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【1件のLINE】2023/07/12

最近、新しくスマホを買い替えた。
機種はよくわからない。けど、明らかに
私が持つには勿体無いぐらいいいスマホ。別に私は連絡ぐらいしかしないし、こんなにたくさんの機能は要らないんだけどな。
-でも、あんなこと言われちゃったら、買うしかないよねえ。



「ねえお母さん、そろそろガラケー卒業したら?」
唐突に、少しスマホに依存している娘からそんな提案をされた。今ですらスマホの画面と睨めっこをしている。
-提案じゃなくて、要求かな。
「なんで?」
理由はなんとなく想像がつくが、一応聞いてみる。
「なんでじゃないよ。今の人はもう大体スマホだよ?なのにお母さんはまだガラケー使ってるし。学校からの連絡だってメールできたりするんだから、連絡来ないとこっちが大変なんだけど。」
やっぱりそう言う話よね。
最近になってメールでの連絡が多くなったり、同年代の知り合いもスマホを使い始めた。ここらで使っていないのも私ぐらいだ。
でも、だからと言って紙での連絡が来ないわけでもないし、今までだってなんの問題もない。今も特に方針が変わる動きも見えない。
娘がいきなりそんなことを言い出すとは思えなかった。
「本当にそれだけ?」
横目で娘の様子を伺う。女手ひとつで育てたからか、重度の反抗期である娘は、拗ねたようにこちらから目を逸らした。やっぱり何かあるのだろう。
「…だって、友達に笑われたんだもん。」
なるほど。そう言うことだったのね。
確かに、ある程度スマホが出回ったこの時代、ガラケーを持っている母親なんて、彼女らからしたらあり得ない話なのだろう。そこまで気にすることなのかとも思うが、彼女はよほど嫌だったらしい。
「はあ…仕方ないわねえ。」
そう言って私は、40を過ぎた今、スマホデビューを決意したのである。

今日は帰りが遅いわねえ。

雨が降る様子を窓越しに眺めながら、1人ため息をつく。
もう少しで本降りになるから、早く帰ってきて欲しいのだが、どうしたものか。私は心配しながら台所へ向かう。その時、何やら無骨い四角い物体が目に飛び込んできた。
そうだ、スマホで連絡すればいいじゃないか。
私はスマホ画面を開いて、緑色のアイコンを押す。娘曰く、スマホを持つ人々は、大体このLINEとやらで連絡をとっているんだそうだ。
わたしはなれないうごきで日本語のキーボードをゆっくり押していく。

「今、どこにいるの?」

30秒くらいかかって、初めての娘へのLINEを送った。少し鼓動が大きくなっているのがわかる。
私はって続けにもう一件LINEを送ってみた。
「雨、結構降りそうだから、早く帰ってきなさい」

-なんの連絡もない。

どうしたのかしら、部活で何かあったとか?
私は何度もスマホへ一瞥をくれる。その時、スマホの振動音が聞こえてきた。
いつのまにか私は携帯を握りしめて画面を開いていた。
-あれ?LINEってどこだっけ?
まだなれてないせいで、返信を見れないのがまどろっこしい。
ようやくLINEを開いて、娘の、最近人気らしいアイドルグループの画像のアイコンをタップする。

画面には、たった一文。
「どもだちとご飯食べてくから、帰り遅くなる。」

たった一文。

たった一件のLINE。

はめあたしはため息をついて、スマホ画面を閉じ、無造作にソファーの上に放り投げる。台所にある写真立てを見つめて。

そこには、まだ若かりし頃の新米ママの私と、その私に抱きついている満面の笑みの小さく可愛い娘がいた。

7/12/2023, 6:56:25 AM