A4サイズの用紙を横に、書式は40文字×32行の縦書きに設定し直す。
フォントは明朝体、文字のサイズは10pt。
ファイル形式はテキスト。
データ容量で約1.2MB、字数換算にすると約60万文字。
500枚入りのコピー用紙をほぼ全て使い切った。
2日で書きあげ、1日かけて推敲をした。
最後の4日で穴あけパンチで用紙に穴を開け、補強シールを貼って綴り紐でしっかりと結んだ。
用意していた封筒では厚さが足りなくてコピー用紙が入らないというアクシデントに見舞われる。
しかたなく新たに小さめの段ボールを用意して詰め込んだ。
我ながら見事な大作である。
おかげで彼女と会えなかったこの1週間は、とても有意義に過ごせた。
データでのやり取りが主だった昨今、原稿を印刷して綴るというやり慣れない作業にかなり手間取ってしまう。
次はもっと要領よくやろうとフィードバックした。
達成感と充足感で胸が熱くなる。
いつまでも冷めやらぬ高揚感を抱いたまま、俺は段ボールを片手に、彼女の勤める職場まで足を運んだ。
当然、アポ無しで勤務先に突撃したところで彼女と繋がれるはずもなく。
着信とメッセージアプリで連絡を残すと、彼女から待ち合わせ場所を指定された。
*
彼女が指定した場所は、商業施設内にある屋外庭園。
家族連れやカップルの憩いの場として集まっているなか、ダンボールを持ったデカい男こと俺が、ひとり公園のベンチに腰をかけていた。
控えめに言っていたたまれなさすぎる。
彼女のちょっとした悪意が見え隠れした。
その悪意すらかわいさに置換されてギュンと胸が締めつけられる。
「うわ、本当にいやがる……」
涼やかな声が耳に届いて顔を上げる。
見上げると、芋虫を噛み潰したようなくしゃくしゃな顔をした彼女が立っていた。
相変わらず斬新な照れ方をする彼女に感心してしまう。
「ここで待てと言ったのはあなたですよ?」
「はいはい。そーでした。そんで? 要件は?」
雑にスポーツバックをベンチに置いて、彼女は俺の隣に座る。
無防備になった太ももの上にそっと段ボールを置いた。
「要件はこれです」
「は? 重っ? なんだこれ」
「俺の1週間分の愛です♡」
「愛……?」
彼女は疑わし気に段ボールに視線を移した。
どうせなら開けてほしいのだが、それは適わないらしい。
段ボールと俺を交互に見て、彼女は俺に説明を促した。
「今度、花火大会があるでしょう? 花火大会に参加するにあたり、ぜひ浴衣を着てほしくて。あなたに祭りと浴衣を組み合わせた相乗効果によって俺の心拍の変化と愛が爆上がりする可能性についてまとめた資料です」
「資料とうたうならもっと簡潔にまとめて出直してきて」
「間違えましたラブレターです♡」
「……ふーん」
ラブレターなら受け取ってくれるんだ。
つき合う前は俺の姿を見つけようものなら、両手をポケットに突っ込んで目も合わせず背中を向けて逃げ……恥ずかしがっていたというのに。
彼女の愛もずいぶんと大きく育ってくれたものだ。
「お祭りの日程教えて。予定は、ちょっと合わせられるかわかんないけど……」
しかもキュッ♡ なんて大事そうに段ボールを両手で抱えてくれている。
ドギャアアンッ!!
かわいいが心臓を撃ち抜いてくるとこんな爆音を立てるのか。
爆速で血流が巡り始めるから全身が熱い。
段ボールに落とした視線を俺に移してほしくて、彼女の頸にそっと触れた。
長い睫毛を揺らしながら伏し目がちに視線が動く。
心の準備をする彼女のその仕草は、焦らされているようでゴキュリと下心が強く鳴った。
意を決した彼女が、赤く色づいた顔を上げたとき。
耳の奥で鼓動を激しく響かせながら、静かにその細くて白い頸を引き寄せた。
『熱い鼓動』
7/31/2025, 2:06:20 AM