『明日世界が終わるなら……』
いつもありがとうございます。スペースのみです💦
2025年9月18日のお題で『もしも世界が終わるなら』と内容を繋げられそうだったので、繋げたかったのですけど、執筆の時間が取れませんでした😭
『君と出逢って、』
ことの発端は、電気ケトルで湯を沸かしている間に起こった。
思い出話ついでに互いの第一印象に触れたとき、俺は彼女に「人畜無害な顔してんのに、なんかチャラそうでヤダった」と、なんとも無慈悲な印象を抱かれていたことを知る。
俺の本質を鋭く突かれた気がして心臓を抉られた一方で、人と接することの多い彼女は他人の容姿や心象にリソースを割かないことに気がついた。
ただただ彼女に適当な悪口を言われた俺は、しっかりと頭に血がのぼる。
「それっぽいこと言ってくれやがりましたけど、俺との出会いなんて覚えてないでしょう?」
カチンときて反論すれば、彼女の視線が白いマグカップから俺に移る。
「え? 私たちが初めて会ったときって、高校の夏に空き体育館で自主練してたときなんでしょ?」
「……」
それはあくまでも俺の記憶であって、彼女のものではない。
当時の彼女にとって、俺の存在なんて、ムサくてデカい男子高校生のなかのひとりでしかなかったはずだ。
「それ。当時の俺とどんな話をしたか、覚えてます?」
「え、えぇー……?」
彼女は記憶を辿るように視線を泳がす。
「れーじくん相手だし、普通に『こんにちは、よろしくお願いします』とかなんじゃないの??」
ダメだこりゃ。
こんなの、会話ではなく挨拶だ。
全くもってお話にならない。
いくらなにも思いつかなかったからって、当たり障りがなさすぎるだろう。
彼女の記憶の解像度の雑さに、ため息をついた。
「全然違います。つーか、そもそもなにをよろしくするんですか。交際ですか? それはむしろこちらから、是が非でもお願いしたかったくらいなんですけど?」
「うわダル。適当言ってゴメンって」
申しわけなく思うなら、せめて最初の枕詞はしまっておいてほしかった。
「でもさー」
コテ、と俺の腕に頭を寄せて彼女がもたれかってくる。
電気ケトルの蒸気口から湧き立つ音がグツグツと激しくなった。
その揺らめく湯気をぼんやりとした視線で追いかける彼女が、ポツリと呟く。
「れーじくんと出会って、私って、こんなにも人を好きになれるんだって……」
「は?」
サラッと、とんでもない告白を聞かされた気がして、思考が止まる。
「そんな自分に、自分でもビックリしてる」
そんな俺の様子などかまうことなく、彼女はグリグリと額を押しつけた。
「それは、ウソじゃないからね?」
このタイミングで、瑠璃色の瞳を不安気に揺らしながら射抜いてくるのはずるいだろう。
「ずっっっる」
口から飛び出た本音とともに、衝動的に彼女の肩を抱き寄せた。
「は、はあっ!? そうやって拗ねるほうがよっぽど面倒くさくてずるいからっ!!」
きゃんきゃん喚き始めた彼女の言い分を聞いてあげる余裕はない。
「うるせーです」
だが、ほかの誰でもない彼女に言われてしまったら絆される以外の選択肢なんて、簡単に消し飛んでしまう。
「いきなりそんな熱烈な告白、真正面から浴びせられたら溶けちゃうじゃないですか」
「じゃあ、その腕、を離してよ……」
「無理です」
「えぇー」
「なんですか、そのイヤそうな顔は」
肩を抱き寄せている腕とは逆の手で、彼女のマシュマロほっぺを突いてやる。
「無駄な抵抗をしていないで、おとなしく俺に愛され返されててください」
「なにそれー。変な言い回しー」
よほど俺の言い方がお気に召したのか、彼女の目元がキャッキャと綻び、ご機嫌ゲージが上昇した。
「いいよ?」
冗談めかしながら彼女の形のいい唇が弧を描く。
「その申し出、受けてたまわろう」
「え」
軽い口調とはうらはらな、穏やかで慈愛に満ちた笑みに息をのんだ。
キラキラと眩しいくらいにきらめく彼女の瞳に吸い込まれていったとき。
ちょうど湯を沸かしていた電気ケトルのスイッチが無機質な音を立てた。
ハッとして彼女から腕を離し、俺は電気ケトルに手をかける。
マグカップにお湯を注いで、インスタントの味噌汁の香りが広がった。
「熱いから気をつけて飲んでくださいね?」
キッチン棚からスプーンを取り出し、沈殿した味噌をかき混ぜたあと、彼女にマグカップを渡した。
「ありがと」
マグカップを受け取ったあと、彼女は俺の手を引いてベランダ際の日当たりのいい場所を陣取る。
「座って?」
促されるまま座れば、俺を背もたれにして彼女も腰を下ろした。
