『Kiss』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
あれから数日が過ぎた。
燈里《あかり》も睦月《むつき》も、あれきり方相氏に関しての夢を見てはいない。数日程は誰もが落ち着かずどこか張りつめた空気が流れていたが、穏やかな日々にようやく以前の日常を取り戻し始めていた。
「結局、あれは何だったんだろう?」
台所で拭いた食器を棚に戻しながら、睦月はぽつりと呟いた。
皿を洗っていた燈里はその疑問に手を止める。詳しく話さずとも、睦月が何を疑問に思っているのかはすぐに理解できた。
「合っているかは分からないけれど」
そう前置きをして、燈里は何かを思い出すように宙を見つめる。僅かに眉を顰め、静かに語り出した。
「冬玄《かずとら》のことについて、前に話したことを覚えてる?」
「トウゲン様っていう、守り神だったって話?覚えているし、村にいた時から夢で燈里ねぇのことを見たから分かるよ」
神さまらしくはないけれど。そう心の中で付け足した睦月の思考を察して、燈里は思わず苦笑しながら話を続けた。
「前にね、私のことで冬玄が堕ちかけたことがあるの。今はもう大丈夫だと思うけどその時の何かが彼に残っていて、それを方相氏たちが感じ取ったのかもしれない」
「つまり、方相氏がおじさんを鬼だって勘違いしたってこと?それで勘違いだって気づいたから、もう夢に出なくなったのかな?」
「おそらくはね」
首を傾げる睦月に、燈里は僅かに目を細めた。
方相氏がこの先、燈里たちの元へ訪れることはないだろう。方相氏たちの言動から燈里はそう考えている。
だが睦月に対して、もう大丈夫の一言が告げられなかった。
不安という形にならない程度の、微かな違和感が燈里の中から消えてなくならない。方相氏はもう現れないと口にしても、続く言葉はかもしれないという曖昧な言葉だ。
無意識に右手の薬指に触れる。硬く滑らかな感覚に縋るように、指ごと指輪を握り込んだ。
「あの子たちはきっと長い間、厄を鬼ごと村の外に追い出して封じ込めていた。それが何か理由があって、封じていた鬼が外へと出てしまったから追いかけているんだと思う……そしてその鬼は、元々村の守り神として祀られていた」
「何があったんだろう?外に出ちゃった原因もそうだけど、何があって神さまが鬼になっちゃったのかな?」
「何でだろうね。神様にとって堕ちるほど強い何かがあったのは確かだと思うけど」
小さく息を吐いて、燈里は後片付けを再開する。それを見て睦月も拭き終わった皿を手に、片付け始めた。
「燈里。ちょっといいか」
片付けが終わり、燈里と睦月が台所を出ようとしたタイミングで、冬玄《かずとら》が声をかけた。
「どうしたの?」
何かを悩んでいるような冬玄の様子に、燈里は訳もなく不安を覚える。それを感じ取り、冬玄は燈里の頭を撫で、安心させるように微笑んだ。
「これから仕事だろう?帰る時に迎えに行ってもいいか、聞こうと思ってな」
「え?」
冬玄の言葉に目を丸くし驚いたような声を上げたのは睦月だった。燈里は何度か目を瞬き、何も言わずに俯く。その耳がじわじわと赤くなっていくのに睦月は意地悪く笑い揶揄おうと口を開きかけるが、その前に冬玄は話を続けた。
「編集長っていう奴に会いたいんだ」
「は?」
睦月の笑みが、一瞬で訝しげなものに変わる。顔を上げた燈里の横顔に翳りが見え、眉を寄せて一歩前に出る。
睦月の行動に今度は冬玄が眉を顰めた。だが燈里の表情に、自身の言葉の足りなさに気づき焦りを浮かべながら首を振る。
「別にやましいことじゃないんだ。ただ少し確認したいことがあってだな……」
「燈里が気落ちしているのはそこじゃないよ。馬鹿」
不意に冬玄の後ろから声がした。後ろで様子を伺っていた楓《かえで》が、我慢できずに呆れながら冬玄の背を叩く。
「痛っ」
「本当にどうしようもないな……燈里。悪いんだけど、こいつに繋ぎを取ってくれないかい?たしか、南方《みなかた》とかいったっけ」
「いいけど……どうして?」
両手を握りしめ、不安げな表情をする燈里に、楓は肩を竦めてみせる。冬玄を一瞥し、小さく息を吐きながら答えた。
「前から同族の気配を感じていたらしい。馬鹿なことは起きないし、なんだったら監視をするから頼まれてくれる?」
同族、ということは、南方も人ではないということだ。
驚くと同時に、彼女の纏う不思議な空気の意味を理解した。
何故今になって冬玄が南方に会いたいのかは分からない。何を話すのか、彼女と会ったことでこの関係は変わってしまうのか。
分からないこと、不安なことだらけだ。
