『1件のLINE』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
電話不精、メール不精ときて、LINE不精。
時代は移り変わる。
使うツールの性能がどんなに進化しても、
連絡が遅い人はいつの時代もアップデートしない。かくいう私がそうだ。いつか友だちを失いそう。
そして私以上に、彼がひどい。彼の周辺だけ回線がトリップでもしてるんじゃないかと思う。伝書鳩のほうがよっぽど利口だ。かわいいし。
おかげさまでたった1件、新着がはいっただけで胸がとびあがる騒ぎだ。ああよかった元気なのねなんて、大正時代の文通じゃあるまいしと思いながら、LINEを使っているのにも関わらない、この色褪せたアナログ感がだんだんと癖になってきている。
いっそ貴重だ、この人間。
今日も「これ、美味しい」の一言と、水羊羹の写真が唐突に送られてきた。およそ3週間越しのLINE。
私がお返事するのは多分2日後くらい。本当に好きあっているのかと、友だちから呆れられる。
しょうがない。話したいときに話して、黙りたいときに黙る、不安定な時間の流れが似ているから。
いつまでも時代錯誤な私たち。
『1件のLINE』
LINEを使い始めて10年くらいかもしれません。
一時期、オリジナルスタンプ作りにハマり、スマホばかり弄っていました。結構簡単に作れます。
「1件のLINE」に該当のエピソードがないので、創作します。
『1件のLINE』
ごめんね と、送ったものの 既読なし
未読のままの1件のLINEは
あなたに読まれるのを待っている
ああ そうか
勇気を出して電話しよう
【1件のLINE】
『新規メッセージが1件あります』
通知が鳴る音と共に僕の心は情緒不安定になる。
君からだと嬉しいはずなのに何処か不安にもなって。
君からの通知が何よりも動揺させられて。
僕の心は全て君に操縦されていて、翻弄される。
そんなことを気づかず隣にいる君。
君はいつまでこの時間を続けさせてくれるの?
『別れようか』
そんなLINEが来たのは私が
『浮気してるでしょ』
って言ったから。
別れる理由ってことは浮気相手のほうが本気なんでしょ?
なんか悔しいなぁ…
ふう…もう…いいか…
『いいよ、別れよう。』
でも、彼は知らない…
浮気相手が私の妹だってことに。
『一件のLINE』
最近部活来てないけど、大丈夫?
先輩からのLINEだった。体調不良ということにしてあるが、本当は部活を辞めようと思っている。通知が来たのはすぐに分かったけれど、未読のまま、30分ほど返事を考えていた。
実は部活を辞めようと思っています…
私はそれを送ったあと、急いでお風呂に入った。入浴中に通知音が聞こえないように、スマホはタオルで巻いて脱衣室に置いた。
「1件のLINE」
初めてLINEをインストールして、わくわくしながら開いたら、知り合いかもなリストに覚えのない人の名前が。
ん?と思った直後に、その人から即行で「久しぶり」的なメッセージが届いた。
―――怖っ
疑問よりも恐怖が勝ち、すぐブロックした。
いま思えば、どちらでお会いしましたか?くらいは聞いてみてもよかった気がするが…。
運命的でも何でもないLINEの思い出である。
『HAPPY BIRTHDAY!!!』
1年に一度、LINEを送る。
大好きな先輩へ。
彼とは高校生のときに出会った。
電車の駅で見かけた。一目惚れだった。
勇気を振り絞って声を掛け、連絡先を聞いた。
それからたまに話すようになったけど、
恋なのか、ただの憧れなのか…
よくわからなくなって…
ただ時間だけが過ぎていった。
―――そして彼も私も卒業した。
切ない思い出。
でもね、先輩の誕生日だけは特別なんだ。
今も必ずお祝いの連絡をする。
「ありがとう」って言われるだけでいい。
先輩後輩でいられるだけでいい。
先輩が幸せならそれでいい。
今日、私は君に別れを告げる。もうずっと分かってた。君と少しずつすれ違い始めていて、好きという気持ちが薄らいでいたことに。付き合い始めたあの頃は毎日が
楽しくてずっとこうして君といられると思っていた。
だけどお互い仕事や人間関係で苛立ちをぶつけるようになっていって、喧嘩ばかりする毎日でどんどん君と過ごす時間に苦痛を感じていた。
でも、このままじゃいけないと思いながら同棲している
アパートへ帰ろうとした時私は見てしまった。
君が他の女と腕を組んで歩いている所を。
だから、決めた。もう私たちは終わりだ。彼が帰って来る前に荷物をまとめる。荷物をまとめた後、携帯を取り出してLINEを開く。彼と今まで紡いできたメッセージに
一通り目を通して文字を打つ。
「私たちはもうお互いを好きじゃない。だから全部終わりにしよう。今まで楽しかったよ、さよなら。」
