Ryu

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助手席は私。
あなたの運転でドライブしたね。
もっとたくさん、温泉とか行きたかったな。
ずっとあなたの隣で、ナビしてたかったな。

自分を責めないで。
仕事明けで疲れてたのは知ってる。
私を家に送り届けるために、無理させちゃったんだね。
いつものあなたなら、あのトラックも避けられたよね。
知ってるよ。

どうしてかな。
ここから離れられない。
あなたの車の助手席から。
あの事故の日から、あなたは運転するのをやめてしまったから、私はずっと動かない車の助手席に座ったまま。
またあの頃のようにドライブしたいけど、きっとあなたは笑顔を見せてくれないよね。

ホントはね、私も免許持ってたんだ。
持ってないって嘘ついて、いつもあなたに運転させてた。
ごめんね。
ずっと助手席に座っていたかったから。
助手席から見るあなたの横顔が好きだったから。
あなたが連れて行ってくれる場所に、ずっとついていきたかったから。

いつか、この助手席に、私の知らない誰かが座る日が来たら、その時やっと、私はこの場所を離れられるのかも。
それを望んでるわけじゃない。
でも、もしそれで、あなたの笑顔が戻るのなら…。
あなたが愛したこの車に、あなたがまた乗ってくれるのなら…。

事故で大破したこの車を、たくさんのお金を使って元通りに修理したのは、それだけあなたがこの車を愛している証。
そう思っていたある日、突然あなたが運転席に乗り込んできて、車をスタートさせた。
思い詰めた顔。
その顔を見た時、あなたがこの車を修理した本当の理由が分かった気がした。
でも、私には何も出来ない。

二人の思い出の海へ。
崖下に海原が見える。
あなたは、車を止めて、泣いている。
そうか。
今のあなたの苦しみは、きっと想像を絶するもの。
私の両親は、きっとあなたを許さない。
助手席から手を伸ばしたけど、あなたには届かなかった。

これが本当の最後のドライブ。
あなたの想いを受け取って、私が消えてゆく。
ひとしきり泣いて、私にさよならを告げたあなた。
私はこれを待っていたのかもしれない。
あなたの決断と覚悟を。
強く生きて。闘って。
あなたの思うままに。

さようなら。
あなたの車の助手席で、いつも私は幸せでした。

3/13/2024, 5:00:24 PM