匂いほど、強引に過去を連れ出してくるものはない。雨が降り出す前のアスファルトから立ち昇るあの匂い。太陽をぱんぱんに浴びてはちきれそうなほどの安心感を詰め込んだ布団のあの匂い。母の鏡台の付近からどこからともなく香ってくるあの匂い。そして街ゆく人々の誰かからふんわりと運ばれて来るあの匂い。君があの頃につけていた香水に似た匂いにたった1秒でも触れた瞬間、私はセーラー服で放課後のグラウンドを見下ろす10代の頃に立ち返る。
8/30/2024, 1:26:11 PM