涙が流れる。これで全てが終わった。私たちの家に楽しかった思い出を置いてドアを開けた。
『1件のLINE』
「まだ好きでいてもいい?」
そんな文を送ったのだがかれこれもう1時間はたっている。彼は今日習い事も何も無いはずだ。
こんな文送んなきゃよかった、そう後悔しつつ送信取り消しに指を動かすと
「別にいいよ笑笑」
こんな返事が来た。
取り消さなくてよかった。こんなことされたら
また好きになっちゃうよ。
諦めきれないじゃん。
あなたの恋を応援するって決めたのに。
でもいいなら、いいのなら。
まだ君のことを愛おしく思います。
波が引いては近づいてくる。
辺りは闇で満たされていて、砂浜に打ち付ける音だけが辺りに響いていた。
本当に真っ暗だ。都会の海なんて大したことなくて、こんなに暗くないと海で癒されることはないと思う。汚いし、濁ってるし、ゴミあるし。それらを闇が隠して、やっと海だと感じられる。もはや音だけが海だと言っているようなものだけれど。
今夜は星もないし、月もない。海だけじゃなく空気も濁っているここは、何もいい所なんて無い。いや、それは言い過ぎかもしれないけれど。
荒れてるなと、私が一番思っている。理由も分かっている。でも、だからどうという事でもない。解決する訳じゃわないから。むしろもう終わった後だ。
「前なら、明るい海の方が好きだったかな」
もう忘れてしまった。それとも、思い出したくないのか。感情のない呟きは、海に飲まれて消えてしまった。
隣を見ても、海に一緒に来てくれる君はもう居ない。無理に連れてきてたかな。君はまたここに来たりするのだろうか。海に来ても、ずっと隣の君を見ていたことを思い出した。
溢れそうになる感情を抑える。でも直ぐに無理だと察する。
顔が熱い。胸が締め付けられるように苦しい。
でも。いや無理だ。
寄せる波に足で触れる。しゃばしゃばと水が戯れる。海は私を歓迎してくれているように思えた。頬を伝うそれと同じだから、なんて馬鹿なことを思った。
感情が溢れても、声は殺そうと必死だった。声を上げてしまったら、きっともう止まらないだろうから。
膝当たりまで入ったところで、スマホが震えて光る。まるでこれ以上はダメだと知らせるように。
通知なんて、もう気にすることなんてない。君から1件のLINEも、来ることなんてないから。
「別れよう」
え?どうして?なんで?
頭が痛い。吐き気がする
文字が、読めない。
様々な欲望の流れと絶えず繋がり切断する。乳房はミルクを生産する源泉機械であり、口は乳房という機械に接続される器官機械である。エネルギー機械に対して、器官機械があることは、常に流れと切断とがある事である。
このような摩訶不思議で荒唐無稽とさえ思えてくる言説を送ってくる軽佻浮薄の友人がいる。意味を尋ねても答えは返ってこない。彼は語の組み合わせのみに拘っており文が持つ意味を等閑視しているからだ。
水を分解したのならそれは水ではない。
彼は私のようだ。
だが、私は彼だ。
成程、だから似ていたのか。
このようにして、ラインを断絶して繋げていく。
ツギハギの文は醜いフランケンシュタイン。
パトラッシュ眠くなってきたよ。
#107
さよならを
LINEで済ませる
ドライな君
既読スルーの
喪心の僕
お題「1件のLINE」
【1件のLINE】
繋がらなければいいと思いながら〈音声通話〉を押した。
かけてみたものの、言いたいことは特にない。
ただ、確かめたかったのかもしれない。
私にとって、彼にとって。互いが大切な人であると。
はたして電話は切れたのに、耳の奥にまだ音が響く。
それは耳慣れない曲。変わってしまった呼出音。
しばらくの間、スマホを離すことができなかった。
トークルームに〈応答なし〉が残っている。
無かったことにしたいけど、送信取消はできないらしい。
もう一度かける気にはなれなかった。
だって、連続した着信履歴は重いでしょう。
ふと彼が通知をオンにしていたことを思い出した。
〈不在着信〉を見て、彼は何を思うだろう。
心配してくれるかな。それとも、鬱陶しく感じるかな。
考えるほどに思考は悪いほうへ傾く。
用もなく電話をかけるのは初めてではない。
およそ一週間ぶりの電話。繋がらない予感はあった。
かけなければよかったと後悔して〈応答なし〉を消す。
私の記憶からも消えればいいのに。
テレビをつけると、タイミング悪くあの曲が流れた。
いま流行りの。若者に人気。知らない人はいない。
有名なものには興味を持てないって言っていたくせに。
変えるほどの何かがあったと想像するだけで胸が痛む。
しつこいほど確認しないと安心できない、私の悪い癖。
〈明日の夜には帰るね〉そんな嘘を送った。
次は彼氏も連れてきなさいよ、と母が笑う。
予定が合えばね、と適当にあしらって帰路を急いだ。
私にとって大切な、彼にとって私は?
