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ずっと隣で


幽霊のいる部屋に引っ越してしまった。
部屋にいる間、姿の見えない霊がずっと隣にいて話しかけてくる。
他に何をしてくるわけでもないし話の内容もたわいない隣近所の噂話だから同居人のようなものだと考えることもできるが、なにしろひっきりなしで一人にさせてくれない。
仕事に集中したいから黙っていてくれと言うと意地になるのか余計に話しかけてくる。玄関やベランダに移動してもついてくるしヘッドホンで音楽を聴くとそれを貫通するほどの声量で話しかけてくる。風呂やトイレでも遠慮なしに耳元で喋っているのでやめろ出て行けと叫んだり暴れたりしたが通じない。
とにかく私の意識を自分に向けていたいらしい。
私が考えごとをしたり書き物を始めるとすかさず話しかけて介入してくる。
騒がしい実家を離れ、静かに趣味の小説を書きたくて部屋を借りたのにこれでは意味がない。

お札を貼ったりお経の音声を流したり十字架やニンニクを置いてみたりしたが一切効果がなく、どう頼んでも絶え間ない介入をやめてくれないので、私はやりたいことは外で済ませて睡眠と身支度のためだけに部屋を使うようになった。
小説も喫茶店などで書くが、家でネタを思いつくと少しメモしたり書いたりすることもある。
そういうときも幽霊はすかさず話しかけ、意識を自分に向けようとしてくる。
最近、幽霊はこちらの情報を探り出そうとしてくるようになった。
外で何をしているのか、仕事は、経歴は、家族は、交友関係は。
外にいるとき幽霊は現れないが、ある程度私の情報が集まったら幽霊は部屋ではなく私に憑いて私の行くところどこにでも現れるようになるのかもしれない。
幽霊はなんでも知りたがるが唯一私が書く空想の話にだけは興味がない。
書き物を遮って身の上を詮索されると、私が楽しんでいる空想の世界には価値が無いしどうでもいいから個人情報だけ渡せと言われているようで寂しくなる。
幽霊は私のことが好きなわけではなくて取り憑くための素体だと考えているのかもしれない。

3/13/2024, 5:34:00 PM