「無理にとは言わない。俺も方相氏の件がなかったら会うつもりもなかった」
「方相氏が追っているのが、南方編集長だってこと?」
普段の南方を思い浮かべ、燈里は困惑する。
色々と気にかけてくれる彼女が、厄を振り撒く鬼だとは思えなかった。
疑問を口にすれば、冬玄は違うと首を振る。一瞬言葉にするのを躊躇う素振りをみせ、ゆっくりと口を開いた。
「堕ちた気配は感じない。それにあれが堕ちるはずもない」
「冬玄?」
「南方という奴の気配は俺と同じだ。同じでありながら、正反対の質を持つあれは……南方は、シキの南だろう」
冬玄の言葉に、燈里は息を呑んだ。
シキ。それは冬玄が宮代の守り神となる前の、とある村での呼び名だった。社の東西南北に飾られた翁の面。年に一度行われる、祭りの形をした人身御供を、燈里は忘れられない。
「村が絶え、俺以外のシキは消えたのだと思っていたが別の場所で祀り直されたのだろうな。そして南がいるとなると、東西の面も在るはずだ」
「東西の、面……」
「方相氏から僅かだか馴染みのある気配を感じた。気のせいだと思っているが、どうしても違和感が拭えない。それを確かめるために、南に話を聞きたいんだ」
真剣な眼差しに、燈里は何も言えなかった。
冬玄は何も言わないが、東西の面のどちらかが堕ちたのだと思っているのだろう。その真偽を確かめ、どちらかの面が堕ちたと知った後はどうするのか。
込み上げる不安を鎮めるように、指輪に触れる燈里の肩を、冬玄は何も言わずに抱き寄せる。目を合わせて、真摯に告げる。
「話を聞くだけだ。堕ちて鬼になった面に、接触しようとは思わない。ただ燈里にとって危険かどうかを判断したいんだ」
燈里を守るため。宮代の守り神としてではなく、燈里の婚約者としての言葉に、燈里は頬を染め俯いた。
冬玄は柔らかく微笑み、燈里の額に口付ける。突然のことに燈里は驚いて顔を上げた。
「そんなに時間をかけるつもりもない。すぐに終わらせるから、一緒に帰ろう」
囁いて燈里の右手を取り、今度は薬指の指輪に口付ける。
声にならない悲鳴を上げて固まってしまった燈里に、今まで様子を見ていた楓が睦月の目を塞ぎながら呆れたように溜息を吐いた。
「そういう所だけ大胆なのはなんなんだろうね」
「楓ねぇ。いいとこなのに、隠さないでよ」
「子供にはまだ早い。というか、燈里が見られたことを知ったら泣くだろうから我慢しなさい」
燈里のためだと言われ、睦月は膨れながらも大人しくなる。
素直な睦月にいい子と呟いて、楓は動かない二人に視線を向ける。
愛しげに目を細めて燈里を見つめる冬玄に、疲れたような溜息がまた溢れ落ちた。
楽しげな子供たちの声が近づいてくる。
また泥だらけになって帰ってきたのだろうか。そんなことを思いながら、出迎えるために玄関へと向かう。
扉が開き、笑い声が玄関に響く。眩いばかりの笑顔を浮かべた子供たちが飛び込んでくる。
小さな泥だらけの体を抱き留めながら、子供たちに続いて入ってきた東に視線を向けた。
子供たちに負けず劣らず、その体は泥だらけだ。楽しげな笑みを浮かべているが、すぐに焦り泣きそうな顔に変わるのだろう。
あと何度、西の説教を受ければ落ち着くのだろうか。次第に強張っていく東の顔を見ながら思う。
変わらないのかもしれない。だが、それも悪いことではないのだろう。
子供たちが喜んでくれる。神を見て声を聞く子供たちが喜んでくれるのならば、全ては些事でしかない。
東も西も、それは強く思っているのだろう。特に西は表にこそ出さないが、子供たちを誰よりも大切に思っているのだろうから。
左右の頬にそれぞれ子供たちの口付けを受けながら、東西の強い視線を感じ、堪えきれずに声を上げ笑った。
ノックの音に、ぼんやりと過去に浸っていた南方夏煉《かれん》は扉に視線を向けた。
「入っていいぞ」
告げればゆっくりと扉が開き、冬玄が静かに入ってくる。懐かしい同胞の姿に、夏煉は目を細めて笑った。
「久しぶりだな、北。元気そうで何よりだ」
「前振りはいい。お前も、回りくどいのは嫌いだろう」
夏煉とは対照的に、冬玄は表情なく告げる。燈里には決して見せない態度に、だが夏煉は気にする様子もない。
「そうだな。宮代を待たせては可哀想だ……聞きたいのは、子供たちが追う鬼のことだろう?どこまで話せばいいだろうか」
「鬼がどちらか。そして燈里に害はあるのか。それだけでいい」
「そうか。けどある程度は話しておこうか。宮代はきっと気にする」
そう言って、夏煉はどこか悲しい目をして語り出した。
20260204 『Kiss』
「キス」
