燈火

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8/29/2024, 8:54:00 AM


【突然の君の訪問。】Other Story:B


ピンポーン。ふいにインターホンが鳴った。
なんだろう。今日は来客も荷物が届く予定もないのに。
アパートの玄関扉には覗き窓が付いている。
外からも覗けるらしいと知って塞いだ無用の長物。

今こそ使うべきか。蓋を回して左目を当てる。
「うわっ!」至近距離で目が合い、反射的に顔を引いた。
防犯に役立つなんてやっぱり嘘じゃないか。
恨みがましい気持ちで覗き窓を睨む。

ピンポーン。またインターホンが鳴った。
なんでインターホンにカメラがついていないんだ。
節約のため、家賃の安い家を選んだのがいけなかったか。
呼び出し機能だけあってもあまり役に立たない。

僕は観念して扉を開けた。「はい。ご要件、は……」
顔を上げて、固まる。まったく、誰かと思えば。
「久しぶり。急で悪いんだけど、泊めてくれない?」
自由気ままな幼なじみが、満面の笑みを浮かべていた。

「タチの悪いイタズラすんなよ……」気が抜ける。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ怖かった。
「ごめんごめん」びっくりさせようと思って、じゃない。
怪談とかお化け屋敷とか、苦手だと知っているくせに。

とりあえず彼女を招き入れ、適当に座らせる。
「で、泊めてくれってなんで?」キョトンとされた。
「え。了承したから入れてくれたんじゃないの?」
「理由次第だよ」外は寒いから一時的に入れただけだ。

聞けば、明日、近くで行われるイベントに行きたいとか。
知らんと放り出したいが、もう暗いので仕方なく許す。
「やったぁ。昔みたいに一緒の布団で寝る?」
「バカ」断ればよかった。またそうやって僕の心を弄ぶ。

7/28/2024, 9:40:48 AM


【神様が舞い降りてきて、こう言った】Other Story:B


周りに評価を聞けば、ほとんどが「良い人」と答える。
ただそれは言葉通りでなく、(都合の)良い人という意味。
頼まれごとは断らないし、不平不満も言わない。
事なかれ主義な自覚はあるが、性分だから変われない。

「ほんと損な性格してるよな、お前」
小学生以来の幼なじみは諦めたみたいで苦笑い。
「僕もそう思うよ」クラス全員分のノートは重い。
それでも手を貸してくれて助けられている。

「そろそろ断ることも覚えろよ?」無理だろうけど。
そんな副音声が聞こえるのは気のせいか。
「俺にできることなら手伝ってやれるけどさ」
わかるよな、と物言いたげな目が僕を射抜く。

最近、幼なじみからの小言が増えてきた。
僕も迷惑をかけるのは本意ではないから改めないと。
変われない、というのは思い込みかもしれないし。
そんな事を考えていた帰り道、事件は起きた。

まさに青天の霹靂。晴天から落ちた一筋の光。
その軌道をなぞるように降ってきた、一人の少女。
思わず空を見上げた。とても現実だとは思えない。
重力を感じさせない速度でゆっくりと落ちてくる。

ふわりと地面に横たわり、少しして目を覚ました。
「あの。大丈夫ですか?」問うと、少女は目を瞬く。
何も言葉を発さないまま、物珍しそうに周りを見回して。
「私は『あの』なの?」一瞬、理解ができなかった。

「たぶん違うと思いますよ」知らないけど、たぶん。
話を聞くと、封じられた力が名前に紐づいているらしい。
「一緒に調べてくれる?」期待に目を輝かせる少女。
「……いや」断るべき場面もある。今は心からそう思う。

7/26/2024, 7:56:03 AM


【鳥かご】Other Story:B


無くしたくない大切な物をどう管理するか。
僕はいつでも見える位置に置いておく。
ちらと目を向けるだけで、そこにあるとわかるように。
では、形のないモノはどう管理するべきだろう。

見えないモノは存在しないも同然。
だから何度でも、しつこいほどに確かめないと。
仕舞っているだけなら定期的に表に出せばいい。
そもそも目に見えないモノは、信じることにした。

言葉で。行動で。君は懸命に伝えようとしてくれる。
僕が疑うと、何度でもここにあると教えてくれる。
だから僕も信じることにした。君だけは。
それが目に見えない最たるモノ、心だとしても。