【1件のLINE】2023/07/12
最近、新しくスマホを買い替えた。
機種はよくわからない。けど、明らかに
私が持つには勿体無いぐらいいいスマホ。別に私は連絡ぐらいしかしないし、こんなにたくさんの機能は要らないんだけどな。
-でも、あんなこと言われちゃったら、買うしかないよねえ。
「ねえお母さん、そろそろガラケー卒業したら?」
唐突に、少しスマホに依存している娘からそんな提案をされた。今ですらスマホの画面と睨めっこをしている。
-提案じゃなくて、要求かな。
「なんで?」
理由はなんとなく想像がつくが、一応聞いてみる。
「なんでじゃないよ。今の人はもう大体スマホだよ?なのにお母さんはまだガラケー使ってるし。学校からの連絡だってメールできたりするんだから、連絡来ないとこっちが大変なんだけど。」
やっぱりそう言う話よね。
最近になってメールでの連絡が多くなったり、同年代の知り合いもスマホを使い始めた。ここらで使っていないのも私ぐらいだ。
でも、だからと言って紙での連絡が来ないわけでもないし、今までだってなんの問題もない。今も特に方針が変わる動きも見えない。
娘がいきなりそんなことを言い出すとは思えなかった。
「本当にそれだけ?」
横目で娘の様子を伺う。女手ひとつで育てたからか、重度の反抗期である娘は、拗ねたようにこちらから目を逸らした。やっぱり何かあるのだろう。
「…だって、友達に笑われたんだもん。」
なるほど。そう言うことだったのね。
確かに、ある程度スマホが出回ったこの時代、ガラケーを持っている母親なんて、彼女らからしたらあり得ない話なのだろう。そこまで気にすることなのかとも思うが、彼女はよほど嫌だったらしい。
「はあ…仕方ないわねえ。」
そう言って私は、40を過ぎた今、スマホデビューを決意したのである。
今日は帰りが遅いわねえ。
雨が降る様子を窓越しに眺めながら、1人ため息をつく。
もう少しで本降りになるから、早く帰ってきて欲しいのだが、どうしたものか。私は心配しながら台所へ向かう。その時、何やら無骨い四角い物体が目に飛び込んできた。
そうだ、スマホで連絡すればいいじゃないか。
私はスマホ画面を開いて、緑色のアイコンを押す。娘曰く、スマホを持つ人々は、大体このLINEとやらで連絡をとっているんだそうだ。
わたしはなれないうごきで日本語のキーボードをゆっくり押していく。
「今、どこにいるの?」
30秒くらいかかって、初めての娘へのLINEを送った。少し鼓動が大きくなっているのがわかる。
私はって続けにもう一件LINEを送ってみた。
「雨、結構降りそうだから、早く帰ってきなさい」
-なんの連絡もない。
どうしたのかしら、部活で何かあったとか?
私は何度もスマホへ一瞥をくれる。その時、スマホの振動音が聞こえてきた。
いつのまにか私は携帯を握りしめて画面を開いていた。
-あれ?LINEってどこだっけ?
まだなれてないせいで、返信を見れないのがまどろっこしい。
ようやくLINEを開いて、娘の、最近人気らしいアイドルグループの画像のアイコンをタップする。
画面には、たった一文。
「どもだちとご飯食べてくから、帰り遅くなる。」
たった一文。
たった一件のLINE。
はめあたしはため息をついて、スマホ画面を閉じ、無造作にソファーの上に放り投げる。台所にある写真立てを見つめて。
そこには、まだ若かりし頃の新米ママの私と、その私に抱きついている満面の笑みの小さく可愛い娘がいた。
無題
窓越しに見る世界が私にとって多少安心するものであるならば、ファインダー越しの世界を見るのはどうだろう?