今日の彼女はずいぶんと素直である。
互いに収まりのいい位置を確保したあと、俺は彼女の腹に手を回した。
「……珍しいですね?」
「れーじくんに愛されてあげてるの」
窓に目を向けたまま味噌汁を啜る彼女の耳が、わずかに赤い。
「恐縮です」
その赤く染まった耳朶に口づけた。
ちょっかいをかけられるのはお気に召さないようで、鬱陶しそうに頭を振って抵抗される。
ちょっかいをかけるのをやめれば、彼女は愛おしそうに白いマグカップを両手で包み込んだ。
その姿に、ほんの少しだけ胸が疼く。
……休日の彼女の糖度を楽しむためには、おとなしくしていたほうがよさそうだ。
無防備に日向ぼっこをする彼女に、俺はしばらくつき合うことに決めた。
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いつもありがとうございます。
白いマグカップのモヤモヤは2025/10/07のお題『静寂の中心で』で触れています。
遡るのが大変かと思いますが、ご興味がありましたら目を通してくださるとうれしいです。
※pixivにて『静寂の中心で』を掲載してみました。
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『耳を澄ますと』
朝からきっちり束ねられた小さなポニーテールが、彼女の後頭部でひょこひょこと揺れている。
携帯電話の画面に映った時刻は7時を過ぎていた。
活動時間の早い彼女は、近所をひとっ走りし終えたあとなのだろう。
その後ろ姿に無性に絡みたくなった俺は、その小さな背中にのしかかった。
ちょうどグラスに麦茶を注いでいるタイミングだったらしく、彼女はゴトンッと乱雑な音を立ててグラスを置く。
「わっ!? あぶな、いなっ!?」
「ん。すみません」
反射的な謝罪であることを見透かした彼女が、振り向きざまに俺を睨みつける。
「それ、ホントに思ってるならどいてくれる?」
じっとりとした彼女の声音に、俺は負けじと返した。
「それは無理です」
「えぇー……」
今度は困ったような調子。
コロコロと変わる彼女の感情に、クスリと息が溢れた。
それが嫌だったのか、彼女が居心地悪そうにして身を捩る。
「っ、ねえ。首元でボソボソ喋るのやめて」
「んー……?」
「くすぐったい、の」
俺の腕を解こうと、小さな手を重ねる彼女に口元が緩んだ。
「それだけですか?」
彼女の皮膚に耳を当てれば、その滑らかな肌はジワジワと熱を持っていった。
耳を澄ますと、皮膚から伝う脈打ちは平時よりも速くなっている。
つれない態度で澄ましているが、体の内側まではごまかせていなかった。
「え?」
不埒な俺の手は彼女のシャツの下を滑り込み、奥ゆかしく膨らんだ左胸を掴む。
「心臓、ドキドキしてません?」
ほんの出来心で彼女の胸の中心を指で摘んでこねたときだ。
「そんっなふうに触られたら、誰でもドキドキくらいするからっ、あ、ンっ!?」
そこそこ本気で暴れ出した彼女の口から、甘い声が溢れる。
危な。
なんだ、最後のえっちな声は。
「ちょっと。危うくキッチンでおっ始めるところだったじゃないですか。いきなりエロい声出さないでください」
「ねえっ、なんで私が怒られてんのっ!?」
「とりあえず、おはようのチューで手を打ちます。話はそれからです」
「話ってなんだよ!? なんの話をする気だよっ!」
「朝からあなたがかわいすぎて困る話ですよ。ほら、さっさとこっち向いてください」
「はぁあっ!?」
怒りにまかせて振り返った彼女の体を正面に向けて、細い顎を掴んで逃げ道を塞いだ。
大きな瑠璃色の瞳をさらに見開いた彼女の視界を俺で塗り潰す。
艶の帯びた唇を俺の唇で重ねて、彼女の吐息や鼓動や熱、彼女の反応全てに五感を澄ませた。
『二人だけの秘密』
アダッ!?
突如として体に鈍い痛みが走り、意識が覚醒した。
瞼を持ち上げ、あまり役に立たない視力を凝らして現状把握に努める。
ふわふわだが入眠するには硬すぎる絨毯の肌触り、目の前にはベッドがそびえ立っていた。
……どうやら俺は、ベッドから落ちたらしい。
今までこんな事態に陥ったことなどなかった。
こんなところ、彼女に見られたらと思うと恥である。
背中と後頭部に響いている痛みをなかったことにして、体を起こしかけたときだ。
「おぅわっ!?」
まだ薄暗い時間帯にもかまわず、俺は腹の底から声をあがてしまう。
ベッドとは逆隣りの位置に、彼女が寝ていたからだ。
あっぶね!?
潰してないよな!?
