『香水』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
みんなそれぞれ愛してやまない匂いというのが存在しているだろう。
私ももちろん存在する
まわりのひとに
じぶんから
発するニオイ
嗅がせては
嫌われること
気にしては
ニオイ消すこと
ばかりして
自分を外に
開くこと
出来なくなって
ここにいる
ニオイを武器に
するなんて
とても自分は
出来ないと
決めつけている
今日もまた
香水なんて
選択肢
自分の中に
見つからぬ
『香水』
貴方の香りで
忘れられない夜に結びついた
ねぇ、これ以上
私を口説かないで!
ずるいよ
ずっと記憶に残っちゃう、
10も年上の貴方に
のぼせ舞い上がった私は
大人になって気づくんだ
見抜けない罠に
香水がまとわりつく素肌に
溺れて・・・
私があげたシトラスの香水を、貴方はいつから纏ってくれなくなったのだろうか。3年間一緒に居たけど、私達の間にあった愛はいつ冷めたかも分からない。気が付けば私は貴方と距離を置かれていて、貴方から香るのはいつだって芳醇なラベンダー。それは知的で端正な貴方によく似合っていたけれど、私が求めている事に応えてくれないのが悲しかった。
色白な貴方は、今はもう真っ赤に汚れている。シトラスでもラベンダーでもない、生臭い匂いが私の鼻をつく。私の何が悪かったんだろう。いつから貴方は私を見てくれなくなったんだろう。
「君は、僕には重すぎる」
そう言い残して貴方は消えてしまった。私のお腹に深く刺さった包丁を抜かないまま。でも今は、貴方と同じ匂いになれて嬉しい。
母のドレッサーはいわゆるハイブランドのパウダリーな香水の匂いがした。
しかし私があの匂いにこうした説明をできるようになったのは上京して伊勢丹なんかで同じ匂いを嗅いでからだ。
母は普段化粧をしない人だった。
まして香水をつけているところは一度も見たことがない。
おそらくドレッサーの引き出しに入っていたあの香水も貰い物か何かだったのだろう。
初めその匂いを嗅いだ時は正直臭いと思った。
そのドレッサーも長く使われていないからその香水も古くなってこんな匂いになってしまったのだと思った。
埃やカビの匂いと混ざってしまっているのだ、と。
もしもあの匂いを初めて嗅いだ場所が伊勢丹の煌びやかな化粧品コーナーだったら、
私はあの匂いを良い匂いだと思っただろうか。
それともやはり臭いと思っただろうか。
触れ合う度に香る君の匂いを
僕はいつから遠ざけるようになっただろう
君が恐ろしく美しい
凍えるような笑顔になったのは
それでも君に縋っていたい僕のせいなんだろう
割れた君の匂いの欠片を
濁った僕の心と吸殻も一緒に
思い切り踏み躙った
【香水】
今でも鼻の奥にほのかに残る。匂いに浸って静かに目を閉じると、瞼に思い浮かぶ君の眩しい笑顔。今でも君の優しい"香水"の匂いが鼻の奥に残って…君の顔が思い浮かぶたんびに…胸が締め付けられる。ねぇ、早く戻ってきてよ。苦しいよ…。会いたい。
中学生の頃
初めて自分のお小遣いで買った香水はGUCCIのENVY。
そこまで好きな匂いだったとは言えないけど当時500円で友達とお揃で買った初めての大人の香り。
