『Kiss』
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いつもありがとうございます。
下書きのみですが、息抜きとして久々に。
以下は彼女ちゃん視点ですが、ここから突貫工事して彼氏くん視点に切り替えて書き書きしていますw
前振りも長いから多分それもゴリゴリ削って、文字数ダイエットもさせます。
とんでもない二度手間😂
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嶺姫(れいじ)くんが私を強引に組み敷いたせいで、ギィとソファのスプリングが音を立てた。
普段は落ち着きのある切れ長の黒い目が、今は楽しげに光っている。
「期待してたクセに、逃げないでください」
「ちがっ!?」
私は、言われた通りにしただけだ。
……と、思う。
歯切れが悪くなってしまうのは、嶺姫くんに見惚れてしまったことは事実だからだ。
*
ことの発端は去年の暮れ。
同棲を始めてからというものの、基本的に嶺姫くんはずっと私を気にして気を張っていた。
少しずつその緊張感は緩んではいたけれど、せいぜい、朝寝を坊したり、着古したスウェットを着たり、無精髭を生やしたまま部屋の中をうろつく程度。
作業部屋として小さな個室を用意しているのに、嶺姫くんは時々、リビングで作業をすることがあった。
こういうとき、彼は寝ずに作業を進めていたが、その日は珍しく毛布もかけずにソファで横になっている。
どうせ眠るならベッドに行って暖かくして寝てほしいと思うものの、疲弊した嶺姫くんの寝顔を見てしまえば起こしてしまうのも忍びなかった。
私はベッドから毛布を持ってきて、彼にかける。
深く眠っている彼の少しクセのある髪の毛を撫でたあと、私は身支度を整えるためにリビングを出た。
その日、仕事から帰宅した私を出迎えたとき、いつもより少しかしこまった態度と、強張った声音で嶺姫くんは前置きをする。
「……あの、ひとつお願いをしてもいいですか?」
「なに?」
嶺姫くんの態度にかまわず、私は要件を求めた。
彼の基準はいまいちよくわからないが、こういうときは大抵、おつかいやお散歩とかお手軽な要求である。
その殊勝な態度はもう少し時と場合を選ぶべきだと再三、伝えてきたつもりだが、彼が改めてくれる気配はなかった。
「俺が眼鏡をかけたまま寝落ちていたら、眼鏡を外してくれませんか?」
ほら。当たり。
予想通り、彼のささやかな要望に少し得意になる。
ムチャな要求は悪びれることなく押し通すのに、こういう些細なことには神経質なくらい気を使われていた。
「いいよ」
「ありがとうございます」
彼の中での線引きがいまいち把握できないが、嶺姫くんは安堵して肩を撫でおろす。
それでいて本当にうれしそうにして柔らかく微笑む姿に、胸の奥がこそばゆくなり嶺姫くんから顔を逸らした。
「寝方が悪いとたまにレンズが傷ついたり、フレーム曲がったりするんですよね」
「え」
ため息混じりに独りごちる嶺姫くんの言葉に、顔を上げる。
そうなんだ?
常時、眼鏡をしていないと生活ができない嶺姫くんにとって、それは死活問題だ。
「わかった」
「俺もできるだけ寝落ちないように気をつけます」
「それはそう。睡眠時間はきちんとベッドで確保して」
嶺姫くんの生活習慣は決して褒められたものではない。
いい機会だから気をつけるように伝えるが、彼の凛々しい眉毛がどんどん困ったように下がっていった。
あ、あれ?
もしかして、嶺姫くんが改まっていたのって私が説教くさくなるから?
少し不安になりつつも、彼の健康のためだと言い聞かせた。
*
そんなやりとりをした矢先、嶺姫くんは眼鏡をかけたままソファで眠っていた。
今回は寝落ちることがわかっていたのか、お腹にブランケットをかけている。
でも、嶺姫くんは背が高いから、ブランケットから足がはみ出していた。
そこまでわかっているのなら、横着していないできちんと毛布を被って暖かくしてほしい。
「んもーっ!」
嶺姫くんだって寒がりなのにっ。
私は急いでベッドから毛布をはぎ取ったあと、嶺姫くんのお腹に乗っているブランケットの上から毛布をかけた。
で、眼鏡を外せばいいんだっけ。
嶺姫くんの前に座り、眼鏡に手を伸ばそうとしたときだ。
突然、彼の寝息が乱れて居心地悪そうに体を捩らせる。
「んん……っ」
「わっ!?」
お、起こしちゃったかな?
慌てて伸ばしかけた手を引っ込めて、彼の様子を窺った。
私の心配は杞憂に終わり、嶺姫くんの寝息はすぐに規則正しくなる。
ホッとして再び眼鏡に触れようとしたら、嶺姫くんの耳元に指が触れてしまったせいか、ビクリと彼の方が震えた。
……どうしよう。
起こしてしまったらという申しわけなさと、眠っている彼に触れている後ろめたさに、指先が強張っていく。
扱い慣れていない眼鏡に触れるという行為は、だんだんと私に緊張感を伴わせた。
チラッと、眠る嶺姫くんに目を向ける。
相変わらず、目元周りは疲れが溜まっていることが見てとれた。
緩やかに下がっている眉と小さく開いている口元のせいなのか。
いつもより幼く見える寝顔に、つい見惚れてしまった。
目鼻立ちはいいし、男の人にしては睫毛は長いと思うし、唇も手入れされている、と思う。
……きれいな顔。
嶺姫くんが楽しそうに私の顔を見ているのはこんな気分なのかもしれない。
そう思ったところで我にかえり、ソファの隅っこに顔を埋めた。
私も、嶺姫くんのこと言えないかも。
気を取り直すために顔を上げて息を吐く。
彼の肌にはなるべく触れないようにしながら、眼鏡のつるに手を伸ばした。
その瞬間、急に手首を引っ張られて嶺姫くんとの距離が埋まる。
「え!?」
前触れもなく訪れた深い口づけに、呼吸はすぐにままならなくなった。
「ん、んんっ」
手首を拘束されたままではあったが、指先でなんとか抵抗をする。
強引な口づけとは対象的に、優しく唇を啄む切り上げ方にギュウッと胸が締めつけられた。
「なに? そのかわいいお誘い」
「お、さっ!? なんっ!? だっ!?」
言いがかりも甚だしくて、言葉が出てこない。
そんなつもりは毛頭なかった。
私はただ、嶺姫くんの言われた通りに眼鏡を外そうとしただけである。
「れ、れーじくんが言ったんじゃん……」
「俺が? キスしたいときは遠慮なく眼鏡を外せって?」
「違うっ!」
都合よく変換される嶺姫くんの言葉に怒りのボルテージが上がった。
「寝てたら眼鏡を外せって言ったの! とりあえず、手、離してっ!」
「え?」
首を傾げながら、手首を握る手に力を込める。
「なら、あと1回」
逃す気のない嶺姫くんの行動に、キュッと喉が締まった。
狼狽える私に、彼はスリッと頬を寄せる。
「ちょ……っ」
「おかえりなさいのチューしましょう?」
こういうときばかり口元を柔らかく緩ませて、漣のような声音を甘く響かせるのはずるい。
私が断れないことを知っていて、いつも強引に迫るのが彼の手口だ。
1回だけですませる気なんてないクセにっ。
悪態をついたところで、彼の誘惑には抗えない。
観念した私は目を伏せて、嶺姫くんに身を委ねた。
2/5/2026, 9:33:47 AM