泡沫

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波が引いては近づいてくる。
辺りは闇で満たされていて、砂浜に打ち付ける音だけが辺りに響いていた。
本当に真っ暗だ。都会の海なんて大したことなくて、こんなに暗くないと海で癒されることはないと思う。汚いし、濁ってるし、ゴミあるし。それらを闇が隠して、やっと海だと感じられる。もはや音だけが海だと言っているようなものだけれど。
今夜は星もないし、月もない。海だけじゃなく空気も濁っているここは、何もいい所なんて無い。いや、それは言い過ぎかもしれないけれど。
荒れてるなと、私が一番思っている。理由も分かっている。でも、だからどうという事でもない。解決する訳じゃわないから。むしろもう終わった後だ。
「前なら、明るい海の方が好きだったかな」
もう忘れてしまった。それとも、思い出したくないのか。感情のない呟きは、海に飲まれて消えてしまった。
隣を見ても、海に一緒に来てくれる君はもう居ない。無理に連れてきてたかな。君はまたここに来たりするのだろうか。海に来ても、ずっと隣の君を見ていたことを思い出した。
溢れそうになる感情を抑える。でも直ぐに無理だと察する。
顔が熱い。胸が締め付けられるように苦しい。
でも。いや無理だ。
寄せる波に足で触れる。しゃばしゃばと水が戯れる。海は私を歓迎してくれているように思えた。頬を伝うそれと同じだから、なんて馬鹿なことを思った。
感情が溢れても、声は殺そうと必死だった。声を上げてしまったら、きっともう止まらないだろうから。
膝当たりまで入ったところで、スマホが震えて光る。まるでこれ以上はダメだと知らせるように。
通知なんて、もう気にすることなんてない。君から1件のLINEも、来ることなんてないから。

7/12/2023, 8:02:49 AM