それ以来香水を沢山集めるように。
何十種類もある中でリピートしてるのは今のところ3つ。
こんなに種類があるのにずっとつけていたいと思える香水はかなり少ない。
人に香らせるというよりは自分がつけて1番テンションが上がるやつ。
夏には爽やか系、冬は少し甘ったるい感じが好み。
まだまだ出会ってない香りがあると思うとすごく気になるし楽しみ。
これからもずっと自分の理想の香りを探し続けると思う。
「香水」
香水というものに、苦手意識を持っていたのはいつからだろうか。私は昔から、香りに敏感だった。デパートの化粧品コーナーの横を通るとき、魚市場の中を歩くとき、さらにはバスで近くの人の香りのきつさに頭が痛くなることさえあった。
そんな私も年月がたち、だんだんと鈍くなった。
そして私の香水嫌いを徹底的に変えたのはいうまでもなく、やはり、あの人であった。
あの人とは、初恋の人、廉のことだ。
廉と私は、いわゆる幼なじみというやつだろう。しかし、マンガやアニメでよくみる、幼なじみの男女のどこか恥ずかしいような恋愛の香りは、私達には汎ってはくれなかった。私がどんなに望んでいても。
私は廉のことが恋愛として好きだ。だから、どうにか意識させようと、大好きだとそれとなく言ってみたり、夏は暑いねと言いながら扇風機の風に二人であたったり、冬は寒いのを口実に近くに寄って話したりと、さりげないアプローチを続けた。
その結果がこれだ。
「葵ってほんと、優しいよな。俺、葵と出会えて良かったよ。俺たち、一生親友でいような!」
この言葉に笑顔でうんと答えた私を、だれか賞でも与えてくれないだろうか。
彼には恋愛感情というものがないらしい。
それでもいいと思った。親友としてでも、彼の隣に立てるなら。
高校生になって、廉とは違う学校に行って。
それでも廉は私のことを親友だと思ってくれているようだった。
「今度二人で駅前行かねえか?俺、こないだ葵が好きそうな店見かけたんだよ」
高校生の男女が出かける。これをデートと言わずになんというのか?だが廉がデートではないと思うならこれはデートではないのだ。
わかっていても勝手に上がる口角が疎ましかった。
「葵!久しぶり!」
「廉!うわあ、見ない間におっきくなって。」
たった3ヶ月ぶりに会った廉は背が伸びていて、服もなんだか大人っぽい。
ん、なんだろう、この違和感は。
「廉、なにか香水とかつけてるの?」
「おっ、気付いたー?」
これ、珍しい香りの香水なんだぜ、と自慢げに話してくる。香水は苦手だと思っていた。でも……。
(なんか、どきどきする……。大人の男性ってこんなかんじなのかな……。)
私が黙っていると、
「あ、もしかして葵も香水興味ある?」
唐突な質問につい、う、うんと返事をしてしまった。
「じゃあ、いいとこがあるよ!行こう葵!」
「まっ、待ってよ廉!」
ついたのは香りの玉手箱だった。
(うわ……おとなの世界だ……。)
あまりのお洒落さにけおされてしまう。今日してきた自分の精一杯のおしゃれが滑稽に見えて恥ずかしかった。
そんな場違いみたいな世界に、廉はどんどん足を踏み入れていく。
(は、はぐれちゃう!)