今日初めてこのアプリを使いますが、初回のテーマがこれだと困っちゃいますね。縁のない話なので。バレンタインデーが近づいてきてるからなのでしょうか。恋愛番組やカップルを街中や学校で多く見る僕は別に彼女が欲しいなんて思わないのですが、寄り添ってくれる人がいてくれたらいいなと思います。
僕はアホなもんで勘違いをよくするんですね。よくSNSでこんなの見かけますよね。「こいつもしかして俺のこと好きなんじゃねえか?」と見てるだけなら「勘違いイタいなぁ」と思うのですが、ふとした時にこれ自分のことだなと気づくのですね。自分で言うのもなんですが絶賛学生の僕はコミュニュケーション能力が高い方ではあり、気軽に女性の方とお話はできます。メールのやり取りもできるのですがよく勘違いをして変な行動をするのが悪い癖ですね。何を言ってるのでしょうかね自分は。全くアホだなぁ笑。
モテたいかモテたくないかでいうとモテたいです。チヤホヤされるの気持ちいじゃないですか。モテるための秘訣は清潔感だったり、服がダサくなかったりとよく見かけますが、そんなことないですよね。正直言って髪とかがサラサラでオシャレな格好をしているブサイクと髪がグチャグチャで普段着が仮面ライダーのパジャマのようなイケメン。両者を街中で見かけたとき、私が女性だったら必然的にイケメンに目が行きます。仮面ライダーを着ているからかもしれませんね笑。別に仮面ライダーを卑下してるわけじゃなくて。世の中正直顔なんだなって思うことは学校行っててよくあります。中学生カップルや高校生カップル増えてきてますよね。あんな可愛い子があんな性格悪い奴と付き合ってると思うと、「悪いことは言わない。俺にしとけよ」と心の中で思うのですが、これを思ってる時点で最悪だなと思います。世の中いろんな人がいるなと思います。TikTok で踊ってる女だけが全てじゃないと思います。男性諸君、「鼻を伸ばせる女はいくらでも現れますが、疲れた羽を大きく伸ばせたのはあなたの前だけ」とMOROHAのアフロさんが書いていたように、僕らそんな人生を生きて生きていきたいですね。エレファントカシマシやMOROHAいろんな音楽を聴く僕にモテ期が来るべきだと思いますが、一向に来ません。年に台風は何十回もきますが、モテ期は人生で3回しかこないらしいですね。キムタクのモテ期とは何なのかについては不明です。まあこんなくだらないこと書いてもしょうがないですね。
そろそろ終わりにしますか。初めて書いたのにこんなのも書きましたか。書くのは好きなので。
もしこのありふれた学生の平凡な日常の悲喜を語った文章に興味を持ってくれた方はぜひ仲良くしてくださいね。
「しがん」がニックネームです。
明日も何とか頑張れるように頑張ろう。それではまた明日。
2026/02/05 -しがん-
2/「Kiss」8
後ほど書きます✎𓂃𓈒𓂂𓏸
潔癖な部分ひた隠して
世のまねごと興じてしまった
結果相手を傷つけて
ひとと居ることおそろしくなった
ひたすらに願う
血を流しませんよう 健康な肌
深く爪を切る 落ち度のありませんよう
無償 純真を求め
なにも知らない幼子として
頬や額 手の甲だけに受けたく
おしえて
情は欲に数えるべきか
【Kiss】
びーえる要素ありありで。
「よーい、はいスタート!」
そんな合図で始まるキス。
なんて事はない今流行りのボーイズラブという男同士で恋しちゃう系ドラマの撮影。
それで俺はそんな合図と共に目の前の運命の相手とキスをする。
熱い視線で見つめ合って甘く激しく求め合う。
アイツに優しく頬を撫でられ激しくくちびるを吸われそれから首筋に降りてきたてのひらに軽く首を掴まれ上を向かされる。
コイツ人の首を触るの好きだよなーとか思いながらそのまま降りてきたくちびるに喉元を軽く噛まれる。
跡が残ったらどうすんだよ、とか思うけど撮影が止まらない限り抗議もできない。
うっすらと目を開けて覗き見ると熱い視線とぶつかった。
欲情してるような熱視線。
直視出来なくてのけ反る素振りを見せる。
その瞬間、腰を掴まれ捕えられた。
重なった部分が熱い。
少しでも逃げる素振りを見せれば追いかけて離さない。
本気で愛されてるようだ。
そう、錯覚に陥りそう。
甘く甘く惚けるその感情にかぶりを振って堕ちていきそうな思いを振り切る。
こんなに求められるのは演技なのだから。
それ以上でもそれ以下でもない。
心では否定しながらも身体は熱く応える。
腕を伸ばしてアイツの首に絡めて引き寄せる。
さらに一層息も出来ないぐらいの長い長い口付けをされながら。
本当にこれが恋ならいいのに。
コイツが本当に俺の事を好きになってくれたらいいのにと願った。
そんな事1ミリもあるはずが無いのに。
絡まる視線は演技でしかあり得ないのに。
