いつもはデリバリーや水道修理のマグネット広告がポストに投函されているなか、この日は珍しくハガキが紛れていた。
ビールと枝豆のイラストが、爽やかな水彩画のタッチで描かれている。
『暑中お見舞い申し上げます』
当たり障りのない夏の文面に、居酒屋かなにかのDMかと思い宛名を確認する。
宛名の面もスイカとカブトムシという、夏らしいイラストが印刷されていた。
割引案内を期待したが、そんなもの、あるはずがない。
なぜならハガキの送り主は、交際を始めたばかりの彼女だったからだ。
「こういうこと、するんだ……」
ずるい。
という、率直な感情が胸の内をぐるぐると駆け巡る。
恋人として年中行事のために時間を割くことはできないと、彼女からはあらかじめ宣言されていた。
枯らしてしまった恋から、失敗の原因を彼女なりに学んだのだろう。
雑な彼女がそれだけ俺に気を遣ってくれるのは単純にうれしかった。
しかし反省する前例があるという事実に、どうしようもなく嫉妬する。
その度に、イベントという口実がなくても彼女が恋人として会ってくれるのなら、と言い聞かせてきた。
とはいえ、だ。
「くっそ……」
こんなの、……会いたくなるだけだろ。
少しでも季節を大切にしようとする彼女の心遣いに、胸がきつく締めつけられる。
7月のカレンダーは、昨日めくったばかりだった。
『8月、君に会いたい』
8/1/2025, 1:10:44 PM