廉を見失わないよう、あわててついていく。
廉は奥の方の棚の前で立ち止まっていた。
「ここは割と安めの香水のコーナーだよ。いいよね、この安さで香水が買えるの」
「ふ、ふーん……。」
香水の相場などわからない私は、適当に相槌を打った。
「葵はどんな香りが好き?」
「うーん……。お花の香りはだいたい好きだけど……。花の香りってありふれてる感じはするなあ……。廉みたいに、珍しいのが付けてみたい」
「珍しい香り、か……。へえ、俺のおすすめでいいなら……」
こっち来て、と手招きされた。
「これとか、葵の雰囲気にぴったりかなって、思う」
「マヌカハニーの香り……?はちみつ?」
「うん、甘くてかわいい感じで、葵にぴったりだろ。しかも……」
「わあ、容器がクマの形だ!」
テディベアをかたどった、ころんとした形をしている。
「気に入った?」
「うん!これにしようっと」
ちょっと高いけど、せっかく廉と来てるし。買えないことないしね。
そう思ったけど、廉は私の想像を超えるセリフを言った。
「じゃあこれは俺からのプレゼントな」
「ええっ!?も、もらっちゃ悪いよ」
「気にしないでいいって!久しぶりにあったら、葵めっちゃおしゃれな格好してきてるし、でも中身はやっぱり葵のままで楽しかった。だからそのお礼、的な?今日会えた記念な」
「もう……廉の口説き上手……他の女子に言ったら絶対勘違いされるからね!私は廉が恋愛しないってわかってるけどさあ。照れるなあもう。ありがと!」
本当に廉はこれだから困る。
(香水、ずっと大事にしよう)
(今日のことを、ずっと忘れないために)
これが私の香水への評価が180度変わった日だった。
四百年ほど前、ある所に田井尊という男がいた。
彼は子孫代々武勇に優れたサムライの家系であり、彼もまた先祖と同じように勇敢なサムライであった。
剣、弓も天下一品ばかりでなく、兵法や政治、さらに芸術や茶の作法にも精通しており、まさに非の打ちどころのない武人であった。
そんな人物を世間が放っておくはずもなく、とあるお殿様が三顧の礼を持って彼を迎え入れた。
その甲斐あってか、彼の武勇に恐れをなした近隣国は戦を挑もうとせず、国はながく平穏そのものであった
そして日本全体が平和になるまで、大きな戦に巻き込まれることは無かった。
徳川の世になってから数年後、田井尊はお殿様に暇乞いに行った。
お殿様は驚いた。
彼には何不自由ない生活を送らせていたし、不満そうな様子も無かったからだ
どういうつもりなのか、お殿様は理由を尋ねた。
「この日本が戦乱で満ちていたのは今は昔、現在の日本は平穏そのものであり、戦いの気配はどこにもない。
このわたくしめの武勇を活かすことはありません」
「しかし、ここを去ってどうするつもりだ。
その言い方では、他の大名に仕えるわけでもあるまい」
「僧になりたいと思っています。
日本各地を廻り、この戦乱の世で散っていったたくさんの魂を沈めとうございます」
「なるほど。
普通であれば不可能と一蹴するが、他でならぬ田井尊の言葉。
他の者は不可能でも、お主は成し遂げられるだろう」
そう言ってお殿様は、今までの奉公に対して褒美を出し、彼を快く送り出したのだった
そして彼は剃髪して僧となり、名を田井尊から耐尊とした。
褒美でもらったお金は僧になるための準備に使った以外は、返納して旅に出たのであった
■
旅を始めて一か月たったところ、耐尊は一日中飲まず食わずで歩きとある村にやって来た。
耐えようのない空腹で、この村で食べ物を分けてもらうと思った耐尊だが、その目論見はもろくも崩れ去る。
その村は酷く荒らされており、辺り一面に死体が転がるなど、悲惨な状況であったからだ。
この平和な時代にありながら、まるで戦のようだと耐尊は思った。
耐尊は村の長を訪れ、魂を鎮めるためお経を読みたいと願い出る。
だがそこで聞かされたのは驚きの事実であった。
この村の状況は戦によってではなく、化け物の仕業によるものだと言う
それを聞いた耐尊は、自分が化け物を退治することを申し出る。
しかし村の長は耐尊の申し出を拒否した。
この化け物を退治しようと、何人もの力自慢や高名な僧が挑んだが、誰も帰ってこなかったからだ。
だが村の長は、耐尊の熱意に押され化け物退治を依頼することにした。
村の長から場所を聞き、耐尊は化け物がいるという森にやって来た。
「いるか、ばけもの。
退治しに来てやったぞ」
「だれだ、世迷いごとを言うのは!