なのに何でこんなに全身で求められてる気がするんだ。
遠くでカットの声が聞こえる。
名残惜しく離れていく身体。
まだ触れていたい。
お互いにそんな気がした。
そんな気がしただけだ。
(Kiss)
『Kiss』
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いつもありがとうございます。
下書きのみですが、息抜きとして久々に。
以下は彼女ちゃん視点ですが、ここから突貫工事して彼氏くん視点に切り替えて書き書きしていますw
前振りも長いから多分それもゴリゴリ削って、文字数ダイエットもさせます。
とんでもない二度手間😂
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嶺姫(れいじ)くんが私を強引に組み敷いたせいで、ギィとソファのスプリングが音を立てた。
普段は落ち着きのある切れ長の黒い目が、今は楽しげに光っている。
「期待してたクセに、逃げないでください」
「ちがっ!?」
私は、言われた通りにしただけだ。
……と、思う。
歯切れが悪くなってしまうのは、嶺姫くんに見惚れてしまったことは事実だからだ。
*
ことの発端は去年の暮れ。
同棲を始めてからというものの、基本的に嶺姫くんはずっと私を気にして気を張っていた。
少しずつその緊張感は緩んではいたけれど、せいぜい、朝寝を坊したり、着古したスウェットを着たり、無精髭を生やしたまま部屋の中をうろつく程度。
作業部屋として小さな個室を用意しているのに、嶺姫くんは時々、リビングで作業をすることがあった。
こういうとき、彼は寝ずに作業を進めていたが、その日は珍しく毛布もかけずにソファで横になっている。
どうせ眠るならベッドに行って暖かくして寝てほしいと思うものの、疲弊した嶺姫くんの寝顔を見てしまえば起こしてしまうのも忍びなかった。
私はベッドから毛布を持ってきて、彼にかける。
深く眠っている彼の少しクセのある髪の毛を撫でたあと、私は身支度を整えるためにリビングを出た。
その日、仕事から帰宅した私を出迎えたとき、いつもより少しかしこまった態度と、強張った声音で嶺姫くんは前置きをする。
「……あの、ひとつお願いをしてもいいですか?」
「なに?」
嶺姫くんの態度にかまわず、私は要件を求めた。
彼の基準はいまいちよくわからないが、こういうときは大抵、おつかいやお散歩とかお手軽な要求である。
その殊勝な態度はもう少し時と場合を選ぶべきだと再三、伝えてきたつもりだが、彼が改めてくれる気配はなかった。
「俺が眼鏡をかけたまま寝落ちていたら、眼鏡を外してくれませんか?」
ほら。当たり。
予想通り、彼のささやかな要望に少し得意になる。
ムチャな要求は悪びれることなく押し通すのに、こういう些細なことには神経質なくらい気を使われていた。
「いいよ」
「ありがとうございます」
彼の中での線引きがいまいち把握できないが、嶺姫くんは安堵して肩を撫でおろす。
それでいて本当にうれしそうにして柔らかく微笑む姿に、胸の奥がこそばゆくなり嶺姫くんから顔を逸らした。
「寝方が悪いとたまにレンズが傷ついたり、フレーム曲がったりするんですよね」
「え」
ため息混じりに独りごちる嶺姫くんの言葉に、顔を上げる。
そうなんだ?
常時、眼鏡をしていないと生活ができない嶺姫くんにとって、それは死活問題だ。
「わかった」
「俺もできるだけ寝落ちないように気をつけます」
「それはそう。睡眠時間はきちんとベッドで確保して」
嶺姫くんの生活習慣は決して褒められたものではない。
いい機会だから気をつけるように伝えるが、彼の凛々しい眉毛がどんどん困ったように下がっていった。
あ、あれ?
もしかして、嶺姫くんが改まっていたのって私が説教くさくなるから?
少し不安になりつつも、彼の健康のためだと言い聞かせた。
*
そんなやりとりをした矢先、嶺姫くんは眼鏡をかけたままソファで眠っていた。
今回は寝落ちることがわかっていたのか、お腹にブランケットをかけている。
でも、嶺姫くんは背が高いから、ブランケットから足がはみ出していた。
そこまでわかっているのなら、横着していないできちんと毛布を被って暖かくしてほしい。
「んもーっ!」
嶺姫くんだって寒がりなのにっ。
私は急いでベッドから毛布をはぎ取ったあと、嶺姫くんのお腹に乗っているブランケットの上から毛布をかけた。
で、眼鏡を外せばいいんだっけ。
嶺姫くんの前に座り、眼鏡に手を伸ばそうとしたときだ。
突然、彼の寝息が乱れて居心地悪そうに体を捩らせる。
「んん……っ」
「わっ!?」
お、起こしちゃったかな?