ずっと写真を見るのは好きだった。そこまでのめり込んだ事はなかったが。特に旅行先でファインダー越しに見る世界は素晴らしいと思う。何よりその時の空気感をそのままに好きな様に切り取る自由が心地良い。ただ困るのは、時々自分が何を撮りたいのか何を感じているのかが全くわからなくなるという事。あの無の感覚が私を混乱させ不安になる。
写真を撮るなら私が何か感じたもの、浮かんだイメージに近いものを撮りたい。一番撮りたいのはもちろん彼。空、それから動物、あとは妹夫婦や姪、甥、木と水のある風景とか、ぐっときた人物のポートレートを撮りたい。
つまりこの世の中にある、私の特別好きなものは勿論の事、その瞬間瞬間の自分の中に感じた「素敵」をもっと素敵に撮りたいんだとそういう事だと思う。そしたら生きていくのも、少し怖くなくならないかな?あー..でも隣に彼がいてくれて、一緒に笑えたらそれだけでもパワーを貰えそう。
もし出来るなら、親の写真も撮ってみたい。もうちょっと心身が整ったらそこも考えて見ようと思う。
63 1件のLINE
「来週からあなたが『檻』にはいることになりました。よろしくお願いします」
そんなLINEが僕のスマホに届いた。
ああ、今年は僕なのか、と思った。
僕のいる村では、一つしかない中学校の教室すべてに檻がある。
畳一枚分くらいの、小さいとも大きいとも言えない檻だ。
クラスの中から年に一週間だけ、誰か一人がそこに入って授業を受ける。
一日中ずっとだ。トイレの時は申告して鍵を開けてもらう。体育は休む。給食も檻で食べる。檻の中から手を挙げて問題を解いたり、友達と談笑したりしてもいい。ただ檻に入るだけだ。
いつからそうなっているのかは分からないけど、ここではそれが普通だ。
一週間檻に入っても、特に対価はない。ないけどこころなしか、苦手科目の評定が上がっていたりすることが、あったりなかったりするらしい。
断れば村八分になる。村の外に他言すれば、もっと恐ろしいことになる。
ただそれだけのよくわからない風習だ。
かつては電話や回覧板で回していた『檻』のお知らせも、最近はLINEになった。便利な世の中になったなぁ、とお父さんやおじいちゃんは言う。
理由は分からないが、この村はすごく、潤っているのだ。大人はいつも、よくわからないお金をたくさん持っている。
だから大人も子供も、タブレットやスマホを持っている。だけど絶対に『檻』の風習のことは、外には漏れない。
何の意味があるのかは分からない。だけどとにかく、僕は明日から檻に入る。
過去の記録に想い入れもなければ興味もないけれど、1件だけ、ずっと消せずにいるメッセージがある。
親友だった彼女が最期に送ってきた言葉。
『がんばれ』
単純に、私の試験を応援してくれるLINEだった。私がこのメッセージを見たのは、試験が終わって、彼女のお兄さんから彼女の事故を聞いて病院に向かう電車の中。
『試験終わった。いい感じかも!』
涙を堪えてそう返した。こんなにも、既読の小さな文字を気にしたのは後にも先にもこの時だけだった。
既読の文字は未だついていない。
1件のLINEをずっと待ち続けている。
【今どこ?】
そっけないわたしのメッセージにいつ返信が来るだろうか。
どこでもいい、どこかにいてほしい。
家とか車の中とか学校とか、旅行先でもいい。新しい友達の家でもいい。本当はわたしのすぐ隣にいてくれたら一番だけれど、どこでもいいから早く返信をちょうだい。
ずっとずっと同じ画面を見つめている。やがて電源が落ちて、画面に映るのはくたびれたわたしの顔。もう一度画面に光を灯して、ブルーライトをひたすら浴びる。
もうLINEを送ったのは1年前なのに。返信は一向に来ない。既読すらついていない。
ああ、早く返信をちょうだい。じゃないとわたし、眠れない。
今日のテーマ
《1件のLINE》
ほんの20~30分の仮眠のつもりだったのに、目が覚めると部屋の中はだいぶ薄暗かった。
夕方なのか、明け方なのかも分からない。
だいぶぐっすり寝入った感覚があるのと、真っ暗ではないから夜ではないということが分かる程度である。
枕元を手探りで辿ると、すぐに目当ての物――スマホが手に触れた。
手繰り寄せて、側面にあるセンサーに指を当てて指紋認証で起動させようしたがウンともスンともいわない。
そういえば寝る前に動画を再生していたんだったと思い出す。
電池残量がそう多くなかったことも。
