と身支度のためだけに部屋を使うようになった。
小説も喫茶店などで書くが、家でネタを思いつくと少しメモしたり書いたりすることもある。
そういうときも幽霊はすかさず話しかけ、意識を自分に向けようとしてくる。
最近、幽霊はこちらの情報を探り出そうとしてくるようになった。
外で何をしているのか、仕事は、経歴は、家族は、交友関係は。
外にいるとき幽霊は現れないが、ある程度私の情報が集まったら幽霊は部屋ではなく私に憑いて私の行くところどこにでも現れるようになるのかもしれない。
幽霊はなんでも知りたがるが唯一私が書く空想の話にだけは興味がない。
書き物を遮って身の上を詮索されると、私が楽しんでいる空想の世界には価値が無いしどうでもいいから個人情報だけ渡せと言われているようで寂しくなる。
幽霊は私のことが好きなわけではなくて取り憑くための素体だと考えているのかもしれない。
爽やかで少し懐かしい香りがして 右隣を見ると
3年前、クラスメートだったあの人がいた。
私はそれに気づいたとき
脳がとろけるような 感覚に襲われた。
3年前、私はあの人に恋をしていた。
隣の席になったことは無いけど
前後の席になったことはあった。
班活動のとき 左隣の存在を感じるだけで
周りの視線と 緊張で しにそうになった。笑
3年前、私はあの人に恋をしていた。…今もそう。
あの頃の しにそうなドキドキとは違う
隣になることを 恐れていた
あの時の あの気持ちが 考えられなくなるくらい
今は 隣にあの人がいることが 幸せ。
ずっと隣で あの人の存在を感じていたい と思った。
…そこにクジラが現れて あたりは一面 海に
┈ドンドンドンドン
誰かが 階段を上る音に 気づいて 一気に現実に戻る。
私はすぐに 恋愛成就の音楽を止め 夢占いを調べる。
🔎幸せな感覚 リアル 好きな人 隣に座る 夢占い
近くの用水路沿いに植えられた寒緋桜が満開らしく、休みの日に二人で散歩。
ポカポカとした春の陽気、だが、吹く風は未だ凍えるような冷たさで、時折吹く強風に二人してワアワア言いながら目的地まで歩いていく。
すっきり爽やかな空の青と、艶やかな赤色の寒緋桜と桜らしい桜色の彼岸桜、まだまだ裸のソメイヨシノとヤマザクラ。
知る人ぞ知る、といった穴場のようで近所の年寄りだろうか、車通りの皆無な道端に家から運んできたであろう籐椅子に座って数人、のんびりとお茶会を開いていた。
風が吹く度、はらはらと舞う赤と桜色の花びらが用水路へと落ちていき、水路の水と一緒に流れていく。
きれいだね。
うっとりと桜を見上げている君が呟いた。
うん、そうだな。
同じように桜を見上げるフリをして、君の横顔を眺めていた。
テーマ「ずっと隣で」
これからもずっと隣で見てるよ
きみには聞こえないであろう声で呟いた
重くて痛くて辛くて苦しくて
でも抜け出せないんだろう
君の思考を読む力なんてないけどそれでもわかるよ
きっとそうだ
きみの表情はいつだって分かり易くて
その純粋な気持ちを伝えていたのだから
だからこそより深く傷ついた
ぼくの消えない傷口に一番沁みるひと言だった
きみの言葉はいつだって正しかった
正しすぎてとても痛かったんだ
きみだけは違うと思ったのに
淡い期待はいとも簡単に打ち砕かれた
澄んだきみの言葉は鋭い刃だった
きみには相手を傷つけるつもりなんてなかった
でも、受け取る側はそうとも限らなかった
ただ強く、裏切られたと感じた
普段どおり振る舞っていても実際は堪えていたのだろう
人を思いやるほどの余裕なんて疾うの昔に捨て去った
それどころではなかった、精一杯生きていたのだ
夢にまで見た友達という存在につい浮足立ってしまい、きみにフィルターをかけて見ていたぼくにも否はあったのだろう
勝手に期待する方が馬鹿なのだ
いつだって間違いだらけの人生だった
ここいらが潮時だった
それでも、ぼくだけの味方でいてほしかった
弱い人間には護ってくれるヒーローが必要なのだ
誰かにかばってほしかった、お前は悪くないと嘘でもいいから言ってほしかった
ぼくはただひたすら救いを求めていたのだ
誰でもいいから助けてほしかった
ぼくの報復は高が知れていた
君がくれた本をあいつは無理矢理奪おうとした
踊り場での攻防末に階段から突き落とした
抵抗しなければその立ち位置にはぼくがいたはずなので自業自得だろう
もっと酷い事を奴等からはされていたのだ
それでもきみはぼくを責めた
どんな相手でも人としてやってはいけないことをした
そんなものよりもっと大切なものがあるはずだと
ぼくがその宝をどれだけ心の支えにしていたのか知りもせずに
あの時感じた諦めと絶望を
きみは一生理解できないのだろう
最後にぼくの背中を押したのはきみだったんだから
きみ自身よくわかっているはずだ
この苦しみをきみに伝えるすべはないのだろう
だからきみに生涯抜けないようなとげを突き刺した
その痛みに悶え、苦しみ続けるがいい
「お前のせいだ」なんて見当違いも甚だしいけれど
仕方ないよな
赦してくれよ
きみが今度こそは間違えないように
ずっと見つめているから
ぼくを忘れないでくれ
ずっと隣で キミの話を聞いてたかった
でも、壊してしまったの
あれからもう3年
悔やむことは少なくなったけど