慌てて伸ばしかけた手を引っ込めて、彼の様子を窺った。
私の心配は杞憂に終わり、嶺姫くんの寝息はすぐに規則正しくなる。
ホッとして再び眼鏡に触れようとしたら、嶺姫くんの耳元に指が触れてしまったせいか、ビクリと彼の方が震えた。
……どうしよう。
起こしてしまったらという申しわけなさと、眠っている彼に触れている後ろめたさに、指先が強張っていく。
扱い慣れていない眼鏡に触れるという行為は、だんだんと私に緊張感を伴わせた。
チラッと、眠る嶺姫くんに目を向ける。
相変わらず、目元周りは疲れが溜まっていることが見てとれた。
緩やかに下がっている眉と小さく開いている口元のせいなのか。
いつもより幼く見える寝顔に、つい見惚れてしまった。
目鼻立ちはいいし、男の人にしては睫毛は長いと思うし、唇も手入れされている、と思う。
……きれいな顔。
嶺姫くんが楽しそうに私の顔を見ているのはこんな気分なのかもしれない。
そう思ったところで我にかえり、ソファの隅っこに顔を埋めた。
私も、嶺姫くんのこと言えないかも。
気を取り直すために顔を上げて息を吐く。
彼の肌にはなるべく触れないようにしながら、眼鏡のつるに手を伸ばした。
その瞬間、急に手首を引っ張られて嶺姫くんとの距離が埋まる。
「え!?」
前触れもなく訪れた深い口づけに、呼吸はすぐにままならなくなった。
「ん、んんっ」
手首を拘束されたままではあったが、指先でなんとか抵抗をする。
強引な口づけとは対象的に、優しく唇を啄む切り上げ方にギュウッと胸が締めつけられた。
「なに? そのかわいいお誘い」
「お、さっ!? なんっ!? だっ!?」
言いがかりも甚だしくて、言葉が出てこない。
そんなつもりは毛頭なかった。
私はただ、嶺姫くんの言われた通りに眼鏡を外そうとしただけである。
「れ、れーじくんが言ったんじゃん……」
「俺が? キスしたいときは遠慮なく眼鏡を外せって?」
「違うっ!」
都合よく変換される嶺姫くんの言葉に怒りのボルテージが上がった。
「寝てたら眼鏡を外せって言ったの! とりあえず、手、離してっ!」
「え?」
首を傾げながら、手首を握る手に力を込める。
「なら、あと1回」
逃す気のない嶺姫くんの行動に、キュッと喉が締まった。
狼狽える私に、彼はスリッと頬を寄せる。
「ちょ……っ」
「おかえりなさいのチューしましょう?」
こういうときばかり口元を柔らかく緩ませて、漣のような声音を甘く響かせるのはずるい。
私が断れないことを知っていて、いつも強引に迫るのが彼の手口だ。
1回だけですませる気なんてないクセにっ。
悪態をついたところで、彼の誘惑には抗えない。
観念した私は目を伏せて、嶺姫くんに身を委ねた。
ただ、愛おしいだけだったの。
もっとあなたに溺れてみたかった。
ダメだとわかっているのに、
近づいたと思ったら、口を結んで目を逸らすあなたの
目線の意図を知りたくて、もっと溶け合いたいと思って。
唇がふれそうなとき、あなたのスマホの着信がそれをさまたげた。
ああ、また貴方は行ってしまうんだね。
電話ごしに聞こえる、男の声に少し嫉妬した
30「kiss」
『Kiss』
君の目が覚めないと知って
“眠れる美女の呪いは
王子様のキスで解ける”
今はそんな単純な物語にさえ縋ってしまう
周りから笑われたっていい
君が起きる希望があるならば
ねえ、僕の隣で笑っていてよ
ベッドの枕元に置かれたぬいぐるみ、その手のひらサイズのゴリラは、一枚のカードを抱えていて。
カードに書かれていたのは、"『Kiss』me "という命令──俺はその指示に従って、ゴリラに口づけをする。
ぶー、とむくれ顔の、彼女のすぐ目の前で。
◇
「もう! そんな説明いらないって、さっきからわたし、そう言ってるのに!」
「いや、でも俺は、」
「っ、もういい! どうせ言ったってわかんない、なら、もうしゃべんない!」
俺の仕事のせいで、旅行がキャンセルになってしまって悪かった、それを謝りたかっただけなのだ。
今回の件は全面的に俺が悪い、彼女が怒るのも当然で、だからこそ、ちゃんと理由を説明した方が、納得してもらえると思ったんだけれど。
なにか、言い方が悪かったらしい……でも、なにが、どこが?
俺は、どうしたらいいんだ?