二度とそんな口が利けないよう食ってやる」
「やってみるといい」
耐尊が叫ぶと同時に、暗がりから何かが飛び出してくる。
村を襲った化け物だ。
耐尊は化け物の不意打ちを難なくかわす。
「お釈迦様のありがたいお経を聞くと言い」
耐尊は数珠を手に持ち、お経を唱え始めた。
多くの化け物は、お経を聞けばのたうち回り、いずれ浄化される。
耐尊は持てる霊気を数珠に込めてお経と唱えた。
だが、目の前の化け物には全く効いている様子はなく、耐尊は動揺する。
「馬鹿め、俺をそこら辺の三下と同じにするな。
お経など俺には効かん。
ただの言葉など何を恐れる必要がある?」
「なんだと!?」
「万事休すだな、人間!
絶望に包まれたまま死ぬと言い」
化け物の激しい攻撃。
耐尊は身をねじってかわそうとするが、目にもとまらぬ猛攻によけきることが出来ず、耐尊の体に傷が増えていく。
だが耐尊は追い詰められているにも関わらず、毅然《きぜん》とした態度をとっていた。
「ふん、すばしっこい野郎だ。
逃げなければ一思いに殺してやるものを!」
「思いあがるでないぞ、化け物。
お前ごときが俺に勝てるとでも?」
「何だと?」
耐尊は持っていた数珠を放り投げる。
化け物にお経が効かない以上、無用の長物だからだ。
投げられた数珠は、ズシンと鈍い音を立てて地面にのめり込む。
「な、なんだ、その数珠は!?
鈍い音がしたぞ」
「これか?
これは特別に作らせた、鍛練用の数珠だ。
重さは確か、十匁(約38キkg)だ」
「十匁だと!
なんでそんなものを!?」
「鍛練用と言っただろう。
そして……」
耐尊は来ていた着物を脱ぎ棄て、ふんどし一丁になる。
その服も見かけから想像できないような鈍い音を立てて、地面にめり込んだ。
「さて、これで楽になった。
存分に殺し合おうではないか」
「待て、待ってくれ。
話し合おう」
「もはや話し合うことなどない」
「待ってくれ、改心したから、人間を襲わないから」
「言葉はいらない、ただ……
殺し合うだけだ」
■
「物の怪は退治しました。
もうこの村を襲うことはありません」
「ありがとうございます。
これで安心して暮らせます」
村の長は、耐尊に何度も何度もお辞儀をする。
彼は嬉しさのあまり、泣きながらお辞儀していた。
「もはや村を捨てるしかないと覚悟していたところです。
感謝の言葉もありません」
「感謝の言葉だと?」
「あの…… 耐尊様?」
村の長は、急に態度の変わった耐尊に体を震わせる。
なにか変な事でも言っただろうか?
村の長が不安で震えていると、耐尊は人を安心させるような笑顔で言った。
「感謝の言葉はいらない、ただ……」
「ただ?」
「ただ、食えるものを持って来てくれ。
昨日から何も食ってないんだ」
匂いほど、強引に過去を連れ出してくるものはない。
雨が降り出す前のアスファルトから立ち昇るあの匂い。
太陽をぱんぱんに浴びてはちきれそうなほどの安心感を詰め込んだ布団のあの匂い。
母の鏡台の付近からどこからともなく香ってくるあの匂い。
そして街ゆく人々の誰かからふんわりと運ばれて来るあの匂い。
君があの頃につけていた香水に似た匂いにたった1秒でも触れた瞬間、私はセーラー服で放課後のグラウンドを見下ろす10代の頃に立ち返る。
香水
