燈火

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【秘密の標本】


彼はちょっとキザで可愛い、友人の弟くん。
初めて顔を合わせたのは、私が高校生の頃。
彼はまだ中学生になったばかりだった。
友人の家を訪れるのにも慣れてきた、ある春のこと。

思春期で手を焼いている、と友人から聞いていた。
もし迷惑をかけたらごめんね、とのこと。
だから私も、あまり構わないようにしようと思った。
たまたま玄関で鉢合わせて、小さく会釈を交わす。

思っていたより思春期らしくない印象。
私の歳の近い弟はもっと酷い態度を取っていた。
今でこそ落ち着いたものの、あれはかなり怖かった。
それと比べれば全然、彼の思春期はかわいいものだ。

帰り際、ちょうど帰ってきた彼とまた鉢合わせる。
その手には、なぜか四つ葉のクローバーがある。
「また来てもいいよ」ずいっと差し出された。
ありがたく受け取り、私は後日それを栞にした。

高校を卒業後、私と友人は別の大学に進学した。
地元を離れた友人の実家を訪れることはもうない。
たまに話をした彼とも今後は会わなくなる。
そう思っていたが、意外にも交友は終わらなかった。

一人暮らしをする私の家へ、彼は時々やってくる。
姉のおつかいで、といつもどこか不満そう。
だけど来る度に、きれいな一輪の花を贈ってくれる。
それら全てを押し花にして、私は大切に残している。

花を贈られる。その意味をなんとなく察せるけれど。
私は鈍感なふりをして、あえて花言葉も調べない。
いつか彼がそれを言葉にして贈ってくれたなら。
その時は、私もコレクションを明かそうと思う。

11/3/2025, 7:00:23 AM