「……ごめん、わかんなくて。でも、じゃあ……どうしたらいい?」
「そんなの、自分で考えてください」
「本当にわかんないんだ、だから言われた通りにする、なんでも言うこと聞くから」
「っっっ、そーゆーのも、ヤなの! 口聞かない、いまからね!」
そして彼女は本当に、まったく口をきいてくれなくなり……それで少しだけ冷静になった俺は一度出掛けて行って、彼女が好きだと言っていたドーナッツを買って帰った。
まだソファに膝を抱えて座っていた彼女の前、ローテーブルに買ってきたそれらを並べ、コーヒーを淹れ。
それでも彼女は口を尖らせたままで、けれど並べたうちからいくつかを選んで、黙ってそれを平らげた。
よし……とりあえず、俺が横でコーヒーを飲んでいても大丈夫そうだ。
俺も黙ったままコーヒーを飲み、彼女が選んだのと同じドーナッツに手を伸ばしてみる。が、彼女はなにも言わない。
やがて彼女はコーヒーを飲み終わって立ち上がり、ベッドルームへと歩いてゆき。
俺はローテーブルの上を片付けてからそれを追い、すると──例の、"Kiss me "と書かれたカードを持った、ゴリラがいたのだ。
◇
シングルベッドに寝そべる彼女の、枕元に鎮座するぬいぐるみのゴリラの唇に、俺はそっとキスをする。
正直、少し迷った。
どっちにキスするのが正解なんだ? って。
しかし「なんでも言うこと聞く」と彼女に言ったからには、命令には忠実であるべきだ──というか、少しはウケてくれるかもしれない、だから彼女じゃなくて、ゴリラを選んだのだけれど。
「……あんなふうに、説明なんか、されたら……さぁ? まるで、仕事に理解のないオンナだって、言われてるみたい、じゃない……」
やっと……口を開いてくれた。
つまり。ゴリラを選んだのは、正解だった?
「そんなつもりじゃなかったんだ」
「それもわかってる、でもね、こうやって会うのだって久々なのに、さ? なんだかなぁ、って思っちゃった」
彼女が、ゴリラからカードを取り上げ。
ベッドの脇で膝立ちになっている俺を、じいっ、と見つめてくる。
「なんでも言うこと聞く、ってのにも、なんかムカついたんだよねー。大体、こんなカードがないとダメなの? わたしは、この子の後なの?」
っ、しまった。
しっかり、不正解だった。
まぁ、でも。
もらった命令はちゃんと、実行に移さなきゃ……だよ、な?
『kiss』
あの日の貴方の横顔は、酷く静謐でした。
リビングの2人掛けソファに座った貴方は、机に置いている百合の花弁のようなランプをぼんやりと付けて、ただぼおっとしていました。
あの時の私達の間には、心地よいと言うには些か冷たい空気が流れていました。
だって、私達は他人よりは少し近いだけの、恋人でもなんでもなかったのですから。
貴方の目は、ランプの光を反射して明るく輝いているのに、どこか虚ろでした。
客人である私がいるのに、貴方の心は肉体とは違うところに在るようでした。
高い鼻梁、シャープな顎。
長くけぶるまつ毛に薄く上品な唇、熱のない瞳。
私など忘れているかのような気のなさ。
ふと、貴方のその美しい唇に接吻をしてみたくなりました。
貴方が好きとかそういうのではなくて、ただ、貴方のその美術品のような横顔の均整を崩せるかなと興味が湧いたのです。
でも、結局止めました。
貴方は私からの行動に動揺するほど、私に心を預けているわけでも、逆に全くの無関心でも無かったからです。
「……帰るね。」
私は貴方の蕾のような唇に重ねようとしていた自らの口をモゴモゴと動かして、暇乞いをしました。
言葉と共に出ていく空気が唇を掠める度に、どうして接吻なんてしようと思ったのか、と後悔が私の胸をさらっていきました。
それが、貴方との最期の、つまらない邂逅でした。
次に貴方と会った時には、貴方は白い箱の中に詰められていました。
その時に初めてまじまじと、貴方の顔を正面から見た気がしました。
綺麗な顔。
不謹慎にも思わず見とれてしまうほどの美貌が、花に囲まれて永遠の眠りについていました。
貴方の作り物めいた白い顔には化粧が施されていて、私があの日見つめた唇には紅がさされていました。
(ああ、この人は死んでしまったのだ。)
生前よりも紅いその唇を見た時、私はそう自覚したのです。
ええそう。自覚して、しまいました。
「……あの時、キス、すれば良かったな」
そうすれば貴方の柔らかな肉は、まだ暖かかったでしょうに。
私のこの口に出す前に消えてしまった想いも、暖かいままだったでしょうに。
静かな白ばかりの斎場の冷たさは、私と貴方の隔絶を如実に表していて、ぞっとするほどあの日の貴方の虚ろな瞳に似ていました。
私は手渡された白百合にそっと唇を寄せた後、静かに貴方の左足あたりに花を添え、足早にその場を去ったのでした。
お題『Kiss』
猪野の手がそっと肩に触れた瞬間、七海の胸が跳ねた。
「……猪野くん?」
「ん……近くにいたくて」
