燈火

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【1件のLINE】


繋がらなければいいと思いながら〈音声通話〉を押した。
かけてみたものの、言いたいことは特にない。
ただ、確かめたかったのかもしれない。
私にとって、彼にとって。互いが大切な人であると。

はたして電話は切れたのに、耳の奥にまだ音が響く。
それは耳慣れない曲。変わってしまった呼出音。
しばらくの間、スマホを離すことができなかった。

トークルームに〈応答なし〉が残っている。
無かったことにしたいけど、送信取消はできないらしい。
もう一度かける気にはなれなかった。
だって、連続した着信履歴は重いでしょう。

ふと彼が通知をオンにしていたことを思い出した。
〈不在着信〉を見て、彼は何を思うだろう。
心配してくれるかな。それとも、鬱陶しく感じるかな。
考えるほどに思考は悪いほうへ傾く。

用もなく電話をかけるのは初めてではない。
およそ一週間ぶりの電話。繋がらない予感はあった。
かけなければよかったと後悔して〈応答なし〉を消す。
私の記憶からも消えればいいのに。

テレビをつけると、タイミング悪くあの曲が流れた。
いま流行りの。若者に人気。知らない人はいない。
有名なものには興味を持てないって言っていたくせに。
変えるほどの何かがあったと想像するだけで胸が痛む。

しつこいほど確認しないと安心できない、私の悪い癖。
〈明日の夜には帰るね〉そんな嘘を送った。
次は彼氏も連れてきなさいよ、と母が笑う。
予定が合えばね、と適当にあしらって帰路を急いだ。

私にとって大切な、彼にとって私は?

7/12/2023, 7:15:06 AM