満員電車でオジサンの角の尖った鞄がちょうど膝の裏に当たる度に思う。
ああ、明日こそはもう少し早起きして、もう一本早めの電車に乗るぞ、と。
- きっと明日も
この生活はまるで水槽の中ね
変わり映えのない日々を壁伝いに
巡ってゆくだけの日々
落としたものをいつまでも想って
気付けば星の見えない街に辿り着いていたの
忘れたくない記憶から順番に失われてゆく
此処に在るのは確かに目に見えるものだけ
愛はとっくに灰になって
静寂に包まれた部屋
君はもういない
- 静寂に包まれた部屋
君にもらったお菓子の包装紙すら捨てられない。
– 些細なことでも
朝起きた瞬間からなんとなく不安で、「あ、このままだと今日一日まずいな」と、思った瞬間が最後。一日がなんとなく不調のまま終わってゆく。
特段大事件がなくても、なんとなく自分が悪かった気がして一人反省会を開いたり、電車の中で肩が触れ合うだけで、なんとなく嫌な気持ちになってしまったり。
とにかく、なんとなく、きっかけも意味もなく、すっきりしない気持ちのまま迎える夜は、いつにも増して寂しい。
そんな孤独が似合う夜には、心にそっと薪をくべる。隣り合った薪に火がゆっくりと渡ってゆく様をただじっと見つめながら、温かくて砂糖がたっぷり入ったミルクティーを、毛布にくるまりながらちびちび飲む。
それでもうばっちり、完全回復!とはなかなかいかないけれど、みぞおちあたりでささやかに灯る明かりは、明日はちょっとましな一日かも、と希望を抱かせてくれるだけの光。
匂いほど、強引に過去を連れ出してくるものはない。
雨が降り出す前のアスファルトから立ち昇るあの匂い。
太陽をぱんぱんに浴びてはちきれそうなほどの安心感を詰め込んだ布団のあの匂い。
母の鏡台の付近からどこからともなく香ってくるあの匂い。
そして街ゆく人々の誰かからふんわりと運ばれて来るあの匂い。
君があの頃につけていた香水に似た匂いにたった1秒でも触れた瞬間、私はセーラー服で放課後のグラウンドを見下ろす10代の頃に立ち返る。