結婚するとき、僕は条件を出し、君は一つの約束をした。
条件は二つ。まず、君が専業主婦になること。
そして外出するなら連絡するか、書き置きを残すこと。
君は頷いた。僕を不安にさせる言動はしない、と。

君のいる生活は、想像よりもずっと安らぎで満ちていた。
「行ってらっしゃい」「お帰りなさい」「お疲れさま」
その言葉があるだけで明日も頑張ろうと思える。
君が言葉を惜しまない分、僕も行動で尽くしたい。

「週末、友達と遊びに行ってもいい?」君のお願い。
もちろん、と僕は笑顔で返す。脳内では葛藤。
外で何かあったら。もしも帰ってこなかったら。
不安を隠して送り出した。

君のため。そう考えた末の選択を、後悔している。
〈今どこ?〉〈何してるの?〉〈いつ帰ってくる?〉
何時間経っても未読のままで、返事がない。
やっぱり、外に出したらいけなかったんだ。

7/24/2024, 8:47:19 PM


【友情】Other Story:B


スキ、キライ、スキ、キライ、スキ。
一枚ずつちぎる私の呟き、誰にも聞こえていないよね。
花弁の枚数が奇数だと信じて「スキ」から始める。
運任せにみせかけたイカサマ占い。

でも、やっぱり、「キライ」であってほしいかも。
スキなら告白する。キライなら秘めたまま。
勝手に決めた自分ルールで失敗すること2回。
二度あることは三度ある。三度目の正直でも喜べない。

キライ、スキ、キライ、スキ、キライ。
禿げていくたんぽぽが可哀想に思えてきた。
どんな花でも良かったけど、これを選んだ理由は単純。
花弁が多くて、どこにでもある花だから。

それから、少しの憧れもあるかもしれない。
アスファルトを割って咲く力強いイメージ。
何度踏まれても立ち上がり、道の端で輝いている。
その姿を眩しく思いながら、摘み取った。

スキ、キライ、スキ。枚数が減るほどに察する。
これ、「キライ」で終わりそう。
ほっと息を吐いた私の意気地なし。
告白しなくていいんだ、って。安心してしまった。

最後までちぎるのが惜しくなって、くるくる回す。
残るは8分の1ぐらい。こんな行為に意味はないのに。
じっと見つめて考える。再開しようとして手が止まった。
あれ。次はどっちだっけ。

スキ? キライ? わからない。
思い出せないのをいいことに、ぶちっとまとめてちぎる。
曖昧にした結果はまた次の機会に預けて。
今はまだ、変わらない関係に甘えていたい。

7/22/2024, 5:40:27 PM


【もしもタイムマシンがあったなら】Other Story:B


占いは信じないタイプ。だって胡散臭いし。
特に許可を得ているのか怪しい、路地に構えた露店。
顔の一部でも布で覆っていればなお疑わしい。
そんな典型に、いま捕まっている。

「そこのお姉さん。強い後悔の念が見えますよ」
唐突に話しかけられたら不審者だとしか思えない。
「気のせいです」足を止める価値すらない。
誰にでも当てはまることを言うのは定番の手法だ。

「過去に戻りたいと思ったことはありませんか?」
「ありません」戻りたいと思えばいつでも戻れた。
それを可能にする機械は私の生前から存在するのだから。
近年では小型化され、腕時計型やペンダント型もある。

軽量化、ポータブル化のうえ大量生産されて安価に。
今や携帯電話のように誰でも手に入れられる時代。
時間旅行がビジネスになるほど一般化している。
しかも、いくら干渉しても現実世界への影響はないとか。

「もういいですか」振り切って歩く速度を上げる。
どうでもいい話に費やせる時間など一秒もない。
自宅に戻ると、穏やかな笑顔が迎えてくれる。
惜しみたいのは、彼との時間だけ。

「僕はあるよ。過去に戻りたいって思ったこと」
不審な占い師の話をすれば、返ってきたのは意外な答え。
「君もあるよ、絶対に」言い切られるとそんな気がする。
あったのかな。考えるほどに、頭痛が、して、酷く……

「おはようございます。ご気分はいかがですか?」
「……ぁ」研究施設だろうか。大きなモニターがある。
いわく、都合の良い夢を見られるコールドスリープ。
彼との平穏な日々など、もうこの世にありはしないのだ。

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