健やかな寝顔が愛くるしくて彼女に対する好き好きメーターがバカみたいに上昇する。
見えなくてもわかる。
彼女の睫毛フサフサだし、おでこは丸いし、ほっぺたはマシュマロだし、乾燥知らずの唇はプルプルだ。
え。
寝顔クッソかわいいな?
何度目になるかわからない恋に落ちる予感に、心臓がキュッと締めつけられる。
「んむぅ?」
慌て散らかす俺がデカい声を出したせいか、視線がうるさかったのか。
彼女は目元を擦って意識を覚醒させようとした。
うわ、やべ!?
起こした!?
いや、この場合はむしろ起こすべきかっ!?
そもそも、なぜ彼女はこんな硬い床で寝ているのか。
ベッドの高さも、マットの硬さも、シーツの感触も、毛布の重さも、ベッドの大きさ以外は全て彼女好みに合わせたはずだ。
まさか、俺の隣で寝るのが嫌になったとか?
俺と寝るくらいなら、硬い床で寝たほうがマシということなのか。
先ほどとは180度反転した苦しみで、心臓がバクバクと早鐘を打ち始めた。
「あれ、れーじくん? ふふっ、珍しく早いね?」
「いえ、その」
「んー?」
寝起きの彼女は平時よりも甘い。
こんなにもまろやかな声で、俺と朝を迎えてくれているのに、俺と離れたがっているとか、普通にありえないだろう。
「…………あの、なんでこんなところで、寝てるんですか?」
「え?」
むくりと起き上がった彼女は、今、自分がベッドに放り出されていることに気がついたようだ。
「……?」
キョロキョロと辺りを見まわしたあと、ジッと俺を見つめた。
「風船で空を飛んでたんだけど、カラスにその風船を割られてさ。その拍子に落ちちゃったのかな?」
マジか。
よく起きなかったな?
そんなに入眠が深いタイプだったっけ?
でも、昨夜はちょっと無理させたし……。
昨夜の彼女のあられもない姿を想像しかけたところで、俺は思考を切り替える。
そもそも!
なんなんだ、そのカラスは!?
とっ捕まえて焼き鳥にしてやろうか。
違うっ!!!!
そんなことよりも、だ。
「ケガはないですか?」
「んー、ちょっと体がバキバキでしんどい」
「床で寝続けてるからですよ」
「起きるのしんどかったんだもん」
「変なところでズボラを発揮しないでくださいよ」
彼女の頬を撫でれば、明らかにいつもの滑らかな肌とは違う、凹凸が指先に引っかかった。
視力が弱いせいで確かなことは言えないが、絨毯の繊維が頬に形づいてしまっている。
いったい、いつからここで寝てるんだろう。
「……あの、……ほっぺた、跡になっちゃってませんか?」
「え、ウソっ!?」
俺の言葉に、彼女は強引に俺の手の隙間に自分の手を割り込ませて、確認した。
スリスリと頬を往復させながら、彼女の顔に熱が宿っていく。
「は、恥ずかしいから、みんなには秘密にしてね……?」
彼女にとって「みんな」とは誰のことを指しているのか。
高校も、大学も、勤め先も異なる俺たちに、共通の知り合いは少ない。
とはいえ、こんな愛くるしい彼女の一面を誰かに話そうとも思わなかった。
不安気に俺の服に縋る彼女に、俺は口元が緩んでいくのを自覚しながらもうなずく。
「ええ。ふたりだけの秘密ですね?」
「ん。ありがと」
彼女の纏う空気がホッと和らいだかと思えば、彼女はそそくさとベッドに登っていった。
「おや、二度寝ですか?」
「あと20分だけ」
「なら、俺も」
ベッドの端で横たわる彼女を壁側に転がしながら、俺も毛布に潜り込む。
「ん、んんっ、わっ!?」
寝起きで力が入らないのか、彼女はわりかし素直に壁側まで転がされた。
「今日からあなたがこっち側です」
「えー……」
不服そうに声を漏らすが、あんな心臓に悪いシチュエーションは二度とゴメンだ。
ギュウッと彼女の腰に腕を絡めて抱き締める。
「あなたの痴態をバラされたくなければ、おとなしく受け入れてください」
「その言い方、なんかヤダ」
「今なら俺とのチューもついてきますよ?」
「……それで、私がつられるとでも思ってる?」
「ええ、思ってます」
「私、そんなにチョロくないから!」
ぷりぷりと眉を吊り上げた彼女に、俺はフッと口元を緩めた。
「なら、試してみましょうね?」
「試すってな、に……っ。んむっ、ぅ?」
彼女の言い分は、その小さな口腔の奥へと塞いでやった。
朝から互いの舌を深く絡めて、湿度の高い吐息を寝室に響かせる。
その後、彼女の20分の仮眠はなくなり、彼女が眠る際、その隣は俺と寝室の壁になった。
『優しさだけで、きっと』
いつもありがとうございます。
今日もスペースのみです💦