今日新大久保に行った。駅に着いたとき思わず「香水臭」と言ってしまった。周りの目がすごく怖かった。駅を出てお腹が空いていたのでお店を探しているとシトラスのような匂いがしている人とすれ違った。「ちょっと待って」そう言って俺はその人の手を掴んだ。だがその人は俺が探している人とは違かった。「すみません人違いです」そう言って俺は歩き始めた。俺が探しているのは一緒の施設で育った血のつながっていない姉貴だ。姉貴は毎回出かけるときに必ずシトラスのような匂いがする香水をつけていた。でも3年前殺人事件に巻き込まれて死んだ。だが、俺はそんなことを信じなかった。だから今でもこうして姉貴を探している。あのとき決めたんだ。どんなに汚い手を使っても姉貴を見つけると。
隣の席のあの子が嫌い
一軍女子で明るい子
友達にハズレ席だとぼやいたからかな
なぜか私への視線は鋭い
校則違反のお化粧も
似合ってるからいいと思う
でも煮詰めたハチミツのような
香水は私にはきついです
香水。
香水、私はあまり好まないものだ。
まぁ、匂いによるが。
あまりにキツイのはどうかと思う。
というより、必要だろうか。
そう思う。
香水
「ヴァシリーはいつもいい香りがするよね」
「……何だ、藪から棒に」
鍛錬の後、部屋に戻ってミルの淹れた茶を飲んでいた時にミルがそんなことを言い出した。
確かに嗜み程度に白檀の香を部屋で焚くことが多い。その香りが服や髪に染み付いているのだろう。試しに服の袖をすん、と嗅いではみるが香りはしない。
「ほら、いい香りがすると落ち着くでしょ?私もその白檀の香を焚いてみたいなぁ……なんて」
目を輝かせながら娘はそう言う。俺はカップを置き、腕を組んで目の前の娘を見つめる。
「いや、お前に白檀の香りは合わんな」
「えぇ〜……」
「それに香を焚く、ということは煙が出るということだ。それで喘息の発作を引き起こすこともある」
「そうなの?それは任務に支障が出るから嫌だな……」
「ああ。だから、香の代わりに別のものを後日用意してやろう」
「別のもの?」
首を傾げるミルに俺は手招きをする。席から立って、ミルは俺の側まで歩いてくる。腕を引いて、その小柄な身体を腕の中に閉じ込める。
「それは渡す時までの楽しみにとっておけ。いいな?」
「うん、分かった」
褒めるように頭を撫でてやると、ミルは嬉しそうに目を細めてこちらに全身を預けてくる。
まるで猫のようだ。中庭によく現れる野良猫にやるように顎元を指先で優しく撫でてやれば「猫じゃない」と軽く睨まれる。
「おや、先ほどまでは懐いていたのに……今は違うか?」
「そうじゃないけど……猫じゃない」
ミルの拗ねたような顔に対して、口角が自然とあがる。
「それはすまなかった。どうしたらお前の機嫌は治る?」
「……絶対に申し訳ないと思ってないでしょ」
「思っていない」
「……」
呆れたように息を吐かれた。しかし、娘が俺の腕の中から抜け出す素振りはない。
「どうした?呆れたならここから抜け出せば良いだろう?」
「申し訳ないと思うのなら、ここにいさせて。この白檀の香りを味わいたいの」
「いいだろう。好きなだけここにいるといい」
心地良さそうに擦り寄ってくる娘の頭を撫でる。
いろんなことを言いはするが、結局は俺のもとからこの娘は離れられない。
だが、それで良い。この娘が俺のもとから離れられなくなれば良い。俺がこの娘のことを常に思うように、ミルも同じように常に俺のことを考えたら良い。
そうじゃないと不平等だろう?