その声は、期待と不安が入り混じった色を帯びていた。七海は平常心を意識しながらも、内心ではその一言に胸がぎゅっと締め付けられるのを感じていた。いつも冷静であろうとする年上としての自分と、目の前の無垢な青年の間で、感情が波のように押し寄せる。
猪野は何も言わず、ただ七海の膝に手を置き視線を合わせる。目の奥に映る真っ直ぐな思いに、七海は思わず視線を逸らした。ただ純粋に「欲しい」と求められることが、こんなにも胸を焦がすものだとは。
「……触れても、いいですか?」
その声には緊張も、期待も、そして少しの恥じらいさえ混ざっていた。七海は深く息を吸い込み、手を差し伸べる。
「はい……もちろんです」
指先が触れ合った瞬間、体の奥からじんわりと温かさが広がった。理性ではなく、心が先に反応している。猪野はゆっくりと七海の頬に触れ、唇を寄せる。その柔らかさ、温かさ、微かに震える様子——全てが七海の理性を溶かしていく。
「……ん、猪野くん」
「我慢できなくて……」
唇が重なる瞬間、七海は自分の心臓の音が耳に響くのを感じた。こんなにも心を揺さぶられるとは思わなかった。触れられるたび、抱きしめられるたび、心の奥底にしまい込んでいた甘さと切なさが、同時に溢れ出す。
「……七海サン」
「はい、猪野くん」
「好きです……」
その言葉に、七海は言葉にならない感情の波に押し流される。理性で抑えようとする自分と、猪野のぬくもりに溺れたい自分。胸の奥で熱が渦巻き、思わず彼を強く抱き寄せた。
「私も……猪野くん、好きです」
目を閉じ、唇を重ねたまま、二人は互いの存在を確かめる。外の世界は、音も光もすべて遠く、ただ二人の鼓動と呼吸だけが、甘く絡み合っていた。
「これからも、ずっと……そばに」
「うん……ずっと」
七海は心の中で、猪野に全てを委ねてもいいのだと素直に思えた。互いの温もりが、夜の静けさの中で永遠のように続いていく気がした。
Kiss
好きな人とキスすると落ち着く。
動物にキスしたら落ち着く。
キスは愛情表現と挨拶どちらにもなる。
お互いの安心感を与え、いい関係を築ける。
そんな行為が、ずっと続きますように
貴方とのキスを、最初で最後にしたい
#7「Kiss」
Kissってロマンチックじゃん???
されてみたいじゃん??
ねぇ、そう思うでしょ?
監禁した
だって、仕方ないじゃん
振り向いてくれなかったんだもの
私のせいじゃないわ
みんなも、Kissされたいとか、月が綺麗って言われたいとか、あるじゃない
それと一緒よ
ねぇ、他の奴が好きなんでしょ?
悪いとは言ってないわ
そうよ
花占いなんて信じないわ
でも、今夜ぐらいいいじゃん?
月が綺麗と言われたい!!
君の目の先ずっと私でいたい!
月が綺麗っていいじゃない!!
ってあれ
授業中?
あー、えと…ごめんなさーいッ!!!
(逃亡)
『Kiss』~完~
#5
どうでしたでしょうか!
今日は遅れちゃいました
シリアス(?)とは違って平和回です!
次回もよろしくお願いします
______作者より
45.Kiss
『真実の愛のキスで呪いは解ける』
「呪い?」私の頭にはハテナがいっぱいだ。
真実の愛なんてあるはずがない。今の私は戦うだけ。
私が行っても呪いは解けるはずがない。
だが戦うのが仕事だから行かなくては。
毎日毎日戦いに戦って行く。だが真実の愛のキスなんてできなかった。やりたくもなかった。初対面の人にキスなんで出来るはずない。
ある日、いつも通り戦った。
姫の目の前まで歩いていく。「またどうせキスなんてできない。」そう思っていた。
だが、姫の方を見ると私が昔から知っている人だった。
名前も知らない、誰かも分からない。
ただ人目惹かれて、毎日笑顔でとても綺麗な人なのは覚えている。私の初恋の方だ。
私は自然とキスをした。すると姫は目覚めた。
私でも、真実の愛があったのか。ふたりで抱き合った。
2人は結婚し、幸せに暮らした。
きすをすると恋に落ちる
わたしの住んでいる地域ではこんな言い伝えがあった
あの日は空が鈍くひかっていて、分厚い雲の上が光っていたんだ そのぼんやりとした弱い光を見ていたら、小さい何かが降ってきた
ゆっくりゆっくりと くるくる回りながら
何かわからなかったけど近くに来たときに目を凝らしてみたらクリオネに似たものだった
それはわたしの口元まできて触れた
その瞬間その何かは姿を変えて、綺麗な男の子にはって 地面に倒れた
わたしはいそいで頭を支える
美しい顔をして眠っているその人は綺麗な金髪をしていて、星が染まったようなキラキラとした髪をしている
わたしが髪をなでると、わたしの指も光り、美しく輝いた
何とかして彼をかつぎ、家のベッドに寝かせた。
色々あった不思議な日だったな…
目を閉じて眠りについた
暗い影、誰かの息遣い
唇に何かが触れた
ぼんやり何かを見ていると綺麗な男の人の顔が現れた
その唇はひんやりと冷たかった
隈取りで変身すれば貴方への
想いをシャウトいくらでもできる
#kiss
Kiss
貴方は鏡を知っているか。
