母のドレッサーはいわゆるハイブランドのパウダリーな香水の匂いがした。
しかし私があの匂いにこうした説明をできるようになったのは上京して伊勢丹なんかで同じ匂いを嗅いでからだ。
母は普段化粧をしない人だった。
まして香水をつけているところは一度も見たことがない。
おそらくドレッサーの引き出しに入っていたあの香水も貰い物か何かだったのだろう。
初めその匂いを嗅いだ時は正直臭いと思った。
そのドレッサーも長く使われていないからその香水も古くなってこんな匂いになってしまったのだと思った。
埃やカビの匂いと混ざってしまっているのだ、と。
もしもあの匂いを初めて嗅いだ場所が伊勢丹の煌びやかな化粧品コーナーだったら、
私はあの匂いを良い匂いだと思っただろうか。
それともやはり臭いと思っただろうか。
8/30/2024, 1:37:11 PM