数日後。
任務終わりに私はヴァシリーに呼び出された。彼の部屋に訪れると、白檀の香りがする。殺風景な部屋に置かれた簡素なテーブルの上にお香が置かれていた。そこから煙がゆらゆらと細い線を出している。
「来たか。そら、例のものだ」
寝台に腰掛けていたヴァシリーが小さなものを投げてくる。受け止めて、見ると……それはシンプルなデザインのガラス瓶だ。中に水のようなものがある。
「これは?」
「香水、というものだ。先日お前に合うものを用意してやると言っただろう?首元に付けてみろ」
「……ありがとう、ヴァシリー」
キャップを外し、軽く首元に香水を振りかける。ふわりと林檎とムスクの香りが鼻腔をくすぐった。
「良い香り……」
「気に入ったか?」
「ええ、とても!ありがとう!」
甘すぎないその香りは私の好みだった。ヴァシリーの方を見れば、寝台から立ち上がってテーブルの上に置かれた香を消していた。
「あれ?何で消すの?」
「香りが混ざるだろう。白檀はいつでも楽しめるが、お前のその香りはお前が近くにいないとわからない」
ヴァシリーは私の元まで歩いてくる。そうして、少し屈むと私の首元に顔を寄せた。
「くすぐったいよ、ヴァシリー」
「我慢しろ」
「えぇ〜……」
しばらくした後、ヴァシリーは首元から離れた。そうして満足そうに笑うと私のことをぎゅっと抱きしめる。
「……ヴァシリー?」
「またその香りを付けてこい。俺もその香りが気に入ったからな」
「もちろん。付けてくるよ」
この香りをつけていれば、いつでもヴァシリーのことを思い出せる。それが何だか嬉しくて、大事な師の腕の中で私は笑っていた。
香水
香水の瓶ってテンション上がる。
全部可愛いのよね。
香水
「贈り物ですか?」
綺麗にディスプレイされている香水を手にしては戻し、また別の品を手にとりを繰り返すこと数回。店員さんに声をかけられる。普段入ることなどないセレクトショップ。並べられている商品も縁遠く途方にくれていた。声をかけてくれた店員さんにこれ幸いと頷く。
「はい。お世話になった方へプレゼントしたくて」
まぁ素敵ですね。お相手は女性の方ですか、等々、質問されるままに答えていく。
半年前、卒業したばかりの高校の担任。歳上の女性。そしてこれは伏せるが初恋の相手。ご家族の都合で遠い地に引っ越すことになったらしいとかつての同級生に連絡が回った。
急なことでもあるため皆で集まって見送る時間もなく。本当に慌ただしく旅立ってしまった。個々にお別れのメッセージは送ったがすっきりしない。そんな時ふと思い立った。そうだ。プレゼントを贈ろうと。おあつらえ向きに明後日は先生の誕生日だ。
香水を選んだのは何となくだ。自分の中の贈ってカッコいいプレゼント、ベスト3に入る。香りは記憶に残るとも言うし。あと一つはまだ買えないけどワイン。残りは、何だろうね。
そうして俺は、優雅な小瓶を手に入れた。青臭く告白めいたカードも封入し、梱包は万全。送り先は遠方のため航空便でと宅配業者の窓口を訪れる。しかし。
「申し訳ございません。香水は航空便では取り扱い出来かねます」
意気揚々と発送に訪れた俺は自分の無知を知る。
一人舞い上がっていた気持ちが萎んでいく。通常の発送は出来るけど誕生日である明後日には間に合わない。断りを入れ窓口を後にする。
そっかー。香水って飛行機じゃ送れないんだ。一つ学んだ。あー青空眩しい。
「香水」
香水は、
記憶の扉を開ける鍵。
すれ違いざまに、
香りがふわり。
昔の恋人がつけていた香水。
普段思い出すこともないが、
その香りで思い出す。
嬉しかった事も、
苦しかった事も。
無意識のうちに、
記憶の扉が開く。
私のつけている香水も、
誰かの記憶の扉を開けるだろうか。
香水。
いい匂いになるよな。
でも、臭いやつもあるぜ。
臭いってなんだよ。なわけないだろ
匂いが強すぎて、嫌な奴もあんだよ
ん〜そんなことがあんのか..
まぁ何事もほどほどにってことだな、
何、かっこいいこと言ってんだよ
でもそうだろ?
まぁ..たしかにな
でも、お前はもっと頑張った方がいいわ
うるせぇよ。お前もだろ。
...ふっはははは
なんか、匂いが強い香水が生まれた理由がわかった気がする
はははははは
香水。
いつもつけてる
香水だけど
人の匂いによって
少しずつ違う。
私の鼻の奥に
留まった
香水の香り。
ずっと同じ香り。