それは水に似た性質を持ち、この世界全ての情報を保有している超物質である。それは対象の全てを写し出す。下界にある最も高度な物質が鏡である。
アルテアは湖の綺麗な街で育った。アルテアを見る人はみな、奇跡の美貌だと口を揃えて言った。アルテアも無論、自分の容姿を好いていた。アルテアはその日、母親に買い物を頼まれ、市場まで足を運んでいる途中だった。その道中で出会った人は、アルテアに花をくれ、道案内をしてくれた。アルテアは買い物を済ませると、森の方へ走っていった。あまり森の方面には近づくことがないため、珍しく思ったのだろう。アルテアはどこまでも走っていった。するとアルテアは、湖を見つけた。アルテアは更に、その周辺の澄んだ空気とみずみずしい草木がとても気にいった。だが、アルテアは母親と約束した時間を過ぎていることに気づき、焦って家に帰ろうとした。いつかまた、この湖に来ることが出来るようにアルテアは木に印をつけて行った。アルテアが10、20と印をつけた頃、自分が迷子になっていることに気がついた。アルテアは一度湖に戻った。冷静になるため、顔を洗った時、アルテアは自分の顔を見た。気が動転していたこともあり、何故だかアルテアは安心を求め水面に写った自分に近づいた。更に、更に近づいていくと、アルテアは湖に落ちた。それからアルテアは一輪の花と愛を持ち、下界に落ちていった。
kiss
『真実の愛の口付けで、姫は目覚める』
冒険の途中にある茨の城を踏破していた勇者は困惑していた。
寝台の横に書かれた紙をしげしげと眺める。
「初対面の女性の寝込みを襲うのは、どうかと思うし…知らない人を愛せというのも無理難題だよなぁ」
愛らしい顔で寝ている姫の姿は可哀想だとは思うが、あまりダンジョン制覇とは関係ない。
「よし、ミッションにこの呪いをかけた魔法使いを倒すことを追加しよう!」
呪いを解く手っ取り早い方法を判断してからの、勇者の行動はすさまじかった。
魔女を倒した勇者は目覚めた姫からしつこくキスをねだられたが、のちに村の幼馴染との結婚式で真実の愛を捧げるキスを交わした。
ずっと昔、まだ僕が小さかった頃、僕はおとぎ話に憧れた。かっこいい、女の子の憧れるような王子様がいて、綺麗で可愛くてキラキラしたお姫様がいる。そんな、現実離れしたような、夢のような世界観が、昔から好きだった。
そんな僕の性分は、大きくなってからも変わらなかったようだ。やる気の無い家庭科部の部室の中、一人だけ意欲的に活動している僕は、ぼんやり昔に浸っていた。今は、昔憧れたような、キラキラでふわふわのドレスを縫っている最中だ。
「ふぅ……」
ひとまず形が出来上がってきたところで、一息ついた。まだまだ縫い付けなくてはならない飾りはたくさん残っているし、一部の縫い目はまだ仮縫いのままだ。それでも、少し奮発して買った滑らかな布は、見ているだけでも気分が上がってくる。
このドレスは、文化祭で使うために縫っているのだ。僕らのクラスは演劇担当、演じる演目は白雪姫。おとぎ話の定番の物語に、その時点で僕はかなりテンションが高かった。それなのに、お姫様のドレスの製作まで任せてもらえるようになったのだ。衣装の合わせの日までお姫様役は秘密にしておきたいらしく、寸法だけが伝えられた。幸い、僕と近い体格の子が担当のようで、製作にはそこまで苦労しなさそうだ。
文化祭の準備はいよいよ佳境へと入り、僕の作ったドレスも遂に合わせの時がきた。ドレスを持って指定の場所に行くと、見覚えのある顔、僕の幼馴染がそこにいた。
「遅ぇ。」
眉間に皺を寄せて言われ、僕は思わず萎縮してしまう。成長期にあまり背が伸びなかった僕より随分大柄な幼馴染は、立っているだけで威圧感に怯んでしまうのだ。
「え、えっと……や、役の子は……?」
「は?お前聞かされてねぇの?」
僕はきょとんとした。だって、秘密だと聞かされていたのだ。
「え?な、何が……?」
僕の言葉に彼はますます眉間の皺を深め、態とらしい溜息を零した。
「……お前だよ、姫の役やんの。」
そう言われ、僕は更にきょとんとして、彼の顔を見た。彼の顔は何故か真っ赤で、頬を隠すように手の甲が寄せられていた。彼は大きく顔を背けて、それからぼそりと独り言のように言葉を零す。
「……王子役は俺。……嫌なら辞退しろ。お前の体格で作ってんなら着れる女子もいるだろ。」
今度こそ絶句した僕は、少しだけ、劇のことを考えてみた。演目は、白雪姫。王子のキスで、お姫様は目覚めるハッピーエンド。他の女子が彼に口付けをされるシーンを想像して、何故か心に何か靄のような違和感がよぎった。
「や、やるっ!せっかく作ったし……」
言い訳のように言葉を並べて、なんとか取り繕う。気を抜けば、僕も彼のように、真っ赤な顔をしてしまいそうだった。
演劇なんだから、当然本当にキスをするはずがない。それでも僕は、彼の唇が僕のそれに重なるのを想像して、唇にじわりと熱が広がるのを感じていた。
テーマ:Kiss