電源ボタンを押しても反応しないところをみると、電池が切れてしまっているらしい。
時間の確認すらできないことにため息を零し、これまた手探りでケーブルを手繰り寄せて充電する。
電池残量はやはり0%を示していて、この状態でも時間は表示されなかった。
仕方なく、欠伸を噛み殺しながらのっそり起き上がる。
凝り固まった体を解すべく大きく伸びをすると、背骨や肩がまるで小枝を折るようなパキパキとした音を立て、ぼんやりしていた頭に血が巡ってきて思考がクリアになってきた。
外はいつのまにか雨が降ってきていたらしい。
雨音から結構降りが強いことが窺える。
学習机の上に鎮座しているデジタル時計の時刻は11:45。
横になったのは1時間ほど前だから、大幅に寝過ごしてしまったわけではなかったようだ。
部屋が暗かったのも雨のせいで、夕方や明け方ではなかったことにホッとする。
夏休みは始まったばかりとはいえ、惰眠を貪って一日無駄にしてしまった、なんてことにならなくて本当に良かった。
エアコンは入ってるけど、設定温度はそんなに低くはしていない。
おかげで寝ている間に汗をかいたらしくやたらと喉が渇いていた。
ベッドのヘッドボードに置いてあったペットボトルのスポーツドリンクを飲もうとしたものの、残りはほんの僅かでほとんど空に近い。
下に降りて冷蔵庫から冷えた飲み物でも出して飲むかと、スマホと空のペットボトルを持って部屋を出た。
平日の昼間とあって家族はみんな出払っている。
無人だから当然エアコンは入ってなくて、階下はむわっとした熱気に満たされている。
リビングのエアコンを入れ、ソファの脇に転がっている充電ケーブルをスマホに繋ぐ。
充電は5%くらいまで復活していたから、ケーブルに繋げた状態でなら電源が入りそうだ。
電源を入れて起動を待つ間に、ペットボトルを捨てて冷蔵庫から麦茶をコップに注ぐ。
ちょうど昼時だしそろそろ昼飯にするかと思いつつ、麦茶のポットをしまいながら冷蔵庫内を物色するが、すぐに昼食として食べられそうなものは入っていない。
この雨ではコンビニに買いに行くのも食べに出るのも億劫だ。
冷凍食品をチンして食べるか、カップ麺にするか。
自分で何か作るという選択肢はない。
作れと言われれば作れなくはないけど、面倒臭さの方が優る。
どうしようかと考えながら、無事に起動したスマホを指紋認証で開けば、各種アプリの通知がいくつも表示されていた。
その中にLINEの通知を発見して急いで開く。
『今日、予定ある?』
可愛らしいキャラクターのスタンプが添えられたメッセージは、夏休み前にできたばかりの彼女からのものだった。
送信された時間は今から15分ほど前。
勢い込んで了解の返信を送ると、彼女から喜びを示すようなスタンプが送られてきた。
姉や母親に見られたら延々からかわれること間違いないけど、今は家に1人きりなので思う存分ニヤニヤしてしまう。
『もうお昼食べちゃった?』
『まだ 今なに食おうかって考えてたとこ』
『だったら駅で待ち合わせて一緒にお昼食べない?』
『いいよ 雨だけど平気?』
『バス停がすぐ近くだから大丈夫 そっちは平気?』
『全然』
つい2~3分前まで「この雨の中、買いに出るの面倒臭ぇ」と思っていたことなど棚の上どころか空の彼方まで放り投げて返信する。
1人でダラダラしながら味気ないカップ麺や冷食を食べるよりも、多少雨に濡れたとしても可愛い恋人と一緒に食べる昼飯の方が断然美味しいに決まってるし、昼食後はデートというオプションまで付くんだから断る理由などありはしない。
待ち合わせの時間と場所を決めて応答を切り上げ、大急ぎでシャワーを浴びて着替えを済ませ、スマホとモバイルバッテリーと財布をボディバッグに突っ込むと、靴を履くのももどかしく外に出た。
雨はさっきより小降りになっていて、東の空は明るくなっている。
きっと程なく止むことだろう。
一旦中に戻ってビニール傘ではなく折り畳み傘に持ち替えて、俺はバス停に向かって駆け出した。
タイミング良くきたバスに乗り込んで外を見ると、窓の向こうに虹が見えた。
すかさずカメラを起動して写真を撮り、それを彼女へLINEする。
ちょうど彼女もバスに乗ったところらしく、そのままメッセージのラリーが始まった。
彼女からの1件のLINEに端を発した『恋人と過ごす楽しい夏休みの1日』はまだ始まったばかり。
テンション爆上がりの俺を乗せ、バスはゆっくりと駅へ向かっていくのだった。