63 1件のLINE
「来週からあなたが『檻』にはいることになりました。よろしくお願いします」
そんなLINEが僕のスマホに届いた。
ああ、今年は僕なのか、と思った。
僕のいる村では、一つしかない中学校の教室すべてに檻がある。
畳一枚分くらいの、小さいとも大きいとも言えない檻だ。
クラスの中から年に一週間だけ、誰か一人がそこに入って授業を受ける。
一日中ずっとだ。トイレの時は申告して鍵を開けてもらう。体育は休む。給食も檻で食べる。檻の中から手を挙げて問題を解いたり、友達と談笑したりしてもいい。ただ檻に入るだけだ。
いつからそうなっているのかは分からないけど、ここではそれが普通だ。
一週間檻に入っても、特に対価はない。ないけどこころなしか、苦手科目の評定が上がっていたりすることが、あったりなかったりするらしい。
断れば村八分になる。村の外に他言すれば、もっと恐ろしいことになる。
ただそれだけのよくわからない風習だ。
かつては電話や回覧板で回していた『檻』のお知らせも、最近はLINEになった。便利な世の中になったなぁ、とお父さんやおじいちゃんは言う。
理由は分からないが、この村はすごく、潤っているのだ。大人はいつも、よくわからないお金をたくさん持っている。
だから大人も子供も、タブレットやスマホを持っている。だけど絶対に『檻』の風習のことは、外には漏れない。
何の意味があるのかは分からない。だけどとにかく、僕は明日から檻に入る。
7/12/2023, 6:29:33 AM