時々 すきまかぜが
わたしのなかを吹き抜けるの
妻が自宅で待っている。早く帰りたい。
「お若い頃は、何されてたんですか?」
「ずっと会社勤めのサラリーマンだよ。今もそうだ」
「そうですか。お食事はご自身で作られていますか?」
「妻がいるんだから、妻だよ。それはそうと、いつ帰れるんだ?」
「そうですね。身体の事もあるので、ご家族さんと相談してみないと…ですね」
ガラッと、真っ白な部屋のドアが横に開いた。
妻の顔だ。迎えに来てくれて良かった。
妻の名前を呼ぶ。
「何を言ってるのお父さん…お母さんは10年も前に亡くなってるでしょ。お父さんもうすぐ85になるのよ」
目の前の人間は誰だ…
…妻が自宅で待っている。早く帰りたい。
※題「ずっと隣で」
ずっと隣で見ていたかった君の横顔
今日は君の誕生日だね
毎年祝ってきたけれど今年はとうとう伝えることすらできないね
寂しい気持ちで押しつぶされそうな私をどうか見つけないで
私は今日どんな顔をして一日を乗り越えるだろう
飲みたい気分じゃないのにお酒空けて一人で晩酌
こんなに虚しくさせる君は本当に罪
話したい会いたい
いつまでそんな気持ちを引きずるのだろう
ずっとずっと隣にいたかった
君が好きだよ
助手席は私。
あなたの運転でドライブしたね。
もっとたくさん、温泉とか行きたかったな。
ずっとあなたの隣で、ナビしてたかったな。
自分を責めないで。
仕事明けで疲れてたのは知ってる。
私を家に送り届けるために、無理させちゃったんだね。
いつものあなたなら、あのトラックも避けられたよね。
知ってるよ。
どうしてかな。
ここから離れられない。
あなたの車の助手席から。
あの事故の日から、あなたは運転するのをやめてしまったから、私はずっと動かない車の助手席に座ったまま。
またあの頃のようにドライブしたいけど、きっとあなたは笑顔を見せてくれないよね。
ホントはね、私も免許持ってたんだ。
持ってないって嘘ついて、いつもあなたに運転させてた。
ごめんね。
ずっと助手席に座っていたかったから。
助手席から見るあなたの横顔が好きだったから。
あなたが連れて行ってくれる場所に、ずっとついていきたかったから。
いつか、この助手席に、私の知らない誰かが座る日が来たら、その時やっと、私はこの場所を離れられるのかも。
それを望んでるわけじゃない。
でも、もしそれで、あなたの笑顔が戻るのなら…。
あなたが愛したこの車に、あなたがまた乗ってくれるのなら…。
事故で大破したこの車を、たくさんのお金を使って元通りに修理したのは、それだけあなたがこの車を愛している証。
そう思っていたある日、突然あなたが運転席に乗り込んできて、車をスタートさせた。
思い詰めた顔。
その顔を見た時、あなたがこの車を修理した本当の理由が分かった気がした。
でも、私には何も出来ない。
二人の思い出の海へ。
崖下に海原が見える。
あなたは、車を止めて、泣いている。
そうか。
今のあなたの苦しみは、きっと想像を絶するもの。
私の両親は、きっとあなたを許さない。
助手席から手を伸ばしたけど、あなたには届かなかった。
これが本当の最後のドライブ。
あなたの想いを受け取って、私が消えてゆく。
ひとしきり泣いて、私にさよならを告げたあなた。
私はこれを待っていたのかもしれない。
あなたの決断と覚悟を。
強く生きて。闘って。
あなたの思うままに。
さようなら。
あなたの車の助手席で、いつも私は幸せでした。
ずっと隣で 20240314
ドアを開けて、右に曲がって5歩。隣の部屋。
それが俺とおめーの今の距離。
2年半なんてすぎちまえばあっという間で、明日俺たちは卒業する。
退寮のための片付けも佳境で、どんどん蓋をした段ボールがつみあがる。
おめーはもう片付け終わってるだろうな、最初の印象からは想像もできないくらいきちんとしたヤツだってもう知ってる。
なぁ、おめー今どんなこと考えてる?
ちっとは寂しいって思ってくれてんのかな。
おめーは卒業したら、すぐ活躍して沢山の人に囲まれるんだろうな。
その時隣にはどんな人がいるんだろう。
この日のことを考えて来なかったわけじゃない。
でも相手がいることだ、俺の気持ちだけでどうにかなんてできやしねぇ。そんな風に思って、ずっと逃げてたんだ、俺は。
どうして今まで何も伝えなかったんだろう。
後悔しない生き方すんじゃなかったのか?
おめーが隣にいない人生なんて、絶対嫌だ!
明日、式が終わったら伝えよう。
ずっとおめーの隣にいたいって。
鼻をすすりながら、目の前の荷物をまずはやっつけなくちゃなと、腕まくりした俺の部屋をノックする音がコンコンと鳴り響いた。
『ずっと隣で』
「君が大好きなんだ。たまらなく」
「ずっと一緒に生きていこう」
「男の子と女の子、君と僕の4人で暮らそう」
「おじいちゃんおばあちゃんになっても一緒にいよう。死ぬまでずっと隣でいよう」
最初は口だけだと思っていた言葉たち。
今思い返すと、全てが現実になっていた。
あなた。今日まで本当にありがとうございました。
私はとっても幸せです。
少し時間がかかるかもしれないけれど、
少しの間だけ、そちらで待っていてください。
そちらでまたお会いしましたら、ずっと隣でいましょうね。
______やまとゆう